コミュニケーション能力
将来アメリカで働きたいと思っている若い人たちに会うとよく聞かれる質問がある。「英語とプログラミング以外で大事なことは何ですか」だ。そういう場合は「コミュニケーション能力かな」と答えている。そうすると「やっぱり英語か」と言われたり、キョトンとされたりする。そうなるのもよくわかる。コミュニケーション能力が大事なのは誰でも知っている。就職支援サイトでいくらでもそういう記事を読むことができるだろう。何をいまさらというわけだ。
しかしながら筆者の頭にあるコミュニケーション能力は、
- 誰とでもすぐに仲良くなる
- 社交の場でそつなくこなす
- あまり話したことない同僚とエレベーターでたまたま一緒になっても平気
などではない。筆者はそのようなものは1ミリも持ち合わせていない(いばれることではないが)。筆者はコミュニケーション能力が高いとは、「常にそこにいる」ことだと思う。今回はこの「常にそこにいる」を、例を交えて紹介しよう。
常に話を聞く姿勢を持つ
仕事はチームワークであることが多い。日々同僚と一緒に仕事を進めているだろう。コミュニケーションの手段は、メール、チャット、ミーティング、コードレビューなどだ。
チームでの仕事における「常にそこにいる」とは何だろうか。それは常に話を聞く姿勢があることだ。ミーティングの場合はわかりやすいだろう。自分の言いたいことを優先するのではなく、相手の話をさえぎらず聞くことだ。これは読者のみなさんも同意してくれると思う。ではミーティングとは異なるメールなどのコミュニケーション手段において、常に話を聞く姿勢を持つとは何を意味するだろうか。1つずつ見ていこう。
メール/チャット/コードレビュー
メールなら必ず返信をすることだ。「必ず」とは9 割とか99%ではない。文字どおり100%返事をするということだ。長い返信を書く必要はない。短い同意だけでもよい。すぐに返信する必要はない。ミーティングなどですぐの返事が無理な場合もあるだろう。
大事なのは、「あの人は必ず24時間以内にメールの返事をくれる」というような信頼を得ることだ。これは2つの側面がある。
1つ目は信頼されて良い人間関係を築けることだ。逆の例を考えればわかりやすい。みなさんも「あの人はなかなかメールの返事をくれないなあ。ひょっとしたら見逃されたかな」と一度は思ったことがあるだろう。
2つ目は相手を心理的重荷から解放できることだ。もしあなたが必ず返事をする人ならば、メールを送った側は「返事が来るかどうか」や「催促の必要があるか」などを考えなくても済むのだ。これも逆の例を想像してほしい。チームメイトがあまり返事をくれない人だったら、催促することを覚えておかないといけない。催促するときにも面倒だし憂鬱だろう。
これらはチャットやコードレビューにもそのまま当てはまる。返事やレビューし忘れがないように気を付けよう。
チケット
タスクやバグのトラッキングにJIRAのようなシステムを使っていることもあると思う。チケット上でも常にそこにいよう。チケット上での「常にそこにいる」とは、チケットの状態(進捗・詳細な情報)を常に最新に保つことだ。これもコミュニケーションだ。
マネージャーの立場になってみればそのありがたみがわかる。「あのタスクはどうなったかな。大丈夫かな」とか「取締役から進捗を聞かれたけど、どこまで進んでいるんだっけ」と思ったときに、チケットを見るだけで状態がわかるのはとてもありがたい。わざわざ本人に聞く必要すらない。
まちがっても、週次のスプリントミーティング直前に慌ててチケットを全部InProgress(進行中)/Resolved(解決済み)にするようなことがないように心がけよう。
オフラインでの会話
オフラインでリアルに話しかけられたときも常に話を聞く姿勢でいよう。ノっているときに割り込みされたからといって、不機嫌な感じで応対したり、相手の顔を見ずにキーボードをたたきながら返事をしたりしてはいけない。そのようなことを繰り返したら、あなたは遅かれ早かれ「話しかけづらい人」になってしまい、コミュニケーションがうまくいかなくなるだろう。
もしも本当に忙しくて応対する余裕がない場合はどうしたらよいだろうか。正直に「今は時間がないがあとで必ず話を聞く」ことを伝えればよいだけだ。もちろん大事なのはそれを必ず実行することだ。忘れてしまって相手に催促させるのは最悪だ。特に新人・後輩から話しかけられたときは、意識的に優先して聞く姿勢を見せることが大事だ。
最後まで面倒を見よう
チャットの返信のような小さなことから、長いスレッドが続いている技術的な議論のような大きなことまで、ほかの誰でもないあなたがすべて最後まで面倒を見よう。そういうものは誰かが返事を忘れたり、長い休み明けに忘れられたり、誰がボールを持っているかわからなくなったりする。意図せず止まってしまうことがよくある。最後までそこにいて面倒を見よう。あなたがそこにいる限り物事が進むと周囲に認識されるのが理想的だ。
99%から100%のコツ
常にそこにいて100%返事をするのは難しいと思うかもしれない。とにかく根性でがんばるしかない。というのは嘘で、ツールを使おう。たとえばメールの場合、受信箱をゼロにするinbox zeroテクニックとスヌーズ機能を利用する。受信箱をきれいに保ったまま、会話が止まってしまったときには簡単に気付けるだろう。返信をする時間をカレンダーで確保しておくのもよい。ToDo アプリをうまく活用すれば、返事忘れも防げるはずだ。
精神的なリーダー
あなたは実際にテックリードのようなリーダーの役割かもしれないし、ただのエンジニアかもしれない。どちらの場合も心の中で自分がリーダーだと思おう。チームに来た問い合わせは率先して常に答えるようにしよう。できれば常に一番に答え続けて、チーム内外から「チームの顔」として認識されるようにするとよいだろう。そうすると自分の周りでコミュニケーションがうまく回っていく。注意してほしいのは、常に全部自分でやる必要はないということだ。問い合わせであれば、詳しい同僚を紹介してあげて最後までフォローアップすればよい。
まとめ
さて、ここまで「コミュニケーション能力」=「常にそこにいる」ということを述べてきた。筆者が前述の若い人たちにこれを勧める背景を説明したい。
この記事を読んでいるみなさんは、職場で周りの人と比べておそらく優秀であると思う。雑誌を読んで最新の技術をキャッチアップする人なのだから。優秀な人というのは、職場で多少横柄だったり、コミュニケーションに難があったりしても大目に見てもらえることが多い。「あの先輩はちょっと気難しいし、何をやっているかわからないけど、一番コードが書けるよね」といった具合の人を見かけたことがあるだろう。
しかし職位が上がったり、良い職場に転職したりすると、自分と同程度の技術力を持った人が周りに増える。そうなるともはや大目に見てもらえなくなる。技術でとがることは難しいし、技術以外の部分でも要求されることは多くなる。特にチームワークが上手なことと、selfsucientであることが要求される。
self-sucientとは、「自分のことは自分でできる」という意味だ。より具体的に言うと、ほかの人とうまいことコミュニケーションをとってプロジェクトを前に進める力のことだ。そこで必要になるのは「誰とでもすぐに仲良くなれる」コミュニケーション能力ではない。今まで述べてきたように、どんなときにも常にそこにいて、自分の周りで物事をスムーズに動かすことができる力だ。別に無口で社交性が低くても問題ない。ツールの助けを借りつつ、少しだけ意識を変えて各場面で「常にそこにいる」ように心がければよい。これらは自他ともに認める非社交的な筆者も実践できているので安心してほしい。
明日からさっそく「常にそこにいる」を実践してみてほしい。
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