2013年10月5日(土)、パソナグループ本社においてセミナーイベント「PASONA TECH CONFERENCE~エンジニアのボーダーレス時代を知る~」が開催されました。本イベントは、多くのワークスタイルが生まれた現在、エンジニアはどんなステージを選択できるのか、気づきと発見の機会を提供するものです。Evernote日本法人会長とパソナテック社長による特別セッションをはじめ、4種類のカテゴリで11のセッションが行われました。ここでは技術系のセッションを中心にレポートします。
これからのエンジニアに求められるものとは――トークセッション
最初のプログラムとして、Evernote日本法人会長である外村仁氏と、パソナテックの代表取締役社長である吉永隆一氏による特別セッション「ITが創るこれからの業界とはたらきかた」が行われました。パソナテックの粟生万琴氏がモデレータを務め、テーマに沿ってセッションが進められました。大学の工学部を卒業後、コンサルティング会社の起業を経てAppleに入社した経歴を持つ外村氏は、シリコンバレーでは技術はもちろんですが「人と人とのネットワーク」が重要であると言います。とくに「誰に信用されているか」は重要なポイントで、新しい会社やサービスが始まるときに知り合いを経由して声がかかることが多いと言います。 実際に外村氏とEvernoteとの出会いも同様だったのです。外村氏はEvernoteについて「オンラインストレージサービスと思われていますが、実際は違います。Evernoteは、情報を蓄積していくことで必要なときに必要な情報を見つけ出し、新しい発想を生み出すための『第二の脳』です」と語りました。
「エンジニアとはたらくステージの関係」というテーマでは、「求められるポジションやステージが変わってきた」と吉永氏は言います。これまでは「就社」であったのが文字通りの「就職」になり、より専門的な知識・スキルが求められています。これからは専門性がないと生き残ることができず、またモノ作りとITの融合が唱えられて久しく、フラットな中で新しいことを生み出す企画力も求められています。会社とエンジニアの関係も自由なものになってきており、「これは会社が人に歩み寄ってきているとも言える」と吉永氏は語ります。外村氏も「10年前の常識は今の非常識」と言われますが、シリコンバレーのオフィスは10年前の日本のようになっています。以前は社員ごとにパーティションで区切られていましたが、現在はデスクをキュービックに並べるようになっています。
また、Googleでは社員に無料で食事が出ますし、Evernoteでは社員の自宅を掃除するサービスも行っていると外村氏は言います。「クリーニングや床屋さん、歯医者さんもやってくる。これはとにかく働くことを第一とした昔の日本みたいだと感じます」。外食や床屋、歯医者に往復する時間を省略することで、1行でも多くコードを書こうということだと述べました。
「エンジニアが活躍できるステージ」というテーマでは、「ITが進化し、さまざまなワークスタイルが可能になりました」と吉永氏は指摘します。インフラ整備が進んだため、地方にいても仕事をすることが可能になっています。外村氏も、クラウドやモバイルによって場所を選ばず仕事ができ、またAppStoreにより最初から世界へ向けてアプリやサービスを売れるようになりました。「エンジニアであることを活かせる時代になった」と言います。
「新しい働き方のヒント」というテーマでは、外村氏は「人のネットワーク」「夢中になれることを見つけて、それを夢中にやる」「デザインの発想」の3つを挙げました。とくに、人のネットワークは大事で、同業者やSNSのフォロワーではなく「自分を信用してくれる人」を増やして欲しいとしました。そのためにはギブ&テイクの精神が重要。いい情報を提供すると、いい情報が帰ってくるものであるとしました。吉永氏もこの3点に同意するとともに「もっともっと視野を広げて、さまざまな視点を持って欲しい」としました。
Webマーケティングの観点でUI・UXを改善するポイントとは
セミナーイベント「PASONA TECH CONFERENCE」のセッションは、「働き方を感じよう(Aトラック)」(パソナテックブログへ)「技術の知識を発見(Bトラック)」「体験して繋がる(Cトラック)」(パソナテックブログへ)「趣味の幅を広げる(Dトラック)」の4つのテーマで行われました。
このうち「技術の知識を発見」では3つのセッションを開催。その先陣を切ったのは、アルコのコンサルタントである黒須敏行氏による「~愛されるクリエイターになろう!~『100人中99人が出来ていない、成果を出すためのUI・UX改善方法』とは?」でした。
黒須氏はまず、ビジネスで結果を出すゴールとして「反響数(コンバージョン)をアップできる」「売上が伸びる」「仲間やクライアントから愛される」の3つを挙げました。そして、このセッションの対象者として「どうすれば結果を出せるか悩んでいる方」および「ボタンの色や形を変えてABテストをしているが、大きな改善につながらず悩んでいる方」を挙げました。
さらに第一部として、ビジネスで結果を出すためのルールでは「機能改善とコミュニケーション改善を分けて考える」「コミュニケーションで改善すべき点は3つだけ」「改善すべき点をユーザ観察によって特定する」を挙げ、それぞれについて解説しました。「機能改善とコミュニケーション改善を分けて考える」では、機能改善とは表面的な使いやすさを改善することで、これには「フォームを使いやすくする」「サイトを軽くする」「文字を見やすくする」「リンクを押しやすくする」などがあります。一方、コミュニケーション改善とはユーザの不安を解消し、関心に応えることで、これには「ユーザが知りたいことを用意し関心に応える」「強みをきちんと伝えることでユーザに訴求をする」「ユーザの不安を解消する情報を用意する」の3つの要素があるとしました。
3つ目の「改善すべき点をユーザ観察によって特定する」では、データ解析はもちろん、実際にユーザの使用状態を観察することも重要であるとしました。これによって、見過ごされていたことに気づくことができると言います。黒須氏は第一部のポイントを「ビジネスで結果を出す改善に最もインパクトがある方法は、ユーザとのコミュニケーションを改善すること」、また「改善を機能面とコミュニケーション面に整理し、重要なコミュニケーションの改善を優先することでビジネスにおいて劇的な結果が得られる」としました。コミュニケーションの改善の例として、黒須氏は「気になるあの人をデートに誘うための言葉」を考えてみることを提案。ポイントは趣味嗜好や不安なことを把握し、その人に即したコミュニケーションを組み立てることだとしました。これはWebマーケティングとまったく同じことだと黒須氏は言います。さらに第二部、第三部では、改善のポイントをさらに深く具体的に紹介、コンバージョン率が24件から90件に増加した例なども紹介されました。
jQueryの「先にあるもの」とは
「技術の知識を発見(Bトラック)」の2番目には、某企業にて技術開発を行っている川尻剛氏による「~愛されるデベロッパになろう!~やっぱり大事なJavaScript。jQueryからもう一歩進むために知るべきこと」が行われました。
川尻氏は、愛されるデベロッパの要素は「技術」と「知識」であるとし、セッションでは技術として「JavaScriptのこれまでとこれから」、知識として「オブジェクト指向」「MVC」を解説していきました。まず、JavaScriptは「開発者の共通言語」であり、知っていて当たり前、使えて当たり前の技術であるとしました。そして、Amazonで扱われたJavaScript関連の書籍や雑誌の数をグラフでみると、「Ajax」がブレイクポイントとなり急増していることがわかります。
2005年あたりから急激に普及した「Ajaxライブラリ」はクロスブラウザであることが最大の特徴で、DOM操作やイベント処理、XHRなどの機能を搭載、注目されていた代表的なフレームワークとなっています。また川尻氏は、「jQuery」「Prototype」「Dojo」「YUI」「ExtJS」「MochiKit」「MooTools」などを紹介したうえで、これらを「オブジェクト指向と関数言語」「フルスタックとエコシステム」の2つの軸でマッピングしました。マップの右側へ行くほど小さいアプリに適しており、左側はエンタープライズ規模などの大きなアプリに適した言語となります。また、下に行くほどオールインワンの言語となります。いずれにしても、こういったフレームワークはパフォーマンスと柔軟性、手軽さが特徴となっています。川尻氏はさまざまな言語を丁寧に説明しました。
MVCフレームワークには「Angular.js」「Backbone.js」「Ember.js」「Knockout」が代表的なもので、とくに「Backbone.js」と「Knockout」が多く使われていますが、最近では「Angular.js」が伸びてきています。また川尻氏は「テストが重要になってきている」と強調。とくに自動化は必須で、フレームワークにはQunit、Jasmine、SinonJS、Mocha、Buster.JSなどがあり、実行環境にはPhantomJS、Zombie.jsなどを挙げました。そしてjQueryから先に進むためには、いきなりaltJSはメリットが伝わりづらいためNGで、お勧めとして「Bower」を挙げました。さらに「越えるべき壁」としてオブジェクト指向とMVCパターンを挙げ、オブジェクト指向は言語ごとに異なること、オブジェクト、クラス、メッセージの3つの要素に分類できること、それらを軸としたOOPについて述べました。最後にMVCについて系統や言語を詳しく紹介し、セッションを締めくくりました。
開発と運用が協力する「DevOps」で市場の変化に対応
3つのセッションの最後は、さくらインターネットの執行役員である高橋隆行氏、IDCチームのマネージャーである対馬健太氏、技術チームのマネージャーである奥田隆富氏の3名による「~愛されるインフラエンジニアになろう!~クラウド時代の今、インフラエンジニアはDevOpsをどう捉えるべきか」が行われました。
まずは高橋氏が登壇し、さくらインターネットについて紹介しました。1999年に設立された同社はデータセンター事業を行っており、北海道の石狩、東京、大阪にそれぞれ多彩なニーズに応えるデータセンターを持っています。用途はハウジング、ホスティング、クラウドで、総ラック数は約2,800基、顧客数は34万件となっています。そして高橋氏はインフラエンジニアについて紹介、ITインフラすべてを理解し支えることのできる、すごいエンジニアであるが、目立つ仕事ではないとしました。しかし、人材が枯渇しているのが現状だと言います。そこで注目されているのが「DevOps」なのです。DevOpsによって、急激なクラウドの普及や、求められるマルチスキル、市場の変化の加速に対応できるとしました。
続いて登壇した対馬氏は、DevOpsはDev(開発)とOps(運用)が協力し合うというもので、自動化や従来の文化・やり方を変えるといった、よい製品を「より速く作る」ための変化にともなうリスクを軽減しようというものであると説明。現状では、スピード重視で新機能や機能改善を行う開発側に対し、運用側は安定重視であり、変化を嫌い失敗を恐れるという状況となっています。具体的には、ミッションが異なるため主張も異なること、互いの文化を理解し合えないこと、目の前の業務が優先になってしまい本質を見失うことが原因です。しかし、本質は「お客様商売」であることだと対馬氏は指摘します。
DevOpsによって、開発側と運用側が要求と共有を行い、お客様本位でのサービス提供が可能になります。最後に対馬氏は、愛されるインフラエンジニアとして「知的探究心」「目的意識」「顧客視点」「改善活動」を挙げました。
さて、顧客が求めるサービスには、「使いたいときにすぐ使える(スピード)」「サービスが止まらない(安定性)」「やりたいことができる(使いやすさ)」「値段は安い方が良い(コスト)」があります。一方、現場では「作業は早く終えたい」「障害は少ない方が嬉しい」「楽に作業ができると嬉しい」「できるだけ手間をかけたくない」といったことが求められます。つまり、求めているものは同じなのです。奥田氏は同社がこれまで実施してきた改善活動として「省力化」「業務フローの改善」「自動化」を行い、これにより注文から提供までの時間を5~10分まで短縮したのです。
最後に登壇した奥田氏は、「インフラエンジニアに求められる技術スキルって…」として、さくらインターネットのサービスにみる技術の変遷を紹介しました。まとめとして、「この10年でエンジニアに求められる技術は大きく変わった。これからも時代とともに、求められる技術は変わってゆく。時代の変化に対応できるエンジニアが今後も求められるでしょう」と締めくくりました。
その他のセッション・イベントの様子
上で紹介した「技術の知識を発見」テーマ以外にも、「働き方を感じよう」(パソナテックブログへ)「体験して繋がる」(パソナテックブログへ)「趣味の幅を広げる」のテーマが開催されました。
またその他にも「エンジニア“あるある”川柳大会」の発表会や、記念キャラクターの「名付け親コンテンスト」が開催されたほか、「3Dプリンタ体験デモブース」「キャリア相談会」「ハッカソン」なども共催されました。ここではそれぞれのセッションやブースについてフォトレポートで会場の様子をお伝えします。
- 「働くステージを選ぼう」パソナテックWebサイト
- URL:http://www.pasonatech.co.jp/
- エンジニアカフェブログ
- URL:http://engineer-cafe.tumblr.com/