いつもの通り道に咲く金木犀の匂いと、朝晩の冷え込みに、秋の到来を感じている今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいウェブサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
お好きなNikeのシューズを、好きなだけ
世界的なスポーツ関連用品メーカーであるNikeが開始した、子ども向けシューズの定期購入サービス「Nike Adventure Club」のウェブサイトです。
「Nike Adventure Club」は、靴のサイズが10cmから24cmまでの子供たち、または2歳から10歳までの子供たちに対するサービスで、支払う月額料金に応じて、NikeとConverseのシューズを自由に選んで購入できる仕組みです。料金体系は月額20ドル(90日ごとに1足)、月額30ドル(60日ごとに1足)、毎月50ドル(毎月1足)の3種類が用意され、選べる靴のタイプも100種類以上用意されています。
また、購入した靴に親が子どもと遊べるゲームなどを紹介する「アクティビティーガイド」が付属されたり、履かなくなった靴を返送するとリサイクルに回されたりする工夫もされています。
子供の靴は、成長に合わせて、次から次へと買い替えが必要です。「靴購入のコストを抑えたい」と思う親にとっては、かなり魅力的なサービスと言えるでしょう。また、サービスを提供するNikeにとっても、子供の時から自社の靴に馴染んでもらうことで、将来の顧客となるための接触を増やせるメリットもあります。
事実、Nikeの子供靴の売上は、2018年に11%も成長しています。2017年からテストしてきた「Easy Kicks」と呼ばれる同様のプログラムでは1万人の会員を獲得しており、今回「Nike Adventure Club」へとサービスを統合することで、さらなる子供靴の売上強化を図っています。
サブスクリプションサービスの目指すもの
ソフトウェアやサービスを中心に行われていたサブスクリプションモデルですが、最近では、もともとデジタルではないサービスをサブスクリプション化する事例が増えており、さまざまな業界に広がりを見せています。
世界最大の一般消費財メーカーであるP&Gが始めた、洗濯のサブスクリプションサービス「Tide Cleaners」もその一例です。「Tide Cleaners」は、ユーザーがアプリから料金を支払って、洗濯物を指定された店舗やロッカーなどに収納します。回収された洗濯物の洗濯が完了すればアプリに通知が届き、ユーザーは洗濯された服を受け取るという仕組みです。
こうしたサブスクリプションサービスの成功は、“いかに顧客を維持できるか”にかかっています。企業側は、自社サービスのデジタル化だけでなく、ユーザーのデータ獲得を進めることで、さまざまなオプションや個人データに応じた施策(頻繁にユーザーが利用するサービスの割引など)を行い、ユーザーとの結びつきを深めることで、持続的な顧客の維持を図ろ
うとしています。
サブスクリプションサービスの支払い対象も、商品の購入からサービスの利用、物品の消費へと拡大し続けています。進化と変化を続けるサブスクリプションサービスですが、サービスを接点としたユーザーと企業の関係性についても、興味深く見守っていきたいと思います。
力を尽くす者たちに、経済的支援を
オープンソースソフトウェアの作成に携わる開発者を支援できる「GitHub」の新機能、「GitHub Sponsors」のウェブサイトです。
「GitHub Sponsors」は、「GitHub」内からオープンソースの開発者に寄付できる機能です。開発者のプロフィールにある「Sponsor」ボタンから、毎月定期的に寄付する金額を設定できます。寄付を行った支援者には、金額に応じて、開発者からのさまざまなサービスが提供される仕組みです。
まだベータ版ということで、一部の開発者にのみ機能が開放されていますが、開始から1年間は、寄付金の支払手数料が無料で、寄付された金額すべてが開発者へと渡されます。
開発者への“明確な報酬”とは何か
開発者にとって、励ましや感謝のコメントが継続的な開発の力となる場合もあるでしょう。ただし個人的には、開発の継続には、開発に対する“明確な報酬が得られること”が非常に重要だと考えます。
“明確な報酬”をどのような形で開発者に届けるのか。過去にもさまざまな方法が試行錯誤されてきました。近年では、継続的に料金を支払うメンバーとなることで特典を得られるといった「メンバーシップ制度」を導入することで、様々なクリエイターが安定的な収入を得るケースも増えてきました。
「メンバーシップ制度」を導入している代表的サービスの一つが「Patreon」です。「GitHub Sponsors」の仕組みと似ていますが、月額の支援によって、クリエイターの収入安定と計画的なビジネスの運営が可能になるというメリットが生まれています。
さらに、導入は容易なものの不安定な広告収入とは異なり、継続的で予測できる収入源が確保できることから、クリエイターが創作活動に安心して打ち込める環境づくりにも一役買っています。
何もないところから、突然、便利なものが生まれてくることはありません。必ず、開発者の存在があり、さらに時間とモノ(開発環境や機材)と人の動きがあることが前提です。“明確な報酬”という新しい支援の登場によって、開発者が継続的な活動を行うため環境が整い、新たなビジネスだけでなく、さらなるイノベーションへと可能性が広がることを期待したいと思います。
25年ぶりに復活した、伝説のミュージックビデオ
アメリカの非営利団体であるNCMEC(National Center for Missing & Exploited Children:全米行方不明・被搾取児童センター)によって制作されたウェブサイト、『Runaway Train25』です。
『Runaway Train 25』では、Jamie N Commons、Skylar Grey、Gallantらのアーティストと協力してリミックスされた、Soul Asylumの楽曲「Runaway Train」が視聴できます。リミックスされた「Runaway Train」のミュージックビデオ内では、現在行方不明となっている子供たちの情報が流されます。
またウェブサイトでは、アクセスしてきたユーザーの位置情報を利用して、ユーザーの近くで行方不明となっている子供たちに関する情報が提供される仕組みになっています。
いつの時代も、“拡散力のあるメディア”が利用される
1993年、Soul Asylumが発表した「Runaway Train」のミュージックビデオは、世間に大きな衝撃を与えました。ただ楽曲が流れるだけでなく、ミュージックビデオ内で実際に行方不明になっている子供たちの情報が次々と映し出され、彼らの情報を募るという斬新な構成だったからです。
「Runaway Train」のミュージックビデオの最後では、「行方不明の子供たちの誰かを見た場合、もしくはあなた自身が行方不明者だった場合、この電話番号に連絡してください」と呼びかけました。
Soul Asylumの場合、テレビを中心にこのミュージックビデオが流されました。当時、“最も拡散力のあるメディア”と言えばテレビのことであり、アメリカ以外の地で放送された場合には、その地域の行方不明の子供たちの情報に置き換えられるなどの工夫もされました。
最終的には、ビデオ内に登場した36人のうち21人が無事に発見され、家族と再会するという結果をもたらしました。
それから25年後の現在、“より拡散力のあるメディア”を使った、新たな方法も登場しています。
サッカーのイタリア・セリエAに所属するASローマは、クラブが新たに獲得した選手の発表を行うたびに、公式のSNSを通じて、現在行方不明となっている子供たちを紹介するビデオを投稿しています。こちらも、前述したNCMECとイタリアの非営利団体Telefono Azzurroとの協同で行われているプロジェクトです。
多くの人が目にする可能性のあるメディアに、さまざまな情報が提供されていくことは、どの時代も同じです。ならば、人々が長時間接触しているSNSが、その役割を今こそ果たすときなのです。
多少の問題もありますが、情報を幅広く拡散する機能を持つメディアとして、今後も様々な事例を生みだしながら、SNSは積極的に活用されていくのでしょう。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。