小飼弾のアルファギークに逢いたい♥

#16UIEvolution/Big Canvas 中島 聡

今回のゲストは、Windows 95/98などのチーフアーキテクトなどを務めたことで知られる中島聡さんです。

左:中島聡氏、右:小飼弾氏(撮影:武田康宏)
左:中島聡氏、右:小飼弾氏(撮影:武田康宏)

自己紹介

弾:では、一応自己紹介からお願いします。

中:パソコン好きがそのまま大人になった(笑⁠⁠、中島です。学生時代、アスキーでバイトをして、一瞬、間違ってNTTの研究所に行って(笑⁠⁠。それから軌道修正をかけて、日本のMicrosoftに行ってからアメリカのMicrosoftに行って、トータル13年半くらいいて、2000年に退社。一瞬、ベンチャーキャピタルに行ったんですけど、UIEvolutionっていう自分の会社を作って、それを日本のスクエニ[1]に買収してもらって、ちょっと奉公したあとに、最近、Big Canvas[2]っていう2つ目のベンチャー企業を始めました。

10年に1度のプロダクト

弾:一言で言うと、まさに好きを貫いてらっしゃる方ですよね。で、最近、好きなものといえばこれですよね。iPhone。

中:僕、ギークな中でも新しいものをぽんぽん買うタイプじゃないんですよ。最近ちょっと変わってきたけど。作るのは好きだけど、買うほうじゃない。

弾:僕と雑誌の関係みたいだな(笑⁠⁠。……失礼しました。

中:でもiPhoneはめずらしく欲しかった。で、買って使ってて、ほんとすごいと思いますね。どう言い表したらいいか難しいんだけど。セクシーっていうのが一番いいのかな。なんとも言えない使い心地。Appleに関してはMicrosoftにいたときからずっと意識はしてきた会社だし、iPodでがんばってたのも知ってるし、当然iPodも持ってたんだけど。iPhoneがああいう形[3]で発表されて出てきたとき、何かを感じましたね、ものすごく強く。うまく言えないんだけど。

技術の進化って、たとえばハードディスクの値段が安くなる、フラッシュメモリが安くなる、画像がよくなる、タッチスクリーンができるっていうようにどんどん進化していく。でも、使ってる人のライフスタイルの変化は意外とそれにはついていかなくて、いつも遅れるんですよね。だけど誰かがポッと引き上げてあげると、誰でもテクノロジの良さを享受できるっていうジャンプが起こる。大きいジャンプを起こしてるものの1つがiPhoneかなと。10年に1つといえるくらいの、そういう意味では、任天堂のWiiだってDSだってそう。古い話で言えばパソコンがそう、IBMとか、Apple IIもそうか。

で、僕はUIEvolutionで携帯ビジネスをしてたから、日本が日本なりの進化をしてるのに、アメリカはなかなか進化しなくて、日本よりだいたい18ヵ月から24ヵ月遅れでいってるので、ずっとアメリカでモバイルビジネスをしているとフラストレーションがあったわけです。それが一気に追いついたというか、ひょっとしたら追い抜いたかもしれない。それもちょっとベクトルが違う形で抜いてるところがいいんですよ。そんなのがアメリカで発表されて、日本の携帯もアメリカの携帯も、パソコンも知ってる僕としては、とてつもないおもちゃが現れたなあと。

で、ほんとは一番悔しかったんですよね。自分が関わってなかったっていうのが。なんで僕はAppleにいなかったんだ!

簡単さへの憧れ

弾:初めにMosaic[4]見たときも、やあ、やられたなって思いましたね。でもそのあと、そのサービスがいろんなふうにブラッシュアップされていくじゃないですか。本当に安定したころには今度は逆にいろんなところが洗練され過ぎて、もう俺にはできねえ、っていうような感じで。

中:ブラウザも、ものすごく悔しかった。大学3年の頃に「CANDY」注5を作って、卒業前にCANDY1、2、3と出して、次のバージョンではCANDYにハイパーリンクのシステムをつけて、画像の一部をクリックすると、別の画像に飛んで、ある部分が拡大されて見えるっていう、画像ベースで全部ベクターだったんだけど、ハイパーリンクシステムを作って、アスキーに持っていったんですよ。これ、CANDYの次のバージョンとして出したいって言ったら、こんなの売れないよって、却下されたんです。役に立たないのかなって思ってたらMosaicが出てきて。Mosaicのほうが文字だったから正しかったかもしれないけど、悔しかったですよ。あんなの別に簡単じゃん。でも、ほんとの答えは結構簡単なところにありますよね。HTTPやHTMLの簡単さに僕は憧れるし、嫉妬を抱く。誰かがものすごく複雑なアルゴリズムのプログラムを作っても、何これ、こんな複雑な、って全然感動しないけど。

弾:CANDYのころというと、80年代ですか。そのころにハイパーリンクがあっても却下されるのが逆に当然で、当時は今みたいな潤沢な通信回線どころか、通信回線そのものがなかったですよね。

中:でもシステムの中でハイパーリンクしてましたから。画像と画像がポジションでリンクするのは価値があるかなって思ったんですよね。でもダメでした。そういう意味ではものには遅過ぎたり早過ぎたりっていうことがあって、iPhoneみたいなデバイスで言うと、ある意味Newton[6]もそうじゃないですか。Newtonも早過ぎた。Palmは惜しかったよね。

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Big Canvas

中:そういう意味では僕が今までビジネスとして成功してるのって、たまたま。運なわけですよ。OSを作ってたちょうどいいタイミングでMicrosoftに行ったとか。ブラウザ戦争がおこったときにあそこにいたっていうだけの話で。

それで、今回立ち上げたBig Canvasっていう会社は、実はまだ手探り中なんだけど、いろいろ思うところがあるんです。ライフスタイルとしては携帯電話っていうもともとの電話の機能があったじゃないですか、声で通信する。それがメール、テキストで通信するっていう時代が来て、次はビジュアルで通信っていう時代が来ることは目に見えてるわけですよ。誰かがそこで思い切り不連続な進化を起こして、みんながビジュアルな通信をし始める時代が来る。それが2年後なのか5年後なのかわかんないけど、それはもう外しようがない。でも誰がやるのか、どんなデバイスでやるのかはまだ見えてない。美化した後付けの部分も入ってるんだけど、Big Canvasのビジョンとしては、そういう新しいライフスタイルまで至るにはハードとネットワークのインフラとソフトとユーザインタフェースと、全部合わせなきゃいけない。iPhoneにはそのかなりの部分が揃ってるから、ここにちょっとしたソフトとサービスを足したらそれが具現化できるんじゃないか。

それにしてもiPhoneて今はまだまだマーケットが小さいってみんな言うんですけど、たぶん5年後にみんながやってるだろうことをここで実現できるんだから、今。そしたらやるしかないじゃん。あとは企業としてきついのは、それが3年後にくるか、5年後にくるかわかんないし、誰が勝つかわからない状況で、生き延びてかなきゃいけない。わかってないんだけど、ちょっとやってみたいなと。

CANDYのときはハイパーリンクは早過ぎたからぽしゃられたし、自分で会社を作る度量もなかったし、資金力もなかったんだけど、今は幸い多少資金力もあるし、2人くらいの会社だったらまあ、3年、4年は頑張ろうと思えば頑張れるから、ちょっとやってみようかなと。後になってから、⁠俺知ってたんだよな、ビジュアルコミュニケーションの時代が来ることは。悔しいな、あいつにやられちゃって」っていうのはやだから。

PhotoShare

弾:PhotoShare[7]のサービスはビジュアルコミュニケーションということなんですけど、どういうふうになるのかもう少し詳しく説明していただけませんか?

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中:ユーザシーンでわりと最初から考えてたのは、たとえばアメリカだと、子供のサッカーの試合がありましたと。で、アメリカでは、お父さんもお母さんもそういうときは来るんだけど、なかなか両方は行けない。その日はたまたまお母さんしか行ってなかった。するとお父さんは見れない。当然だけど、家に帰って、息子はゴール決めたんだよって言えるし、そのときの写真を見せることもできるし、もしくはゴールを決めた瞬間にテキストでお父さんにメールしてもいいんだけど、たぶんその笑顔をリアルタイムで見せることができたら、やっぱすばらしいわけですよ。

リアルタイムなビジュアルなコミュニケーションがあって、メールでも可能なんだけど、もっと簡単に、もっとゆるく。メールってやっぱりすごく押し付けがましいから、僕もあんまりメール受け取るとやなんですよ。

たとえば、試合が始まった瞬間のメールが写真で送られてきて、ゴールをしそうになったときの写真が送ってきてとかってやってると、いっぱい写真がくる。そうじゃなくて、試合っていうのは連続的に続いてるんだから、その間そのお母さんはぽこぽこ写真を撮ってるわけですよ。それがリアルタイムに、メールじゃなく、共有された写真の形で届いて、僕はいつでも見れる。ゴールを決めた瞬間の写真や、そのあとの笑顔の写真がメールっていうユーザエクスペリエンスは違うんじゃないかと。もう少し違う形の共有フォトアルバムっぽいものがあっていいはずだし。わりと意識してるのは写真版のTwitterかな。

Windowsのノーティフィケーション

弾:メールで通知(ノーティフィケーション)がうっとおしいという話しがありましたが、中島さんに言うのは筋違いかもしれないですけど、Windowsのタスクバーって、いちいちノーティファイするでしょう? あなたのコンピュータは危険にさらされてますって。あれはひどいと思うんですね。初めてコンピュータ買った人がユーザ登録とかやってると、⁠あなたのコンピュータは危険にさらされてます⁠⁠。これはものすごくひどいんじゃないですか。パーティに来て、⁠はじめまして、あなたの余命は何年です」とかって、おまえは細木数子かって(笑⁠⁠。

中:あれは、ほんとに後悔してる。あれは僕が入れたんですけど。

弾:そうなんですか(笑⁠⁠。

中:もうすごい後悔してる。っていうのはあれ、表面的にはすごく良いアイデアなんですよ。⁠ソフトウェアを)作ってる立場としては、アプリケーションっていうのは立ち上がってるときしかユーザとコミュニケーションできないけど、アプリケーションが立ち上がってないときにコミュニケーションしたい場合があるじゃない。そういう方法をアプリケーションに与えようっていうすごい純粋な動機で作ったんだけど、ほんとにやってみたら失敗したね。

弾:なんで、あんなにうざくなっちゃったのかな。確かに正しいですよ、こういう世の中ですから、アンチウィルスソフトを入れましょうっていうのはあるんですけど、ひどいときになるとバルーンが3つくらい並んで(笑⁠⁠。

中:使えば使うほどWindowsって遅くなるじゃないですか。あれ実はそこが原因で…。こんな話はあんまりしたくなかったなあ…。自分のパソコンもそうなんだよ。使ってると、だいたい半年とか1年で妙に遅くなるじゃないですか。

弾:(笑)

若いエンジニアへのメッセージ

弾:『WEB+DB PRESS』は日本の若いエンジニアが読んでる雑誌なんですけど、彼らに「これは言っておきたい」ということは?

中:なんだかんだ言って、今後ますます、いろんな意味で力がある人と、力がない人の貧富の差が開いちゃうわけですよ。善かれ悪しかれ、アメリカが仕掛けている資本主義の中に巻き込まれてるわけです。日本のエンジニアって、わりとハングリー精神がないというか、もっと自分が良い環境にいてもいいはずだっていう思いが足りないのかなあ、勉強不足とは言いたくないんだけど、なんかハングリーさが足りない部分から来る勉強しなさみたいなのは、見ててすごく歯がゆいと思うんですよ。

弾:あんまり怒りませんよね。アメリカに限らず、第一線の人たちって、職人的怖さがあるじゃないですか。今この人に話しかけたら殺されるぞみたいな。日本では、そういうのを感じるエンジニアって確かに少ないですね。

中:そうですね。たとえば、下請けのSI企業に入っちゃって、こき使われて将来ない、みたいな暗い思いをしてる人はいるんだけど、ほんとに優秀だったら、そこに留まってるはずはないんですよ、本来なら。別に会社を辞めろって言ってるわけではないんだけど、そういう押し付けられてる過酷な環境、給料安いとか、無理やり長時間働かされてるとか、自分のやりたいことができないとかっていう状況に置かれたら、それはばねだったら縮められてる状況なんだから、必ず力がたまって、跳ね上がってくるはずなんですよ。だからこそ、すごくおもしろいことが世界中で起こってるんで。

弾:でも、こういう意見もありまっせ。本来だったらびよーんっていくところに同時に塩水をかけてると、使おうとしたときにはにはもうさびついてる(笑⁠⁠。

中:でも、さびつくなよと、びよーんとなれよと。ぎゅっと抑えられたときに、弾けろよと。別に上司とケンカしたっていいし。

弾:確かに、ケンカのしかたを知らないですよね。ケンカすると戦争になると思ってる。違うんだよなあ。

中:社長くらいになると、会社にとっていいこと言ってる人の意見は聞きたいわけですよ。どんなに下っ端でも。中間管理職がバカだとうまくいかないんだけど。そこはいくら騒いでもいいと思う。社長さんがわかってくれる人だったら、ちゃんと扱ってくれるし、でも騒ぐことをいやがるような会社にいてもしようがないと思うから、僕は騒ぐべきだと思う。僕は、上司を2回くらいクビにしてるから。

弾:そうですよ。みなさん、上司ってクビにできるもんなんです。部下でも。これはマジですよ。社長だって、株主ならクビにできるわけです。だから実は上の人たちのほうが、よっぽどクビになりやすい。権力と引き換えですもんね。偉くなればそれだけえらい難儀なこともさせられるっていう、それでバランスが取れてるわけですから。

中:自分のやりたいことと会社の方向性を一致させるようにして、一致したと思ったら、思いっきりわがままを言っていいと思う。で、そこでうまくいかないなら、そこは間違った場所なんだし。かなりの可能性で、上司は折れたりクビになったりするから、まあがんばれよと。

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