日ごとに上昇する気温に、夏ではなくジメジメとした梅雨を想像してしまう今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
技術を忘れる美しさ
ディレクター、ウェブデザイナー/デベロッパー、モーションデザイナー、サウンドデザイナーなどで構成された、フランスのクリエイティブ・プロダクション「blacknegative」のウェブサイトです。
「blacknegative」の制作したコンテンツが、最新情報などを交えながら、紹介されていくウェブサイトです。ユーザーが左右へのドラッグ動作を行うことで、次々と場面が切り替わっていきます。
映像を使った背景や斜めに切られたひし形のグリッド、奥行きを感じる表現など、統一感のある美意識を感じられるウェブサイトです。
表現の拡張は何が生み出すのか
初めてこのウェブサイトを訪れた時には、ウェブサイト全体の表現方法に驚きを感じながらも、個人的には「何を使って制作されているのか」という、技術的な面からの視点を自分の中に持つことはありませんでした。
Flashが使われたウェブサイトでは、新たな技術の追加がウェブサイトの新たな表現を生み出すという、"技術による表現の拡張"が際立っていました。現在、こうした表現の拡張は、特にHTML5の周辺技術で顕著です。
『blacknegative』の表現は、数年前のFlashで可能なレベルに追いついたに過ぎません。しかし、ウェブサイトの完成度を見てみれば、もはや使用されている技術やそのレベルの高さだけで、ウェブサイトの良し悪しが決まる時代ではないことを、誰もがより明確に感じるのではないでしょうか。
現代によみがえる、伝説の名機
「Moog Synthesizer(モーグ・シンセサイザー)」の開発者として有名な、アメリカの電子工学博士Robert Moogの生誕78周年を記念したGoogle Doogle『Robert Moog's 78th Birthday』です。
Moog博士が制作した歴史的な名機「Mini Moog」そっくりのシンセサイザーは、マウスだけでなく、キーボードを利用して演奏できます。本格的なシンセサイザーとしての機能も備えており、ミキサー、オシレーター、フィルター、エンベロープの各セクションのつまみを動かして音色も変えられます。
最大同時発音数が1であるシンセサイザーの機能を補うため、右側には多重録音が可能な、4トラックのテープレコーダーが用意されています。録音したデータはGoogle+やURLを利用して共有できます。
自然に広がるコンテンツの条件
『Robert Moog's 78th Birthday』は、触って楽しむだけでなく、"道具(ツール)"として余すところなく利用することで、ユーザー自身が新たな楽しみ方を発見したり、新たなコンテンツを産み出したりすることを可能にしています。
公開された直後から、楽曲の演奏や使い方の説明などを行った動画が、YouTubeに次々とアップロードされています。単なる"ロゴ"ではなく、道具としての機能も含め、細部までしっかりと考えて制作されていることが、こうしたコンテンツからの広がりを生んでいると思います。
個人や企業によるソーシャルメディアの利用拡大によって、制作側でも"コンテンツを拡散するためのしくみ作り"により重点が置かれる時代となっていますが、制作するコンテンツ自体が"広がりを持つ価値あるもの"なのか、よく考える必要があるのではないかと改めて感じた事例でもありました。
フォントから生み出される、新たな文脈
国内外のタイプファウンドリー(書体メーカー)やタイプデザイナー、デザイン・スタジオなどのウェブサイトをカバーした、フォントの総合情報ウェブサイト、『TYPECACHE.COM』です。
ウェブサイトでは、タイプファウンドリーやフォントの販売会社などのウェブサイトが見渡せるだけでなく、各フォントに関する情報(書体や関連動画、デザイナーのSNSなど)が用意されています。「Font Clusters」では、テーマに沿ったフォント(例:Helveticaの代替フォントなど)の各種リストが紹介されています。
ウェブサイトや雑誌などで、フォントがどのように使われているのかを紹介している「Font in Use」は、個人的にもおすすめのコンテンツです。フォントデザイナーのインタビューが掲載された「Interviews」など、フォントに関する情報が詰まったウェブサイトになっています。
良質の「キュレーション」が生み出すもの
『TYPECACHE.COM』では、世界中のタイプファウンドリーのフォントに関する情報がまとめられています。もちろん、タイプファウンドリー自身もウェブサイトを運営しており、フォントに関する有用な情報を提供しています。
ただし、こうした情報の多くは"あくまで自社製品"のフォントに限っての場合が多く、こうした制限によって、ユーザーがタイプファウンドリーのウェブサイトを巡回する必要があるなど、情報一つを集めるにも面倒な点がありました。
こうした手間を軽減するため、最近では「キュレーション(curation)」という呼び方で、散在するコンテンツをまとめたウェブサイトが増えています。とはいえ、単なるリンク集やコンテンツの表層を削ったような内容の薄いものなど、「キュレーション」と呼ぶには、あまりにお粗末なものも存在しています。
『TYPECACHE.COM』では、フォントへの造詣が深い個人が中心となって運営することで、本来ならタイプファウンドリー自らが課している情報制限をなくし、点在する情報を結びつけ、フォントに関する新たな文脈を引き出しています。こうした良質の「キュレーション」から構築されるウェブサイトが、今後も続々と登場することを期待したいと思います。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。