Webゆえに考える テキスト編集のテクニカルコンセプト

第12回書きやすい環境をつくるための事前確認

テキストコンテンツの編集/ライティングは、サイト制作の中で最もマンパワーを要する作業の一つです。これを少しでも楽に、スムーズに進められる環境を整えておくことは、工数削減の面でも、サイトの品質確保の面でも、軽視することのできない重要なタスクと言えます。

とくに、企画/ディレクションとライティングを別々の人間が担当する場合、打ち合わせを"なあなあ"で済ませてしまうのだけは禁物です。いざ作業に入った後で分からないことが続々と出てきたり、予期せぬ追加指示が繰り返されたり、せっかくでき上がったコンテンツを何度も書き直すといった事態に、必ず陥るからです。

「段取り八部」の言葉のとおり、事前の確認には十分な時間をかけ、分からないこと・曖昧なことを極力無くしておきましょう。以下、筆者が打ち合わせで心がけていることを、一通り紹介しておこうと思います。

全体の流れと役割分担の明確化

一口に編集/ライティングと言っても、実際に行う作業の内容は実にケースバイケースです。構成/肉付け/仕上げといったどの段階から担当するのかでも異なりますし、企画/ディレクション/デザイン/流し込みといった、他のクリエイターが分担する作業との重複もかなりあります。

「何を」⁠どこまで」やればいいのかに迷う作業ほど疲れるものはありません。全体的なワークフロー、分担する作業の内容、裁量の範囲、その他、提出期限、達成品質、校正回数、工数・予算といった細かなことまで、作業にまつわる諸条件は、最初の時点ではっきり確認しておきましょう。

なお、テキストコンテンツの作成には、とにかく時間がかかります。後で〆切に追われないよう、十分な作業時間を確保することに尽力しましょう。

表1 はっきりさせておくべき作業範囲
種別区分備考
作業の段階構成案の作成
肉付け(書き起こし)
仕上げ
前段階の作業にアラがあると、後の段階になってから問題が表出する。そのあたりのやり直しについて、誰が責任をもって行うのかも確認しておく
担当箇所サイト全体
一部カテゴリ
1ページ
一部コンテンツ
コピーライティング
パーツパーツを複数の人間で分担する場合、後で全体的な整合性を取る必要がある。その辺りの作業も全員で分担するのか、誰か一人がとりまとめるのか、良く確認しておく
他に専門家がいる作業 デザインレイアウト・配色・文字サイズ・装飾などは、テキストの担当者が指示を出す場合もある
オブジェクト作成
(写真・イラスト)
説明文に使う図版の用意は、テキストの担当者が行う場合もある
HTMLコーディング出来上がった文章のソースコードへの流し込みは、テキストの担当者が行う場合もある。初めからCMSやWEB制作ソフトを使って編集するのも一般的になった

デザインはなるべく先に固めてもらう

WebにはWebの見せ方/読ませ方があります。また、コンテンツの可読性や雰囲気は、ビジュアル性にも大きく影響されるものです。プレーンテキストの状態で文章コンテンツを煮詰めてしまうと、いざサイトの形にまとめたとき、必ず"しっくり"しない部分が出てきてしまいます。デザインイメージは個別ページの執筆に入る前に固めておくべきですし、工程上許されるのであれば、デザインテンプレートにテキストを流し込みながら編集していくスタイルが最も理想的です。少なくとも、校正や仕上げは、一通りWebサイトとして完成した状態で行う方が良いでしょう。

契約上の校正回数はなるべく1回にとどめる

一般的に、テキストコンテンツには、ビジュアルコンテンツに比べて"修正・変更が簡単"というイメージがあります。とくに、クライアントサイドの要求が厳しい場合には、校正回数をあらかじめ制限しておかないと、気が済むまで何度でも"書き直し"を要求される状況に陥りがちです。初稿の段階から具体的な修正指示が返ってくるように、契約上の校正回数は1回ないし2回にとどめておくのが理想的です。

企画の方向性と掲載内容の明確化

資料をもとにコンテンツの書き起こしからはじめる場合でも、用意された原稿をリライティングする場合でも、作業に着手する前に内容/表現の"正解"をしっかり確認しておかないと、必ず痛い目に遭います。判断に困ることが多く作業自体はかどりませんし、後になってから致命的な誤りやクライアントサイド/企画者サイドの意向とのズレに気付いて、丸々書き直す羽目になることも珍しくありません。

クライアントサイド/企画者サイドの良き"代弁者"として機能するためには、文章力以上に、掲載情報やサイトの企画性に関する確かな理解が重要です。少なくとも、次のような説明の根幹に関わる事項については、初期の段階で漏れなく確認しておきましょう。

表2
■5W1H・6W2H

文章の基本要素である5W1H・6W2Hのそれぞれについて不明な点があると、舌足らずな説明、無理のある説明をしてしまう可能性が高い。とくに、"何を(What)"、"何故(Why)"、"どのように(How)"は、ロジックの骨格になる要素なので、できるだけ細かく確認したい。

Who 誰に ex.歯の着色に悩んでいる方のために
What 何を ex.デンタルエステに通うのと同じくらいの白い歯を
Why 何故 ex.人前で美しい歯を見せられるように
How どのように ex.独自の薬効成分「××××」の働きで1日3回磨くだけで
When いつ ex.5月1日より
Where どこで ex.全国のスーパー・コンビニエンスストアで
How much いくらで ex.1本1000円で販売
Who 誰が ex.○○社の製品です
■公平な視点での訴求点

商材(商品・サービス・事業)の価値を本質から理解しておかなければ、ユーザーを訴求する上手な説明/演出を考えることはできない。競合となる商材との違いや、先進性、独自性、シェアや知名度などについて、思いつく限り細かく聞き出してきたい。長所だけでなく短所も含め、専門化としての正直な見解を示してもらうことが重要。

市場の状況 ex.既存の常識・トレンド・潜在的/明示的ニーズ
商品の特長 ex.先進性・独自性・コストパフォーマンス
競合との関係 ex.優位点・問題点・類似点
自認する問題点・不満点 ex.高い・安かろう悪かろう・扱いが難しい
■伝えたいメッセージ

事務的に情報を伝えるだけの文章は、相手の気持ちをつかむことは難しい。企業としての理念、商材の開発・提供に秘めた想いなど、事業を通してユーザーに伝えたいメッセージについて、しっかり把握しておきたい。

■絶対遵守事項

どのような企業・団体にも、外部に出す文書で「これだけは掲載しなければならない」/「掲載してはならない」という情報、⁠この言葉を使わなければならない」/「使ってはならないという」という表記のルールがあるもの。とくに、法令や、経営方針に抵触することなどは、後で重大な問題を引き起こす可能性があるので漏らさず整理。

法律面での遵守事項 商法や事業の関係法に基づいた必須記載項目
著作権や商標権に基づいた注意書き
経営面での遵守事項 都合上明確にしておきたい/明示を避けたい約束事
必ず入れたい言葉・使いたい表記・禁忌語句
■掲載情報のプライオリティ

情報の掲載順や強調度合いは、マーケティング判断に基づいたものであるべきだし、場合によっては組織運営上の「しがらみ」や、責任者の「好み」にも配慮する必要がある。細かい調整は原稿ができ上がってからでもできるが、めぼしいトピックについては、それぞれのプライオリティを一通り確認しておく。

■理想とするパーソナリティ性

人は文章を読むとき、そこに、書き手のパーソナリティ性を感じ取る。広告パフォーマンスを考えるなら、ユーザーに好まれる人物像に合わせておく必要があるし、依頼者の満足感を考えるなら、依頼者自らが理想とする人物像に合わせておく必要がある。有名人に例える、各種の雑誌記事をサンプルに用いるなどして、理想とする人物像を把握しておく。

なるべく多くの資料を用意してもらう

最終的に数100文字程度のテキストにしかならないコンテンツでも、その背景には10倍、20倍の情報があるものです。事業案内・カタログ書籍・社内企画書といった、書面になっている情報はもちろん、写真や画像、商品サンプルなど、なるべく多くの資料を用意してもらうようにしましょう。インタビュー・ヒヤリングからスタートする場合でも、ある程度の資料に目を通してから行う方が先々スムーズです。

項目ごとに細かく確認する

既に構成案が用意され、それをベースに"肉付け"を行う場合には、構成案に込められた意図を企画サイドから確実に引き継いでおく必要があります。少なくとも、見出しコピーだけを見て分かった気になるのは大変危険です。項目ごとに、説明の概要、掲載情報、演出の方向性など、想定する内容を細かく確認しておきましょう。

"プレスリリース"を書いてチェックしてみる

コンテンツをゼロから書き起こす場合、まずは、サイトそのものや、サイトで説明する商品/事業に関する、簡単な"プレスリリース"を書いてみると良いでしょう。

プレスリリースはいわば広告の"要約"です。プレスリリースをまとめてみることで、自分自身、理解の足りない部分がよく分かります。また、クライアントサイド/企画者サイドにチェックしてもらえば、間違って理解していることや、コンセプトとのズレなども、はっきりします。

参考サイト
@Press > プレスリリースの書き方
URL:http://www.atpress.ne.jp/pressHowtotext.html

理想はプロジェクト初期からの参加

もしあなたが、はじめからテキストコンテンツの編集/ライティングを担当することに決まっているのであれば、なるべくプロジェクトの初期段階から打ち合わせに参加させてもらうようにしましょう。

クライアントサイドの意向や、マーケティング分析ばかりを尊重した無理のある構成案ができ上がってしまうことを未然に防げますし、指示書には現れにくい漠然とした要求もしっかり把握できます。

とにかく、上流工程に言われるがままに作業をしていては、モチベーションも維持できません。少しでも自分にとって"書きやすい"環境を作れるように、尽力してください。

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