爽やかな季節を満喫しようとしていたところ、5月とは思えない陽気に襲われ、早くも夏の日を想像してしまう今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
ユーザーのアクションが、マンガを変える
サントリースピリッツ株式会社の焼酎「ふんわり鏡月」のプロモーションとして、2016年3月7日にオープンした特設サイト、『 ふんわり妄想マンガシアター』です。
図1 サントリースピリッツ株式会社の焼酎「ふんわり鏡月」のプロモーションサイト、『 ふんわり妄想マンガシアター』
『ふんわり妄想マンガシアター』では、女子の“ 妄想” をテーマにした、個性豊かなマンガを楽しめます。公開されているマンガは、すべて5人の人気漫画家(浅野いにお、西島大介、今日マチ子、桜沢エリカ、五月女ケイ子)によるウェブサイト限定の描き下ろしです。
図2 ウェブサイトに用意されたマンガは、ユーザーのアクションに連動している(左から『都合のいい男』 、『 甘酸っぱい男』 、「 #ふんわり妄想 Twitterキャンペーン(応募終了) 」の画面)
スマートフォンの傾きセンサーやスクロール機能を活用したマンガ表現(西島大介さんの『都合のいい男』 ) 、「 ふんわり鏡月 ライチ」を購入するとついてくるシリアルコードを入力すると続きが読める(今日マチ子さんの『甘酸っぱい男』 ) 、Twitterでハッシュタグ「#ふんわり妄想」をつけた妄想ストーリーをツイートすると、その妄想が世界でひとつだけのマンガになるという、「 #ふんわり妄想 Twitterキャンペーン(応募終了) 」など、どのマンガもユーザーのアクションと連動しています。
複数のハードルを超えるコンテンツ
ユーザーのアクションに対応するマンガが楽しめる『ふんわり妄想マンガシアター』ですが、その中でも、「 このマンガは、あなたがこのページにアクセスした回数によって内容が変化します。」と銘打たれた、浅野いにおさんによるマンガ、『 ふんわり男』が話題となっています。
図3 ページにアクセスした回数によって内容が変化するマンガ『ふんわり男』
『ふんわり男』は、文学作品で使用される表現のひとつ、「 モノローグ(登場人物が相手なしに一人で台詞をいう演出・表現のこと) 」を利用して、読み返すたびにマンガが別のキャラクター視点のストーリーへ次々と変化する仕組みになっています。
図4 マンガを読み返すことで、モノローグが追加され、内容が変化する(左から1回目、2回目、3回目)
“マンガを読み返すたびに何度も楽しめる” という仕組みは、以前からあるコンテンツ提供の王道パターンと言えますが、短時間で簡単にコンテンツや情報が消費され、その賞味期限も短くなっている時代の中で、何度も楽しめるコンテンツを制作することは容易ではありません。
仕掛けもですが、マンガ自体も良くなければ、二度目以降の購読はありえません。「 もう一度見たい」「 みんなに教えたい」と読者に思わせるだけの“ コンテンツの質の高さ” と“ 仕掛けの面白さ” という、複数のハードルを越えて成立しているコンテンツを制作した方々へ、このマンガを楽しんだ読者のひとりとして、お礼を言いたいと思います。
歴史に残る、“個人的”コレクション
個人コレクターが遺した膨大なクラシックジャズのコレクションを無償で公開している、Internet Archiveのアーカイブ、「 The David W. Niven Collection of Early Jazz Legends, 1921-1991」です。
図5 個人コレクターのクラシックジャズのコレクションを無償公開している「The David W. Niven Collection of Early Jazz Legends, 1921-1991」
このコレクションは、レコードコレクターのDavid W. Nivenの遺品です。1991年に彼が亡くなった後、コレクションを管理していた音楽ディレクターのKevin J. Powersが、600本以上のカセットテープの膨大なコレクションをデジタル化したものです。
図6 アーカイブのひとつ、1940〜1945年のジャズアーティスト、Charlie Parker(チャーリー・パーカー)の音源を集めたもの
ジャズファンにはお馴染みのデューク・エリントン、ルイ・アームストロングといったアーティストのレコード600枚以上が、コレクターの音声解説と解説文とともに、デジタルライブラリー化されており、自由に視聴、ダウンロードが可能です。
「日本版フェアユース」は実現するか
1000時間以上もの膨大なコレクションが“ 無償のアーカイブとして提供される” ということに非常に驚きましたが、この背景には、Internet Archiveが運営されているアメリカの著作権法に規定されている「フェアユース」という考え方があります。
「フェアユース」は、著作権者の許諾なしに著作物を利用しても、4つの判断基準のもとで公正な利用に該当するものであれば、その利用行為が著作権の侵害にあたらないとするアメリカの著作権法107条の規定です。この「フェアユース」により、Internet Archiveでは、さまざまなアーカイブが無償で提供されています。
図7 Internet Archiveでは、多くの音楽、映像、ゲームなどが無償でアーカイブされている(画像はMS-DOSのゲームをアーカイブした「Software Library: MS-DOS Games」 )
日本では、著作権法上の著作物利用条件が厳格です。また利用条件の変更スピードも現実の動きと比べて遅いことから、アメリカの規定を元にした「日本版フェアユース」についての議論が続いています。
最近の「TwitterのGIFアニメ検索の機能追加」に対する日本の反応など、諸外国と比べて「日本版フェアユース」の実現にはまだ時間がかかりそうですが、いずれこうした無償のアーカイブが日本でも実現することを期待しています。
変化するデザイナー環境に対応したデザインツール
2016年3月14日に公開された、Adobeの新しいUXデザインツール、「 Adobe Experience Design CC」のウェブサイトです。
図8 AdobeのUXデザインツール、「 Adobe Experience Design CC」のウェブサイト
「Adobe Experience Design CC」には、スマホやアプリなどのUIを制作する「Design」と、画面の遷移や画面遷移エフェクトなどを設定し、プレビューができる「Prototype」の2つのモードが用意されています。"the first all-in-one solution for UX designers. "ということで、デザインからプロトタイプの制作・共有までを、ひとつのツールで完結させています。
図9 「 Adobe Experience Design CC」のチュートリアル画面。Photoshopと比べると、非常にシンプル
まだまだ、Adobeの主力製品であるPhotoshopやIllustratorとの連携はまだ不十分な状態ですが、今後はこうした機能や連携も強化されていくでしょう。現在はMac OS X版のみの提供ですが、年内にはWindows 10版、iOSやAndroid向けの専用アプリのリリースも予定されています。
デザイナー領域の拡大とデザインツールの進化
コンテンツを提供するデバイスやプラットフォームの多様化は、それらに対応するデザイナーの領域を急速に拡大させています。
ビジュアルデザインやワイヤフレーム、インタラクションにアニメーションなど、非常に多くの作業を受け持ちながら、さらに実際に動きのあるプロトタイプの制作をデザイナーが求められる場面も多いでしょう。
ただし、デザイナーの制作するプロトタイプには、非常に多くの手間と時間がかかります。高品質のプロトタイプを素早く完成させるためには、複数のツールを使いこなす必要もあり、デザイナーの負担も決して少なくありません。
「InVision」が買収した「Silver Flows」の紹介動画
Introducing Silver - Lightweight Mobile Prototyping in Sketch from Aby on Vimeo .
こうした中で「Adobe Experience Design CC」が発表された直後、デザインプロトタイピングツール「InVision」も、デザインツール「Sketch」のプラグインとして提供されていた「Silver Flows」の買収を発表 しました。
Craft 2.0 Preview - Prototype in Sketch
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「Silver Flows」は、「 Sketch」上で画面の遷移を設定するためのプラグインです。「 InVision」では以前から「Craft」( ダミーテキスト・画像の挿入、パーツの複製を行う)という「Sketch」のプラグインを提供しています。
今後は、「 Sketch」と買収された「Silver Flows」の機能を組み込んだ「Craft 2.0」で、画面のデザインとページの遷移を設定し、「 InVision」でプロトタイプの共有・管理を行うという流れになりそうです。このコンセプトも「Adobe Experience Design CC」とよく似ています。
4月末にリリースされた「Adobe Experience Design CC Public Preview 2」の機能を紹介した動画。ユーザーの要望の高い機能を中心に開発が行われていくという
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「Adobe Experience Design CC」は、「 これから月一回のペースで機能追加を含めたアップデートを継続的に行う」と発表しています。こうした動きに合わせて、各種デザインツールの機能の進化はさらに加速するでしょう。そうした中で、現場のデザイナーにどのような変化と影響をもたらすのか、注目していきたいと思います。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。