ぶどうに梨、鮭にサンマが次々とスーパーに並び、いよいよ本格的な秋の訪れを感じる今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
持っているアイデアの実現、手助けします
NISSAN USAが販売する乗用車、新型「ALTIMA(アルティマ) 」のキャンペーン「Nissan Innovation Garage」のウェブサイトです。
図1 アイデアの実現を手助けする「Nissan Innovation Garage」のウェブサイト
credits:TBWA CHIAT DAY 、unit9
「Nissan Innovation Garage」は、自動車に関する革新的な提案を募集して、その実現のためにNISSAN USAが手助けを行うというコンテストです。投稿は" WOULDN'T IT BE COOL IF...(それは素敵なことではないでしょうか、もし…)"という書き出しで始まるフォームで行います(Facebookアカウントが必要) 。
図2 「 Gallery」には、ユーザーからのアイデアが並ぶ
ウェブサイト上で最多票数を得た提案の投稿者には、2013年型の「ALTIMA」が授与されます。また、審査員が選んだ2つの優秀な提案の投稿者には、「 ALTIMA」と5万USドルの助成金、Kickstarter.comでアイデアを実現化する支援が行われるということです。
革新的なアイデアは、どこにあるのか
"消費者からの意見を募集する"というこの事例を見たとき、ふと、日本の家電メーカーの業績低迷を思い浮かべました。為替などの経営環境の厳しさや主力製品の均質化による利益減少など、多くの原因があると考えられていますが、最近では"笑いのネタ"になるような珍妙な製品が開発されるなど、家電メーカー自体の迷走も垣間見えます。
「Nissan Innovation Garage」の事前告知動画
「現場で生まれるアイデアの実現が、消費者が購買してくれる製品へと結びつかない」という厳しい現実は、現在、どの業界の開発現場でも共通している、大きな悩みではないでしょうか。もちろん自動車業界も、製品に対する消費者のブランド志向がまだまだ存在するものの、今後どうなるかは誰にも予想が付きません。
ここ数年、消費者側からの提案・意見などを企業が取り込もうとするキャンペーンが増えていますが、「 Nissan Innovation Garage」の試みが最終的にどんな結果を生み出すのか、非常に興味深いところです。また、業績低迷が続く日本の家電業界でこうしたキャンペーンが登場してくるのか、注視していきたいと思います。
「いいね!」ボタン、全部押します
「100年前から続く、インターネット上の秘密結社」IDPWのIDPW PORTO(アイパス・ポルト)からリリースされた、「 どうでもいいね!ボタン」を紹介するウェブサイトです。
図3 アイデアの実現を手助けする「どうでもいいね!ボタン」のウェブサイト
credit:IDPW PORTO
Google Chromeの機能拡張である「どうでもいいね!ボタン」は、インストール後にFacebook上で動作させると、画面に設置された「いいね!」ボタンを自動で検出し、そのほとんどすべてをクリックしてくれるというものです。
「いいね!」ボタンの意味するもの
個人的には、各種SNSに用意された「いいね!」ボタンを押すだけで、自身の感情を表現するのは厳しいと考えています。単純に「いいね!」と評価できるものもありますが、「 良い」という意味を持つ多彩な感情(例:すてき、面白い、素晴らしいなど)を、ボタンを押す行為で表すのは難しいでしょう。
実際に海外のウェブサイト上で、有名人の訃報に対して「Likeボタン」+「R.I.P.(rest in peaceの略)と書き込む」といった、どんな内容でも「Likeボタン」を押して意思表示をする例を見た時には、何とも言えない違和感を覚えたことがあります。
コミュニケーションの場では、惰性やその場のノリでボタンを押してしまうこともあり、ボタンを押す行為自体が、実際にはたいした意味を持たない場合も多いでしょう。当たり前となったボタンを押す行為が自分にとってどういう意味を持つのか、「 どうでもいいね!ボタン」を通じて、改めて考えてみてはいかがでしょうか。
30年目のリデザイン
1982年9月15日に創刊され、ちょうど30周年を迎えた2012年9月15日に公開された、アメリカ初の一般大衆紙「USA TODAY」の新しいウェブサイト(Beta版)です。
図4 新しいロゴを含め、大きくリデザインされた「USA TODAY(Beta版) 」
credit:Fantasy Interactive
"The Point"と呼ばれる新しいロゴには、オリジナルフォント(特注のFutura)が使用され、画面上部のナビゲーションが固定されています。ナビゲーションは「NEWS」「 SPORTS」「 MONEY」などのセクションごとに別々の色が指定され、各ページはその色を中心にページのデザインが構成されています。
図5 現在の「USA TODAY」の「SPORTS」( 左)と新しい「USA TODAY(Beta版) 」の「SPORTS」との比較画像
多くの情報が配置されているため、縦へ縦へと読み進める必要がある現在の「USA TODAY」ウェブサイト と比べると、文字サイズを大きめにとり、大きな画像を使いながら、1ページ内に表示する情報量が整理されたことで、スッキリとした印象のウェブサイトになっています。
デザインは、新聞を変えられるか
今回の「USA TODAY」のリデザインは、ウェブサイトだけでなく、新聞、モバイルアプリなどでも行われています。もともと「USA TODAY」は、活字の大きさや色彩豊かなカラー紙面、写真や図表の多用によって販売部数を伸ばした新聞ですが、リデザインされたウェブサイトはもちろん、新聞やモバイルアプリにも、この特長が生きています。
図6 Facebookで紹介された、リデザイン後の「USA TODAY print edition」
例えば、新聞では印字品質の改善、カラーページ・写真・インフォグラフィックの増加、視認性強化のためのフォント変更(Chronicle Text Grade 1) 、レイアウトグリッドの変更などのリデザインが行われています。
数年前、新聞社のウェブサイトでは収入モデルによる大きな変化(広告収入からコンテンツ課金へ)がありましたが、現在は各社の収入モデルもほぼ固まりつつあります。こうした安定状態が続く中で、今回「USA TODAY」は、デザインの観点から購読者への大胆なアプローチを試みています。
新しい「USA TODAY」のウェブサイトを紹介した動画
ウェブサイトを制作しているFantasy Interactiveによれば、新しい「USA TODAY」は「まだ65%程度の完成度 」ということで、今後も改良が行われていくようです。近年、動きの乏しかった新聞社のウェブサイトが、こうしたデザインによる再構成でどう変化していくのか、注目していきたいと思います。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。