いま、見ておきたいウェブサイト

第167回The Super League、Yamauchi No.10 Family Office、宏光MINI EV

全国的にジメジメとしてくるにつれ、晴れの日のありがたさを感じる今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいウェブサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。

儚く散った、夢の大会

The Super League

2021年4月18日に12のビッグクラブの合意によって創設が発表された、ヨーロッパのフットボールクラブによる大会「European Super League」の公式ウェブサイト、⁠The Super League』です。

図1 12のビッグクラブによる合意が発表された「European Super League」の公式ウェブサイト
図1 12のビッグクラブによる合意が発表された「European Super League」の公式ウェブサイト

「THE BEST CLUBS. THE BEST PLAYERS. EVERY WEEK.」と名付けられた大会概要によれば、⁠European Super League」には、ヨーロッパの4大フットボールリーグに所属する20クラブが参加し、2つのグループに分けられたクラブが平日開催でホームアンドアウェイ方式の試合を行います⁠。各グループの上位3チームとプレーオフの勝者2チームが準々決勝に進出し、最終的に2022年5月に一発勝負の決勝戦が行われます。

図2 大会概要に並ぶ「THE BEST CLUBS. THE BEST PLAYERS. EVERY WEEK.」のタグラインから、⁠European Super League」の自信が伺える
図2 大会概要に並ぶ「THE BEST CLUBS. THE BEST PLAYERS. EVERY WEEK.」のタグラインから、「European Super League」の自信が伺える

コロナ禍であぶり出された、クラブ経営の問題点

今回、UEFAに所属するビッククラブが「European Super League」設立へと合意した理由の1つが、新形コロナウイルス感染拡大による経営の悪化でしょう。クラブ自体が巨額の負債を抱えている中で、新型コロナウィルスの影響による無観客試合や放映権収入の激減により、ビッククラブといえども大きな経営的ダメージを受けています。

図3 ⁠European Super League」の発表を受け、急遽発表されたUEFAによる各サッカー協会との共同声明
図3 「European Super League」の発表を受け、急遽発表されたUEFAによる各サッカー協会との共同声明

「European Super League」の発表を受け、UEFA(欧州サッカー連盟)イングランド、スペイン、イタリアの各サッカー協会との共同声明を公式サイトで発表します。UEFAは、参加を表明したクラブが国内や欧州、世界レベルの大会に参加できなくなること、所属選手が代表チームでプレーできなくなる可能性を示唆しました。

事前に説明もなかった各クラブに所属する監督や選手たち、OBやサポーターからも、大会開催に対する抗議の声が挙がります。各方面からの猛烈な抗議によって、4月20日には参加予定だった6クラブ、4月21日には3クラブが相次いで撤退を表明しました。結果として「European Super League」に残存するクラブはわずか3クラブとなり、大会の開催は不可能となりました。

図4 Deloitte Touche Tohmatsuによるレポート「Deloitte Football Money League」によれば、2019から20年の収益上位20クラブの合計金額は82億ユーロで、前シーズンと比較して12%減少した
図4 Deloitte Touche Tohmatsuによるレポート「Deloitte Football Money League」によれば、2019から20年の収益上位20クラブの合計金額は82億ユーロで、前シーズンと比較して12%減少した
(グラフはDeloitte Football Money Leagueより引用)

「European Super League」が合意に至った理由の1つは、新形コロナウイルスの影響による経営悪化です。会計事務所Deloitte Touche Tohmatsuが毎年発表するフットボールクラブの財務実績レポートDeloitte Football Money Leagueによれば、2019年から2020年までの収益上位20クラブの合計金額は82億ユーロ(約1兆937億円)で、前シーズンと比較して12%(約1,467億円)も減少しました。

ビッククラブが収益にこだわる理由は、クラブの成り立ちにも関係があります。イングランド、スペイン、イタリアでは、クラブのオーナーが私財を投資しながらクラブの規模を拡大してきた歴史的経緯があります。経営の健全性を無視した補強や投資で、多くのビッククラブがいまだに莫大な負債を抱えており、その返済に当てる資金が必要不可欠なのです。

それ以外にも「UEFA主催試合の収益分配金条件の見直し」⁠各国内リーグでのクラブ間収益の差の拡大」⁠年間試合数の増加による選手の負荷増加と試合の質の確保」など、ヨーロッパのフットボール全体には課題が山積みです。今回の騒動をきっかけに、運営、クラブ、選手、サポーターのすべてに受け入れられる、新たな仕組みづくりを進めてほしいと願っています。

未来をつくる決意表明

Yamauchi No.10 Family Office

任天堂の創業家一族である山内家が立ち上げたファミリーオフィス「Yamauchi-No.10 Family Office」の公式ウェブサイト、⁠Yamauchi-No.10 Family Office』です。

図5 資産運用や投資活動を通じて社会貢献を行う、山内家のファミリーオフィス「Yamauchi-No.10 Family Office」の公式ウェブサイト
図5 資産運用や投資活動を通じて社会貢献を行う、山内家のファミリーオフィス「Yamauchi-No.10 Family Office」の公式ウェブサイト
credits:mount inc.

ウェブサイトはボクセル(立体物を表現する立方体の最小単位)を使って、任天堂の歴史的家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」時代を思い起こさせる立体的なドットで世界観を表現しています。

図6 ウェブサイトは立体的な空間で表現されており、斜めにスクロールする
図6 ウェブサイトは立体的な空間で表現されており、斜めにスクロールする

画面全体は立体的な空間で表現されており、斜めにスクロールしながら「Yamauchi-No.10 Family Office」の考えと遺産、理念が表示されます。アニメーションするキャラクターや建物などがスクロールをするたびに次々と登場し、その種類の多さに驚かされます。世界観を表現したBGMも用意されています。

ウェブサイト実装のための“こだわり”

『Yamauchi-No.10 Family Office』は公開直後から話題となり、ウェブサイトを制作したmounti incの公式Twitterの動画再生回数は、すでに20万回を超えています。

mounti incの公式Twitterによる『Yamauchi-No.10 Family Office』を紹介した動画

国内同様に海外でもこのウェブサイトへの評価は高く、デザインポータルサイトとして有名なAwwwardsFWACSS Design Awardsのすべてで受賞を果たしています。

mounti incの公式Twitterによる『Yamauchi-No.10 Family Office』制作に関する裏話。アニメーション付きのオブジェクトを実装するため、専用のモデリングツールと配置ツールを開発している

ウェブサイトを制作したmounti incの公式Twitterでは、制作に関する裏話もツイートされています。⁠Yamauchi-No.10 Family Office』に登場する274種類ものアニメーション付きのオブジェクトを実装するため、専用のモデリングツールと配置ツールを開発するというこだわりには、驚きを通り越して感動すら覚えます。

図7 ウェブサイト上の文章は、読みやすいレイアウトへと変更が可能
図7 ウェブサイト上の文章は、読みやすいレイアウトへと変更が可能

また斜めにスクロールするため、文章はやや見にくい表示となっていますが、画面左メニュー「View」のアイコンを切り替えて読みやすいレイアウトへと変更できます。一見、見た目重視のウェブサイトと考えてしまいますが、ユーザーへの配慮も細やかで、非常に素晴らしいです。

この連載でもウェブサイトだけを取り上げる事例は減っています。今回ウェブサイト自体をじっくりと楽しみながら、豊かな体験ができるウェブサイトを紹介できることは非常に嬉しいことです。⁠Yamauchi-No.10 Family Office』に影響を受け、こうした事例の紹介がまた増えてほしいと個人的に感じています。

中国小型EVの逆襲

宏光MINI EV_图片_配置_报价_五菱新能源官网【上汽通用五菱】

2020年7月24日に発売された、中国の上海汽車とアメリカのGMの合弁会社、上汽GM五菱による小型EV(電気自動車⁠⁠、⁠宏光MINI EV」のウェブサイトです。

図8 上汽GM五菱による小型EV「宏光MINI EV」のウェブサイト。⁠人民的代步车(人々のモビリティーカー)⁠のキャッチ通り、車両価格の安さが売りのEV
図8 上汽GM五菱による小型EV「宏光MINI EV」のウェブサイト。“人民的代步车(人々のモビリティーカー)”のキャッチ通り、車両価格の安さが売りのEV

「宏光MINI EV」は、2ドアで最大4人乗れる小型のEVです。車両の航続距離は120km、最高速度は時速105kmで、急速充電には対応していません。用意されているグレードのうち、最低グレード(空調は暖房のみ)が28,800元(約48万円⁠⁠、最高グレード(冷暖房付き、航続距離170km)でも38,800元(約65万円)という破格の車両価格です。

「宏光MINI EV」は、2020年だけで約12万台が販売されました。この驚異的な販売台数を実現した最大の理由は価格です。約48万円から購入可能な車両価格は非常に魅力的です。中国の北京卓思天成数据咨询股份有限公司によるユーザー調査では、ユーザーの税抜平均年収は15万元(約250万円)で20〜30代が7割以上という結果が出ており、若者を中心によく売れていることがわかります。

図9 2021年3月に販売開始された特別仕様車「宏光MINI EV Macaron⁠⁠。ターゲットとなる若者を意識したカラフルでポップな色を使っている
図9 2021年3月に販売開始された特別仕様車「宏光MINI EV Macaron」。ターゲットとなる若者を意識したカラフルでポップな色を使っている

短距離の移動用車両として徹底的にコストを抑えた点も見逃せません。他のEVと比較すれば、プラスチック製の簡素な内装やバッテリーの急速充電ができないこと、車両の航続距離の短さなどの欠点もありますが、通勤や家族の送迎、近所の買い物などの利用に割り切ったことで、⁠破格⁠とも言える車両価格の実現に成功しました。

EVにおけるバッテリーの重要性

中国では、2015年5月に発表された産業政策「中国製造2025」で、次世代情報技術や新エネルギー車など10の重点分野と23品目での製造業の高度化を進め、2049年には「世界の製造強国の先頭グループ入り」を目標としています。

EVについても「国内の新車販売台数に占める新エネルギー車の比率を2025年に20%前後にする」⁠EV重要部品の国産化比率を80%に引き上げる」という目標を掲げています。その結果、多くの電池メーカーが登場し、CATL(寧徳時代新能源科技)のような車載用電池で世界トップシェアを競う企業が生まれています。

図10 中国の車載用電池メーカー、CATL(寧徳時代新能源科技)のウェブサイト。CATLのバッテリーは、フォルクスワーゲンやBMW、トヨタなどの自動車メーカーが採用している
図10 中国の車載用電池メーカー、CATL(寧徳時代新能源科技)のウェブサイト。CATLのバッテリーは、フォルクスワーゲンやBMW、トヨタなどの自動車メーカーが採用している

「宏光MINI EV」では、中国の電池メーカーが製造するLFPバッテリー(リン酸鉄リチウムイオン電池)と呼ばれる低コストのバッテリーを採用することで、大幅な車両価格の低減を実現しています。

EVを構成する部品で、もっともコストのかかる部品が車載用電池です。車載用電池の材料は需要の増加で値上がりが続いています。このためEVを製造する各自動車メーカーは、電池の材料であるコバルト、ニッケルなどの希少金属の安定的確保だけでなく、バッテリーを安価に製造する大規模な施設の建造についても大規模な投資を進めています。

図11 Volkswagenの「Power Day」に関するプレスリリース。大規模なEVバッテリーの工場を6カ所建設して、バッテリー製造コストを大幅に削減する計画を発表した
図11 Volkswagenの「Power Day」に関するプレスリリース。大規模なEVバッテリーの工場を6カ所建設して、バッテリー製造コストを大幅に削減する計画を発表した

2021年3月15日、ドイツの自動車メーカーであるフォルクスワーゲンは「Power Day」と題したイベントを行い、EV向けバッテリーの工場を2030年までに6カ所建設することを発表しました。2023年からバッテリーを生産して、自社で製造するEVの最大80%に搭載するだけでなく、最終的にはエントリーモデルで最大50%、スタンダードモデルで最大30%のバッテリー製造コストを削減し、原材料の最大95%をリサイクルするという壮大な計画です。

電気自動車メーカーのTeslaは、世界最大のニッケル産出国であるインドネシア政府に、原料購入だけでなくバッテリーと蓄電システムの生産拠点を提案するなど、国家と直接交渉する事例も出てきました。

現在、中国の都市部では新エネルギー車以外のナンバー獲得が難しい(ガソリン車のナンバー取得には100万円程度の代金を支払うか、抽選で権利を獲得する必要がある)ため、EVへの強い需要は続くでしょう。2030年以降はヨーロッパ各国でも環境規制が厳しくなるため、世界的にEVの市場が拡大することは確実です。多くの自動車メーカーは、急速にEVへの対応を進めています。

図12 トヨタが発表した、急速充電可能で航続距離150kmの超小型EV「C+pod⁠⁠。現在は一般向けに販売されておらず、車両価格も約170万円とまだ高額
図12 トヨタが発表した、急速充電可能で航続距離150kmの超小型EV「C+pod」。現在は一般向けに販売されておらず、車両価格も約170万円とまだ高額

今年に入ってから、日本の各自動車メーカーがEVへの対応を発表しています。自動車メーカーと政府が一体となって、車両の価格や航続距離、充電インフラの整備など、ユーザーが日常的に利用する環境を整備することで、日本ではようやくEVの普及が進み始めるのでしょう。EVの爆発的な普及を推し進める、驚くような施策の登場を期待したいと思います。

というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。

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