散歩をすれば鈴虫の鳴き声が聞こえ、朝晩の肌寒さに布団に厚めの毛布を追加した今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいウェブサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
無観客でも、いつもと同じライブ
デビューから42周年の記念日にあたる2020年6月25日に開催された、サザンオールスターズの無観客配信ライブ「Keep Smilin’ ~皆さん、ありがとうございます!!~」のウェブサイトです。
図1 デビュー42周年の記念日に開催された、サザンオールスターズの無観客配信ライブ「Keep Smilin’ ~皆さん、ありがとうございます!!~」のウェブサイト
新型コロナウイルス感染拡大の影響で通常のライブ開催が難しい中、2時間で22曲が演奏されたバンド史上初の無観客オンライン配信ライブは、400人を超えるスタッフと40台のカメラが使用され、有料視聴可能なライブとして8つのメディアで同時配信が行われました。
主催者側の発表によれば、3,600円のチケットを購入した人が約18万人、TVなどを通じて視聴した人は約50万人と推計されるということです。この無観客ライブの収益の一部は、新型コロナウイルス感染症の治療や研究開発のために募金されます。
横浜アリーナの最大収容人数は1万7,000人です。昨年、横浜アリーナで開催された「LIVE TOUR 2019」のチケット代は一人9,500円ですから、満員で約1億6,000万円の売上です。今回の無観客ライブは、チケット代が一人3,600円かつ18万人の購入ということで、総売上は約6億4,800万円となり、昨年と比較すると約4倍の収入となります。
コロナの制限から生まれる、新しいクリエイティブ
新型コロナウイルスの感染が拡大することで、様々な業界が影響を受けてきました。特に旅行業界や航空業界、そしてエンターテインメント業界は、人と人との接触が避けられないことから大きな影響が出ています。
近年、アーティストの主な収入源は、ライブ活動となっています。ライブのチケットや公演のグッズ販売などから得た収入で楽曲を制作し、新たな楽曲を基盤とした全国ツアーを開催するというサイクルが活動の基本となるだけに、コロナ禍によるライブ活動の停止は大きな痛手となりました。
それでも、“ アーティストのみで活動が完結する” のであれば、まだ影響は少なくて済みました。しかし、アーティストの活動は多くのスタッフや関係者に支えられています。このためエンターテインメント業界では、アーティストの活動に携わる関係者全員が、コロナ禍以前の生活を継続できる方法を模索しています。
図2 多くのアーティストが初のオンライン無観客ライブを開催(左上から、B'z、Little Glee Monster、BUCK-TICK、back number、Official髭男dism、松田聖子)
最も多い事例は、新型コロナウイルスの感染拡大前と同じように、会場を使ったライブを開催することです。会場内に観客を入れることは難しいため、無観客でライブを行って、その様子をオンラインで配信します。上記で紹介したサザンオールスターズの場合もですが、無観客のライブであってもパフォーマンスの規模は変えないアーティストが多いようです。
ステージを囲む360度の巨大ビジョンを使った演出を行った、長渕剛のオンライン無観客ライブ。ライブ中に画面の向こう側のファンとのやり取りもあった
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コロナ禍であることを逆手に取って、大胆に誰もいない屋外を使って開催されたGLAYのフリーライブ
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こうした状況下で、新たな取り組みも始まっています。オンライン配信が前提であるため、会場の映像を後加工して配信したり、視聴者の参加や複数視点からの映像が選べたりと、今までにない形式のライブパフォーマンスに挑戦するアーティストも登場しています。
経済への影響が非常に大きいため、今後も新型コロナウイルスの感染者数と経済回復のバランスを見極めながら、人々が集まるイベントが再開されます。各種イベントが以前と同じように再開されたとき、そこにはコロナ禍から考え出されたアイデアが加えられたイベントやエンターテインメントが登場してくるはずです。その中から、コロナウイルス後のスタンダードとなる、新たな事例が生まれるかもしれません。
コロナ禍でも、安心して受け取れます
新型コロナウイルス感染拡大を避けるため、ドミノ・ピザが商品の受け取り時に行っている受け取り方法を説明したウェブサイト、『 ドミノ・ピザの選べる受け取り方法』です。
図3 人と人との接触を回避するための商品受け取りサービスを紹介する『ドミノ・ピザの選べる受け取り方法』のウェブサイト
ウェブサイトでは、2020年3月からサービスを開始した「あんしん受取サービス」( 商品を受け取る際に、至近距離での人と人との接触を回避する)など、新型コロナウイルスの感染リスクを低減する、さまざまな受取サービスを説明しています。
8月には、車から降りずに商品を受け取れる「スマートドライブスルー」( 店舗からの持ち帰り時に、店舗スタッフが車まで商品を届けてくれる) 、配達員と対面せずにデリバリーの商品を受け取れる「Drop&Go」( ドライバーが使い捨ての箱の上にピザを置いて立ち去る置き配)のサービスが追加されました。
コロナ禍が、サービスの本質にフォーカスさせる
新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、宅配される商品の受取方法にも大きな変化がありました。
昨年の消費税増税前の駆け込み需要から、宅配業界では「配送時の手続き簡略化」「 再配送回数の減少」を実現するため、配達員が荷物を手渡しせずに指定された場所に置く「置き配」と呼ばれるサービスを始めました。そのためコロナ禍でも、状況に応じた配送体制へと素早く移行できました。
図4 日本郵便の「置き配」サービスを説明したページ
食品配達の場合は、少し状況が異なってきます。配達する商品の種類によっては、すぐに冷蔵・冷凍が必要なものや配送完了時間が決まっているものもあります。食品の品質を確保するためには、特別な装置の付いていない宅配ボックスの利用も難しいでしょう。こうした事情があるため、従来の宅配業界とは異なる形で、確実に依頼主に商品を渡さなければなりません。
「あんしん受取サービス」のデリバリーの場合を説明した動画
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「あんしん受取サービス」の持ち帰りの場合を説明した動画
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そこで考え出されたのが、今回紹介したドミノ・ピザのサービスです。配達員の直接の手渡しを避け、人と人との接触を最小限にする配達で、顧客は安心して商品を受け取れます。
「置き配」の場合は、配達時間も短縮され、より効率的に配達できるという利点も生んでいます。
新型コロナウイルスの感染防止策として追加されたサービスですが、顧客側と配送側の双方にメリットがあることから、感染の拡大が収束後も継続される可能性が高いです。感染防止への対応を通じて、配送の本質にフォーカスしながら、これからも便利で効率的なサービスへと変化し続けるのでしょう。
話すときは、すべてビデオ会議で
新型コロナウイルスの感染拡大によって、急速に利用が拡大しているオンラインビデオ会議サービス、「 Zoom」のウェブサイトです。
図5 オンラインビデオ会議サービス「Zoom」のウェブサイト
Zoomは、複数のユーザーが同時参加できるビデオ会議を実現するサービスです。インターネットを利用して、ユーザーはどこからでも会議に参加できます。テレワークが推奨されている現在、新入社員向けの研修やオンラインセミナーや営業活動など、ビジネスにおいて必要不可欠のサービスとなりつつあります。
スマートフォンやPCなどのデバイスで利用できること、アプリをインストールしなくてもブラウザから会議に参加できることなど、利便性の高さや利用開始時の学習コストが少ないのも魅力でしょう。
Zoomが急拡大した理由
Zoomは2011年に創業した会社で、新型コロナウイルスの感染拡大前から存在したサービスです。にもかかわらず、どうして今回、利用者が急速に拡大したのでしょうか。
多数の拠点を持つ企業では、以前から遠隔地の支店同士の打ち合わせなどにテレビ会議が利用されていました。ただ日本では、打ち合わせや営業活動が基本的に対面で行われることが多く、極端な遠距離や非常時以外には利用されていなかったのが現実です。
この状況は、コロナウイルスの感染拡大によって大きく様変わりしました。コロナ禍によって“ 人と人との接触を制限” され、強制的に人と接触せずに打ち合わせする必要に迫られたからです。
特に従来の対面での営業活動で重要視されていた、“ 相手の反応を伺う” という部分を解決する方法が求められました。文字や音声だけでは相手の様子を確認できないため、リアルタイムの映像が必要となった結果、Zoomのようなビデオ会議サービスが選ばれました。
操作の手軽さも、利用者が拡大した理由の一つでしょう。緊急時のため、企業では学習コストが少なく、誰でもすぐ始められるサービスが必要でした。ITの利用に詳しくない顧客の場合でも、メールなどに貼られたリンク先をクリックするだけでビデオ会議に参加できるZoomの仕組みは大きなメリットでした。
企業側が求める機能のアップデートが非常に早かったことも挙げられます。もともとZoomは「ネット回線が遅くても、音声が遅延しにくい」という他社にない技術が売りのサービスです。今回のアップデートや機能追加の素早さでも、サービスの基盤となる技術力の高さが活用されたのではないでしょうか。
図6 利用者が急増した「Zoom」を提供するZoom Video Communicationsの株価は、年初来から約7倍に
事業の急拡大でセキュリティー面の甘さなども露呈したものの、その後は大きなトラブルもなく、Zoomは利用者が急増しました。当然、利用者数に応じて売り上げも増加し、株価も年初来から約7倍へと急成長しています。
この急成長を受け、Microsoftの「Microsoft Teams」やGoogleの「Google Meet」などのサービスも機能の大幅なアップデートが行われるなど、これまで後回しの対応になっていたビデオ会議サービスへの投資を優先していることが伺えます。
図7 「 Zoom」の成功を受け、サービスの機能を大幅に向上させている各種ビデオ会議サービス(左上から「Microsoft Teams」「 Google Meet」「 Cisco WebexMeetings」「 Whereby」 )
ビデオ会議が普及することで、会議や営業方法の変化、オンライン学習やイベントやセミナーの開催など、使い方次第では以前より効率的に結果が出せることが明確になってきました。業務の一部をテレワークにすることで、都心のオフィス契約を解約する企業も出ています。
今後コロナ禍が終息した場合、企業が以前と全く同じ仕組みに戻すのか、それとも新たなやり方へとシフトしていくのか。今後のビジネスの基盤を大きく変える影響力を持ち始めた、ビデオ会議サービスの進化に注目していきたいと思います。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。