新春特別企画

2010年のソーシャルWeb(前編)

あけましておめでとうございます。ミクシィ よういちろうです。日々進化を遂げるWebにおいて、昨年の特に後半は「ソーシャル」という言葉が耳に入ってきた機会も多かったのではないでしょうか。ここでは、今年2010年のソーシャルWebがどうなっていくのか、考えてみたいと思います。

キーワードとしては「ソーシャルアプリケーション市場の形成と成熟」⁠PCや携帯電話を超えたソーシャルWebの進出」⁠ソーシャルメディアの形成と広告」⁠標準仕様の進化」です。

ソーシャルアプリケーション市場の形成と成熟

ソーシャルWebと言えばSNSを真っ先に連想する方が多いかと思いますので、まずは日本におけるSNSの今年の動向から考えてみましょう。

昨年は世界的に「SNSのプラットフォーム化」が急速に進んだ年でした。日本においても、gooホームやmixiが正式にプラットフォーム化を遂げ、特にmixi Platformではいくつかのソーシャルアプリケーションがメガヒット(100万人以上のユーザを獲得)を実現しています。

従来のアプリケーションは、一人で利用するもの、不特定多数で利用するもの、この2つの形態がありました。しかし、SNSのプラットフォーム化により、ソーシャルグラフ(人間関係と思えば良いでしょう)を利用した「ソーシャルアプリケーション」というジャンルが新しく確立されました。SNSが元々持っているバイラル性と、ソーシャルグラフによって初めて意味のあるコンテンツとなりえる「内輪ネタ」「些細なやりとり」が原動力となり、今では非常に多くのユーザがアクティブにソーシャルアプリケーションを利用するようになりました。

日本独自のソーシャルアプリケーションの登場

昨年はOpenSocial対応が世界的に進んだ年であり、mixi Platformに代表されるように、日本においてもOpenSocialが採用されました。これにより、既に人気を博している海外のソーシャルアプリケーションを日本に持ち込むことが、比較的低コストで実現可能となっています。

海外でソーシャルアプリケーションを展開し成功した実績のあるベンダーは、どのようにソーシャル性を活用すればいいかを知っています。そして、常に新しい市場を求めています。日本の開発者が「ソーシャルとは何か」を模索しているところに、一気に海外ベンダーが参入し、蓄積されたノウハウを元にメガヒットを獲得していった、というのが昨年の動きです。

ソーシャルアプリケーションは、その基盤となるソーシャルグラフの質により、人気を得るアプリの質はかなり変化します。特に、国が違えばその文化も変わってきますし、リアルな知り合い関係とネット上だけの関係といったエッジの種類でも大きく異なってきます。そのため、海外で人気を得たとしても、最初は「珍しさ」から多くの人の心を掴むことができたかもしれませんが、本当に日本でヒットするソーシャルアプリケーションは、日本の国民性を反映した新しいものが登場してくるのではないか、と予想しています。

2010年は、日本発で日本独自のヒットアプリの登場が、大きなニュースになるでしょう。そのためには、開発者がまず海外の事例を数多く知り、分析し、多くの試みを行いながら日本の国民性や対象のSNSでのソーシャルグラフの質を見極めることが重要です。今年の後半には、多くの人がその結果を体感することになると思います。

また、昨年はゲームあるいはそれに近いアプリケーションの登場が相次ぎましたが、上記のような分析をしていく中で、アプリケーションの形態はゲームというよりも、むしろ実用的なものが多く登場するのではないかと個人的に見ています。

ソーシャルアプリケーション市場の成熟

SNSがオープン化を遂げ、確立されたソーシャルアプリケーションという新しい分野は、今年は「市場」として広く認知され、そして成熟していく年になるでしょう。既にいくつかの企業が、ソーシャルアプリケーションの開発に特化した事業展開を昨年後半から表明していますし、今年はさらに拍車がかかることになるでしょう。

市場として形成されるためには、参加する企業が収益を得ることができるようになっている必要があります。mixi Platformでは、アドプログラムおよびペイメントプログラムが既に開始されています。昨年においても、これを利用することで対価を得ることが可能でした。しかし、利用者、広告主、アプリケーション提供者、そしてSNS運営者、というサイクルが本格的に回りだすのは今年からと予想できます。

そして、各プログラムを利用するだけでは、今年からは収益を得ることが難しくなるでしょう。つまり、単に利用者を多く獲得するだけでは足りず、以下のような工夫が必要となるはずです。

  • CTR、CVRをあげるための工夫(いかに効果的に広告を配置するか)
  • 決済に誘導するための工夫(小額決済を如何に継続的に行わせるか)

これらをうまくアプリケーションに取り込むことができた企業のみが、より収益を上げることができるようになると考えられます。ソーシャルアプリケーションが当たり前になる今年は、昨年よりもさらに一歩進んだ考えが開発者に求められるでしょう。

市場という点では、今年はDeNA社のモバゲーオープンプラットフォームが一般公開を迎える予定となっています。既に昨年の時点で、OpenSocialに準拠することや、マネタイズなどの仕組みを提供することなどが発表されています。アプリケーション開発ベンダーから見た場合、これは全体的な市場が大きく拡大することを意味しますので、ビジネスという点で非常に明るい材料と言えるでしょう。

もちろん、モバゲーオープンプラットフォームだけでなく、他にもいくつか登場するかもしれません。ソーシャルWebという範疇では、特に「ソーシャルアプリケーション」という言葉がしばらくは話題の中心になると考えられます。

PCや携帯電話を超えるソーシャルWebの拡大

昨年までのソーシャルWebの主戦場は、SNSやブログ、Twitterといったサービスであり、それらはPCもしくは携帯電話から利用することがほとんどでした。しかし、今年は非常に速いスピードで、他のデバイスにおいてもソーシャルWebの範疇に入ってくると予想できます。

SNSでの利用者の平均滞在時間は、ソーシャルアプリケーションの登場に伴って、非常に伸びています。利用者は一つの場所でより多くの情報を閲覧できることを望むため、様々な情報を集約する場所(アグリゲーター)としてSNSを位置づけることは非常に自然です。既にTwitterといったストリームをSNSに取り込むことが多くのSNSで行われていますが、今年はさらにその流れが加速するでしょう。

スマートフォンのソーシャル化

まず真っ先に挙げられることとして、iPhoneやAndroidといったスマートフォンについて、ソーシャル性がかなり流れ込んでくることが考えられます。既にいくつかのSNSからスマートフォン向けのアプリケーションがリリースされていて、対象のSNSからの情報をスマートフォン上でチェックすることができます。もちろん従来の携帯電話でもSNSからの情報を得ることは可能でしたが、画面サイズの大きさやその操作性を生かすことができるため、画像などのマルチメディア情報などは、やはりスマートフォンでの閲覧が便利になります。

しかし、今年はその流れが逆になるでしょう。つまり、SNSの情報を見るだけでなく、iPhoneやAndroid上で行ったことが、SNSに送られることになります。スマートフォン上のアプリケーションとSNSが連携し、SNS上の人格としてスマートフォンからアクセスが行われます。これは技術的には既にOAuthによって実現可能なレベルに達していますので、各SNSがこの戦略を取るかどうか、その判断のみとなります。

従来のPDAでは、あくまで利用者自身の作業効率向上という目的が強く、携帯電話よりも多くの情報を一度に処理可能とするもの、という性質でした。しかし、スマートフォン上のアプリケーションがSNSと連携することで、SNSのアグリゲーターとしての魅力はより強くなります。スマートフォンは利用者の最も身近にあるものですので、知り合いとのコミュニケーションという点でも非常に重要なデバイスです。このデバイスを見逃すことはないでしょう。

既にSNS上で人気があるソーシャルアプリケーションと、スマートフォン上でのアプリケーションとの連携も、盛んになる年になると考えられます。

コンシューマ向けデバイスのソーシャル化

SNS上でのバイラル性がプラットフォーム化により広く開放されたことで、ネットに接続されている全てのものに関して、SNSとの連携が現実のものとなりました。もちろん、前述のスマートフォンは誰しも考えつく連携ですが、今年はある意味スマートフォンよりもコンシューマに近くアクティブ率が高いデバイスとの連携が始まる年となるでしょう。

そのデバイスとは、WiiやNintendo DS、Play Station、Xboxなどのゲーム機です。もちろん、これらのゲーム機に搭載されているWebブラウザでSNSを利用できるという狭い意味ではありません。もっと本格的な、深い連携が始まるはずです。その連携方法は2つ考えられます。一つは、ゲームからの情報をSNSに取り込むための連携、もう一つは、ゲームにてソーシャルグラフを利用するための連携です。

スマートフォンでのアプリケーションと同様に、ゲーム上でユーザが遊んだ結果を次々とSNS上に取り込んでいくことによって、ゲームの楽しさがSNSのバイラル性によって広まっていきます。また、取り込まれた情報はアクティビティフィードとしてSNS上でコンテンツとなり、そこからコミュニケーションが生まれます。ゲーム機上でこのようなことを独自に実装し広めていくことは比較的難しく、SNSをうまく利用することが成功の近道です。スマートフォンと同じく、OAuthによって技術的な面はクリアされていますので、今年はSNSとゲーム機との連携が、かなりのスピードで進んでいくことが予想されます。

SNSのプラットフォーム化に伴い、ソーシャルアプリケーションというジャンルが今年はソーシャルWebにて主役になりますが、その余波はゲーム機にも及ぶと考えられます。PCにてオンラインゲームがヒットし、今ではゲーム機もインターネットに接続してオンラインゲームを楽しむことができるようになっています。そこでは、ゲーム上で他のユーザを見つけ、協力して冒険を楽しんだりしています。しかし、あくまで見ず知らずの人であり、ゲームを超えた何かが起きることは基本的にありません。しかし、SNSに蓄積されたソーシャルグラフをそこに持ち込むことによって、ゲーム上だけでなく、SNSやリアルな生活においても、他のユーザと影響し合うことが可能になります。

上記のようなゲーム機におけるソーシャル化は、今年は実験的にかなりの試みが行われると予想できます。最初はTwitterと、その後本格的に主要SNSへ連携が広がっていくでしょう。その結果、ソーシャルWebが一部のネットユーザだけでなく、一般の消費者へ認知されていく年になるでしょう。

(明日公開の後編へ続く)

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