Webゆえに考える テキスト編集のテクニカルコンセプト

第9回公開に差し支えのある問題を無くそう(1)必須の校閲項目/内容編

Webサイトは不特定多数のユーザに閲覧される"公開文書"です。とくに、企業や団体が公開するWebサイトの文章は、公の場における代表者スピーチと同じくらい重みのあるものと考えるべきであり、つまらない恥をかいたり、無用なトラブルを招くことのないよう、キッチリと校正しておく必要があります。

ともすれば軽視されがちで、実際に作業工賃も安い部類に入る作業ですが、その重要性はきわめて高いものです。以後、"公開文書"をつくる上での最低限の校閲項目と、作業を効率的に進めるための原則的テクニックについて、何回かに分けて説明していこうと思います。

全てを台無しにする内容面の問題性

一般に「校正」というと、わかりにくい部分や誤脱字を無くして品質面のアラを取る作業、すなわち「文字校正」のイメージが強いものですが、校正作業でよりプライオリティが高いのは、情報の間違いや不適切な表現といった内容面のチェックです。

ブログの「炎上」や、掲示板での「叩き」などが分かりやすい例ですが、テキストに内在するたった一箇所の問題が、事業そのものに深刻な影響を与えてしまうことも良くあります。⁠サイトを作ったことがむしろ不利益になった」という結果にならないよう、徹底的なチェックが必要です。

本来であれば、クライアントサイドが責任を持って行うべき作業ともいえるのですが、Webの場合、広告を出すことに不慣れなクライアントが多いのも実際のところです。何をチェックする必要があるのか制作サイドからアドバイスする必要があったり、制作サイドが主体的にチェックしなくてはならないことも珍しくありません。

「何について」⁠どこまで」チェックすればよいのかは業種によっても異なりますが、以下のような問題は、どのようなサイトにもあてはまる要検討事項です。一通り頭に入れておきましょう。

法令上の表示義務事項の記載漏れ

サイトで取り扱う商材や、業種、業態によっては、法令上必ず記載しなければならない情報、使用できない表現があります。

例えば、ネット通販を目的としたサイトは特商法や景品表示法の制約を受けますし、健康食品の商品説明では、食品衛生法、薬事法、健康増進法などの制約を受けます。また、インターネット上で商取引をする業者の多くは、顧客情報の扱いに個人情報保護法の適用を受けます。

公開後、無用なペナルティを受けることがないよう、こういった各種の法令が定める表示義務事項について、一切の記載漏れがないか、禁止されている表現を用いていないか、十分なチェックが必要です。

専門的な知識を必要とするチェック項目であり、場合によっては法務のエキスパートに任せるべきですが、同じ業界・業種の企業サイトといくつか比較してみれば、主だった問題は、誰でも把握できることでしょう。

参考:

社会規範に反する説明や表現

広告目的のコンテンツでは、効果・効用、競合優位性を強調しようとするあまり、違法行為を正当化・冗長するような表現を使ってしまうことがよくあります。

例えば、例文のように、自動車関連商品の説明で一般公道における危険走行を奨励するような表現や、ブランド商品の説明でコピー製品の存在意義を認めてしまうような表現は、広告効果こそ高まりますが、違法行為をほう助することにもなります。

その商品本来の価値をゆがめるだけでなく、無用なペナルティを受ける危険性もありますので、もっと無難な表現を使うようにしましょう。

【例文】
  • 「優れたグリップ感。このタイヤならあの峠もガンガン攻められます!」
    ⁠優れたグリップ感。このタイヤならいつもの道がもっと楽しくなります!」
  • 「○○○の新作を、卸値そのまま○万円で。これ以上安いのはコピー商品しかありません!」
    ⁠○○○の新作を、卸値そのまま○万円で。どうぞ他店とお比べください!」

第三者の知的財産の侵害

ボリュームの大きなコンテンツを作るときには、第三者の著作物(画像や文章)を引用することがよくありますが、その場合、著作者の権利を侵害しないよう、十分に配慮しておく必要があります。

すべて自力で用意したコンテンツだとしても、誰かの著作物に類似していたり、肖像権やプライバシー権、商標権などに抵触する内容や表現を含んでいる場合もあるので、油断は禁物です。公開後、無用な係争を招かないためにも、入念にチェックしておきましょう。

【例文】
  • 引用した情報は使用の許諾をとり、参照・引用元を明示する。
  • 画像・動画は、土地・建物の所有者や被写体となった人物に掲載許可を得る。
  • 第三者の著作物に酷似する部分は内容・表現を見直す。
  • 登録商標は他の言葉に言い換える(ex.「セロテープ⁠⁠→⁠セロハンテープ⁠⁠。

モラルに欠ける言葉

企業/団体のサイトに求められる"言葉のマナー"は、大変シビアなものです。なかでも、いわゆる「放送禁止用語」⁠出版コード」に該当する言葉は、サイトの中にたった一語あるだけでも、企業や団体のモラルを疑われてしまう危険性があります。とくに、差別語、暴力的表現、卑猥な表現、俗語などは、意図せずに使ってしまうことがあるので、要注意です。

【例文】
  • 差別語:社会的弱者、身体的弱者に対する蔑称や、それを含む言葉は、言い換える。
    ex.「メクラウナギ⁠⁠→⁠ヌタウナギ」
  • 暴力的表現:死を軽々しく扱うような表現は特に避ける。
    ex.「死ぬほどすごい⁠⁠→⁠ビックリするほどすごい」
  • 卑猥な表現:性器や性行為を連想させる表現を避ける。
    ex.「上手にヤレます⁠⁠→⁠上手にやれます」
  • 俗語:若者言葉を中心に、公の場で使わない言葉はなるべく慎む。
    ex.「やばいぐらいおいしいです⁠⁠→⁠感動するほどほどおいしいです」

もっとも、こういった表現上のタブーは、基準が曖昧であり、公に"ここからここまでが問題"と、決められているものではありません。参考になる用語集も多数出回っていますが、基本的にはケースバイケースの対応になるので、タブーを見極めるセンスは日頃から意識して磨いておく必要があります。

掲載情報の誤り

企業/団体のサイトに掲載する情報は、あくまで正確なものでなければなりません。誰にでもわかる些末なミスでさえ、それを見つけたユーザーにとっては「氷山の一角」に見えるでしょうし、もしユーザーが間違った情報を信じて購入/問い合わせなどをしてしまった場合には、ほぼ確実にトラブルを招きます。

商品スペック、価格、納期などの数値データを中心に、掲載情報には一切の間違いがないよう、徹底したチェックを心がけましょう。

「そんなのあたりまえ」と思われるかも知れませんが、正確な情報を発信することに存在意義があるはずの新聞・ニュースメディアでさえ、意識して読んでみると、情報の間違いが結構見つかるものです。

単に元の資料と照らし合わせるだけでなく、その資料に内在する間違いさえも見抜くことができるだけの、しっかりとした知識を持って臨むことが理想です。

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