2007年の2月末、テキサス州ダラスで開催されたPython Conference 2007という開発者会議に参加してきました。通称PyCon。毎年1回行われる、オープンソースのスクリプト言語Pythonのお祭りです。400人以上の開発者が、北米だけでなくヨーロッパなど世界中から集まります。私がPyConに参加するのは今年で3回目。今回こそはLightning Talkで英語のプレゼンをしようと決めて参加しました。
アメリカはとても恐ろしい国です。たいていのホテルにはトレーニングルームがあり、時差ぼけで寝付かれず、早朝に部屋の外に出てみると、仕事前からたくさんの人たちがトレーニングをしています。こんな民族とまともに戦ってもかなうわけがありません。
そこで、自虐的な姿勢で笑いをとる作戦に出ることにしました。「Pythonista(Python使い)はクレバーだけどたいてい性格が冷たいので日本のコミュニティは全然盛り上がりません」「ヘビなので冬眠でもしているんでしょう」 私は祖国を売ってしまったのかもしれませんが、とにかく会場は大爆笑でした。
そうなんです。Pythonistaはクレバーだけど「冷たい」んです。この特徴はかのポール・グレアムも指摘していませんが、300人の聴衆が爆笑するくらいだから、世界的に共通した性質に違いありません。
日本ではとくにこの状況が切実だったように思います。クレバーでクールな連中はPythonを秘密兵器として使っていました。秘密兵器は自分だけのもの。誰にも知られたくありません。だから、誰もPythonを広めようとは思わなかったのかも知れません。「海外ではメジャーだけど国内ではマイナー」 それが、これまでPytonという言語につきまとっていたイメージではないでしょうか。
志賀高原に40人、大阪に30人
ところが最近、国内においてはこの状況は変わりつつあります。
今年(2007年)の3月には、志賀高原でPythonの合宿 を行いました。首都圏、関西、東海などから数百キロの距離を超えて、40人近くのPythonistaが集まりました。
2007年3月16日には、大阪で勉強会が開かれ、30名以上の参加者を迎え、大盛況のうちに終了しました。2006年の4月、100人の参加者を集めたイベントを皮切りに、Pythonにまつわるリアルなイベントに多くの人が集まる状況が続いています。
Pythonでホットなのはコミュニティ
日本のPythonコミュニティは、数年前と比べものにならないくらいホットになっています。私は日本Pythonユーザ会(PyJUG)というPythonのコミュニティに関わり始めて5年になりますが、このような状況はこれまで経験したことがありません。
コミュニティでは新陳代謝が進んでいます。多くの若い技術者がPythonに興味を持っています。既存のPythonistaに加え、新しい人材が流入するという形で年齢分布が変化し、コミュニティが相対的にホットになっているように感じます。業務でPythonを使う人が増え始めたのも大きな変化です。
そんな変化が「海外ではメジャーだけど国内ではマイナー」というこれまでの状況に風穴を開けようとしています。
後押しをしてくれた雑誌記事、書籍
プログラミング言語がホットな注目を集めるためにはさまざまな要素が必要です。2006年後半から、日本人執筆者の手になるPythonの記事が目に付くようになりました。記事として露出の機会が増えたことで、より多くの開発者、とくに若い開発者の注目を浴びるようになっています。
『Software Design』では、2006年11月号でPythonを特集記事として取り上げていただきました。ページ数も内容も、これまでになくとても濃密な記事に仕上がっています。この記事を目にして最近のPythonについて始めて知ったり、再認識した方も多いのではないでしょうか。
2007年3月には、この特集の方向性を引き継いで内容をパワーアップしたムック『最新Pythonエクスプローラ』が発売されました。そして、PythonのRuby on Rails風フレームワークTurboGearsについて解説した拙著『TurboGears×Python』も発売されています。どちらの書籍も、イマドキのPythonについて知りたい方、Pythonについてより深い知識を身に付けたい方に読んでほしい書籍です。
SD誌のPython特集とムックには、企画協力や著者紹介という形で関わらせていただきました。一番最初にお話しをさせていただいたのは2006年の初夏のころで、国内のPythonコミュニティは今ほど盛り上がってはいなかったように思います。
そんな時期からコツコツと準備をはじめて、雑誌記事やムック、書籍を世に送り出してくれた編集者の皆さんには、コミュニティの一員としてとても感謝しています。そんな編集者の皆さんは、今盛り上がりつつあるPythonコミュニティを支える立役者だと言っても良いかもしれません。
Pythonの魅力
Pythonが、PerlやRuby、PHPのような他の軽量言語(LL)と異なる点は「全方位型の言語である」という点だと思います。DjangoやTurboGearsのようなWebアプリケーションフレームワークがあるのは当然、オープンソースCMSのPlone、Xenでも使われているTwistedのようなネットワーク処理に特化したフレームワーク、TracのようなBTSツールを含め、たくさんのオープンソースプロジェクトが活発に開発を進めています。
.NETで動くIronPythonやJava VMで動くJythonのように、多くの実装系があるのも魅力です。最近では、3D CGアプリケーションのMayaのように、組み込みのスクリプティング言語としてPythonを採用するアプリケーションが増えています。Webだけにとどまらず、応用範囲がとても広いのがPythonの特徴の1つです。
言語として大変魅力のあるPythonですが、私がそれ以上に魅力を感じるのがPythonに引き寄せられてくる「人」についてです。クール過ぎて一見つきあいにくそうだけど、クレバーで物事についてよく知っていて、美しいものについて造詣が深く、リテラシーが高い。海外でも国内でも、Pythonistaにはそんな有能な人が多いような気がしています。
これからも、業務やコミュニティ活動、執筆を通し、Pythonに集まる有能な人たちに、光を当てるお手伝いをして行ければと思っています。