いま、見ておきたいウェブサイト

第158回2019年特別編 2018年の特徴、2019年の展望

2019年が始まってから、早くも3ヶ月。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。⁠Lançamento - Website, What a Wonderful World!』を運営しているLançamento(ランサメント)です。

『いま、見ておきたいウェブサイト』では、2018年も国内外のウェブサイトやウェブサービス、アプリなどを紹介してきました。2019年の初回は、毎度おなじみの「特別編」と題して遅ればせながら、2018年に登場したウェブサイトやウェブサービスの周辺環境などを振り返りつつ、次第に見えてきた2019年の展望を自由に語っていきたいと思います。

特徴その1 「個人情報」取得の規制が変えるもの

振り返ってみると、2018年ほど「個人情報」について考えさせられる機会が多い年はなかったように思います。

事の発端は、2018年3月。アメリカのマスコミが、選挙コンサルティング会社のCambridge Analyticaの元従業員の話として「Facebook利用者の5,000万人分の個人情報が不適切に収集された」ことを報道しました。

その報道を受けたFacebookは、⁠Cambridge Analyticaによって、最大8,700万人分の利用者情報が不適切に共有された可能性がある」と発表。CEOのMark Zuckerbergは2日間の米上院公聴会に出席し、100人もの議員から、疑惑についての質問を約10時間も受けることとなったのです。

2018年4月10日、アメリカの上院公聴会で証言する、FacebookのMark Zuckerbergの動画

その後、Cambridge Analyticaは廃業したものの、事態は収まりませんでした。Cambridge Analyticaが不正に収集した情報が、2016年のアメリカ大統領選挙における「フェイクニュース」や、EU(欧州連合)脱退を問うたイギリスの国民投票結果に影響したのではないかという、より大きな疑惑へと拡大していったからです。

こうした中で、2018年5月25日からは、EUの新たなプライバシー保護法制GDPR(一般データ保護規則)が施行されました。GDPRは、⁠欧州経済地域(EEA)内のすべての市民に関連する個人情報」の保護を強化する」ことを目的とした規則です。

図1 欧州委員会によるGDPR(一般データ保護規則)を説明した公式ウェブサイト
図1 欧州委員会によるGDPR(一般データ保護規則)を説明した公式ウェブサイト

最もわかりやすいGDPRの影響は、EUでサービスを展開する企業のウェブサイトにアクセスすると、⁠Cookieによる情報取得の同意」を求められるようになったことでしょう。これはCookieが個人情報に該当するためですが、GDPRでは、企業が個人情報を収集する場合、収集する理由と情報が何のために使われるのかを、わかりやすく簡潔に説明しなければならなくなりました。

また、GDPRは大量の個人情報を保持しているアメリカのIT企業をターゲットとした新法制とも言われており、規則に違反した場合には、2,000万ユーロ(日本円で約21億円⁠⁠、または全世界の売上の4%分という莫大な罰金が課せられます。

「一部の大企業に個人情報を独占させないようにする」⁠個人情報とプライバシー(自分の情報をコントロールする権利)を守る」という流れの中で、日本でも国内の経済団体を中心に、個人の指示でデータを預かって企業などにデータ提供しようとする独自のサービス、いわゆる「情報銀行」の設立についての動きもありました。

2019年には、今回施行されたGDPRの特別法として、EUのePrivacy Regulation(eプライバシー規則)が施行される予定です。様々な電子通信サービスおける個人の秘密保護を実現することから、企業にとっては、個人情報の収集がより厳しくなっていくことは間違いありません。

これまで、多くのIT企業のビジネスモデルは、個人データを利用する広告などから得られる利益によって、無料でサービスが提供されてきました。こうした経緯を考えると、規則が厳しくなり、個人情報の取得が難しくなれば、今まで提供されたサービスの課金化が進んでいく可能性も否定できません。

世界各国で個人情報を巡る動きが活発になることで、今まで莫大な利益を得てきたIT企業のビジネスモデルにも、大きな変化が生まれるかも知れないと感じさせられた一年でした。

特徴その2 UIツールは、コラボレーションの時代に

2018年のUIツールの動きを語る上で、最も重要な出来事は「Adobe XD」の毎月のアップデートによる大幅な機能の拡張でしょう。

他のUIツールが着実なアップデートを進めていく以上のスピードで、毎月、次々と新たな機能の追加とツールの改良を進めたAdobeの底力、特にデザインツールで圧倒的な支持を得ているAdobeが、UIツールの主導権を奪いに来たことを本格的に感じさせる一年だったと思います。

図2 2018年分の「Adobe XD」の毎月のアップデートがわかる『最新機能』のページ
図2 2018年分の「Adobe XD」の毎月のアップデートがわかる『最新機能』のページ

その「Adobe XD」が行ってきた毎月のアップデートの中でも、2018年に大きな意味を持ったアップデートが二度ありました。その一つが、2018年5月に行った「無償プラン」のスタートです。

最適なUIツールを選ぶ場合、無料期間中にユーザーがある程度の操作を行って、ツールの使い勝手を確認します。ただ、誰もが短期間でツールの良し悪しや、ツールが自分の仕事に合うかどうか判断するのは難しいという問題点がありました。

「Adobe XD」で提供された「無料プラン」では、⁠無料期間内にツール内の機能すべてを試さなければ」という切迫感がなくなります。機能についても、自分の使い方に合ったものを少しづつ身につけていけることで、他のUIツールと異なり、デザイナー以外のユーザー獲得にもつながりました。

もう一つの大きなアップデートは、イベント「Adobe MAX」に合わせて発表された「2018年10月のアップデート」です。

2018年10月の「Adobe XD」アップデートで追加された、音声プロトタイピングの解説動画
2018年10月の「Adobe XD」アップデートで追加された、自動アニメーション機能の解説動画

このアップデートでは、特にライバルとも言える「Sketch」と同様のプラグイン対応やVUI(Voice User Interface)を使った音声プロトタイピングへの対応、プロトタイプの動きをより簡単に設定できる自動アニメーション機能など、新機能の追加が大きな驚きを与えました。また、このアップデートは、数多くの機能追加だけでなく、これから「Adobe XD」がどのような方向に向かって発展していくのかを明確に示したものとなりました。

後発のUIツールであった「Adobe XD」の機能は、⁠2018年10月のアップデート」が発表された時点で、標準的なUIツールのレベルに追いついたと言えるでしょう。こうした機能による各ツールの差別化が難しくなると、どのツールもシェアを爆発的に拡大することは難しくなってきたと感じます。

では、機能面では同等の機能を持った数々のUIツールの中で、これからユーザーに選ばれ、支持を得るポイントとは何なのでしょうか。

個人的には、一つは、強力なプラグインによる機能の拡張性と考えています。⁠Sketch」は、個人が中心となった強力なコミュニティを背景に、多彩で強力なプラグインを開発してきた強みを持っています。また「Adobe XD」は、ウェブサービスを運営する企業などと協力して、それらのサービスとの連携を促すプラグインの開発を進めています。機能を追加するプラグインの開発スタンスでも、各UIデザインツールごとに違いがありますが、どのような形であれ、コミュニティを活性化させるプラグインの開発環境を整えていくことが一層重要になってくるはずです。

もう一つは、他の職種との親和性、コラボレーションのしやすさと言えるでしょう。近年のウェブサイトやモバイルアプリのワークフローの変化によって、こうしたUIツールを⁠デザイナーだけが利用するもの⁠という枠では捉えきれなくなってきています。柔軟なフィードバックを繰り返す制作現場において、デザイナーはもちろん、さまざまな立場に位置するユーザーが自分のやりたいことにフォーカスできるツールになることが、存在価値を大きく高めていくポイントになると考えています。

コラボレーションの実現には、ツールのカスタマイズや前述したプラグインによる機能の拡張が必要です。多彩なユーザーによる利用が進めば、便利な機能が追加されるとともに、思いもよらない新しい使い方が次々と生まれます。こうした流れを背景に、今後もUIツールは進化していくことになりそうです。

特徴その3 VUI(音声ユーザーインターフェース)は世界を変えるか

2018年は、Amazonの「Amazon Echo」シリーズやGoogleの「Google Home⁠⁠、Appleの「HomePod」やLINEの「Clova Wave」などのスマートスピーカーを推し進める主要な企業の製品がようやく揃った年になりました。さらに、音響メーカーとの協力で音質を重視した新製品やディスプレイを搭載したモデルが登場するなど、本格的な普及の段階に入ったと感じさせる一年でした。

Googleが発表した「Google Home Hub」の紹介動画。音声デバイスにディスプレイを追加することで、さらに多くの情報が扱えるようになった

その中でも、激しいシェア争いをしているAmazonとGoogleによる、音声プラットフォーム拡大のためのさまざまな方策が目立ちました。

Amazonは、2018年2月のスマートドアベルメーカーのRing買収から始まり、KOHLERの浴室照明付きミラーやEcobeeの温度自動調節器、Philipsの電球やFirst Alertの火災警報器など、スマートホーム関連の製品に次々と「Alexa」を搭載しました。さらにBMW、Ford、TOYOTAなどの自動車メーカーが、車のダッシュボードに「Alexa」を導入することを発表しています。

Googleも、すでに買収しているスマートホーム製品メーカー「Nest」の製品への対応を進めるだけでなく、家電メーカー「LG」のテレビや冷蔵庫などの家電に「Google Assistant」を導入しました。またRenault、NISSAN、MITSUBISHIといった自動車メーカーとも提携して、車内で「Google Assistant」を利用できるように進めています。

スマートスピーカーにおいて、激しいシェア争いをしているAmazonとGoogleの両者ですが、こうして昨年の動きを振り返ってみると、どちらも同じやり方を進めています。

こうした動きについて、個人的には、音声を扱う基本的なプラットフォームを独占するために、⁠VUI(音声ユーザーインターフェース)がどこでも使える環境をいち早く整備したい」という現れだと考えています。自社で開発している機器(⁠⁠Amazon Echo」「Google Home⁠⁠)の拡大ではなく、多種多様な機器に音声を使えるようにする機能(⁠⁠Alexa」「Google Assistant⁠⁠)を搭載させて幅広く普及させようとしている点は、その最たる例ではないでしょうか。

図3 Amazonのスマートホーム対応機器を紹介するページ。様々な機器を「Alexa」に対応させていることがわかる
図3 Amazonのスマートホーム対応機器を紹介するページ。様々な機器を「Alexa」に対応させていることがわかる

スマートスピーカーの出荷台数は、IT調査会社のCanalysの調査によれば、2018年は全世界で780万台に達し、2017年から125%増加しています。アメリカ国内では「世帯普及率が40%を超えている」というデータもあり、今後も順調に生活圏内へ浸透していくことが予想されます。

昨年の連載でも触れましたが、パソコンやスマートフォンなどのデバイスを使いこなせず、インターネットの恩恵を十分に受けられない人たちも決して少なくありません。普段、自然に行っている⁠話すという動作⁠を使えば、こうした現状を打破して、より多くの人がインターネットを便利に利用できる可能性が広がります。また場合によっては、スマートフォン以上の使いやすさで、一気に普及する可能性もあります。

スマートフォンの販売台数の伸びも、ここ数年、全世界で頭打ちという状況になっています。こうした中で、次の軸となる⁠インターネット利用のスタンダード⁠をどの企業も探し求めています。生活におけるさまざまな場面で音声の利用が本当にスタンダードとなるのか、企業の試行錯誤はまだまだ続きそうです。

2019年の展望について

図4 QR決済サービス「PayPay」が行った「100億円あげちゃうキャンペーン」は、開始からわずか10日間で終了した
図4 QR決済サービス「PayPay」が行った「100億円あげちゃうキャンペーン」は、開始からわずか10日間で終了した

昨年は、日本でもPayPayなどの「QR決済サービス」による巨額のポイント還元キャンペーンが話題となりました。現在はQR決済サービスへの参入企業が乱立している状況ですが、導入や決済のコストも安いことから、今までコストの問題で加入を迷っていた業界やサービスなどに、爆発的に拡大する可能性もあるでしょう。

図5 ⁠MicrosoftのWebブラウザである「Edge」をChromiumベースに移行する」というMicrosoft公式ブログでの発表は、驚きだけでなく、安心や不安など、さまざまな影響を与えた
図5 「MicrosoftのWebブラウザである「Edge」をChromiumベースに移行する」というMicrosoft公式ブログでの発表は、驚きだけでなく、安心や不安など、さまざまな影響を与えた

昨年発表された、Microsoftのブラウザ「Microsoft Edge」が独自のレンダリングエンジン「EdgeHTML」の使用をやめ、⁠Google Chrome」と同じオープンソースプロジェクトの「Chromium」をベースとしたブラウザに生まれ変わるというニュースは大きな驚きでした。

「Google Chrome」が圧倒的なシェアを獲得してきた背景には、実験的・革新的な機能を取り入れて、その機能がデベロッパーに広く使われるようになることで、次々と新たな機能を追加しながらブラウザを進化させるスピードが非常に早いことが挙げられます。

ただし、こうした動きが「Googleが考えるインターネットの未来に沿った動きである」として、その推進力とスピードを不安視する意見もあります。すでにウェブサービスやウェブサイトのいくつかは「Chromeでしか動作しない」ものが登場しており、⁠Chromeの一強時代」となることで、Web標準化以前の「MicrosoftのInternet Explorer一強時代」のような時代が再び訪れることを危惧している方も多く、今後の動きが気になります。

図6 Googleが発売したスマートフォン「Pixel 3⁠⁠。Google Pixelシリーズのスマートフォンとしては、日本で初めて発売された
図6 Googleが発売したスマートフォン「Pixel 3」。Google Pixelシリーズのスマートフォンとしては、日本で初めて発売された

昨年、最新のスマートフォンPixel 3を発表したGoogleの新たな戦略にも注目したいと思います。普及台数が多いAndroid OSは、ユーザーが利用するOSのバージョンが多様化しており、Googleが最新版のOSと同時に新サービスを発表しても、ユーザーの多くが使っていない現状があります。

このため、Googleが自社のハードウェアを普及させることで、提供するサービスとの最適化が進み、これまで以上に新たなサービスや機能の追加を積極的に行う可能性があると考えています。

Adobeによる「Adobe Photoshop on the iPad」の紹介動画

2019年には、AppleのiPad上でフルバージョンのAdobe Photoshopがリリースされる予定です。新たにコードを書き直して高速化を実現しているほか、タッチ操作とペンが使えることで、特定の分野ではPCより効率的な作業が行えそうです。これまでAdobeのアプリは、あくまでPC版の機能限定版という形でしたが、タブレットやスマートフォンのハードウェア性能が向上したことで、アプリでもPCと同じものというスタンスへと変わる年になりそうです。

Adobeと言えば、⁠次の成長の柱⁠と宣言している「マーケティングにおけるAIの活用」が、いよいよ本格化してきそうです。2018年には、約1,600億円でeコマースプラットフォームの「Magento Commerce⁠⁠、約5,000億円でB2B企業向けマーケティングの「Marketo」を買収しています。2019年3月下旬には「Adobe Summit」というデジタルマーケティングに関する大型イベントも控えていますので、イベント開催期間中に何かしらの大きな発表があるのではないかと予測しています。

図7 Microsoftが発表した、手書きの図形や文字をHTMLへと自動変換する技術「Sketch2Code」
図7 Microsoftが発表した、手書きの図形や文字をHTMLへと自動変換する技術「Sketch2Code」

Microsoftが昨年発表したSketch2Codeは、手書きでスケッチした図形や文字を判別し、HTMLへと自動変換する技術です。現時点では実際の制作に使えるレベルには程遠いのですが、実現すれば、ツールで制作したUIをそのまま実装へと結び付けられる可能性を秘めており、今までの「デザインまで」から、⁠デザインから実装まで」へと、領域が大きく変わる可能性を秘めています。手書きよりも判別しやすく、構造的にも視覚的に整っているUIツールとの組み合わせで、コードへの自動変換機能が登場する可能性もあるでしょう。

「音声操作」で注目が高まっているスマートスピーカーですが、日本国内の普及率は5%程度と言われています。さらなる普及拡大のためには、爆発的な拡大を進めるコンテンツやサービスが必要となるでしょう。

図8 音声コンテンツを配信しているサービスの一つ、音声放送プラットフォーム「Voicy」
図8 音声コンテンツを配信しているサービスの一つ、音声放送プラットフォーム「Voicy」

そうした中で注目されているのが「音声コンテンツ」です。PCやスマホ、スマートスピーカーによって、通勤時間や手を動かしながらの作業中など、場所や時間を気にせず有名人のトークや最新ニュースが聞けるというメリットがあり、日本でも音声メディアのVoicyや書籍要約サービスflier音声版、AmazonのAmazon Audibleが注目されています。こうした音声コンテンツが広がるだけでなく、更にサービスが進み、利用するユーザーに合わせて、スマートスピーカー側から自動で的確なコンテンツが供給されるようになるのも時間の問題でしょう。

中国のRoyoleによる、世界初の折りたためるスマートフォン「FlexPai」の紹介動画

その他にも、中国のRoyoleによる「世界初の画面が折りたためるスマートフォン」の登場(2019年にはHuaweiやSamsungなどのメーカーから同様の製品が登場してくる予定)による影響や、拡大を続けるAmazonが次に狙っていると言われている広告事業の展開にも注目していきたいです。

というわけで、2019年も非常に楽しみな、ワクワクするような動きのある一年になりそうです。今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

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