もう冬かと思うような季節外れの寒さが続くため、そろそろ「こたつでも用意しようかな」と思っている今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
最適な人材、インターネットから探します
日本初の登録不要AIヘッドハンティングサービスを開始した、株式会社scouty(スカウティ)のウェブサイトです。
図1 日本発のAIヘッドハンティングサービスを開始した、株式会社scoutyのウェブサイト
「scouty」では、SNSやGitHubなどの技術情報共有サービスで公開されているデータから、転職候補者の情報を取得します。この取得した情報を、独自のマッチングアルゴリズムで解析して、企業が求める最適の人材を探し出します。
転職候補者の能力も、人工知能がデータから能力値を弾き出します。候補者のスキルや市場でのニーズを分析することで、より活躍できる企業を提案できるだけでなく、人事担当者が行っていた候補者選びも省力化します。
転職希望者が登録情報を自らが登録するという面倒な作業が必要ないことや、候補者が転職しそうな時期を予測して、企業側が候補者を採用しやすいタイミングでスカウトメールが送れるなど、従来の転職サービスとは全く異なった人材獲得方法も特徴のひとつです。
AIが人間の能力を判断する時代は来るか
ここ数年、「 HR Tech(Human Resource Technology:ヒューマン・リソース・テクノロジー」と呼ばれる、さまざまな人事関連業務の自動化や効率化を進める動きが活発です。中には株式の上場を行って、さらに事業を拡大しようとするサービスも登場しています。
今年5月、ソフトバンク株式会社は新卒者の採用業務にAIを導入することを発表 しました。IBMの「Watson」を活用して、採用試験時に新卒者が提出する大量のエントリーシートを審査することで、人事担当者の確認作業が75%程度削減できるということです。
面接の一部にAIを採用している企業も現れています。アメリカのHireVue Inc. が提供しているクラウド型の面接プラットフォーム「HireVue」は、カメラを通じた映像の表情や動作から採用候補者の評価を行うというもので、CocaCola、Goldman Sachs Group、Walmartといった世界的企業で採用されています。
『Business Insider』による「HireVue」の取材動画
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アメリカのMya Systems Inc. では、“ 採用プロセスの75%を自動化する” ために、AIチャットボットの「Mya」を開発しています。「 Messenger」「 Skype」などのメッセージングアプリを用いて、対話しながら採用候補となるユーザーを特定し、最終的に面接を取り付けます。すでに200万人の採用候補者との対話が進んでいます。
紹介した上記の例では、さまざまなテクノロジーを駆使しているものの、採用の最終的な判断は人間が行っています。そのため、AIが人間の能力を判断して採用を決定することは、まだまだ“ 時期尚早” と思われる方も多いでしょう。
ただし、人間の処理能力や採用基準のゆらぎ(能力の評価、個人の好み、相手の印象の違いなど)を考えれば、いずれ採用活動の量と質の問題がやってきます。迅速かつ公平で、質の高い採用を推し進めるのであれば、採用側と応募側の双方にとってメリットの多い「HRTech」のサービスがこれから拡大していくのは、当然なのかもしれません。
マイニングが生み出す、新たな収益構造
仮想通貨「Monero」のマイニング(採掘)によって各種サービスを提供する「Coinhive」のウェブサイト、『 Coinhive – Monero JavaScript Mining』です。
図2 仮想通貨のマイニングで各種サービスを提供する「Coinhive」のウェブサイト
「Coinhive」は、JavaScriptのコードを埋め込んだウェブサイトを閲覧したユーザーに仮想通貨をマイニングさせることで、特定のリンク先に移動する「短縮URLサービス」 、人間かマシンを判別する「Captcha代替サービス」 、さまざまなウェブサービスに導入できる「APIの提供」などのサービスを提供しています。
ユーザーがマイニングした仮想通貨の収益は、7割がウェブサイトの運営者に、3割が手数料として「Coinhive」側に配分されるという仕組みです。
仮想通貨は新たなルールを生み出すか
1ヶ月ほど前、BitTorrentファイルの共有サイト「The Pirate Bay」を利用するユーザーたちが、特定のページにアクセスする度にPCのCPU使用率が上昇することに気づき始めました。さまざまな憶測が流れる中、ウェブサイトの運営側から「ユーザーのPCを使って仮想通貨をマイニングする“ 実験” を行っていた」ことが発表されました。この時、「 The Pirate Bay」で利用されていたのが「Coinhive」で、その名前が広く知られるようになりました。
「The Pirate Bay」の“ 実験行為” は、ユーザーの許可なくマイニングが行われたことで多くの批判を浴びました。さらに「Coihive」を利用したChromeの拡張機能やマルバタイジング(クリックするとマルウェアサイトに転送されるてしまう悪質な広告)などが「マルウェア開発者の収益源になっているのでは」という疑念から、現在、多くのコンテンツブロッカー(広告ブロック)やアンチウイルスソフトが「Coihive」をブロック対象としています。
図3 「 Coinhive」が新たに提供した「AuthineMine」は、ウィンドウを表示してユーザーにマイニングの同意を尋ねる仕組み
上記の批判については「Coinhive」も謝罪し、素早い対応を行っています。「 『 Coinhive』を迷惑な広告の代替手段にすることを意図していた」ということで、「 AuthineMine」( ユーザーの許可がなければマイニングできない仕組み)を新たに用意し、アンチウイルスソフトなどのブロック対象から外すことを要請しています。
「The Pirate Bay」の件では、事前にマイニングすることを明示して、閲覧するユーザーにマイニングの許可を求めていれば、批判は避けられたと思います。コンテンツ内に大量の広告が表示されるウェブサイトやサービスの現状を考えれば、マイニングの方が良いと思うユーザーも少なくないでしょう。
コンテンツの提供側は、マイニングの利用によって、ユーザーがコンテンツを閲覧したタイミングで収益が得られます。また長い文章や動画など、ユーザーの滞在時間が長いコンテンツを提供するウェブサイトやサービスは、より大きな収入を得られる可能性があります。
こうした理由から、個人的には「Coinhive」に可能性を感じています。ただし、現時点では、広告の表示回数とCTR(クリック率)を増やすことが、最も効率よく収益を上げる手段であることは否定できません。それでも、大量の広告表示以外の選択肢が増えることは、コンテンツの提供側にとって多くのメリットがあるでしょう。投機の対象としてではなく、仮想通貨の特性を生かした新たなルールの登場が、世の中を変える日も近いかもしれません。
ジャージーから見える、新しい世界
Nikeから9月15日に発表された、自分の応援するチームやプレイヤーに関するさまざまなコンテンツへのアクセスが可能になる新しいジャージー、「 Nike NBA Connected Jersey」を紹介するプロモーションサイト『NBA Jerseys featuring NikeConnect.』です。
図4 ジャージーから特別なコンテンツへとアクセスできる「Nike NBA Connected Jersey」を紹介する『NBA Jerseys featuring NikeConnect.』
「Nike NBA Connected Jersey」には、ジャージーの下部にあるNBAタグに、近距離無線通信が可能なNFCチップが内蔵されています。Nikeが提供するアプリ「NikeConnect」を起動したスマートフォンでタグの部分にタップすると、着用しているジャージーのチーム情報や試合のハイライト、各プレイヤーのお気に入りのSpotifyのプレイリストなど、特別なコンテンツへとアクセスできる仕組みです。
図5 「 Nike NBA Connected Jersey」からは、さまざまな特別コンテンツへとアクセスできる
コンテンツにアクセスするためのアプリ「NikeConnect」とジャージーは、9月29日からオンラインで提供(日本は10月18日から)されます。
“物質的なモノ”は、再び価値を持つか
ゲーム機や携帯電話、デジタルカメラや携帯音楽プレーヤーなど、1990〜2000年代には数多くの電子機器が登場しました。こうした製品の多くは、部品の小型化やインターネットによるサービスのデジタル化が進んだことで、今ではたった一台のスマートフォンに機能として集約されています。
サービスのデジタル化は、所持する空間が不必要、機能の追加が可能、アップデートされれば常に最新の状態で利用できるなどの利点があります。映画はストリーミング配信で、音楽ファイルはダウンロードで、雑誌やコミックは電子書籍で…同様のサービスが受けられるのであれば、物理的なモノを所持するための明確な理由が必要になる時代です。
日本の国土の広さや居住環境からは、空間を有効活用する片づけ方法や「ミニマリスト」のようなライフスタイルが登場し、“ 物質的なモノをなるべく所持しない” という考え方も一般にじわじわと浸透してきました。
物理的なモノは、場所を占有します。デジタル化されたサービスのように、機能の追加やアップデートがされることは決してありません。その反面、触り心地や重み、匂いといった、デジタルでは決して味わえない、人間の感覚器を刺激する要素を持っています。
NBA Jerseys featuring NikeConnect.の概要を説明した動画
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「Nike NBA Connected Jersey」は、物理的なモノの特長はそのままに、デジタルの機能を追加しています。着用したジャージーから感じる心地よい触感に加え、競技場で好きなチームを応援している時など、最適なタイミングで特別なコンテンツを発信することで、単なるモノ以上の価値をユーザーに提供できます。
物理的なモノにはない新しい価値をユーザーに提供できるのであれば、「 デジタル」か「モノ」かという選択肢は大きく変わります。お互いの長所を生かした「デジタルの利点を持つモノ」を選択するユーザーの行動が、これから大きな流れとなっていくかもしれません。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。