朝晩の厳しい冷え込みの中、陽の光の暖かさとありがたさを感じる今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
“人を動かす”という面白さ
アメリカの3大ジーンズブランドの一つ、Wrangler(ラングラー)のヨーロッパサイトによる2010年の春夏コレクションをフィーチャーしたウェブサイト、『WRANGLER BLUE BELL SPRING/SUMMER 2010』です。
モデルのTony Wardが着用したジャケットに表示された“OPEN ZIPPER TO START”の部分を、指定方向にクリック&ドラッグすることでコンテンツが進行していきます。
さまざまなポーズと衣装で構成された6つの場面が用意されていますが、どの場面もクリック&ドラッグに反応して表示される躍動感あふれるモデルの動きの面白さに、つい繰り返して楽しんでしまう魅力的なコンテンツとなっています。
単純だからこそ奥が深い
このウェブサイトで主に使用されているクリック&ドラッグは、通常、PC上でフォルダやファイルを移動する際によく使われている、誰もが使い慣れている動作です。
そのためユーザーの意識は、動作以外の部分、すなわち画面でどういう動きが行われるのか、どう画面が変化するのかという部分へと向かっていきます。
ユーザーが無意識に行える動作を中心にウェブサイトを構成するからこそ、ユーザーの注目する画面上で何をどう動かすか、どう見せるかを、より深く考えなければならないことをこのウェブサイトは証明しています。これからも深く考えることから生み出される魅力的なコンテンツを期待したいと思います。
検索で生まれるジュークボックス
YouTubeが新たに開始したプロジェクト、『YouTube - Music Discovery Project』です。
ウェブサイトのトップに“Find > Mix > Watch”書かれているように、曲のタイトルかアーティストの名前を入力して検索(Find)すると、関連した動画を探して自動的にプレイリストを作成(Mix)して、ユーザーはそれを視聴(Watch)できるという仕組みになっています。
画面左下に作成されたプレイリストは、ドラッグ&ドロップを使用して、曲順を入れ替えられます。またシャッフル再生や作成したプレイリストの保存も可能です。
さらに驚くのは画面右下にある「Related Artists(関連アーティスト)」の項目です。検索したアーティストに関連した、別のアーティストの曲を聴くことで、ユーザーは自らの音楽の幅を広げることができるでしょう。
簡略化から生まれる新しい価値
YouTubeでは、今までもアーティストの動画を連続して楽しむ事ができました。ただし通常の動画再生では、ユーザーが次の動画を再生終了後に選択しなければなりませんでした。またプレイリストを作成して連続再生することも可能でしたが、この方法では新たな動画の追加や、再生する順番の変更に手間がかかっていました。
今回のサービスでは、“連続して動画を再生するまでのすべての手順を、一度検索するだけで終わらせてしまう”という手間の簡略化によって、誰もが簡単に動画を連続して楽しめるようになっています。
動画だけでなく、それに付随する音声というデータの価値をも再発見させてくれたYouTubeのこのサービス。複雑な手順を整理して簡略化することで、持っているコンテンツの魅力を最大限に引き出し、新しいサービスを生み出せるという非常に良い例ではないでしょうか。
“知名度”だけでは生き残れない
2010年1月にリニューアルした、生命保険や医療保険を販売するアメリカの保険会社Aflac(アフラック)のウェブサイトです。
保険会社のウェブサイトといえば“まじめでお堅い”ものが多いのですが、Aflacのウェブサイトでは、日本でもCMなどでおなじみのAflacduck(アフラックダック)を上手に使い、インタラクティブな仕掛けや映像を盛り込みながら、楽しく内容を理解できるように工夫されています。各ページの内容を素早くソーシャルメディア(FacebookとTwitter)と結びつける「SHARE」ボタンも用意されています。
さらにウェブサイトでは、Aflacの扱う商品やサービスではなく、ウェブサイトを訪れるユーザーになぜAflacが必要なのかを楽しく理解させる「Why Aflac?(なぜアフラックなのか?)」というコンテンツを前面に押し出していることも興味深いところです。
何が顧客にとって必要なのか
Aflacは2010年1月から、“You Don’t Know Quack”と呼ばれる新しいキャンペーンをスタートさせています。これは繁華街に設置した看板、印刷媒体での大胆な広告、YouTubeやソーシャルメディアサイトなどのバイラル広告などから、『You Don’t Know Quack』へ導くというもので、ウェブサイトではユーザーに3つの質問を行い、保険の補償に関する一般的な誤解を解消して、「どうしてAflacが必要なのか」をていねいに説明しています。
Aflacのプレスリリースによれば、「多くのアメリカ人は、Aflacブランドを知っているが、Aflacが提供する商品とサービスを理解していない(ledger-enquirer.comの記事でAflacの上席副社長兼マーケティング主任であるJeff Charney氏は「1999年にAflacduckをCMに登場させたことで、知名度は5年もたたずに91%まで上昇。だが、Aflacが何をしているのか答えられたのは100人のうち4人だけだった」と答えている)」という事実からこのキャンペーンは始まっています。
アメリカでは国民のほとんどが民間の医療保険を利用していますが、Aflacという大企業ですら、もはや単なる“知名度の高さ”だけでは、生き残っていくことが厳しい時代になってきたということではないでしょうか。
今後、企業がより踏み込んだ形で「自分たちのサービスが、なぜ顧客にとって必要なのかをしっかり説明し、理解させていく」ことへのシフトが進んでいきそうです。環境は違えども、日本でもこのような変化が起きるのか、企業の動きに注目していきたいと思います。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。