暑さが厳しいこの季節、エアコンのありがたみを感じながら、「日本もそろそろ月単位の休暇が当たり前になってほしい」と妄想している今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいウェブサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
AIは、製品のなかに
Googleの人工知能研究プロジェクト「Google Brain」の一部門である「Magenta」が開発した、まったく新しい音楽制作ツールを紹介したウェブサイト、『NSynth Super』です。
ウェブサイトで紹介されている「NSynth Super」は、約1,000種類の楽器音から作られたデータベースをニューラルネットワークで分析させることで得られた、楽器の音色の特徴を組み合わせて音色を作り上げていきます。実際には、四隅のツマミに配置した音色をタッチパネルの操作で配合しながら、下部の5つのツマミ(PADSR)で波形の再生位置と音量を変化させて、全く新しい音を生み出していきます。
「NSynth Super」のハードウェアの仕様とインターフェイスは、オープンソースライブラリで構築されており、すべてのソースコードや回路図、デザインテンプレートがGitHubからダウンロードできます。
ソフトウエアからハードウエアへと進出する人工知能
楽器としては、まだまだ荒削りな部分がある「NSynth Super」ですが、機能自体がAIによって強化・発展されていくことを考えると、様々な想像が浮かびます。例えば、感覚を重視しながら、イメージにぴったりと合った音色を瞬時に制作できる可能性があります。
さらに別のインターフェースと組み合わせれば、人間の言葉で表現された音の特徴を、そのまま実際の音へと変換することもできそうです。演奏支援機能や作曲などへの応用も考えれば、今まで人間が経験と知識と想像力を駆使して行ってきた高度な演奏や作曲の技術を、誰もが自由に使えるようになるでしょう。
「A.I. Duet」。人間が奏でるメロディーにAIが反応し、アレンジを加えた演奏を返してくれる>現状では、膨大なデータを活かしたソフトウェア上でのAI導入が広がっていますが、いずれは身近なハードウエアにもAIを活用する機能が搭載されていくのでしょう。すでに一部のスマートフォンでは、AIでデータを処理のための専用チップが搭載されるなど、将来の方向性の一端が垣間見えます。
利用されながら改善が進み、身近な製品に搭載されながらAIが拡大していくとき、私たちの生活の中でAIはどのような役割を担うのでしょうか。人間の能力を拡張しながら、アシスタントやパートナーのような身近な存在になった場合、私たちの生活や考え方がどのように変わるのか。それが明るい未来となることを信じて、今からの変化を期待したいと思います。
優勝したら、みんなで飲み明かそう
(※キャンペーン期間が終了したため現在はアクセスできなくなっています)
FIFAワールドカップ2018ロシア大会のオフィシャルビールである「Budweiser」が、イングランド代表の優勝を信じているすべてのファンのために行ったキャンペーン、「 Budweiser Gesture 」のウェブサイトです。
「Budweiser」のワールドカップ大使となっている、元イングランド代表キャプテンのスティーブン・ジェラードを全面に押し出すこのキャンペーンは、2018年7月15日に行われるワールドカップの決勝戦でイングランドが勝利して優勝した場合、24時間限定で「Budweiser」製品の購入に利用できる5ユーロのバウチャー(商品引換券)を1人1枚発行できるというものです。
クーポンを発行するためには、事前にウェブサイトからの登録が必要ですが、その対象となるのが18才以上のイギリス国民(ただしスコットランドを除く)という破格の条件です。
ワクワクするキャンペーンを体験するための条件とは
2016年のイギリス国家統計局のデータをもとに推測すれば、イギリスの人口が約6500万人で19歳以下は約25%(約1600万人)です。スコットランドの人口が約500万人ですから、イギリスの人口からスコットランドの人口を引き(約6000万人)、そのうちの65%が20歳以上と考えれば、約3900万人がキャンペーンの対象となります。つまり、 「Budweiser」は、 最大3900万人×5ユーロ=1億9500万ユーロ、日本円で約256億円もの支払いが発生する可能性があるのです。
この原稿を書いている時点で、すでに2018年のワールドカップは終了しています。残念ながらイングランド代表の 52年ぶりのワールドカップ優勝は消え 、この夢のようなキャンペーンが実施される事はありませんでした。それでも4年に一度のワールドカップということで、イギリスの多くがこのキャンペーンのおかげで楽しい日々を過ごしたことでしょう。
イギリス以外でも、ワールドカップ期間中は驚くようなキャンペーンが展開されています。ベルギーでは家電量販店のKrëfelが、「ベルギー代表が本大会で15ゴール以上決めた場合、店頭で大型テレビを購入した客に代金を返金する」という「TV Gratuite !(テレビ無料!)」キャンペーンを行い、話題となりました。こちらは、見事ベルギー代表が条件をクリアして、実際に購入客に代金が返金されることが決定しています。
以上の事例を見る限り、ワールドカップで優勝を狙えるチームであれば、国内でかなり大掛かりなキャンペーンが実施される可能性が高まります。日本でも同様のキャンペーンが行われるとしたら、日本代表がワールドカップの優勝も狙えるほど強く賢いチームとなることが条件になるはずです。もちろん、私の生きている間にこうしたキャンペーンが体験できるよう、日本代表の今後に期待したいと思います。
好きなものを、好きなだけ
「ちょうどいい文字を、ちょうどいい価格で」をコンセプトに、フォントワークス株式会社が開始したフォントの新しいサービスを説明するウェブサイト、『mojimo-manga』です。
「mojimo-manga」は、アニメやコミックでよく使用されるフォント(明朝体やゴシック体、デザイン系などの36書体)を、年間3,600円(税抜)の定額制で提供します。
イラストコミュニケーションサービス「pixiv」の「pixivプレミアムユーザー」は、「mojimo-manga」の割引購入ができるほか、YouTubeなど動画共有サービスでの商用使用が可能な「オプション 動画共有サービス利用許諾権(100ライセンス限定)」も提供されています。
「サブスクリプション」という選択肢
最近では、「mojimo-manga」のような、定額制課金モデルのサービスが数多く登場しています。こうした継続課金型のビジネスモデルは「サブスクリプションモデル」と呼ばれており、デジタルのサービスだけでなく、自動車や洋服のレンタル、替刃式のカミソリなど、様々な分野で取り入れられるようになってきました。
自社の商品を販売する「購入モデル」ではなく、サービスに継続的に課金して利用してもらう「サブスクリプションモデル」への移行が進んだ理由の一つが、所有に対するユーザーの考え方の変化です。消費者の意識が、モノを「所有する」のではなく、サービスを「必要なときに必要なだけ、無駄なく利用する」という考え方へと移行しているためです。
「サブスクリプションモデル」への移行は、サービスを提供する企業にとっても利点が多いです。最大のメリットは、“収益の安定化”に繋がることでしょう。「サブスクリプションモデル」の成功例としてよく名前が挙がる、アメリカのソフトウェア会社「Adobe Systems」の2018年第1四半期(1~3月)の決算プレスリリースでは、クラウド化による定額課金が収益の約86%を占めています。
2012年以前は「Adobe Systems」もソフトウェアを発表してパッケージとして売る「購入モデル」が中心でした。このため新製品を発売してからの売上予想が非常に難しかったのです。「サブスクリプションモデル」に移行した現在では、定額による継続契約が前提のため、正確な売上予測が立てやすくなり、手元の資金を有益かつ安全に先行投資などに回せることで、収入と経営の安定化を実現しています。
「サブスクリプションモデル」で重要となるのが、継続的に利用するユーザー数です。その数を増加させる方法の一つが、ユーザーにとって最適なプランの提供です。紹介した「mojimo-manga」は、アニメやコミックでよく使用されるフォントのみに絞ることで、興味を持った特定のユーザーが利用しやすいサービスになっています。また、他社の定額制フォントサービスと比較して、大幅に価格を抑えられたことも、新規ユーザーの獲得に繋がります。
ユーザーのニーズに合わせ、過不足ない最適なサービスを提供することは、これからサブスクリプションのサービスを提供する企業において、非常に重要なポイントでしょう。海外発のサービス(例:Netflix、Spotify、Amazon Prime)が非常に強い現状ですが、ユーザーが求める最適なプランを提供できれば、強力な海外勢とも対等に戦える日本発の「サブスクリプションモデル」が登場してくるかもしれません。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。