いよいよ今年も終わりに近づき、寒さの中で新年を迎える準備に忙しくなってきた今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいウェブサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
世界初の自律走行トラック配送
2021年11月8日、スーパーマーケットチェーンのWalmartと自動運転技術パートナーであるGatikが発表した、世界初の自律走行トラックによる配送を映したYouTubeの動画、『 Gatik and Walmart Achieve Fully Driverless Deliveries in a Worldwide First(GatikとWalmartは世界初の完全無人運転を実現) 』です。
WalmartとGatikによる世界初の自律走行トラック配送の様子を映した『Gatik and Walmart Achieve Fully Driverless Deliveries in a Worldwide First』
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YouTubeで配信されている約2分半の動画では、アメリカのアーカンソー州ベントンビルで毎日行われている配送作業を映しています。運転席にセーフティドライバーが乗車していない自律走行トラックには、Walmartの物流拠点であるフルフィルメントセンターで商品が積み込まれ、「 Walmart Neighborhood Market」へと運ばれます。
フルフィルメントセンターから7マイル(約11キロメーター)先の店舗へと商品を運ぶこの作業は、2台の配送用トラックで1日に12回行われます。セーフティドライバーなしの自律走行トラックによる商業配送のルート運行の実現は、世界初の事例となります。
物流の自動運転化が生活を変える
WalmartはGatikと協力して、2019年からミドルマイル(決められた短距離で反復可能な配送ルート)の物流プロジェクトを始めました。当初は自律走行トラックに2人の運転手が乗っていましたが、アーカンソー州道路委員会の承認を得た現在では、運転席には誰も座っていません。
動画を見ると、「 ついに完全自動運転による商業配送が実現した」と感じてしまいます。実際には、緊急時に備えて助手席には人間が搭乗し、運行するトラックの後方を監視車が追尾しています。走行ルートも学校や病院のある場所から離れ、巻き込みの危険性が高い左折なしで配送する設定となっており、リスクを最小限に抑え、安全性が最優先されています。
オンライン注文から顧客が店舗で商品を受け取るまでの時間を、Walmartでは非常に短い時間(約1〜2時間)に設定しています。このため商品を受け取る店舗の近くにフルフィルメントセンターを設置するだけでなく、注文された商品を何度も店舗へと運ばなければなりません。
利益率の低い小売業において、改善したい課題のひとつが「配送業務に店員が時間を割くこと」です。自動運転車両を活用することで、店舗の従業員はオンラインで注文された商品のピッキングや梱包などの高度な業務を行えるようなり、利益への圧迫も減少します。
Walmartは今回紹介したGatikとの協業だけでなく、Cruise (アリゾナ州スコッツデールでの宅配) 、Nuro (テキサス州ヒューストンで食料品を宅配) 、Waymo (アリゾナ州フェニックスで店舗で商品をピックアップする顧客を送迎) 、Udelv (アリゾナ州フェニックスで商品の宅配)などの企業とともに、自動運転のプロジェクトを数多く進めています。
自動運転を基盤とするサービスとしては、人を目的地まで運ぶ自動運転タクシーを思い浮かべます。ですが、わたしたちの生活を大きく変える自動運転のサービスは、身近にあって気づかない配送業務から始まるのでしょう。2022年以降は物流業界の動きを追うことで、自動運転サービスの進展具合を知ることになりそうです。
あなたの欲しいコード、AIが自動生成します
ソースコードホスティングサービスのGitHubがテクニカルプレビュー版として開始した、AIを利用したコードの自動生成サービス「GitHub Copilot」を紹介したウェブサイト、『 GitHub Copilot ·Your AI pair programmer』です。
図1 GitHubが開始したコードの自動生成サービス「GitHub Copilot」を紹介する『GitHub Copilot · Your AI pair programmer』
「GitHub Copilot」は、ユーザーとペアプログラミングをするように、コードを自動生成してくれるサービスです。
エディター上でコードを書き始めると、ユーザーが書いたコメントやコードの文脈を読み取って、関数全体や不足しているコードを自動的に生成しながら提案します。提案できるコードが複数ある場合には、それらのコードを提示してユーザーが選択できるほか、生成されたコードをユーザーが編集した上で利用できます。
「GitHub Copilot」は、「 Visual Studio Code」「 GitHub Codespaces」「 Neovim」「 IntelliJ IDEA」の拡張機能として提供されています。現在は専用ページから登録することで、テクニカルプレビュー版の招待を受けられます。
人工知能が支援するプログラミングの本質とは
「GitHub Copilot」には、人工知能研究の非営利団体であるOpenAIの「OpenAI Codex」が搭載されています。「 OpenAI Codex」は、自然言語による指示をプログラムに変換するシステムで、GitHubで一般公開されているソースコードと自然言語で学習させたため、プログラミングの内容と人間の言語の両方を理解できます。
「OpenAI Codex」は、Pythonをもっとも得意としていますが、それ以外にもJavaScript、Go、Perl、PHP、Ruby、Swift、TypeScriptなど、12以上の言語に対応しています。
GitHubが開始したコードの自動生成サービス「GitHub Copilot」に利用されている自然言語をコードに翻訳するAI「OpenAI Codex」を紹介する動画
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さて、その「GitHub Copilot」の性能はどうでしょうか。Pythonの関数群に対しての性能測定(「 GitHub Copilot」に関数本体の空白部分を埋めてもらう)では、最初の試行で43%、10回試行すると57%の確率で正しい結果が得られるという結果を得ています。
この結果からも「GitHub Copilot」は、“ 完璧なコードを提示してくれる” サービスではありません。現時点では、時代に合わなくなった記述方法や古いライブラリの利用、動作しない質の低いコードが提案されることもあり、ユーザーによるテストやチェック、一定以上のプログラム言語に関する知識と経験は必要不可欠です。
こうした欠点があるものの、利用方法によっては、素早くプログラミングを進められるでしょう。プログラムの作成には、細分化されたロジックを考えた後に、動作するコードを記述する作業が発生します。このコードの記述作業を「GitHub Copilot」が素早く正確に、少ない労力で書けるよう手助けしてくれます。
事実「GitHub Copilot」を最大限活用するには、「 コードを小さな関数に分割」「 関数のパラメーターに意味のある名前を使う」「 ドキュメントやコメントをきちんと書く」ことがもっとも効果的であると説明されており、ロジック重視の考えに立っていることがわかります。
Copilotは、航空業界における副操縦士のことで、機長の補佐や業務の代行を行います。名前から考えれば、「 GitHub Copilot」はプログラミングの支援を目的として開発された機能と言えます。コードの記述作業からロジックの考察・検証へと費やす時間がシフトしていくことで、より質の高いプログラムと実装スピードの向上による恩恵を誰もが受けられるよう、これからの性能向上に期待したいです。
誰もが使えるデザインツール
Adobeが提供を開始した、“ 誰もが創作活動を行えるようにするための新しいウェブ・モバイルアプリ” 、「 Adobe Creative Cloud Express」のウェブサイトです。
図2 Adobeが提供を開始したウェブ・モバイルアプリ「Adobe Creative Cloud Express」を紹介するウェブサイト
「Adobe Creative Cloud Express」は、デザインなどの特別な訓練を受けていないユーザーに向けた製品で、SNSに投稿する写真の編集や画像の作成、動画サイトで使うサムネイル画像の作成といった、簡単なデザイン作業を行うのに適したツールとなっています。ウェブサイトにformerly Adobe Spark(旧Adobe Spark)と追記されているように、これまで「Adobe Spark」と呼ばれて提供されていたウェブ・モバイルアプリのリブランドとなります。
簡単なデザインを行うツールではあるものの、Adobeが提供しているツールやサービスの機能を生かしたアプリとなっています。人物の背景をワンクリックで消したりエフェクトが追加できる「Photoshop」機能、簡単な動画の編集機能、SNSや動画のサムネイルなどの数千ものデザインテンプレート類やAdobe Stockの無料画像など、デザイン作業を行う上で最低限必要な機能や素材が初めから利用できます。
「Adobe Creative Cloud Express」の機能を紹介した動画
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基本無料で利用できる「Adobe Creative Cloud Express」ですが、月額1,078円(または年額10,978円)のプレミアム会員となることで、「 Adobe Photoshop Express」「 Adobe Premiere Rush」などのアプリケーションとの連携が可能になります。
今後も拡大する、一般ユーザー用のデザインツール
Adobeのデザインツールといえば、「 Photoshop」や「Illustrator」といったデザインのプロ向けアプリケーションが有名です。しかし近年、Adobeのクリエイティブツールである「Adobe Creative Cloud」の売上高の伸びが鈍化(直近の四半期決算では売上25億ドル、前年同期比19%増)しています。そのため、拡大の見込める企業や一般ユーザー向けデザインツールとして「Adobe Creative Cloud Express」を提供してきたと考えられます。
現在、多くの企業では、自社のオウンドメディアやSNSを使っての頻繁な情報発信が増えています。毎日閲覧している企業のSNSなども、タイムライン上で画像や動画のコンテンツを見ない日はありません。
頻繁に情報を更新するとき、たとえば、単純な画像一枚だけの制作に外部の制作会社を使うには時間が足りません。かといって、作ったのは素人だとわかる画像や動画を公開するのも避けたいです。そこで、コンテンツを提供する社員の学習コストが少なく、コンテンツを引き立てる魅力ある画像や動画を、簡単かつ効果的に制作できるツールが必要になるのです。
こうしたニーズに答えられるのが、「 Adobe Creative Cloud Express」のような、本格的にデザイン教育を受けたこともなく、画像や動画の編集ソフトの使い方を知らない人に向けたデザインツールです。SNSを通じた情報発信が主流になった今だからこそ、こうしたツールが重要な役割を果たすのは間違いありません。
図3 オンラインベースのデザインツールのひとつである「Canva」
ただ、ブラウザから簡単に利用できるオンラインベースのデザインツールは、すでに多数の競合が存在している競争の激しい市場です。以前から評判が高い「Canva 」や「Pixlr 」「 Fotor 」など、多数のデザインツールがすでに支持を得ています。
2021年11月には、Microsoftも動画編集ツールの「Clipchamp 」を発表しました。こちらもブラウザ上での簡単な動画制作に特化したサービスですが、「 素早く、簡単に、見栄えの良い制作物を作りたい」という需要とSNSによる情報発信が主流である限り、オンラインベースのツールは増加していくでしょう。今までとは異なるターゲットに向けたデザインツールの覇権争いは、これから激しさを増しそうです。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。