2つの方向からの分割
それではコードを分割していきましょう! ……でもちょっとだけ待ってください。あと1点だけ。コードの分割のプロセスには、大きく分けて2種類あります。トップダウン方式とボトムアップ方式です。
トップダウン方式
トップダウン方式では、まず必要なクラスやメソッドを洗い出して分割し、そのあと実装を行います。洗い出しはUMLやホワイトボードを使ってクラス設計したり、テスト駆動開発のように「クラスの使われ方」から洗い出したりします[4]。乱暴にいうと「俺にとって都合のよい、こんなクラスがあったら便利だな」といった具合に、「俺視点」でクラスを創造する方式です。筆者は「神の気分でプログラミング」と呼んでいます。あるプログラマの頭の中での「神々たちのつぶやき」を聞いてみましょう。
私は神だ。これからメール送信を行うクラスを創造するぞ。必要なのはメールを送信するMailSenderクラスだ。必要なメソッドは、そうだな、メール本文のテンプレートデータとメールアドレスとパラメータを受け取ってメールを送信するsendメソッドがあればよいだろう。
私も神だ。まただまされたな、SMTPサーバのホスト名やポートの指定は必要ないのか?
だまされてはおらぬ、実はもう一つコンストラクタが用意されておるのだ。これでどうだ?
いや、まただまされたな。CCやBCCが追加されるとどうなる?
だまされてはおらぬ、実はMailクラスを用意して引数オブジェクトにするつもりだったのだ(汗)。これでどうだ?
「暇を持て余した神々たちの設計」(注5)の結果、MailSenderクラス、Mailクラスの外部APIが決定しました。このように使い方=APIから考えて、クラス分割された設計図を作成します。
トップダウン方式は設計の書籍などでもよく取り上げられますし、いわゆるクラス設計という作業はこちらの方式そのものです。
問題は「トップダウン方式は思ったより難しい」という点です。トップダウン方式を行うためには、ある程度のプログラミング経験やクラス設計の力が必要になります。「コードを何手か先まで読める」状態でないと「神の気分」になることは難しく、「何を書いてよいかわからない」ということになりかねません。また事前の予測が外れると大きなダメージを受けることがあります[6]。
なお、トップダウン方式は行き当たりばったりではないので、APIや分割の単位は比較的きれいに整理されることが多いです。
ボトムアップ方式
ボトムアップ方式はあとから分割する方式です。「とりあえずベタに書いてみて」、そのあとリファクタリングで分割していきます。ボトムアップ方式はシンプルで簡単ですので、初心者の人にはこちらがまずはお勧めです。先ほどのメール送信の例を、今度は「神々」ではなく「普通のプログラマ」にやってもらいましょう。
まずはメール送信を行う処理を書いてみよう。「Java メール送信」でググって、コピって、貼り付けて、……おっとさすがに変数名とかは読みやすく変えておかないと怒られるなー。
できたー。
アドレスとか変わっても共通で使えるように、メール送信処理をメソッドに抽出するのじゃ。
分割してみたー。
ボトムアップ方式は、先に実装コードを書いて、動くようになった時点で分割していきます。この方式は分割を簡単に実現できるので、初心者の人にはまずはこちらがお勧めです[7]。また、トップダウン方式と比べて最低限のシンプルなAPIになる傾向があります[8]。
実際には、トップダウン方式とボトムアップ方式を組み合わせてコードの分割・整理を行うことが多いです。決して対立する概念ではありませんので、うまく使い分けて相互補完するのがポイントです。