こんにちは。株式会社はてなで位置情報サービス「はてなココ」のディレクターを担当しているはてなの栗栖(id:chris4403)です。今回から数回にわたり、Webサービスで位置情報を取り扱うにあたっての技術的な解説(位置情報の取得の仕方、保存の方法、表示の方法など)をしていきたいと思います。
連載の内容を一通り理解すると、位置情報サービスが実装できるようになっているところを目指します。連載の中では、実際に運営している位置情報サービス「はてなココ」での、具体的な事例も紹介していきます。
位置情報サービスって何?
第1回目の今回は、そもそも「『位置情報サービス』って何?」「それおもしろいの?」という方のために、「位置情報サービスとは何か」そして「なぜ今位置情報サービスが熱いのか」について解説します。
まず最初に、本連載での「位置情報サービス」という言葉を「ユーザーの位置情報をWebサーバーへPOSTして、何らかのアクションがあるサービス」と定義したいと思います。位置情報サービスという言葉をこのように定義した場合、みなさんはどんなサービスを思い浮かべるでしょうか。
まずは位置情報サービスを、大きく3つに分類してみましょう。その3つとは、スポット情報系、位置ゲー系、チェックイン系です。
スポット情報系
スポット情報系とは、送信された位置に対して、その近くあるスポットの情報を提示するというサービスのこと。例えば、「食べログ」や「ホットペッパー FooMoo」「楽天トラベル」などが挙げられます。
特定のエリア内にあるスポット情報を取得するときに、緯度経度の位置情報を利用しない場合は、スポットを探したいエリアを、「東京都」「渋谷」と住所をプルダウンメニューからひとつずつ選ばなければならず、ちょっと面倒です。しかも「渋谷」と「恵比寿」の中間に自分がいるとき、自分の近くにあるスポットを探すのが難しくなります。外出先などで、何かしらのスポットを探す場合は、自分が今いる場所を中心に検索できるメリットがかなり大きいです。
位置ゲー系
位置ゲーとは「位置登録システムを利用したゲーム」の略(Wikipediaより)のことで、「コロニーな生活☆PLUS(以下、コロプラ)」や「ケータイ国盗り合戦」「まちつく!」などが有名です。
ゲームなので、サービスの内容についてはそれぞれなのですが、例えば「コロプラ」では、位置情報をサーバに送信することで、移動距離が算出され、その距離に応じてゲーム内のお金「プラ」を得て、ゲームを進めていきます。また送信POSTした位置に応じて、ご当地限定のお土産が入手できるなど、現実世界のイベントとの連携も進んでいます。バーチャルな世界観にリアルの世界をつなげた位置ゲーは、ここ数年とても賑わっています。
チェックイン系
チェックイン系のサービスは、「はてなココ」や「ロケタッチ」、最近リリースされた「mixiチェックイン」、海外の「foursquare」や「Gowalla」が挙げられます。
チェックイン系のサービスとは、たとえば「株式会社はてな」というスポットに対して「チェックイン(イマココ)」することで、サービス独自のタイムラインやTwitterに自分のいる場所を投稿するサービスのことです。チェックイン系のサービス内にも、特定の条件に応じてもらえる「バッジ」のようなサービス内アイテムがあったり、同一の場所に何度もチェックインすることで「常連」のような称号を得たりと、ゲーム的な要素があるのも特徴の一つです。昨年末あたりから、日本国内でも海外の位置情報サービスであるfoursquareが注目されはじめました。
各社が力を入れる位置情報サービス
位置情報に特化していないサービスも、実は位置情報に対応しているというケースがあります。有名なサービスだと、Twitterが挙げられます。
クライアントや設定にもよりますが、Twitterにスマートフォンのアプリから投稿すると、位置情報が付加されてテキストが投稿されます。実際にTwitterの設定画面で設定すると、つぶやきの下につぶやいた位置を表示することができます。
余談ですが、はてなダイアリーには、一日のTweetをまとめて日記等して投稿する機能があり、まとめられるつぶやきの中に位置情報が付与されたつぶやきがある場合は、日記に地図が表示されます。
外出先で、スマートフォン片手につぶやく機会が多い方は、地図上でつぶやきの履歴を見てみるとおもしろいかもしれません。
SNSに組み込まれる位置情報
最近、海外最大手のSNSであるfacebookが「facebook places」というサービスを、日本最大手のSNSであるmixiが「mixiチェックイン」というサービスをそれぞれ発表しました。これらは、SNS内に組み込まれたチェックイン系のサービスですが、これまでのサービスとは異なり、チェックイン情報はそれぞれのSNS内でのともだち間でのみ(設定で変更可能)共有できるようになっています。自分の居場所を投稿するのにプライバシーを気にされる方が多いため、クローズドなSNSに機能が盛り込まれていくのは自然の流れと言えます。
facebookがPlacesを発表したとき、位置情報サービスであるfoursquareが潰されるのではとネット上で心配されましたが、今のところ両者はうまくやっているようです。facebookのような大きなサービスに「位置情報サービス」が基本機能として組み込まれることで、「位置情報サービス」が一般のユーザーに認知され、「バッジ」や「メイヤー」があってゲーム性が高いfoursquareのユーザー登録が以前よりも伸びたという現象も起きています。
はてなココ
はてなで運営している位置情報サービスの「はてなココ」を利用しているユーザーは、次のようなところに面白さを感じているようです。
自分の行動をあとで振り返れる
移動した先々で「イマココ」していくことで、あとで自分がいつどこにいたのかを簡単に振り返ることができます。コメントや写真を投稿しなければ、位置情報を送信したあと表示されたスポット一覧からスポットを選んで「イマココ」するだけで簡単に位置情報を記録することができます。
また、はてなココには「今週の移動距離」という表示があり、こまめにイマココしていくと、自分が一週間でどれだけ移動したのかを数字として知ることができます。
マイスポット登録で自分のポジションを表明
はてなココでは、「行ったことがあります」「行ってみたいです」「働いています」といった、スポットの関係を登録することができます。プロフィールページにもその内容は表示されるため、例えば僕のページを見た人は、僕が株式会社はてなで働いていて、池田学園池田高等学校に通っていたことがあって、珍遊三条店がお気に入りである、というような情報を得ることができます。
自分がよくイマココするスポットのマイスポット情報を見ると、意外な人が意外な関係を登録していたりして、ちょっとした発見を得ることがあります。
なぜ位置情報が熱いのか
各社が位置情報に取り組んでいるのにはいくつか理由があります。
位置情報を記録するおもしろさ
一つには、単純に「おもしろいから」という理由が挙げられます。GPSなど位置情報を取得できるデバイスが一般に普及し、道行く人はどこでもインターネットに接続しながら、自分の居場所を緯度経度で取得できるようになりました。
これまでのネット上では、「渋谷なう」など、単純なテキスト情報でしか共有できなかった場所情報が、数値化されて共有できるようになったのです。各社のサービスでも提供されていますが、「自分の近くにいるともだち」や「同じ場所に訪問しているユーザー」など、「場所」「位置」を軸にサービスを提供することで、ユーザーはこれまでにない体験をすることができます。はてなココで自分の行った場所で淡々とイマココしていくだけでも、後日自分の行った先を地図上で振り返ることができます。
デバイスの普及
また、「位置情報を取得するのが容易になった」という理由も挙げられます。携帯電話やスマートフォンはもちろんのこと、最近のWebブラウザではJavaScriptを使って、位置を取得することができます。
街中を歩いているときでも、家の中でパソコンに向かっているときでも、自分の位置情報を簡単に取得できるというのは、ちょっと前にはできないことでした。
新しいビジネスの可能性
そして、そこに「新しいビジネスの可能性があるから」という理由が挙げられます。Googleが検索クエリに対して、適切な広告を返すように、もっとローカルな位置情報に対して、ユーザーに響く広告を返すことができます。
例えば、午後12時頃に、繁華街を歩いていると位置情報サービスから、「近くに焼肉ランチが20%オフの店があります」という通知が来るというようなケースです。あるいは、京都の街中を観光していて、どういうルートで観光したら良いか迷ったときに「北野天満宮に来た人は、平野神社に行っています」というレコメンドを出すこともできます。重要なのは、実際に北野天満宮にいる人に対して、そのレコメンドを提示できるという点です。時間や場所を組み合わせて、何らかの情報をユーザーに提供できるというのは、かなり強力です。
まとめと次回予告
第1回目は、位置情報サービスの概要と、なぜ今位置情報が熱いのかについて解説しました。どうでしょうか、これまであまり興味がなかった方も、少しは興味を持っていただけたのなら嬉しいです。
次回からは位置情報の技術的な解説をしていきます。まずは、携帯電話、スマートフォン、PCなど、いろいろなデバイスで位置情報を取得する方法を取り上げる予定です。