今回の対談は、9 月10.11 日に開催されたYAPC::Asia 2009会場となった東京工業大学大岡山キャンパスにて実施。ゲストは、「Twib」「YourAVHost」(注1) などのサイトでお馴染みの、ゆーすけべーこと和田裕介さんです。袋綴(と)じこそ実施には至りませんでしたが、一部、いまだかつてないエロ度の対談になりました。
Web開発に携わったきっかけ
弾:今回はWEB+DB PRESSで初めての袋綴じということで…(笑)。
ゆ:袋綴じって(笑)。
弾:さっそくですが、Web開発に携わったきっかけってなんですか?
ゆ:僕は大学院まで行ってるんですけど[2]、そのときの研究は、コンピュータをいじることではあったんですが、インタフェースとかアート寄りで、コンピュータは専門じゃなかったんです。で、卒業と同時に父親と会社をやり始めて[3]。Webは興味はあったけど、作る側ではなかったんです。
弾:Webに手を出したのは卒業後?
ゆ:学生のころは一瞬、PHPを…。そのときは、Perlを使おうと思ったらInternal Server Error が出るのがいやだみたいな感じで、PHPでちょっと簡単なデータベースアプリケーションを作った程度。むしろPerl に恐怖感というかコンプレックスを持っていた(笑)。もともとWebにはすごく興味があって、Perlは使ってないけど、どうやらおもしろい技術だというのがだんだんわかってきて、ちょうど会社を立ち上げるちょっと前に宮川さんと伊藤さんが書いた『Blog Hacks』(注4)っていう本が出て。
弾:あの本がきっかけなんだ。
ゆ:ちょうどMovableType が出てきて、プラグインが豊富になってきたり、トラックバックとかRSS が注目されて、ちょっといじってみたいなと思ったんですよ。そのときはHyper NIKKI Systemを使っていました。
ゆ:そのあとにPlagger[5]が出てきて、これ、なんかいろいろできるじゃんって。最初、横浜ベイスターズのニュースページの進捗情報をスクレイピングしてフィードにして[6]。それで、なんかこれでおもしろいことできないかなって考えたら、実はわざわざPlagger を使う必要ないんですけど、エロサイトの更新情報からとってきてまとめられるんじゃないか? って思って。
弾:最適だね(笑)。
エロとカネと正規表現
ゆ:さらにちょっと欲が出て、アフィリエイトがあるから、それを経由したらお金入るんじゃないかって。エロと金ですよね。
弾:もう、動機すばらし過ぎだよー。
ゆ: で、やってみたら、正規表現って何? みたいな感じで。
弾:セイキヒョウゲンって18禁か、みたいな感じ?(笑)。
ゆ:スクレイピングとか、もろ正規表現ですよね。それで正規表現を学んで作ったのが、そんなにアクセスはないんですけど、エロサイトの更新情報を1つのページにまとめて、あ、今日このサイトの新着が、このビデオ上がったなみたいのがわかるサイト[7]。それをカスタマイズしたくて、だんだんPerl を使うようになったのが、Web開発のきっかけです。
アダルトコンテンツのあり方
弾:エロサイトとは言っても、少なくともコードは書いてるけど、コンテンツそのものは用意しているわけじゃないですよね。そのへんは、業界からいちゃもんがついたりしなかったの?
ゆ:とくにそういうことはないです。僕のスタンスとしては、新しいこととかおもしろいことだったらやっちまえと。怒られたら謝るっていうスタンスで、それで怒られたとかは特に今までそんなにないです。
弾:エロ業界の人たちって権利意識が乏しいのかなって思うところがあるんですよね。身体一本でやっているわけじゃないですか。そんなに安売りしてほしくないなあとは思うんですよ。どうなんでしょうね、これだけタダでエロコンテンツが流れてるというのはいいのだろうかという。
ゆ:YouTubeの映像とかもだと思うんですけど、僕はコンテンツを買うという行為に対して、それをもっと試せる機会が増えたほうがいいと思ってるんです。試してみてよかったら買うよねという。たとえばCD屋に行ったら、CDのサンプルで曲が聞けて、これいいなって思って買うじゃないですか。で、それってCDをまるごと聞けるようにしているけど、それは別にそのCD屋とかアーティストにとっては、悪い行為じゃなくて、もちろん宣伝行為ですよね。エロも、CD屋に行ってエロビデオを見るじゃないですけど、そういう感覚で。
弾:人前で見れないですからね。それはもうネットが圧倒的に強いところなんですけど。あと、ただでものを配るときに、ってどうやって儲けるかっていうのは、この業界にいると絶対に考えなきゃいけないことじゃないですか。本の宣伝をしちゃうとあれだけど、ずばり『Free』っていうタイトルの本が、英語では出ていて[8]、日本語でも出るはずです。それは要するに、ただのコンテンツでどうやったら食っていけるかっていう話なんですけど、その中でも代表的なのは、コンテンツをそのまま売るんじゃなくて、経験を売ると。要はCDをただで配ってコンサートに来てもらおうとか。そういうのは結構いろんなところで成り立ちますよね。我々にしても実際そういうところがあって、オープンソースでいろんなものを配っているけど、その代わり、それを見て仕事の注文が舞い込んだりするわけです。でも、AV女優の場合、それに当てはめると、AVがプロモだとすると、コンサートにあたるのは何? っていう。
ゆ:(笑)。
弾:怖い考えになります。僕はそれありだと思うんだけどなあ。
ゆ:そのコンサート、お金払ってでも行きたいですね(笑)。
弾:たっぷりお金払ってでも行きますよね。というのか、そのへんどうなっているのかはやっぱり気になります。ちゃんとたいへんな仕事に見合っただけの報酬はあげてほしいし、彼女たち、彼らに。
ゆ:その点では一応、フリーで見られるコンテンツに対して、それとマッチさせたものを、オンデマンドの課金サービスで、高画質で全編見られるサイトの広告を出すしくみを考えて今、運用しています。それはそれで、ついつい自分で自分の作ったサイトを見て、あ、この女優気に入っちゃったよみたいな(笑)。僕、結構そういうのがあるとつい、もっときれいに見たい、もっと大画面で見たいよ、ってなって、買っちゃうんですよね。
弾:だからちゃんとそこでお金の動きが生じると。
ゆ:今後もそういう使われ方のサービスにしていきたいと思います。
欲求を満たす恥ずかしさ
弾: 1 つ不思議なのは、エロはなんでここまで特別扱いされるのかな。確かに(欲求としては)強いですよ。でも、それを言ったら食欲も1つのジャンルを確保しているわけじゃないですか、『美味しんぼ』じゃないけど。なのに別に飯食うことは恥ずかしいことだと今はされてないですよ。でも実は一昔前は、人前で飯を食うというのは人前でやるよりも恥ずかしかったっていう時代だってあったわけです。
ゆ:なるほど。そうですよね。
弾:自分の生理的欲求を満たしてるところを人に見られるのって恥ずかしく感じるみたいなんですよね。なんでだろうって考えたら、たぶん、そのときがスキありの状態になると。
ゆ:なるほど。
弾:だからやってるとき、トイレに行ってるとき、飯食っているときっていうのは人間が一番無防備になるときでしょう。そういうところを描くから物語というのはおもしろいのであって。ということになれば、エロを特別扱いする必要はないんじゃないかなと。
ゆ:そうですね。僕も「エロギーク」と呼ばれて別に恥ずかしいとは思いません…(笑)。
弾:人間として正しいよ、それは(笑)。
非同期系
弾:最近はどんな技術に注目していますか?
ゆ:さっき、malaが発表してましたけど[9]、やっぱり非同期系は気になっています。Web API、Web サービスは昔からすごくおもしろいと思っていて、個人でも巨大な、たとえばAmazonのデータベースを読める、本の情報をとれるっていうのがすげえなと思ったんですけど、最近はTwitter がおもしろいと思っています。一番おもしろいのはストリームAPI で、宮川(達彦)さんが作った、AnyEvent[10]のAnyEvent::Twitter::Streamっていうのがあって、ストリームAPI がそのまま使えるんですけど、キーワードをトラックできるんですね。まだ日本語対応してなくて、日本語対応してほしいなと思っているんですけど、たとえばHelloとか入れとくと、みんながHelloって言っている言葉をポーリング[11]なしでそのままつなぎっぱでとってこれるんですよ。だからリアルタイム。ある程度Google Waveとかも関わってくるんですけど、リアルタイム性のあるコミュニケーションが、Twitterも、あれほどみんなおもしろいと思っているということは、徐々に来るんじゃないかなと。
いまどきのリアルタイム
弾:今、非同期とリアルタイムという言葉が出たけど、リアルタイムに関してはずーっと昔にブームみたいなのがあったんですよ。リアルタイムOSとか。そのときのリアルタイムっていう言葉と今のリアルタイムっていう言葉は結構違っていて、昔のリアルタイムっていうのは、きっちり仕事を終えるっていうのにかなり重きを置いていたんですよ。この一定時間内にこの仕事が終わらないとっていうものすごい、要は絶対タイムアウトしちゃいけないよ、みたいな。ところが、今、注目されているものは、結構ぽろぽろこぼしてもいい。Twitter の検索とか、かなりこぼれますよね。
ゆ:こぼれますね、あれは。
弾:だからリアルタイムエンジンっていうのはこの程度でいいんだなっていう。
ゆ:リアルタイムっていうか、垂れ流してるよみたいな感覚ですよね。
弾:多分にこれはミッションクリティカルでないところが。
ゆ:そうそう、おもしろい。
弾: Twitter できなくても死ぬわけではないですよね。だけど、たとえばこれが110番のシステムとかで取りこぼしが出たとかって言ったら、やっぱいやでしょ。
タイミングや時間を活かしたサービス
ゆ: Twitter はコンテンツを持っているじゃないですか。ほかにリアルタイムというか、垂れ流しでやったらおもしろいもので、何があるかなって、考えていて。
弾:一方的に流れているものをまとめてあたかもそこにコミュニケーションが成立しているように見せる、あるいは本当に成立しちゃうっていうのは今、ものすごいウケがいいですよね。もう1 つ例があって、ニコニコ動画。
ゆ:ああ、そうですね。
弾:あれのコメントは完全に非同期。なのに、あたかも同じ場所にいるように見えるわけでしょ。
ゆ:そうなんですよね。おもしろいですよね。
弾:互いに相手のことを考えないで、垂れ流しにしているものを1ヵ所に集めてみたら、なんかそこにコミュニケーションが成立しているっていうのはおもしろいなと。
ゆ:タイミングとか時間をうまいこと活用したサービスはやっぱりおもしろい。それに則ったコンテンツとかサービスを注目していきたいし、自分も作っていきたいなと思いますね。
一対一のコミュニケーションは減っている
弾:その一方で、僕みたいなおっさんはたぶんおもしろいなの前に、なんでこんな不安定なんだ? っていう。昔はぶっ壊れるとやたら怒られる世界にいたので。
ゆ:(笑)。なるほど。最近はでも、ぶっ壊れても平気、また止まったみたいに思う傾向に。
弾:Web 2.0ならしかたないみたいな。
ゆ:明示化されてないけれども、そういう考え方は、世代とか、時代の変化によってだいぶ変わっていく可能性はある気がしますね。
弾:変わっていくでしょうね。僕自身も自分を観察していてわかったのは、シカトする・されるというのに、ものすごく慣れた。声をかけたら絶対返事しなきゃいけない、メールの返事は絶対書かなきゃいけないっていうのが昔は雰囲気としてあったでしょ。それがどんどん弱くなっている。
ゆ:それ、ありますね。
弾:答えが返ってこなくて当たり前、返ってきたらめっけもんという。そのへんは自分のマインドセットもかなり変わっている。
ゆ:わかります。そうすると、人との付き合い方も変わってきますよね。
弾:たとえば一度でもメッセージを交換したことのある人の数ということで言うと、Webができる前と後は2桁くらい違うはず。
ゆ:そうですね。
弾:たぶん人間が持っている人と付き合うために割ける労力は一定なので、その分、1 人の人に割けるコミュニケーションのための労力は減っているはずなんですよ。で、それを減らすものがことごとく当たっている。電子メールが初めに来たときもそうだし。ブログもSNS もそうだし、Twitterもその流れで解釈できる。
ゆ:減らすんですね。返信されること自体を減らすようなツール。
弾: 僕のTwitter も8,500 人くらいフォローしているみたいだけど、でも、その人たちが全員RTしたら、Twitter、即死じゃん(笑)。結局そのうちの0.1%くらいしかRTしないけど、でもそれでも十分にぎやかに見える。
親父さんと一緒に仕事
弾:親父さんとは何がきっかけで一緒にやることになったの? 親父さんが会社を持っていて、それを継いだというわけでもなくって、定年退職した親父さんと一緒に仕事を始めたっていうのは、すごいレアケースなんだよね。
ゆ:もともと2人とも会社をやりたいっていうのはなんとなくあったんです。僕は大学院卒業したあと、行きたいところがないっていうのがあって。ニートでもなるかって思って(笑)、そうしたらいつのまにか親父が会社を作っていたっていう。最近一緒にやり始めたのは、親父がこういうのを作りたいってほかのところと組んでやろうとしても、なかなかそういう相手っていないんですよね。やろうとしていることが新しい概念だったり、結局は先方はそれほどやりたくなかったり。それで、じゃあ、俺がやってやるぜみたいな感じになって。それで現在に至るという感じです。
弾:僕のところにも企画だけ持ってきて、あとは金を出してくれっていう話が来ます。具体的には何をやりたいんだというと何も返ってこない。そういうの、欲求弱過ぎるよね。とりあえず始めちゃって、動かしてくうちに、やってみて、初めて何が足りないっていうことがわかるじゃないですか。金だったり、人だったり、技術力だったり。やってみてわかったので、これだけ足りないって言っているのと、鉛筆をなめて計算しただけっていうのは全然違う。
ゆ:そうなんですよね。
優れたエンジニアとは
弾:優れたエンジニアっていうのはどんな人を指すんだろう。
ゆ:今までになかったようなアイデアを自分で作れちゃうような人はすごいと思います。で、何度も題材に挙げて申しわけないですけど、やっぱり宮川さんはすごいと思うんですね。たとえばPlaggerとかRemedieとかWeb::Scraper[12]とか、アイデアだと思うんです、結局。
弾:そこにあるもので作るっていうのはすごいと思うよね。
ゆ:実装もきれいなのはもちろんだし、でもただ作れるだけじゃなくて、いい具合の、今までこれなかったよね、みたいなものじゃないですか、結構。それをさくさく作ってしかも、割と実用レベルまで作っちゃうところがすごいなと。あと奥一穂さん。Q4M[13]も、すごくいいなあと思いますね。それだけではプロダクトにはならないけど、そのために欠かせないアイデアを含んだモジュールを作れる人はすごいなあと思いますね。そういう人に限って、コードがきれいで。
弾:二通りあるよね。そこにあるものを組み合わせて結構なものを作っちゃう「宮川タイプ」というか。奥さんは、逆に道具のほうから作り始める。
ゆ:そうなんですよね。2 人ともタイプが違う。
弾:ちょうど日本のPerl mongers としては両極端かな。
ゆ:2人とも良いもの作るんですよね。
読者に一言
弾:というわけで、読者に一言。
ゆ:欲から入るプログラミングとか開発もありだと思うし、あとは、自分ではたいしたことないと思うんですけどいろいろ作ってると、僕もこういうの作りたいみたいに言う方もいるんですけど、先に手を動かして作っちゃうということが結局一番大事かなと。
弾:そうだよね。僕もブログぐらいだと、書いてたと気がつくのはサブミットボタン押したあとだったりするんですよ(笑)。
ゆ:僕も最近、気になることがあると、コードが先に出てくるようにだんだんなってきて。
弾:欲求って、大きいよね。
ゆ:だんだん、そういう体質になると思うので、最初は「俺、サンプルプログラミングなんかプログラミングしてる、初心者でやだな」っていう感じかもしれないけど、そうじゃなくて、それにも意味があるっていうことを自分で考えたりとか、いくらしょぼいものでも、自分で楽しんでやろうって考えると、考え方が変わると思う。というかそうじゃないと始まらないですよね。そんなスタートアップでどんどんコードを書くようにするといいかなと思います。
Oppai-Detect
弾:最後に、エロで新しめのネタとかない?
ゆ:Oppai-Detect。
弾:OpenCL[15]に顔検出のライブラリは入ってるよね。
ゆ:写真の、ココとココとココとココを囲んだところがおっぱいですよっていうのを学習させて。それを何万っていう数を何週間もかけてやらないと精度が出ない。一度、1,500 枚くらいでやったことがあるんですよ。自分でひたすら囲むっていう。
弾:人に投げちゃえばいいじゃん。おっぱいを探せみたいな。
ゆ:それを、いつかのクリスマスにリリースしたいと考えています。みんなでOppai-Detect を作ろうっていうプロジェクトで。
弾:すごいなあ。そういうのを積み重ねていけば、いろんな部分がきっと機械認識できるようになるよね、それもオープンソースで。
ゆ:ソーシャルで、たとえば「この写真をダウンロードするには、おっぱいを囲まないとダウンロードできません」みたいなイメージ。
弾:静止画像で、きちっとこの部分はこれだって認識するっていうのはいまだにすごい技術であり続けてるよね。実は動いているもののほうが、簡単なんです。オムロンとかが作ってる歩いている人の顔を見つけるものは、意外に簡単なんですよ。動きがあるほうが見つけやすい。でもじーっと止まった絵を見て、これはおっぱいというのは、難しい。
ゆ:それをみんなで作ってみようよ、みたいなのをやろうかと(笑)。
弾:じゃあ、Perl とおっぱいのますますの発展を祈って(笑)、このインタビューの終わりにさせていただきたいと思います。