今回から数回に分けて、11月20、21日に開催される「PostgreSQL Conference 2009 Japan」について紹介します。
PostgreSQL Conference 2009 Japanとは
「PostgreSQL Conference 2009 Japan - JPUG 10th Anniversary Conference -」は、日本PostgreSQLユーザ会(JPUG:)が11月20日(金)から2日間に渡って開催するPostgreSQLイベントです。副題に「JPUG 10th Anniversary Conference」とあるように、今年はJPUG創立10周年にあたり、毎年行われているPostgreSQLコンファレンス以上に力が入っています。本記事ではPostgreSQL Conference 2009 Japanの見所に徹底的に迫っていきます。
2日間/2トラック制
コンファレンスは2日間に渡って行われます。初日午前中の基調講演を除き、両日ともにA/Bの2トラックが並行して走る構成になっています。事前にプログラムをじっくり検討して参加したいトラックを選びましょう。
同時通訳付き
今回、初めて海外からの一般参加を呼び掛けた国際コンファレンスになっています。そのため、初日の一部のプログラム(Aトラック)では、日英の同時通訳が行われ、国際コンファレンスにおけるコミュニケーションがスムーズに行われるような配慮がなされています。
基調講演
初日の午前中は2本の基調講演が行われます。
コンファレンスのオープニングを飾るのは、JPUG片岡理事長による、この10年間のPostgreSQLとJPUG歩みのご紹介です。裏話も交えた、肩の凝らない話になるとのことで、楽しみですね。
続いて、コンファレンス最大の目玉の一つとも言える「ストリーミングレプリケーション(同期レプリケーション)」「ホットスタンバイ」をテーマにする基調講演です。この2つは別々の機能ですが、実際には組み合わせて利用することが多いと想定されており、今回の基調講演でもそれぞれの機能の開発者である、藤井 雅雄氏とSimon Siggs氏が共同でセッションを行います。
ストリーミングレプリケーション/ホットスタンバイは、今開発中のPostgreSQL 8.5に取り込まれる予定の機能です。これが実現すれば、初めてPostgreSQLが組み込みのレプリケーション(DBの複製作成)機能を持つことになるわけで、たいへん注目されています。
本セッションでは、ストリーミングレプリケーション/ホットスタンバイのデモも用意される予定と聞いており、こちらも楽しみです。
初日午後の注目セッション
初日午後は「Business Day」というサブタイトル通り、エンタープライズ向けPostgreSQLの利用事例や、PostgreSQLの利用ノウハウに関する注目セッションが目白押しです。どれを選んだら良いかわからない、という方のために、目的別にお勧めセッションをご紹介します。
これからビジネスでPostgreSQLを導入したい/お客さんに勧めたい方
こういった方にお勧めなのが、大規模SIでの経験を紹介する「PostgreSQL 適用推進に向けての取り組み」、ASPサービスへのPostgreSQLの適用を紹介する「PostgreSQL を利用した ASP サービスの事例紹介」、SaaSへのPostgreSQLの適用を紹介する「エンタープライズ向けSFA & CRM SaaS における PostgreSQL 適用事例」のセッションです。それぞれの立場からビジネスの現場でPostgreSQLを推進しているキーマンの方の貴重な体験談が聞けると思います。
この他、利用技術の切口で見て面白そうな事例としては、Postgres Plus+JBossでの適用事例「基幹システムにEnterpriseDB社製品の"Postgres Plus", JBoss が採用されたポイントとは?」、Amazon EC2でのPostgreSQL運用事例「EC2 クラウド上での、大規模 PostgreSQL の運用」、PostGIS適用事例「簡易逆ジオコーディングサービスの作り方」、iPhone事例「iPhone / 携帯サイトでの PostgreSQL 適用事例 刻言道場「まいトレ」」なども注目です。
海外でのPostgreSQL適用事例に興味のある方
せっかくの国際コンファレンスですから、海外でのPostgreSQLの利用事例も聞いてみたいという方にお勧めしたいのが「PostgreSQL の科学分野における適用事例」です。こちらはカナダで樹木ゲノムの解析にPostgreSQLを使っている事例で、森林問題の解決にPostgreSQLを活用しているという興味深い事例でもあります。
PostgreSQL開発者によるPostgreSQLの運用技術開設に興味のある方
初日には、なんとPostgreSQLコアメンバ2名のセッションがあります。コアメンバをまだ見たことのない方は、ぜひどうぞ:-)
コアメンバのセッションはいずれもDBの運用管理に関するもので、他に1本、計3本のセッションがPostgreSQLの運用管理に関するものです。
「Pg_Migrator で高速アップグレード」
コアメンバであるBruce Momjian氏によるセッション。pg_migratorは、バックアップとリストアをしなくても、PostgreSQLのデータベースのメジャーバージョンアップができるツールです。超大規模データベースのバージョン間移行にあたり、バックアップとリストア時間に悩んでいる方は聴講してみてはいかがでしょう。
「pgAgent で PostgreSQL のジョブスケジューリング」
これもコアメンバであるDave Page氏によるPostgreSQLのジョブスケジューリングツールpgAgentの解説です。
「Postgres の視覚化」
PostgreSQLに限らず、オープンソースデータベースはとかくDB管理ツールが弱いと言われます。このセッションでは、様々な可視化テクニックにより、DB管理を容易にする技法が紹介されます。
アカデミックの世界でのPostgreSQL活用に興味のある方
アカデミックの世界でもPostgreSQLは研究用途や教育目的でたくさん使われています。「SuperSQL on PostgreSQL」では、慶應義塾大学でのDB研究と、学生教育での利用に関する発表があります。
レセプション
初日夕方にはレセプションが予定されています。初日のチケットをお持ちの方ならどなたでも参加できます。海外からの講演者も含め、ほとんどの講演者が参加するので、直接講演者と交流できる絶好の機会です。英語が苦手な方は、ボランティア通訳スタッフがお手伝いするので心配無用です。
1日目以上に多彩!2日目
2日目は、事例からとにかく技術的に「濃い」セッションまで、多彩なプログラムが集まっています。コミュニティ主催のイベントらしい、インフォーマルな雰囲気が楽しめる1日になりそうです。
なお、12:00-13:00のセッションは「ランチセッション」で、お弁当(当日参加者に無料配布されます!)をつつきながら、セッションが楽しめる趣向となっています。
1日目以上に個性の強いセッションが多く、目移りしてしまいそうですが、ここはずばり目的別にセッションを紹介します。
事例発表系
「PostgreSQL プロジェクトを支えるインフラの内側」は、今まであまり表に出ることのなかった、PostgreSQLプロジェクトの舞台裏を紹介します。Stefan Kaltenbrunner氏は実際にPostgreSQLのサーバ群を運用する担当者の一人であり、実体験に基づいた興味深い経験談が聞けそうです。
「PostgreSQL のチューニング、運用、クラスタリング事例のご紹介」では、オープンソース運用管理ツールHinemosの開発者でもあるNTT DATAの長妻 賢氏による発表があります。ツールのバックエンドデータベースとしてのPostgreSQLの活用体験から得られたチューニングノウハウなど、の貴重な話が聞けるとのことです。
ところで、いろいろな統計によれば、日本では中小企業ほどオープンソースソフトウェアの導入が遅れているそうです。こうした状況を打開したいと考えている方には「孤軍奮闘! 中小企業、PostgreSQL 導入の物語」がお勧めです。実体験に基づいた発表は大いに参考になると思います。
DBアプリケーション開発
データベースを使いこなすためには、データベースをうまく使うためのアプリケーションの開発が必須です。こうした観点から役に立つセッションをご紹介します。
最近注目されているPHPフレームワークの1つにCakePHPがあります。そのCakePHPに関して多数の書籍を執筆している新原雅司氏による注目講演が「CakePHP で PostgreSQL を使う」です。CakePHP+PostgreSQLの開発事例の他、CakePHP+Slony-I+pgpool-IIによるクラスタ構築の話題も聞けるとのことです。
PostgreSQLでXMLを使いたい方にお勧めなのが「PostgreSQL の XML 機能解説と将来拡張への提言」です。PostgreSQLのXML機能の解説と、将来の拡張の提案などの解説があります。
PostgreSQLで新たに実装された機能に「window関数」というものがあります。これを活用することにより、今まで難しかった複雑な集計処理が簡単に書けるようになります。でも使い方がよくわからない…という方は「PostgreSQL8.4 新機能 window 関数」のセッションに参加しましょう。
一方、DBセキュリティという切口から解説を行うのが「LAPP/SELinux・SE-PostgreSQL を用いたセキュア Web アプリケーション基盤」です。講演者の海外浩平氏は、SE-PostgreSQLを提案していることでPostgreSQLコミュニティでも著名な方です。
ちょっと毛色の変わったセッションが「データベースのユニットテストをしよう!」です。通常ユニットテスト(単体テスト)というと、アプリケーションだけの単体テストか、アプリケーションとDBを組み合わせた状態でのテストがほとんどです。講演者のDavid Wheeler氏は、データベースの単体テストの重要性を強調しており、そのためのツールの紹介、使い方がこのセッションで解説されます。
PostgreSQL用クラスタソフトウェア
今PostgreSQLではクラスタリングがホットな話題になっており、今回のイベントでも1日目の基調講演でのストリーミングレプリケーション+Hot Standbyが取り上げられ、さらに今回併設イベントで「クラスタミーティング」が予定されています。
2日のセッションでは、注目の日本発PostgreSQL用のクラスタソフトである、PGClusterとpgpool-IIの講演があります。
「PGCluster 新機能の紹介」では、PGCluster開発者の三谷 篤氏による同期レプリケーション環境の自動構築、障害サーバの自動復旧、モバイル機能といったPGClusterの新機能の解説が予定されており、楽しみです。
「多機能ミドルウェア pgpool-II の最新情報」では、pgpool-IIのパラレルクエリを開発した盛 宣陽氏から、最近のpgpool-IIの動向の他、ホットスタンバイ(ストリーミングレプリケーション)とpgpool-IIを組み合わせて使った事例の報告があります。
チューニング!
データベースと言えば、チューニング。JPUGのメンバがそのノウハウを徹底開発するのが「PostgreSQL のチューニング技法 しくみを知って賢く使う」です。JPUGの「しくみ分科会」に蓄積されたノウハウが聞けます。
データベースが壊れたら
「天災は忘れた頃にやって来る」ということわざがあるように、データベースの損傷も思ってもみないときに起ります。PostgreSQLの主要開発者であるGregory Stark氏のセッション「破損した PostgreSQL データベースの綿密な解析」では、こうした状況の一般的な対応方法だけでなく、完全にリストアできない場合にもできるだけデータベースを修復する方法が解説されます。
PostgreSQLの実装に関連したセッション
Windows 7の登場により、強まる64bit化の流れ。そうした動向に興味のある方はぜひ「Windows 対応への挑戦、過去・未来」に参加しましょう。また、PostgreSQLの開発に興味のある方にもおすすめです。
PostgreSQL Weekly NewsでおなじみのDavid Fetter氏の「書き込み可能な共通表式(CTE):起きるべき大事件」は、PostgreSQL 8.4で実装されたCTEの拡張実装に関する提案です。CTEは検索処理で再帰呼び出しを可能にする強力な機能ですが、それをさらに更新系にも拡張しようという大胆な提案です。
ヨーロッパと米国のPostgreSQLコミュニティの現状を知ろう!
世界中に存在するPostgreSQLコミュニティですが、まだまだお互いに相手のことを良く知らない部分が多いと思います。
「ヨーロッパの PostgreSQL コミュニティ」のセッションでは、ヨーロッパPostgreSQLコミュニティ(PostgreSQL Europe) の代表であるMagnus Hagander氏と、米国のPostgreSQLコミュニティで活躍するSelena Deckelman氏の両氏から、ヨーロッパと米国のPostgreSQLコミュニティの最新情報が報告される予定です。
このセッションが、日米欧のPostgreSQLコミュニティの交流につながっていくとよいですね。
最後はもちろんお約束のライトニングトークで締めくくり!
コミュニティイベントにかかせないのが「ライトニングトーク」。何が出るかは、当日参加してのお楽しみ。しかし、このコンファレンスの最後を締めくくるにふさわしい華やかなトークになることは間違いないと思います!