いま、見ておきたいウェブサイト

第62回311 SCALE、Mario Kart Wii Experience、SPACE BALLOON PROJECT

熱くなったり寒くなったり、急激な気温の変化でおなかの具合も今ひとつで、夏を満喫できない今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。

そぎ落とすことで、見えてくるもの

311 SCALE

株式会社日本デザインセンターによる、東日本大震災に関する情報を発信するプロジェクト『311scale』です。

図1 提供されている東日本大震災のデータを可視化した『311scale』
図1 提供されている東日本大震災のデータを可視化した『311scale』
credits:株式会社日本デザインセンター

「地震」⁠津波」⁠放射線」⁠電力」の4項目について、 気象庁、文部科学省、東京電力などから提供されているデータを可視化しています。ウェブサイト上で表現されているインフォグラフィックの色調や表現が、非常に落ち着いたものとなっているのも大きな特徴です。

冷静な判断を導く視覚表現とは

情報やデータを視覚的に表現するインフォグラフィックは、地図や道路標識、路線図をはじめ、私たちの日常のさまざまな場面で用いられています。こうしたインフォグラフィックのポータルサイトVisual.lyでは、多種多様のインフォグラフィックを閲覧・作成・共有できます。

図2 さまざまなインフォグラフィックが閲覧できる『Visual.ly』
図2 さまざまなインフォグラフィックが閲覧できる『Visual.ly』

美しいグラフィック表現と多彩な色使いを特徴としたインフォグラフィックスには、データに対する制作側の主張が視覚表現(例:あるデータを強調するために数字を大きく表示する、注意を引く色を使うなど)として入り込みます。そのため場合によっては、ユーザーが受け取るデータの印象が大きく変化することがあります。

『311scale』では、このような視覚表現でユーザーが情報に振り回されないよう、⁠演出しない」⁠主張しない」⁠世界の人々にとって、わかりやすい表現を行う」⁠可能な限りの正確さを守る」の4つを基本姿勢として、冷静に東日本大震災のデータを可視化しています。

情報を妄信せず、自分で考え、内容を判断できるように気を配ったこのプロジェクト。情報があふれ返り、各種メディアのリテラシー(情報を読み解き、必要な情報を識別する能力)が、個人に強く求められている現代では、今後こうした配慮がより重要になってくるのかもしれません。

スピード感ある、気持ちよいスクロール

Mario Kart Wii Experience

Nintendo Australiaによる、家庭用ゲーム機Wiiの専用ゲームソフト「Mario Kart Wii」のプロモーションサイト『Mario Kart Wii Experience』です。

図3 ⁠Mario Kart Wii」の内容を紹介する『Mario Kart Wii Experience』
図3 「Mario Kart Wii」の内容を紹介する『Mario Kart Wii Experience』
credit:Bliss Media

「Mario Kart Wii」の世界観やゲームの歴史を紹介するだけでなく、ユーザーのプレイ映像やソーシャルメディアとの連携を生かした内容になっています。

図4 マウスのスクロールホイールを使用したスクロールが特徴
図4 マウスのスクロールホイールを使用したスクロールが特徴

ウェブサイト内の各コンテンツへは、画面下部のナビゲーションや方向キーを利用して移動します。特にマウスのスクロールホイールを使用すると、⁠Mario Kart Wii」のスピード感を表現した、素早く気持ちのよいコンテンツ間の移動ができるのが特徴です。

エンターテインメント系のウェブサイトも変化の時か

Nintendoの「Mario Kart」シリーズの6作目である「Mario Kart Wii」は、今から3年前の2008年4月に発売されました。当然のことながら、各国でゲームの発売に合わせ、さまざまな「Mario Kart Wii」のプロモーションサイトが制作されています。

図5 Nintendo of Americaによる「Mario Kart Wii」のプロモーションサイトMario Kart Wii
図5 Nintendo of Americaによる「Mario Kart Wii」のプロモーションサイト『Mario Kart Wii』
credit:Fi

上で紹介している画像は、Fiによって制作された、Nintendo of Americaの「Mario Kart Wii」のプロモーションサイトMario Kart Wiiです。こちらはゲームの世界観を表現するために、Flashが得意とする、動きのある細かなアニメーションが特徴のウェブサイトになっています。

『Mario Kart Wii Experience』は、HTML5とJavaScriptライブラリのjQueryを中心に制作されています。個人的には、こうしたエンターテインメント系のウェブサイトは"まだまだFlashによる制作が定番"と思っていただけに、HTMLベースで制作されたウェブが登場してきたことに、少し驚きを感じています。今後こうしたウェブサイトが増えるのか、ゲーム以外のエンターテインメント系のウェブサイトを含め、注目していきたいと思います。

打ち上げられた、みんなの希望

SPACE BALLOON PROJECT | GALAXY SII

2011年7月15日から17日まで行われた、サムスン電子のスマートフォン「GALAXY S II」とともにユーザーのメッセージを宇宙へと打ち上げるプロジェクト『SPACE BALLOON PROJECT』です。

図6 メッセージが表示されるスマートフォンを宇宙へと打ち上げる『SPACE BALLOON PROJECT』
図6 メッセージが表示されるスマートフォンを宇宙へと打ち上げる『SPACE BALLOON PROJECT』
credits:HAKUHODO Inc.Bascule Inc.太陽企画株式会社

『SPACE BALLOON PROJECT』は、"みんなの希望を宇宙へ打ち上げよう"というコンセプトのもと、FacebookやTwitter、mixiなどのソーシャルメディアから募集したユーザーからのメッセージを、⁠GALAXY S II」に表示させながら、上空に打ち上げるというものです。

『SPACE BALLOON PROJECT』の概要を解説した動画

「GALAXY S II」とGPS(全地球測位システム⁠⁠、高精細度カメラを搭載したユニットは、アメリカ・ネバダ州のブラックロック砂漠から、直径3mの特殊な風船「Space Balloon」にぶら下げられて、上空30,000mまで打ち上げられます。高精細度カメラに捉えられた上空の映像は、Ustreamを利用してライブ配信されました。

図7 上空から捉えられた映像は、Ustreamで配信された
図7 上空から捉えられた映像は、Ustreamで配信された

やがて上昇した「Space Balloon」は破裂しますが、ぶら下げられていたユニットは、GPSを利用して回収されます。このユニットに搭載された高精細度カメラの映像は、8月上旬にウェブサイトで公開される予定となっています。

姿を変える"一家団らん"

『SPACE BALLOON PROJECT』は、"宇宙へと打ち上げる"という夢のあるテーマ、小惑星探査機はやぶさの帰還にも似たバルーンに対する感情の芽生え、さまざまなトラブルに立ち向かうスタッフの姿、そして、打ち上がったバルーンの動向をみんなで一喜一憂しながら体験するという、楽しさが詰まったプロジェクトでした。

このプロジェクト終了から一週間後の2011年7月24日、日本では地上アナログテレビ放送が終了(東北3県を除く)しました。近年は、核家族化が進み、⁠1人一台」と言われるほどテレビが普及したことで、一つの番組を家族で楽しむことが少なくなっていますが、約60年続いたこの放送を振り返るとき、家族全員がテレビを囲んで同じ番組を楽しんでいたという、個人的な思い出が浮かんできます。

図8 ⁠Space Balloon」が破裂。ユーザーの"同じ"気持ちがツイートされる
図8 「Space Balloon」が破裂。ユーザーの

『SPACE BALLOON PROJECT』では、多くの人たちが同じ時間、同じ体験、同じ気持ちを共有しています。もちろん、ウェブサイトを通じて一緒に楽しんでいるのは"家族"ではありませんが、それでも、形を変えた"一家団らん"のような、暖かい一体感をこのプロジェクトから感じます。

テレビというメディアが持っていた"一家団らん"が、インターネットというメディア上で、どう変化していくのかが伺えるようなこのプロジェクト。テレビが娯楽の中心だった時代と同様に、ブラウザの中で完結しない、だれもが楽しめる質の高いコンテンツが、インターネット上にも求められる時代に突入してきたのかもしれません。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

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