猛烈な暑さによる寝苦しい夜や、突然のゲリラ豪雨によるずぶ濡れの連続など、自然の力を体で感じている今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
ユーザーを魅了する“首の動き”
イギリスを代表するファッションブランド、Burberryの最新アイウェアを紹介するコンテンツ、 『Burberry Eyewear』です。
ウェブサイトのトップには、Burberryの最新アイウェアを身に着けた6人のモデルが並びます。一見、画像を中心としたカタログ風のコンテンツかと思ってしまいます。
ところが、各モデルの画像にマウスを重ねると、その動きに気づいたかのようにモデルが正面を向きます。さらに個別の製品紹介では、マウスの左右の動きに合わせて、モデルが首を回しながら製品を紹介します。“モデルの首が回る”という動きに、思わずびっくりしてしまうウェブサイトです。
“価値”を伝える秘けつとは
企業側には、熱意を持って作り上げた製品を、“価値あるものとして、よく見せたい”という部分が少なからずあると思います。最近では、製品のディテールだけでなく、完成までの過程や製作者のこだわりなどをコンテンツとして用意するウェブサイトが多く見られるようになりました。
ただし、実際に製品を購入する側としては、自らがそれらを身に着けた時、「見た人にどんな印象を与えるのか」「自分がどう見えるのか、どう際立って見えるのか」が、製品の価値以上に重要なポイントとなるのではないでしょうか。この『Burberry Eyewear』では、製品の詳細を前面に押し出すことなく、あくまで製品を身に着けた時の見た目を、生々しい動きと共にフィーチャーしています。
製品に関して、企業がユーザーへと伝えたい情報を用意することはもちろん重要です。それ以上に、ユーザーが気にする部分を上手に突くコンテンツを提供することが、本来、企業が伝えたかった製品の価値を、自然とユーザーに受け入れさせる秘けつなのかもしれません。
常識外の大胆な仕掛け
山梨県富士吉田市にあるアミューズメント施設、富士急ハイランドのウェブサイトです。
ウェブサイト上では、富士急ハイランドを代表するアトラクションである「ええじゃないか」「FUJIYAMA」「ドドンパ」「鉄骨番長」を紹介した動画が連続で再生されます。
やがてウェブサイト上にあるロゴや各バナーが、動画中の動きや傾きに合わせて、回転を始めます。通常のウェブサイト表現では考えられないような突然の動きに、おもわず驚いてしまいます。
ユーザーが納得する企業イメージ
冷静に考えれば、このウェブサイトにある情報は見づらいですし、各バナーが一度に回転する様は騒がしいと感じることもあるでしょう。しかし、ネット上の評判を調べてみると、おおむね好意的な意見が目立ちます。
富士急ハイランドは、以前からさまざまなメディアで、実験的とも思えるような表現方法を採用しています。今回のリニューアル以前のウェブサイトでは、漫画的な表現を行っていましたし、テレビで放送されるCMも非常に個性的なものが多いです。そして、この通常の枠には収まらない表現が、常に話題となっています。
富士急ハイランドが自らのイメージをきちんと設定し、ウェブサイト上やテレビなどのメディアを通じて継続的に伝えているからこそ、今回のような大胆な表現もユーザーに受け入れられるのでしょう。明確な企業イメージを作り上げるのはなかなか難しいことですが、この事例から学べる部分は少なくないのではないでしょうか。
よみがえる感情と個性
2010年のカンヌ国際広告祭でGold Cyber Lionを受賞した、筆記具メーカーPilot Spainによるプロモーションサイト『PilotHandwriting.com』です。
ウェブサイトに用意された合計70マス(アルファベットの大文字・小文字、数字と記号を記入する)の用紙をプリントアウトして、実際に筆記具を使って全部のマスを埋めていきます。
その後、ウェブカメラなどを使って、すべてのマスを記入した用紙をウェブサイトにアップロードし、線の太さなどの微調整を行うと、自筆のフォントが完成します。ただフォントを作るだけでなく、作成したフォントを使って“手書きのメール”を作成・送信できるなど、コミュニケーションも可能な仕組みがとても良くできています。
書き手の“個性”を取り戻す
本来、手紙を現していた「mail」という言葉の意味が今や電子メールのことを示すように、誰もが自由にかつ簡単にメールを使えるようになりました。そして、誰のメールも同じように画面に表示されることで、書き手の個性は“文章の内容や文体によって表現される”時代へと変わってきています。
その反面、筆圧や線の太さの変化、はね・止めの向きや強弱など、手と筆記具を使うことで表現されていた“書き手の感情や個性”が失われてしまったのも事実です。
『PilotHandwriting.com』では、そんな現代の書き手が失ってしまったものを、デジタルの中に取り入れることで、喜びや怒り、柔らかさやまじめさといった、人間が本来持っている感情と個性を画面上で見事に再現しています。
利便性を推し進めることで「必要ではない」と思われ、「無駄である」と切り捨てられてきたものの中には、まだまだ人間の感覚を揺り動かす要素が眠っているかもしれません。それらの要素が再発見され、デジタルという形で構築されたとき、より多くの人間を動かす事のできる、新しいコンテンツが生まれるのかもしれません。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。