PHP 5.3の新機能と変更点

第4回PHP 5.3の追加機能と仕様変更 (2)

モジュール

追加されたモジュール

追加されたモジュールの関数は紹介していません。詳しくはPHPマニュアル参照してください。

INTL

ICUライブラリのサポート。エンコーディング変換やロケールなどのサポート機能を持っている。このモジュールはmbstringの必要性を無くすものではありません。

提供するクラス

  • Collector ─ ロケールに応じた文字列比較、ソート
  • NumberFormatter ─ ロケールに応じた数値フォーマット
  • Locale ─ ロケール情報の参照と設定
  • Normalider ─ Unicode文字列の正規化(NFD/NFC/NFKD/NFKC)
  • MessageFormatter ─ ロケールに合わせたメッセージのフォーマット
  • IntlDateFormatter ─ ロケールに合わせた日付のフォーマット

このほかにも、UTF-8エンコーディングされた文字列の処理する関数なども含まれています。

Phar

PEAR等で利用されているPHP Archive形式のファイルをサポートするモジュールです。PHPのパッケージを配布するための拡張が行われているアーカイブ形式です。

クラスのインターフェースをサポートしています。

Fileinfo

mimetypeの代替となるモジュールです。ファイルを開き、リソースとしてから利用する形になっています。関数のインターフェースのみサポートています。

SQLite3

組込み型データベースであるSqlite3のモジュールです。これまでのsqliteモジュールはデータファイル形式が異なるsqlite2用のモジュールです。

提供するクラス

  • SQLite3 ─ SQLite3を操作するクラス
  • SQLite3Stmt ─ SQLite3のクエリを操作するクラス
  • SQLite3Result ─ SQLite3のクエリ結果を操作するクラス
Enchant

スペルチェッカーライブラリであるEnchantライブラリのモジュールです。多くのバックエンドをサポートしています。

サポートしているバックエンド

  • Aspell/Psell/Ispell/MySpell/Hunspell/Uspell/Hspell/AppleSpell

削除されたモジュール

  • dbase
  • fbsql
  • fdf
  • ming
  • msql
  • ncurses
  • sybase(sybase_ctが代替)
  • mhash(hashが代替)

追加されたモジュール関数

PHP Core
  • array_replace() ─ 配列要素を置換
  • array_replace_recursive() ─ 再帰的に配列要素を置換
  • class_alias() ─ クラスに別名を付ける
  • forward_static_call() ─ メソッドのコンテクストからスタティックコールを行う
  • forward_static_call_array() ─ forward_static_call()の配列版
  • gc_collect_cycles() ─ ガーベッジコレクションのサイクルの調整
  • gc_disable() ─ ガーベッジコレクションの無効化
  • gc_enable() ─ ガーベッジコレクションの有効化
  • gc_enabled() ─ ガーベッジコレクションの状態
  • get_called_class() ─ レイトスタティックバインディングのクラス名
  • gethostname() ─ ホスト名の取得
  • header_remove() ─ 設定したHTTPヘッダを削除
  • lcfirst() ─ 単語の最初の文字を小文字にする
  • parse_ini_string() ─ iniファイルのパース
  • quoted_printable_encode() ─ QUOTED PRINTABLEに変換
  • str_getcsv() ─ CSVファイルを配列に格納
  • stream_context_set_default() ─ デフォルトのストリームコンテクストを設定
  • stream_supports_lock() ─ ストリームがロックをサポートしているか確認
  • stream_context_get_params() ─ ストリームコンテクストのパラメータを取得
  • streamWrapper::stream_cast() ─ ストリームリソースを取得
  • streamWrapper::stream_set_option() ─ ストリームオプションを変更
Date/Time
  • date_add() ─ DateTimeオブジェクトの時間加算
  • date_create_from_format() ─ フォーマットに合わせた時間文字列を返す
  • date_diff() ─ DateTimeオブジェクトの時間差分
  • date_get_last_errors() ─ 最後のエラーを取得
  • date_parse_from_format() ─ 日付に情報取得
  • date_sub() ─ DataTimeオブジェクトから時間を引く
  • timezone_version_get() ─ タイムゾーンデータベースのバージョン
GMP
  • gmp_testbit() ─ ビットテスト
Hash
  • hash_copy() ─ ハッシュリソースをコピー
IMAP
  • imap_gc() ─ IMAPキャッシュをクリア
  • imap_utf8_to_mutf7() ─ UTF-8をUTF-7へ変換
  • imap_mutf7_to_utf8() ─ UTF-7をUTF-8へ変換
JSON
  • json_last_error() ─ 最後のエラーを取得
MySQL Improved
  • mysqli_fetch_all() ─ 全てのクエリ結果を取得
  • mysqli_get_connection_stats() ─ 接続の統計情報
  • mysqli_poll() ─ 接続確認
  • mysqli_reap_async_query() ─ 非同期クエリの結果を取得
OpenSSL
  • openssl_random_pseudo_bytes() ─ 疑似ランダム文字列の取得
PCNTL
  • pcntl_signal_dispatch() ─ ペンディングしているシグナルのハンドラ呼び出し
  • pcntl_sigprocmask() ─ ブロックされたシグナルをセットまたは取得
  • pcntl_sigtimedwait() ─ シグナルがタイムアウト待ち
  • pcntl_sigwaitinfo() ─ シグナルを待つ
PCRE
  • preg_filter() ─ 正規表現で検索、置換しマッチしたパターンのみ返す
Semaphore
  • msg_queue_exists() ─ メッセージキューが存在するか確認
  • shm_has_var() ─ キーが存在するか確認

以下の関数はPHP内部で定義され、全てのプラットフォームで利用可能になりました。

  • acosh()
  • asinh()
  • atanh()
  • expm1()
  • log1p()

パラメータが追加された関数

PHP Core
  • clearstatcache() ─ clear_realpath_cache、filename
  • copy() ─ stream context parameter、context
  • fgetcsv() ─ escape
  • ini_get_all() ─ details
  • The mail() logging
  • nl2br() ─ is_xhtml
  • parse_ini_file() ─ scanner_mode
  • round() ─ mode
  • stream_context_create() ─ params
  • strstr() and stristr() ─ before_needle
json
  • json_encode() ─ options
  • json_decode() ─ depth
Streams
  • stream_select()、stream_set_blocking()、stream_set_timeout()、and stream_set_write_buffer() がユーザストリームラッパーとして利用できるようになりました
sybase_ct
  • sybase_connect() ─ new
PHP Core
  • Exception::__construct ─ previous

新しいメソッド

モジュールがクラスのインターフェースをサポートしている場合、対応するメソッドも追加されています。

Date/Time
  • DateTime::add() ─ data_add()
  • DateTime::createFromFormat() ─ date_create_from_formar()
  • DateTime::diff() ─ date_diff()
  • DateTime::getLastErrors() ─ date_get_last_error()
  • DateTime::sub() ─ date_sub()
Exception
  • Exception::getPrevious() ─ ネストした例外の前の例外を取得
DOM
  • DOMNode::getLineNo() ─ パースしているファイルの行数
PDO_FIREBIRD
  • PDO::setAttribute() ─ 属性を設定
Reflection
  • ReflectionClass::getNamespaceName() ─ 名前空間名を取得
  • ReflectionClass::getShortName() ─ クラス名のみ取得
  • ReflectionClass::inNamespace() ─ 名前空間定義の有無
  • ReflectionFunction::getNamespaceName() ─ 関数が定義されている名前空間を取得
  • ReflectionFunction::getShortName() ─ 関数名のみ取得
  • ReflectionFunction::inNamespace() ─ 名前空間に関数が存在するか確認
  • ReflectionProperty::setAccessible() ─ プロパティがアクセス可能か確認
SPL
  • SplObjectStorage::addAll() ─ ほかのオブジェクトストレージのオブジェクトを全て追加
  • SplObjectStorage::removeAll() ─ オブジェクトストレージを空にする
XSL
  • XSLTProcessor::setProfiling() ─ プロファイリング用のファイルを指定

その他の変更

  • DataTimeがTZ環境変数を利用しなくなった
  • cURLがSSHをサポート(cURLモジュール)
  • dns_check_ercordがTXTレコードを保存
  • SHA-224のサポート(hashモジュール)
  • CP850のサポート(mbstringモジュール)
  • oci_closeでのロールバック(OCI8モジュール)
  • OpenSSLのdigetとcipher関数サポート(OpenSSLモジュール)
  • Sessionモジュールの/tmpの利用にopen_basedir設定が適用(Sessionモジュール)
  • ユーザ定義HTTPヘッダ(SOAPモジュール)
  • 永続的接続のサポート(MySQLiモジュール)

PHPをビルドする際に、PCRE、Reflection、SPLモジュールを無効化できなくなりました。

廃止予定の機能

PHP 5.3では廃止予定の機能を利用するとE_DEPRECIATEDエラーが発生するようになりました。これらの機能はPHP 6ではサポートされません。E_DEPRECIAETDエラーが発生しないようにスクリプトを作成するとPHP 6への移行が容易になります。

一方、廃止予定であった機能が廃止されないことになった機能があります。オブジェクトのクラスを確認するis_a()関数は利用されるとE_STRICTエラーが発生しました。PHP 5.3からエラーは発生しなくなりました。

廃止予定の関数と機能

廃止予定関数代替関数
call_user_method()call_user_func()
call_user_method_array()call_user_func_array()
define_syslog_variables()代替なし。ini設定も削除予定
dl()php.ini設定からの読み込みは可能
ereg()preg_match()、mb_ereg()
ereg_replace()preg_replace()、mb_ereg_replace()
eregi()preg_match()、mb_eregi()
eregi_replace()preg_replace()、mb_eregi_replace()
set_magic_quotes_runtime()、magic_quotes_runtime()代替なし。ini設定も削除予定
session_register()$_SESSION
session_unregister()$_SESSION
session_is_registered()$_SESSION
set_socket_blocking()stream_set_blocking()
split()preg_split(), mb_split()
spliti()preg_split()
sql_regcase()代替なし
mysql_db_query()mysql_select_db()とmysql_query()
mysql_escape_string()mysql_real_escape_string()

このほかにロケール種別名を利用できなくなりました。LC_*で定義される定数を利用する必用があります。例えば、setlocale関数は⁠LC_ALL⁠とロケール種別名を文字列で指定できましたが、LC_*定数のみ利用できるように変更されます。

[yohgaki@dev php-5.3.0]$ ./sapi/cli/php -d error_reporting=30719 -r "setlocale('LC_ALL','C'); "

Deprecated: setlocale(): Passing locale category name as string is deprecated. Use the LC_* -constants instead in Command line code on line 1

mktime()の⁠is_dst⁠引数(サマータイム設定)はタイムゾーンを操作する関数を利用して設定します。正確にはPHP 5.1.0から廃止予定の機能とアナウンスされています。PHP 5.3.0からE_DEPRECIATEDエラーが発生するようになります。

newで生成した参照オブジェクトをreturn文に渡すことができなくなりました。PHP 5はオブジェクトをハンドルで渡しているので、new文でオブジェクトの参照を作成しreturn文で返すことに意味はありませんでした(ハンドルの参照を作成して返しても、ハンドルを返しても結果は同じ⁠⁠。

文字列のオフセット位置の文字を取り出すために⁠{}⁠が利用できましたが、利用できなくなります。代わりに[]を使用します。この仕様が廃止されることも随分前からアナウンスされてます。

サーバサポートの追加と変更

LiteSpeed

商用Webサーバ(標準版は無料)であるLiteSpeed Web Serverサポートが追加されました。筆者は利用したことがありませんが、READMEファイルによると⁠Hello World⁠プログラムはFastCGIモジュールより30%高速であり、ApacheのPHPモジュールよりほぼ倍の速度だとしています。LiteSpped SAPIはFastCGIと似たアーキテクチャを持ち、Webサーバと.htaccessファイルによる動的な設定変更をサポートしています。

ベンチマーク
http://www.litespeedtech.com/performance-benchmarks.html

詳しくはソースのsapi/litespeed/REAMEを参照してください。

CGI

CGIモジュールのFastCGIモードが常に有効となり、無効にすることが出来なくなりました。従来からCGIモジュールはFastCGIモードでビルドされていたので問題となることは少ないでしょう。

“-T 正数オプションが追加され、スクリプトの実行時間が計測できるようになりました。

使用例
$ echo "<?php echo 'abc' ?>" > test.php
$ ./sapi/cgi/php-cgi -T 10000 test.php
出力
X-Powered-By: PHP/5.3.0
Content-type: text/html

abc
Elapsed time: 2.088823 sec

その他

dl関数がデフォルトで無効となりました。有効にできるのはCLI、CGI(FastCGI)と埋め込みSAPIのみとなりました。ほかのサーバ環境でdl関数を利用した場合に発生する不具合は修正不可能であることが無効化の理由です。

サンプル設定ファイル

ソース配布版のphp.ini-distはphp.ini-development、php.ini-recommendedはphp.ini-productionに名前が変更されました。

ソース版に付属するphp.ini-development/php.ini-productionも、開発/運用に最適化されている、とは言い難いのでカスタマイズして利用するとより便利、安全、高速に利用できます。

まとめ

PHP 5.3はPHP 5.2との互換性も高いですが、様々な変更が加えられていることが理解できたと思います。PHP 5.2で動作していたアプリケーションがそのままPHP 5.3で動作することも多いですが、動作しなくなる仕様変更も多くあります。PHP 5.3にするか、PHP 5.2で様子を見るか、プロジェクトによっては判断が難しいと思います。状況に合わせて適宜判断してください。

PHP 5.3の後はPHP 6のリリースが続きます。リリースがいつになるか分かりませんが、1年以内にリリースされる可能性はあまり無いと思います。

また「まとめ」からは外れますが、現在のところ公式にはドキュメントされていないので最後に紹介します。PHP 6とPHP 5.3の最大の違いである文字列型のUnicodeサポートは、文字列型にバイナリを保存している場合に問題となります。PHP 6ではバイナリの場合は、バイナリ型にキャストして利用することになります。

PHP 5.3でもこの移行がしやすいようにキャストにbinaryが使えるようになっています。PHPにはbinary型はありませんが、

$bin = (binary)$data;

のように記述できます。バイナリ文字列であることを明示的に指定する⁠b⁠プレフィックスもサポートされています。

echo b'output as binary';

多少の手間をかけることで、PHP 6へ移行しやすい、PHP 6でもそのまま動作するスクリプトを記述することもできます。

参考文献
PHP マニュアル
PHP 5.2 to 5.3マイグレーションガイド
PHP 5.3ソース

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