いま、見ておきたいウェブサイト

第148回NRKbeta、NFB/Interactive - Bear 71、YouTube TV

菜種梅雨のジメジメもなくなり、気温の上昇と爽やかな天気に、気分の良い毎日を過ごしている今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。

理解しなければ、コメント書かせません

NRKbeta

NRK(ノルウェー放送協会)による、テクノロジーとニューメディアのため実験的サイト、⁠NRKbeta』です。

図1 テクノロジーとニューメディアのため実験的サイト『NRKbeta』
図1 テクノロジーとニューメディアのため実験的サイト『NRKbeta』

『NRKbeta』では、掲載している一部の記事に、実験的なコメント投稿システムを実装しています。記事を読んでコメントをする場合、記事に関する3つの質問に正確に回答しなければならないという仕組みで、すべての質問に正解しなければコメントは書き込めません。

図2 コメントを書く場合、画面に表示された3つの質問に答えなければ、コメントが記入できない
図2 コメントを書く場合、画面に表示された3つの質問に答えなければ、コメントが記入できない

“より良いコメント欄にするための実験⁠と称されるこの仕組みは、タイトルだけで内容を勝手に判断したり、記事をすべて読まなかったり、ユーザーが最低限の共通理解をしないままコメントを書き込むことで、コメント欄を通じた議論ができなくなることを防ぐ目的で導入されています。

文字中心のコミュニケーションにおける、基盤づくりの重要性

今回の事例のようなコメント欄だけでなく、SNSなどによる誹謗中傷などを未然に防ぐため、時間と手間を費やして対応する企業も多くなってきました。こうした対策を行わないと、メディアやサービスの信頼性が低下し、運営が非常に難しくなるためですが、数多くの記事やサービス全体を人間が監視しながら、一つひとつ対応するには限界があります。

図3 AIを利用した「Perspective」では、不適切なコメントをリアルタイムで検出する
図3 AIを利用した「Perspective」では、不適切なコメントをリアルタイムで検出する

こうした状況から、最近では、AI(人工知能)を使って、誹謗中傷に対処しようとする事例も出てきています。GoogleとJigsawが発表したPerspectiveでは、機械学習ライブラリ「TensorFlow」を使用して、メディアなどのサービス上で発生する不適切なコメントをリアルタイムで検出します。すでにWikipediaや数社のメディア(New York Times、Economist、Guardian)の記事内のコメントに採用されており、膨大なコメント内容の確認作業を迅速に行えるようになります。

文字中心のコミュニケーションでは、情報そのものの正確性や信憑性だけでなく、円滑なコミュニケーションの基盤づくりが重要な時代になりました。今まで以上に人力と時間を費やすことが必要不可欠となりつつある中で、こうした事例を含め、どのような方法で対処するのが望ましいのか、試行錯誤が続きそうです。

新技術で復活するコンテンツ

NFB/Interactive - Bear 71

カナダの国立公園で捕獲され、⁠⁠Bear 71」と名付けられたハイイログマの生涯を20分間で体験させてくれる、NFB(カナダ国立映画制作庁)によるウェブドキュメンタリー、⁠NFB/Interactive - Bear 71』です。

図4 NFBによるウェブドキュメンタリー、⁠NFB/Interactive - Bear 71』
図4 NFBによるウェブドキュメンタリー、『NFB/Interactive - Bear 71』

この『NFB/Interactive - Bear 71』は、2011年にFlashで制作されたコンテンツを、WebVRに対応させるために再構築したものです。Google Developersによれば、8人のチームが約12週間でコンテンツの作成と再利用、最適化を行っているとのことです。

Flashで制作されたコンテンツはどうなるのか

WebVRに対応した今回のバージョンをオリジナルと比較すると、細かな演出部分の簡素化が行われている印象を受けますが、コンテンツで重要な部分は変わっていません。さまざまな賞を獲得したコンテンツが、制作から6年を経た現在でも問題なく体験できることには感動すら覚えます。

図5 演出方法が多少異なるが、内容は変わらない(左:2011年のFlashバージョン、右:再構築されたWebVR対応バージョン)
図5 演出方法が多少異なるが、内容は変わらない(左:2011年のFlashバージョン、右:再構築されたWebVR対応バージョン)

2017年現在、ChromeやFirefoxといった主要なブラウザでは、Flashのプラグインは実行できない初期設定になりました。制作現場でも、Flashを使わないコンテンツの制作が基本ですし、ゲームなどのリッチコンテンツなどへの対応では、主要ブラウザがWebAssembly(ウェブブラウザ上でバイナリフォーマットの形のまま、プログラムを実行可能とする)のサポートを発表していることから、Flashを使ったコンテンツがこれから増えることは考えられないでしょう。

図6 主要なブラウザでFlashのコンテンツを閲覧する場合、初期設定でFlashのプラグインは実行できないため、こうした画面表示も増えてくる
図6 主要なブラウザでFlashのコンテンツを閲覧する場合、初期設定でFlashのプラグインは実行できないため、こうした画面表示も増えてくる

日常のブラウジングにおいても、Flashを利用した広告やサービスが次々と終了し、Flashを使用したコンテンツが少なくなってきていることを実感しています。とはいえ、過去にFlashで制作された質の高いコンテンツがこのまま消えていくのは寂しい限りです。いつまでも体験できる形でのアーカイブや、新たな技術での再構築といった事例が増えることを期待したいと思います。

テレビを見るなら、モバイルデバイスで

YouTube TV - Watch & DVR Live Sports, Shows & News

インターネットを通じてTV番組を有料配信するという、YouTubeの新しいサービス「YouTube TV」のウェブサイトです。

図7 インターネットでTV番組を有料配信する、YouTubeの「YouTube TV」
図7 インターネットでTV番組を有料配信する、YouTubeの「YouTube TV」

「YouTube TV」は、アメリカの4大ネットワーク(ABC、CBS、Fox、NBC)を含む、40以上のチャンネルが月額35USドルで視聴できるというサービスです。モバイルデバイスやPC、テレビでも視聴できるだけでなく、Cloud DVR(Cloud Digital video recorder:コンテンツをクラウドに録画しておき、好きな時にストリーミング視聴できるサービス)にも対応しています。アメリカ以外へのサービス展開は、現在のところ未定です。

図8 ⁠YouTube TV」では、Cloud DVRにも対応している
図8 「YouTube TV」では、Cloud DVRにも対応している

視聴者獲得競争の裏にあるもの

アメリカでは、ケーブルテレビや衛星放送による有料放送でのテレビ番組視聴が一般的です。しかし、近年では、⁠コード・カッター」と呼ばれる、視聴料金の高いケーブルテレビや衛星放送から、オンラインの配信サービスに乗り換える流れが進んでいます。インターネットから簡単に加入でき、ケーブルテレビや衛星放送のような受信設備の設置もないため、今後は契約者の拡大が見込まれています。

こうした流れを受けて、アメリカでは次々と企業がオンラインでの配信サービスへと参入を始めています。 AT&Tの「DirecTV Now⁠⁠、Dish Networkの「Sling TV⁠⁠、Huluの「Live TV service⁠⁠、Sonyの「PlayStation Vue」などは、今回紹介した「YouTube TV」と競合するサービスですし、最近ではAppleも参入するのではないかと噂されています。

図9 アメリカ企業は、次々とオンラインでの配信サービスへの参入を始めている(左:AT&T「DirecTV Now⁠⁠、右:Sony「PlayStation Vue」
図9 アメリカ企業は、次々とオンラインでの配信サービスへの参入を始めている(左:A

競争の激化となる背景には、技術的な進捗も挙げられます。数年後に、高速化と多接続・低遅延を実現する5G(第5世代移動通信システム)時代が到来することを考えれば、現在のテレビ放送と同じように「広告による無料放送」がオンラインで可能となります。その場合、広告収入を獲得するため、モバイルデバイスからの視聴者を、どこよりも多く獲得しておく必要があります。

現在、GoogleとFacebookの2者がほぼ独占状態を続けているモバイル広告のシェア獲得競争を背景に、インターネット企業、大手通信会社、ケーブルテレビ会社、衛星放送会社による、視聴者の獲得競争がこれから激化していくことでしょう。AmazonやNetflixなどの動画配信サービスも存在感を増している中で、どのようなサービスがモバイルデバイスにおける動画配信のスタンダードとなるのか、今後の動向を注意深く見守っていきたいと思います。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

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