夢の様なゴールデンウィークが終了したにもかかわらず、「 もう一度寝たら、またゴールデンウィーク前に戻っていたらいいのに」などと妄想している今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
全ては、小さな改善から始まる
2009年に創設されたNPO(民間非営利団体) 、「 Code for America」の2012年の年次報告書、『 Code for America 2012 Annual Report』です。
図1 『 Code for America 2012 Annual Report』は、アメリカのNPO「Code for America」の2012年の年次報告書
「Code for America」は、公共のサービスを改善するサービスやアプリの開発を行っています。例えば、ウェブサイトでも紹介されている、フィラデルフィアの都市計画委員会による「Textizen 」は、住民の意見を都市計画に生かすため、市民の90%以上がアクセスできる携帯電話のSMSを利用することで、より多くの市民の意見を集約することを目的に制作されています。
図2 2012年も、問題を解決するためのサービスが数多く立ち上がった
問題解決を自治体に働きかけて「なんとかしてもらおう」とするのではなく、自治体に公募したエンジニアを派遣してサービスやアプリを開発することで「社会をより良くしていこう」とする、アメリカ特有の考え方が非常にうまく働いているプロジェクトです。
「少しずつ良くする」行動が生み出すもの
大規模なプロジェクトは、一度に大きく変えられるというメリットもありますが、何よりも膨大な時間が必要です。さらに、改善する範囲が広くなればコストも増大します。こうした問題や失敗時のリスクを考えると、小さな自治体が大規模なプロジェクトを実施するのは非常に難しいと思われます。
だからといって、自治体が使いづらいサービスを住民に利用させ続けることは大きな問題です。そう考えれば、限られた予算や人員で、サービスを改善できる方法を模索・構築していく必要があるでしょう。
「Code for America」の創設者、Jennifer Pahlkaによる「コーディングでより良い政府を作る」の動画
そうした中で、「 Code for America」のように、小さな力を集め、可能なところから実行していこうという試みは実に面白いと思います。一度に大きく変えるのではなく、少しずつ改善を進めていくやり方は、「 完璧にできなければダメだ」と二の足を踏んでいる組織にとって、見習うべき点があると思います。
日本でも、中央省庁と大手企業によるシステム開発が失敗するなど、大規模なプロジェクトでも必ず成功するとは限らないのが現実です。「 Code for America」は"あくまで海外の事例"という形でしかありませんが、まだまだ改善できるサービスが多いこの日本で、こうした試みが当たり前のように行われる日が来るのも、そう遠い話ではないかもしれません。
ドアの先にある、見知らぬ世界
窓やドアを供給するイギリスのメーカー「Safestyle UK」によるスペシャルコンテンツ『The Secret Door』です。
図3 GoogleのStreetView APIが利用されている『The Secret Door』
credit:Epiphany Search
GoogleのStreetView APIを利用して制作されたウェブサイトでは、"Take me somewhere else(私をどこかに連れて行って)"と表示された、画面左上のドアノッカーをクリックすることで、世界中のさまざまな場所へと画面が切り替わります。
図4 店内、スタジアム、海中と、さまざまな場所に移動が可能
画面を通じて移動できる場所は、世界遺産に指定された国立公園や観光地だけではありません。学校の教室やスタジアム、さらには洞窟や海の中など、屋内・屋外を問いません。この種類の多彩さに、つい時間を忘れてクリックを続けてしまう魅力的なコンテンツです。
ユーザーを虜にする、"ランダム"という仕掛け
こうした『The Secret Door』と同様のウェブサービスとしては、『 MapCrunch - Random Google Street View 』もありますが、こちらは画面に表示されたパネルから地域を指定することで、事前に移動する範囲を限定できる点が異なります。
図5 『 MapCrunch』では、移動する地域をユーザーが限定できる
どちらのサービスも、移動する先がどこになるかは、全く予測できません。こうした不規則な要素が絡むことで、ユーザーは常に新鮮な気持ちで、画面に登場する風景を楽しめることが、このサービスの面白さを増しています。また、美しい風景、目もくらむような高所、いまだ傷の癒えない被災地の風景など、目の前に突然登場する風景が、ユーザー自身の感情の変化を引き起こすことも、このウェブサイトが人を惹きつける理由のひとつでしょう。
自分の目で世界中の風景を見たいと思いながらも、それを実際に行うのはとても難しいことです。誰もが持つこうした憧れを、インターネットを利用して実現しているこのウェブサイト。まとまった時間を使い、ゆっくりと、あてのない世界旅行をするのも面白いかもしれません。
対話を重視した、ウェブサイトのデザイン
2013年4月1日にリニューアルされた、大塚製薬株式会社のホームページです。
図6 リニューアルされた、大塚製薬のホームページ
credit:Selmore
オランダのクリエイティブエージェンシーSelmoreと協力し、大塚製薬の企業理念である「創造性と実証」を、さまざまなコンテンツと、ユニークで大胆なデザインを使って表現しています。
図7 用意されたコンテンツのデザインもユニークなものが多い
ソーシャルメディアが変える、企業のウェブサイト
ソーシャルメディアの利用が拡大し、個人や組織という枠を問わないコミュニケーションが日常の一部となっている現在、企業とユーザーとの関わり方も日々変化しています。こうした中、企業におけるホームページのあり方が、大きな変化を迎えようとしています。
図8 大規模なリニューアルが話題となった、Coca-Colaの『Coca-Cola Journey Homepage』
昨年末にリニューアルが行われたアメリカ・Coca-Colaのコーポレートサイト『Coca-Cola Journey Homepage 』では、各種ソーシャルメディアへの対応だけでなく、企業側からの一方通行とも言える情報発信やコンテンツが影を潜めたことが大きな驚きを呼び、リニューアル直後から話題となりました。
Coca-Colaの事例では、ステークホルダーとの対話を重視したコンテンツと仕組みづくりを行いながら、ソーシャルメディア時代にふさわしい、新たな企業のウェブサイトの基準を目指した取り組みが進められています。大塚製薬のプレスリリース でも、こうした対話の重要性を「より親密で、人から人へ語りかけるようなデザイン」と表現しています。
最近では、メディア化を押し進めながら、さらに積極的な対話を図ろうとする企業のウェブサイトも登場しています。こうした対話を重視したデザインを積極的に取り入れる事例を見ると、時代の変化とともに、企業側が発信する情報だけでなく、ウェブサイト自体の存在意義についても、考え方を大きく変化させる時期が来ているのかもしれません。これから企業のウェブサイトがどう変わっていくのか、また企業との対話の場がウェブサイトという形を取り続けるのか、注視して行きたいと思います。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。