はじめに
IT系の雑誌記事では「上流工程が大事」と言われ続けています。そして、システム屋は「経営がわからないとダメだ」「現場の業務知識が足りない」など言いたい放題に言われています。「餅は餅屋」という言葉があるように、従来は自分の専門分野をきちんとやっていればよかったはず。しかし、餅以外の知識や経験を求められるわけですから、はたから見ていると気の毒に感じるくらいです。
しかし現実には、「経営者の要求をミス解釈、業務知識の理解不足により使いにくい/使えないシステムができあがってしまった」という問題も少なくありません。だからといって、“今、できていない現実”という後ろ向きの話をするつもりはありません。「ビジネスがわからないシステム屋はいらない」と言わせないために、ワンランク上のシステム屋になるためのヒントを3回の連載を通してお伝えします。
システムはできた…けれども課題は山積み
システムはできたが、現場の課題や経営課題は山積みのまま残っている。このような状態が、あなたの周りで起きていませんか?
予定通りにシステムをカットオーバーしたものの、安心したのは束の間。現場やエンドユーザーからは「使いにくい」「使えない」、経営側からは「投資に見合った効果が出ていない」という声が聞こえます。あなたはシステム屋としては、システムを稼動させるという“やるべきことはやった”はずなのに、ビジネス側の人間は満足しなかった。後味も悪く、なんとなく面白くない…。
システム化の目的が立場によって異なる
あなたの目的はシステムを導入し、予定通りに稼動をさせることでしたが、経営や現場の目的はどうやら、そうではなかったようです。
- 経営にとってシステム導入は、目的ではなく手段の1つであり、結果を求めていた
- →(でもね…)「効果が出ていない」
- エンドユーザである現場は、システムは自分たちの仕事を楽にしてくれるツールだと思っていた
- →(でもね…)「使いにくい」「使えない」
このように、各々の立場で目的が異なっていたので、結果に対する期待も異なり、(でもね…)のような望まない言葉をもらうことになりました。欲しい言葉は「ありがとう!」だったのに。
経営者の関心と現場(エンドユーザ)の関心を知ろう!
経営者の最大の関心は“結果”です。別の言い方をすれば“効果”です。一方、現場の関心は“効率”です。経営者からは「効率を上げるように!」などと言われますよね。現場の効率化、その解決手段の1つがIT化です。そして、現場の効率を高めながら、最大の効果を得ることが経営とも言えます。
関心が異なれば、目的が違います。まずは、この関心の違いをシステム屋は頭に入れておきましょう。
ビジネスの背景が見えると結果が変わる
ある会社のビジネスの背景を見てみましょう。あくまでも一例です。
- ステークホルダー(利害関係者)との関係性を重視し過ぎる:きれいに自社をアピールしたがる傾向が強い
- 製品・サービス:独自性はあるが、高価で信頼性も低い
- 顧客・競合等の市場:低価格戦略の競合他社が多い
- 業務・組織特性:ノウハウが属人的(個人に蓄積)で、品質よりも納期を重要視する特性
- 組織・風土:部門間にセクショナリズムがある、指示待ち体質
システムの要求仕様を考える際に、このようなビジネス側の背景(経営や現場のこと)を知っていると知らないとでは、システムの出来不出来ともたらす結果が大きく異なってきます。背景を知っていればこそ、「あー、だからこういうシステムが欲しいんだな」と、納得度も高くなります。
誰よりも経営をわかっているのは経営者とその側近、業務をわかっているのは現場。ビジネスの背景をシステム屋が知るためには、「ITに関する知見や専門性」に加えて、「経営や現場の視点」が必要です。さらに「客観性」という観点も重要となります。
使われるシステムにすること(ハコモノに魂を入れる)
ビジネスの背景が見えてくると、システムが経営や現場のオペレーションに与える影響も見えてきます。新たな課題も発生します。たとえば、システム導入に伴い、現場に対しては作業手順や業務プロセス変更を伴う場合もあります。
せっかく作り上げたシステムが現場で使われるようにするために、システム開発や導入以外の「現場の環境づくり」や「業務改善」を併走するなどの提案と実行支援を行う。システムを作りっぱなしにすることなく、“ハコモノに魂を入れる”役割も、これからのシステム屋に求められる必要要件となるでしょう。
「システム導入は…不要です」と言い切れるシステム屋の姿が「超上流」のプロ
現場において、効率が上がるのであれば、解決手段はシステム導入でなくてもいいわけです。経営者としても設備投資がいらないので、願ったりかなったりでしょう。しかし、「システム導入は不要です!」こう言い切れるシステム屋は、なかなかいません。
システム以外の解決手段をシステム屋の皆さんが見出し、また、システムを設計する際に、ビジネス側のリクエストを理解納得しながら行うことが大切です。現場の巻き込み方やコミットメントの取り方も必要になります。
システム屋が、もともと経営企画や戦略コンサルティング会社が分析等を行っていたようなエンタープライズアナリシスの「超上流」の領域に入り、現場の業務にも精通し、常に何が最適かを考え、時には専門のシステムも削ぎ落として、ベストなソリューションを提供できたら最強です。
「システムの原点はビジネス」であることを再認識していただければ幸いです。
第2回は、「経営や現場の視点」という観点でお話をします。