朝晩の気温もいよいよ10度を下回り始め、温かい飲み物や食べ物が染み入るように美味しく感じられる今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいウェブサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
アプリストアは、もっと公平であるべき
Appleの「App Store」やGoogleの「Google Play」におけるアプリ配信の公平性を実現することを目的に結成された非営利組織、「 Coalition for App Fairness(アプリストアにおける公平性を実現するための連合) 」のウェブサイトです。
図1 アプリ配信の公平性を実現することを目的に結成された「Coalition for App Fairness」のウェブサイト
ウェブサイトには、大きな文字で「EVERY DAY, APPLE TAXES CONSUMERS & CRUSHES INNOVATION(毎日、アップルは消費者に税金を課して、イノベーションを潰しています)と表示されています。
文章の通り、「 Coalition for App Fairness」は、Appleの「App Store」やGoogleの「Google Play」における手数料や配布・管理方法などのガイドラインに対して、消費者の自由な選択や、より公平な開発者環境を構築することを目指しています。
アプリストアの手数料30%は、適切なのか
図2 「 Coalition for App Fairness」に賛同しているアプリメーカー。40を超えるスタートアップや人気アプリを提供する企業の名前が並ぶ
アメリカのEpic Games、スウェーデンのSpotifyなど、Appleの「App Store」のガイドラインに不満を持つ複数のアプリメーカーが参加する「Coalition for App Fairness」設立のきっかけは、AppleとEpic Gamesとの間に起きた、モバイル版ゲーム「Fortnite」の手数料問題でしょう。
2020年8月13日、Epic Gamesは自社が提供するモバイル版「Fortnite」のゲーム内通貨について、自社の販売プラットフォーム「Epic Games Store」から直接購入すれば20%安くなることを発表して、ゲーム内から直接購入が可能になるようにアップデートを行います。「 Fortnite」が配信されている「App Store」のガイドラインでは、ユーザーがゲーム内のアイテムを購入する場合、Appleが販売手数料として金額の30%を得る規則になっており、アプリメーカーが独自の決済方法を導入することは許されていません。
このため、翌日の8月14日には、Appleが「ガイドラインの違反」を理由に「App Store」から「Fortnite」を削除します。このためiOS版「Fortnite」の新規ダウンロードは停止され、インストール済みのユーザーも、ゲームのアップデートが不可能になりました。
Epic Gamesはその直後、「 App Store」とその支払い方法が反トラスト法(独占禁止法)違反であるとして訴訟を起こします。さらにAppleやGoogleによるアプリストアに対する反競争的な制限を撤廃するための「#FreeFortnite」キャンペーンを開始して、事前に用意されたと思われる「App Store」の独占に異議を唱える動画「Nineteen Eighty-Fortnite - #FreeFortnite」を公開しました。
「App Store」に異議を唱えるため、AppleのCM「1984」を元に制作・公開されたEpic Gamesの動画「Nineteen Eighty-Fortnite - #FreeFortnite」
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訴状の中でEpic Gamesは、ユーザーに不利益があるほど「App Store」の30%の手数料は高すぎること、「 App Store」ではユーザーから料金を受け取る別の方法を強制的に排除していることの2点を挙げて、反トラスト法に違反すると主張しています。
Epic Gamesの主張に対して、Appleは「App Store」を使えば、全世界にアプリが配信可能で最低限の品質管理がされることや、アプリの審査によってマルウエアなどの有害なアプリから守り、ユーザーが安全にアプリをダウンロードできるメリットがあると反論しています。7月に開かれたアメリカ下院の公聴会でも、AppleのCEOであるTim Cookが「手数料は競合他社と比べても同等かそれ以下である」「 2008年から手数料は一度も値上げしていない」と発言しています。
図3 Appleの「Apple Pay」「 App Store」を対象に、競争法違反の調査を開始することを発表した欧州委員会のプレスリリース
Appleの手数料については、音楽配信サービスのSpotifyなどが苦情を申し立てたため、EU(欧州連合)の欧州委員会でも本格的な調査を始めています。「 Coalition for App Fairness」が設立されたように、特に大手のアプリメーカーは手数料に強い不満があり、今後、世界各地で同様の申し立てや訴訟が始まる可能性は否定できません。
図4 中小事業者の有料アプリ開発者の配信手数料を、半額にすることを伝えるAppleのプレスリリース
そうした流れの中、Appleは11月18日、中小事業者(2020年のアプリ販売額合計が100万ドル以下)の有料アプリ開発者の配信手数料を、「 2021年1月から現在の半額である15%にする」と発表しました。この結果、Appleのアプリ開発者として登録している約2,800万社の大部分が恩恵を受けることになります。ただし、手数料収入の大部分を占める大企業ではなく、ほんの一部を占める中小規模の開発者の手数料軽減にとどまった点は、自社への批判を抑える狙いがあるとの意見もあります。
アメリカ連邦地裁で行われた直近の裁判では、Appleが「App Store」の規約に則って「Fortnite」を削除した措置を維持し、「 手数料も業界標準である」という、若干Apple側に有利な判断が示されました。また本格的な審議は来年になることで、当面は「App Store」から「Fortnite」はダウンロードできません。
膨大なユーザー数と知名度を誇る「Fortnite」の売上をさらに強化したいEpic Gamesと、ハードウエアからサービスへとビジネスモデルの中心を移しつつあるAppleにとって、この裁判は絶対に譲れないものとなるでしょう。個人的には、アプリを利用するユーザーに負担の少ない結果となることを期待しながら、来年5月にも開始される本格的な審議の内容に注目したいと思います。
モバイルデバイスでも、PDFを読みやすく
「Adobe Acrobat Reader for PDF」モバイルアプリに新しく追加される「Liquid Mode」機能を紹介したAdobe Blogのエントリー、「 Adobe unveils ambitious multi-year vision for PDF: Introduces Liquid Mode(アドビがリキッドモードを導入したPDFの複数年の野心的なビジョンを発表) 」です。
図5 「 Adobe Acrobat Reader for PDF」モバイルアプリに追加される「Liquid Mode」機能の紹介と、今後数年間のビジョンを説明したAdobe Blogのエントリー
「Liquid Mode」は、「 Adobe Acrobat Reader for PDF」モバイルアプリの画面上にあるボタンを押すことで、文章内のテキストや画像などのレイアウトが自動的に最適化され、モバイルデバイスなどの小さな画面でも見やすくなるように再配置する機能です。
「Adobe Acrobat Reader for PDF」モバイルアプリに追加された「Liquid Mode」機能を紹介する動画
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AdobeのAIエンジンである「Adobe Sensei」がPDFの内容を理解することで、最適なレイアウトへと変換します。「 Liquid Mode」で変換した後も、ユーザー側で文字サイズや行間の調整が可能です。
「Liquid Mode」は、まずiOSとAndroid向けの「Adobe Acrobat Reader for PDF」モバイルアプリに対応(日本語への対応は2021年以降)し、最終的にデスクトップのアプリとブラウザにも対応します。
時代の流れにサービスが対応するということ
現在、新型コロナウイルスの影響でテレワークを行う会社が増えています。社員全員が同じ環境下で仕事をすることが難しいため、各社員の使用するデバイス環境も異なります。このため、どんなデバイスでも使用感の変わらない、使いやすいサービスや製品が求められるようになりました。
特にスマートフォンは、誰もが手軽に持ち運べるモバイルデバイスで、すでに1人一台のレベルにまで普及しています。当然のことながら、スマートフォン上でPDFを見る機会も増えています。最近では、PDFに電子署名を行う機会も増えました。
これまでのPDFは、モバイルデバイスで閲覧する場合、拡大・縮小を頻繁に行わなければならず、文書全体を把握するのは苦痛でした。新機能の「Liquid Mode」を利用すれば、文章自体が読みやすくなるだけでなく、その内容にも集中できる環境が整います。
PDF(Portable Document Format)の歴史を振り返ると、もともとは紙の書類のデジタル化と閲覧・印刷を目的として誕生しています。誕生当時の閲覧対象デバイスはPCで、現在主流であるモバイルデバイスは、もちろん存在しませんでした。
どんなに有名で広く利用されているサービスであっても、時代の変化に対応できなければ、そのまま埋もれていきます。モバイルデバイスが普及し、PDFの誕生からすでに18年が経過しました。ウェブサイトが固定デザインからレスポンシブウェブデザインへと変化したように、PDFに「Liquid Mode」が追加されるのは必然だったと言えるでしょう。
完全自動運転を実現する技術たち
電気自動車を製造・販売しているアメリカの自動車会社、Teslaのドライバー支援技術「Autopilot」に関する情報をまとめたウェブサイトです。
図6 Teslaの自動運転機能に関する情報をまとめた「Autopilot」
ウェブサイトでは「Autopilot」で自動的に行われる「ハンドル操作」「 加速とブレーキ」を実行するTeslaの乗用車に搭載されたセンサーやカメラの仕組み、ドライバーの立っている位置に自動で車を呼び出す「Smart Summon」などの機能について解説しています。
「Full Self-Driving Capability(完全な自動運転の機能) 」の項目では、将来利用可能となる「完全自動運転機能」を提供するために、Teslaの自動車に各種ハードウェアが標準で装備されていること、ソフトウェアのアップデートだけで最新機能が追加されることが説明されています。
近づきつつある、完全自動運転車の時代
今年10月、Teslaのドライバー支援技術「Autopilot」を補完するオプションとして販売されていた「FSD(Full Self-Driving)bata」の配信が、一部のオーナーに対して開始されました。
「FSD bata」は、現在Teslaの乗用車に搭載されている「Autopilot」機能(同じ車線内でハンドル操作、加速とブレーキを自動的に行う)に、車間距離の維持、車線維持と変更、道路標識や停止線の認識、自動駐車などの機能を加えて、一般道を走行できるように統合したものです。このアップデートが適用されたTeslaの自動車で一般道を走行する動画が、YouTubeなどに投稿されています。
「FSD bata」を適用したTesla車による、カリフォルニア州サンタクラルティアからパサデナまでの約30分のドライブの様子
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投稿された動画の内容は、「 FSD beta」を適用したオーナーが設定ルートを走行する様子や、どのように周囲の状況を判断しながら自動運転しているかを表示する車内ディスプレイを撮影したものが多いです。
「FSD bata」を適用したTesla車による、夜間ドライブの様子
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天候の良い日中では、ドライバーの介入が必要な場面はほぼありません。夜間の運転でも、「 FSD beta」が周囲の環境を認識しながら自動運転を行う様子が確認できます。こうした動画からは、一般道における自動運転車の走行時期が近づいていることを感じさせます。
ただし、「 Full Self-Driving(完全自動運転) 」と名付けられているものの、「 FSD bata」はSAE International(米国自動車技術者協会)によって定義されている自動運転の形態で示されたレベル4(高度運転自動化) 、またはレベル5(完全運転自動化)に相当する要件を満たしていません。
図7 SAE International(米国自動車技術者協会)が定義する自動運転の形態。レベル4以降の運転責任(上記図の上から2番目の項目)は完全にシステム側に移行する
(https://www.sae.org/news/2019/01/sae-updates-j3016-automated-driving-graphic より引用)
現在、自動運転の形態においては、緊急時にドライバーの操作引き継ぎが必要不可欠で運転責任が問われるレベル3(条件付運転自動化)と、全ての状況の責任がシステム側に委ねられるレベル4以降の間に大きな違いがあります。
そのため、物流やタクシーなどの自動運転サービス会社は、「 ドライバー不要」で「システムが全責任を負う」レベル4以降の自動運転を目指しています。また多くの自動車メーカーは、現状の法整備と緊急時の責任問題から、現状では「ドライバーの同乗が必要不可欠」で「状況に応じてドライバーが操作を引き継ぐ」レベル3の自動運転を目指しています。
今回リリースされた「FSD beta」は、免責条項として「最悪の場合、誤作動する可能性があること」「 ドライバー自身が車を監視する必要や責任があること」が述べられていることから、レベル3相当の自動運転ということになります。
以前、TeslaのCEOであるElon Muskは「完全自動運転機能が2019年末までに完成し、2020年末までには、駐車場から目的地までクルマで移動する間、運転席で居眠りできるようになる」という発言をしています。したがって、実際には“ レベル4以降の完全自動運転を目指して「FSD」の開発を進めている” と考えられます。そして現状を見る限り、その進歩状況は、ほぼスケジュール通りに進められているようです。
日本でもホンダが世界初となるレベル3自動運転車の型式指定を取得したり、特定地域内での商業自動運転サービスが各地で試験運転を行ったりと、“ 100年に一度の変革期” と言われる自動運転に対する業界の動きが活発化しています。数年後には、私達が気づくこともなく、多くの自動運転車が街の中を自由に走行している時代になるのかもしれません。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。