さわやかな風と青葉の季節が過ぎ、いよいよ“ ジメジメ” “ シトシト” の嫌な時期の訪れを感じ始めた今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
つながりを意識させるオンラインストア
2010年4月にFacebookが開発者向けカンファレンス「F8」で発表した新機能を導入した、Levi'sのオンラインストア『The Official Levi's Jeans Store』です。
図1 Facebookが発表した新機能が導入されている
ウェブサイトの各商品には、Facebookの新機能「Social Plugin」で実現された「Likeボタン」が配置されています。ユーザーはその商品が気に入れば「Likeボタン」をクリックして、コメントを加えることが可能です。この「Likeボタン」が押されると、「 このユーザーは○○に関心を持っています」とFacebook経由で通知されることで、友人がどのジーンズに興味を持っているのかがわかります。
図2 扱っている各商品にFacebookの「Likeボタン」が用意されている
さらに「Friends Store」では、友人が興味を持っているジーンズを一覧できます。このため「あの人が買っているんだ。じゃあ、私も買おう」「 Aさんが購入しているなら、私は違うジーンズを買おう」「 誕生日には、Bさんが好きなこのジーンズをプレゼントしよう」というように、ソーシャルグラフ(人と人とのつながり)を意識させることで、今まで体験したことのない商品購入の仕組みを作り上げています。( トップページには、この仕組みを簡単に紹介した動画も用意されています)
Levi's Jeans Storeを説明した動画も用意されている
発表からわずか1週間で「Likeボタン」を導入したウェブサイトの数は5万に達しており 、これからどんなウェブサイトが「Likeボタン」を採用したサービスを展開するのか、非常に興味深いところです。
購入の決め手となる“口コミ”
Amazon.comに代表される、顧客の好みや購買履歴、商品の類似性に基づいて商品を推薦するようなパーソナライズは今までもありましたが、『 The Official Levi's Jeans Store』では「Likeボタン」の導入によって、商品の購入と販売をより魅力的なものにしています。
特に、筆者自身の実体験(商品購入時に友人の薦めるものを最終的に購入するなど)や、2009年のNielsen Companyの調査 (インターネットを利用する消費者の90%が、商品を選択する基準として友人・知人の口コミを信頼するという結果)から考えれば、商品の購入において、より身近でつながりの深い、親しい友人の意見や好みを取り入れたこの仕組みは、非常に強力だと感じています。
日本におけるFacebookの利用は、実名で登録している人が多いということもあり、まだまだ一般的ではありません。しかし、商品購入に至るまでの過程を大きく変えるこの仕組みが、日本のSNSなどに与える影響はかなり大きいと思います。
アメリカで検索サイトの代替として、そして、企業の新しい広告プラットフォームとして注目されているFacebookの利用が日本でも拡大していくのか。それとも既存のSNSやオンラインストアなどがこの仕組みを新たに取り入れるのか。今後、海外だけでなく、日本での動きにも注目していきたいと思います。
ユーザーも登場人物の一人
2011年に日本とアメリカで販売される予定となっている、Lexusの新型ハイブリッド車「Lexus CT200h hybrid」のプロモーションサイト『Lexus Dark Ride』です。
図3 Lexus CT200h hybridをフィーチャーしたムービーで構成されている
credit: Skinny, Stink Digital, Skunk
登場する女性の指示に従いながら、ユーザーがウェブカメラとマイクを使って自分の情報を入力するとムービーが始まります。
図4 女性からの3つの質問に答えていくと…
インタラクティブムービーでは、車の助手席で“ 一匹狼のドライバー” Tonyをナビゲートする役をユーザーが演じます。果たして、無事に「Lexus CT200h hybrid」をロサンゼルスまで運ぶことができるでしょうか…。
変化する動画コンテンツのトレンド
動画を中心に組み立てられたコンテンツにおいて、ただ映像を流すだけではユーザーの意識を動画へと集中させることはできません。その中で出てきた工夫が「ユーザーに手を使わせる」というものでした。
動画中のストーリー分岐をユーザーに選択・決定させたり、動画にインタラクティブな要素を加えたりすることで、ユーザーを飽きさせることなく、動画を最後まで見てもらうことに成功しました。
図5 『 Hero』でもユーザーが動画の中に登場する
最近では、事前にユーザー自身の情報を入力してもらい、その情報を実際のムービー内に登場させる仕組みを取り入れるパターンが流行しているようです。今回紹介した『Lexus Dark Ride』もそうですが、先ごろ話題となった『Hero 』( 世界のヒーローが発表される記者会見で、ユーザー自身が指名されるという内容)も、このやり方でユーザーの興味を引きつけています。
映像を何の工夫もなくただ流すことは、ウェブサイトを制作する側、そしてユーザー側にとっても何のメリットもありません。ユーザーの興味を引きつけるための工夫と技術がどうなっていくのか、今後も楽しみにしていきたいと思います。
感動したら、寄付してください
NBAのフェニックス・サンズに所属するプロバスケットボール選手、Jason Richardson(ジェイソン・リチャードソン)による支援組織「Jason Richardson Foundation」のウェブサイトです。
図6 バスケットコートに立つJason Richardsonが印象的なウェブサイト
credit: Fidamont , Lollipop
コートに転がっているバスケットボールをクリックすると、NBAのスラムダンクコンテストで過去2回のチャンピオンとなっているJason Richardsonが、得意なスラムダンクや2つのボールを使ったドリブルなど、トリッキーなプレーを披露してくれます。
図7 Jason Richardsonによる、迫力満点のプレー映像が再生される
プレーが終了すると、画面中央に「Impressed? That deservers a donation!(感動した? それは寄付に値します!) 」の文字が表示され、ユーザーに「Jason Richardson Foundation」への寄付を依頼するという仕組みになっています。
コンテンツを変える“投げ銭”システム
このウェブサイトで行われている、Jason Richardsonのプレーを見せて寄付を募るという仕組みは、街頭で演奏するストリート・ミュージシャンへの“ 投げ銭” という行為に良く似ていると感じます。
インターネットのコンテンツは、基本的に無料で提供されていますが、個人的には「価値あるコンテンツの提供者・制作者が、適切な報酬を受け取れる仕組みがあっても良いのではないか」と考えています。
図8 “ 投げ銭” システムをインターネット上で実現した『IZONN』
コンテンツを楽しむためには、「 見たければ、まずお金を払う」という課金システムがまだまだ一般的ですが、そんな中、チケットを購入するとPayPal経由でUstreamの放送主に送金することができる『IZONN 』のような、“ 投げ銭” と呼ばれる現実の仕組みを、実際にインターネット上で実現しようという面白い試みも始まっています。
「見て、良いと感じたらお金を払う」という“ 投げ銭” システムは、コンテンツの提供・制作側、楽しむユーザー側、双方にとってメリットがあります。今後、そのシステムがどう広がり、そこからどんなコンテンツが生まれてくるのか、興味は尽きません。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。