ゴールデンウィークが近づき、今年こそ有給休暇を使って、"本当の大型連休"にしようと計画している人も多いのではないかと考えている今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
ネットで見るスポーツイベント
2008年に発足したインドのプロクリケットリーグ、IPL(Indian Premier League)のYouTube公式チャンネルです。
Twenty20(トゥエンティトゥエンティ)と呼ばれる、競技時間が短時間で終了する方式を採用したIPLの60試合(全8チームによるホーム・アンド・アウェーの2回戦総当り+上位4チームによる決勝トーナメント)が、2010年3月12日から4月25日まで生放送されていました。
試合の生中継時には、ユーザーが好きな視点や複数のカメラ映像を選択できます。また過去の試合やハイライト映像、選手へのインタビューなど、ファンが楽しめるコンテンツも用意されています。
IPLとの契約は2年間(契約額は未発表)で、YouTubeはオンライン上での独占的な放送の権利を得ています。また、これはYouTubeが放送する初めてのスポーツイベントとなるそうです。
収益化への新たな一手
Multichannel Newsの記事によれば、スイスの金融グループCredit Suisseのレポートで、「YouTubeは2009年に4億7000万ドルの赤字を計上する」と予測されています(2009年の売上は前年比20%増の2億4000万ドルだが、総経費は7億1100万ドル。経費のうち通信費が51%、ライセンス料が36%を占める)。
テレビ局や映画会社から提供される合法的な映画やテレビ番組を集め、すでに黒字化を達成している『Hulu』(フールー)のような例もありますが、まだまだ視聴回数や収益の規模は大きくありません。日本の『ニコニコ動画』などの直近の収支を見ても、動画配信サービスでの黒字化が非常に難しいことがわかります。
もちろんYouTubeも、一般ユーザーが投稿したビデオに広告を表示したり、最近では映画のオンラインレンタルを始めることを発表したり、収益を高める方法をいろいろと模索していますが、最も重要なのはユーザーを満足させるコンテンツをどこよりも多く提供することでしょう。そう考えれば、今回のIPLとの契約も、収益を伸ばすための優良コンテンツをひとつ獲得しただけにすぎません。
2009年10月にU2のコンサートをYouTubeが生中継したり、最近注目されているUstreamのように、インターネットを通じての動画配信に技術的な問題はもうありません。こうした動画配信技術の進歩と多チャンネル化による個々のチャンネルの視聴率・広告料収入の低下を考えれば、異なったメディア同士による"優良コンテンツの囲い込み"競争はますます激しくなるでしょう。いつの日か、スーパーボールやサッカーのワールドカップなど、世界的なスポーツイベントがYouTubeから世界に配信される日がくるのかもしれません。
一貫したプロモーションサイト
2010年5月15日に、UNIQLOの4番目のグローバル旗艦店としてオープンする「上海 南京西路店」のプロモーションサイト、『UNIQLO 88 COLORS / 优衣库88炫彩』です。
中国の縁起の良い数字である「8」を2つ並べた「88」に合わせ、88色のUNIQLOのポロシャツを身につけた女性のダンス映像と、音楽を組み合わせたプロモーションとなっています。
画面に登場する女性一人ひとりには、映像と写真を用いた詳しいプロフィールのページも用意されています。このページの動画には、中国の代表的な動画共有サイトであるYouku(优酷网)のサービスが使用されています。
ほかにもメニューを表示するボタンの色がさりげなく切り替わったり、88人の女性を素早く選択できるようにマウスボタンの長押しに対応したりと、細部にも注目して欲しいウェブサイトです。
グローバル企業が目指すもの
世界中のさまざまな国や地域で、同一の製品やサービスを展開している企業は、どこもグローバルサイトなどのウェブサイトを用意しています。しかし、同じ会社であるにもかかわらず、デザインの規則性がなかったり、用意されているコンテンツが大きく異なったり、一貫性のないウェブサイトも少なくありません。
今回の「上海 南京西路店」のオープンにあたり、UNIQLOでは中国地域向けのウェブサイトも用意されています。このウェブサイトでは、ビジュアルデザインが他の地域と同様なだけでなく、ウェブサイト内のコンテンツ、さらには上記のプロモーションサイトまでもが、UNIQLOがこれまで展開してきた、さまざまなデザインの法則によって統一されています。このようにデザイン、コンテンツ、そして発信するメッセージまでしっかりと統一されたUNIQLOのグローバル・ブランディングは本当に素晴らしいものです。
世界展開を見据えた企業のウェブサイトでは、目に見える部分だけではなく、伝えたいメッセージそのものを一貫して表現できるかが、より重視されていくでしょう。そうした流れのなかから、言葉の壁を飛び越え、誰にでも理解できる明確なメッセージとデザインをあわせ持った、斬新なコンテンツが生まれてくることを期待したいと思います。
もっと楽しむなら、お店へどうぞ
オーストラリアのファッションブランド「Jay Jays」によるインタラクティブカタログ、『Jay Jays - Dance Off』です。
ウェブサイトでは、9人のダンサーたちが音楽に合わせて踊る映像が流れます。画面右下に用意された「3D映像のON/OFF」を切り替えると、赤青の3Dメガネを着用することで、立体的な映像も楽しめます。
さらに、自分の気に入ったシーンで画面をクリックしてスナップショットを撮影すると、画面に映るダンサーが着用している商品情報が表示されます。映像をどの場面で切り取っても、的確に商品の場所が表示される仕組みに、思わず感心してしまうウェブサイトです。
ウェブサイトだけでは終わらない
"通常の映像"でも十分楽しめる『Jay Jays - Dance Off』ですが、ウェブサイトでは、より素晴らしい体験を提供するための"3D映像"が用意されています。しかし、すでに3Dメガネを所有し、実際にウェブサイトで"3D映像"を楽しめるユーザーはかなり少ないと思われます。
そこで「Jay Jays」は、ウェブサイトを通じて、ユーザーとこんな会話を交わしています。
「"3D映像"が楽しみたいなら、3Dメガネが必要だよね?」「え、メガネを持ってない?」「じゃあ、Jay Jaysの店舗に来れば? 無料でメガネを配っているよ!」「もちろん、"秘密のコード"も忘れずに!」
こうして、3Dメガネの無料配布とウェブサイトにある"秘密のコード"で、ユーザーを実際に店舗へと来店させるきっかけを作り出しました。
店舗まで足を運んでくれたユーザーに対しては、3Dメガネで立体視が可能な映像・写真を展示するほか、商品割引サービス(カウンターの前でダンスを見せ、最後に決めポーズと一緒に秘密のコードを叫ぶと、商品1つが20%割引される)など、このキャンペーンに合わせたイベントを準備して待っています。そして店舗から帰ってきた後、ユーザーは再びウェブサイトを訪れ、 "3D映像"を楽しむというわけです。
このように、ウェブサイトを見てから店舗へ、そしてまたウェブサイトへと、人々を循環させる仕組みを作っている点が、実に素晴らしいところです。
3D映画に3Dテレビ、3Dミュージックビデオ、3D番組、3DCM、3D放送……、現在、連日のように"3D"と名のつくものを目にします。流行のモノを追いかけ単純に取り入れるだけではなく、何かを加えることで、人を動かす仕組みをどう作っていくのか。これからより増加すると思われる、人を感動させて動かすコンテンツの登場に期待したいと思います。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。