いま、見ておきたいウェブサイト

第90回Amazon Election Heat Map 2012、Old Spice Muscle Music on Vimeo、Milwaukee Police Department

ようやく夜中の寝苦しさから解放されつつあるものの、まだまだ残暑が厳しい今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。

選挙の結果は、本に聞け

Amazon Election Heat Map 2012

2012年11月6日のアメリカ大統領選挙に向けて、Amazon.comが開始した『Amazon Election Heat Map 2012』です。

図1 政治関連書籍の販売データから作成される『Amazon Election Heat Map 2012』
図1 政治関連書籍の販売データから作成される『Amazon Election Heat Map 2012』

『Amazon Election Heat Map 2012』は、アメリカのテレビネットワークなどが大統領選挙で使用する「赤(共和党⁠⁠」と「青(民主党⁠⁠」で色分けされた地図と同様に、Amazon.comにおける、直近30日間の政治関連書籍の販売データを利用して、アメリカの各州で「赤」「青」のどちらが優勢なのかを単純に表現したマップです。

図2 政治関連書籍の販売データによって、各州が塗りつぶされる
図2 政治関連書籍の販売データによって、各州が塗りつぶされる

描画されているマップの基本データは、Amazon.comが分類した「赤の本(共和党寄りの政治関連書籍⁠⁠」と「青の本(民主党寄りの政治関連書籍⁠⁠、各250冊の販売数と購入先(本の送付先)です。電子ブックリーダー「Kindle」版の書籍やオーディオブックもランキングの上位に登場するなど、日本との電子書籍環境の違いも感じられます。

データが生み出す、新しい考察

選挙結果の予測としては、マスコミなどが行う世論調査やアンケートなどによる方法が一般的ですが、⁠Amazon Election Heat Map 2012』のように、書籍の購買データから、全く畑違いの政治分野の予測をするという試みは、非常に面白いと思います。

図3 各州における書籍の売り上げも確認できる
図3 各州における書籍の売り上げも確認できる

ただし、冷静に考えれば"本の購入者が実際の支持者"なのか、⁠赤の本」⁠青の本」といった書籍の分類方法は正しいのかなど、基準となるデータの設定条件にも曖昧な部分もあります。このため、Amazon.comのプレスリリースでは、"Books aren't votes(本は票ではありません)"として、あくまで大統領選挙における会話の一つとして役立てて欲しいと述べています。

とはいえ、こうした大企業が持っているデータを活用することで、今までにはない視点や考え方から、物事の予測や検討ができるのではないかという可能性も否定できません。⁠Amazon Election Heat Map 2012』のように、新たな可能性を感じさせる大量のデータを使った事例がこれから広がるのかどうか、注目していきたいと思います。

演奏は、自慢の筋肉で

Old Spice Muscle Music on Vimeo

アメリカの有名な男性用デオドラント製品「Old Spice」の新しい香り、⁠Danger Zone」のプロモーションサイト、⁠Old Spice Muscle Music on Vimeo』です。

図4 ⁠Old Spice」の新プロモーションサイト、⁠Old Spice Muscle Music on Vimeo』
図4 「Old Spice」の新プロモーションサイト、『Old Spice Muscle Music on Vimeo』
credit:Wieden + Kennedy Portland

動画を再生すると、俳優のTerry Crewsが自身の筋肉にセンサーを付けられ、その筋肉を収縮させることで、さまざまな楽器を演奏するパフォーマンスを見せてくれます。動画の最後には、Terry Crewsから"Make music with my muscle power using your keyboard device. Do it!"というメッセージが発せられます。

図5 動画再生後は、キーボードを使った演奏が可能になる
図5 動画再生後は、キーボードを使った演奏が可能になる

しばらくすると、画面左下に「RECORD」ボタンが登場し、"Press those keyboard keys!"と言われた通りにキーボードの各キーを押すことで、動画と同じようにTerry Crewsの筋肉を動かしながら、楽器が演奏できるようになります。

動画を話題にして、広く知らせる工夫

上記のような"動画再生後の別コンテンツ"は、それほど珍しいものではありません。しかし、今までは「別コンテンツが実装された動画共有サイト=YouTube」であったため、⁠まさか、Vimeoでこうした仕掛けが動くとは…」という驚きがありました。Vimeoのユーザーなら、こうした不意をつかれたという感覚が、驚きを倍増させていることでしょう。

埋め込まれた動画でも、ウェブサイトと同じようにキーボードを使って楽しめる

Old Spice Muscle Music from Terry Crews on Vimeo.

それ以上に驚いたのが、埋め込まれた動画でもこの別コンテンツが楽しめるという点です。仕掛けが組み込まれた動画をBlogなどに貼り付けても、動画しか楽しめない事例が多いのですが、この『Old Spice Muscle Music on Vimeo』では、Blogなどに貼り付けられたVimeo Player上でもウェブサイトと同じ内容が楽しめるため、自然と人々の話題となって拡散して行くのが予想できます。

図6 ⁠Old Spice」の公式Facebookページで配布されている『Old Spice Muscle Music on Vimeo』のキーボード配列
図6 「Old Spice」の公式Facebookページで配布されている『Old Spice Muscle Music on Vimeo』のキーボード配列

動画はまず見て楽しむのが前提ですが、こうした工夫一つで、より楽しめるものになります。全ての動画に仕掛けを加えれば良くなるわけではありませんが、動画との組み合わせが実装されていく機会が増えることで、ユーザー側の動画の楽しみ方がさらに広がっていくことを期待したいと思います。

らしからぬ、ウェブサイト

Milwaukee Police Department

アメリカ・ウィスコンシン州にある、ミルウォーキー警察のウェブサイト『Milwaukee Police Department』です。

図7 ミルウォーキー警察のウェブサイト、⁠Milwaukee Police Department』
図7 ミルウォーキー警察のウェブサイト、『Milwaukee Police Department』
credits:Cramer-Krasselt MilwaukeeLISS Interactive

ウェブサイトではパララックス(視差)表現を用いた、5つのコンテンツ(警察の情報を発信する「THE SOURCE⁠⁠、犯罪発生率などを数値で公表する「THE STATS⁠⁠、指名手配犯を紹介する「MOST WANTED⁠⁠、実際の事件と殉職した警官をフィーチャーした「HEROES⁠⁠、ミルウォーキー警察を紹介する「ABOUT⁠⁠)が用意されています。

図8 警察のウェブサイトとは思えないビジュアルも特徴の一つ
図8 警察のウェブサイトとは思えないビジュアルも特徴の一つ

特に捜査情報を提供する「THE SOURCE」は、情報が24時間、随時更新されることで、それまで毎週月曜から金曜の午前に行われていた記者会見が廃止となるなど、ウェブサイトの構築が実際の警察業務にも変化を生み出しています。

"市民との協力"が変えるウェブサイト

このウェブサイトを制作したCramer-Krasselt MilwaukeeのChris Jacobsは、"we created a government social website that doesn't feel anything like a government social website(私たちは、政府機関のソーシャルウェブサイトであることを何も感じさせない、政府機関のソーシャルウェブサイトを創った)"と述べていますが、ビジュアル面を見た限りでは、この試みは成功していると思います。

ミルウォーキー市警察は、2009年から犯罪防止のために警察との協力を地域社会に求めるキャンペーン"Be a Force"を行っており、今回のウェブサイトの構築もその延長上に当たります。こうした経緯から、FacebookページTwitterYouTubeチャンネルなどを積極的に活用しています。

図9 市民との協力関係を築くため、ソーシャルメディア(左:Facebook、中央:Twitter、右:YouTube)も活用している
図9 市民との協力関係を築くため、ソーシャルメディア(左:Facebook、中央:Twitter、右:YouTube)も活用している

今回『Milwaukee Police Department』と比較するため、日本の警察署のウェブサイトをいくつか閲覧してみましたが、ソーシャルメディアを活用した一般市民との交流や、自らの情報発信・情報共有という部分においては、この事例から日本の警察署が学ぶ点は多いことでしょう。

犯罪を減らすため、警察と市民との協力が不可欠なのは、ここ日本でも同じです。お互いの交流と情報発信が進むにつれ、もたらされた課題と経験を、実務とウェブサイトでどう実現していくのか。警察だけでなく、市民との結びつきが深い政府機関のウェブサイトの今後の変化にも注目していきたいと思います。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

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