最適化
エンジニアは最適化が好きだ。今動いているものを速くしたり、効率を良くしたりすると気持ち良い。問題点を発見し改善するプロセス自体が刺激的なのだ。そういう考え方が癖になっているので、プログラミング以外の日常でも同じようなことが起きる。今回はそんな話である。
何も持たない
何も持たない。ここ数年流行っている断捨離のことではない。できるだけ持ち歩くものを減らそうという個人的なキャンペーンのことだ。きっかけはサンフランシスコから東京に戻ってきたこと。よく歩くようになった。毎日の通勤、日々の買い物、おでかけ。意外と歩くことが多い。Apple Watchでトラッキングしているが1日5km歩くことも珍しくない。
そんなある日、息子の遠足用のパックパックを買い、とても驚いた。バックパック自体が想定外に軽いのだ。遠足・山登り用なので軽いのは当たり前なのだがそれにしても軽い。そして十分に機能的であった。一方筆者が使っていたのはおしゃれで機能的だが重いものだった。カバンだけで重さが約2kgもある。
ここでふと気付いた。この重さの違いは積み重なると大きいのではないか。概算して毎日4kgの荷物を背負い、徒歩で5km動かすのだ。これが1ヵ月、1年と積み重なることを考えてみてほしい。ひょっとしてそのうちのいくらかは不必要なのではないか。5kgの鉄アレイを毎日背負っている人を見かけたら「それ必要なの?」と問いたくなると思う。体への負担も大きいだろう。こういった疑問が湧いてきてしまった。これがきっかけで持ち歩く荷物を減らそうという試みを始めた。
カバン
第一ステップとして、軽いバックパックを購入した。息子のものと同じメーカーにした。重さは400gであった。トータルでは1.6kgの減量だ。以前のものと比べると羽のように軽かった。肩への負担がとても少ない。
劇的に荷物が軽くなったのだが、次の点が要改善であった。ポケットが少ない。大事なものはファスナー付きのポケットに入れたい。また、社員証を取り出しやすいような外部ポケットがないのも利便性に難があった。あと盲点だったのは、肩かけの部分の素材が普段着る上着の素材と相性が悪くズルズルすべること。こういったマイナスポイントがあった。
カバン選びは本当に難しい。過去に買ったカバンの失敗ポイントを覚えておいて次に活かすべきである。たとえば筆者はバックパックを買うときに、次のようなポイントをチェックしている。
防水もしくはちょっとの雨では中身が濡れない
カバン全体を下ろさなくてもサイドからものが取り出せる
肩ひも部分が十分に太い
他人とあまりかぶらない
飽きるのが早くなるので奇抜な色にしない
モノの移動
なぜかばんに荷物が多いのだろうか。それはモノを移動させる必要があるからだ。モノを移動させる必要があるのは人が移動するからだ。つまり人が移動しなければこの問題は発生しない。
人が移動しないといけないのは、職場が別の場所にあるなど、物理的に移動しないとできないことが多いからだ。つまりこの最適化問題は、在宅勤務やVR(Virtual Reality )などで解決する可能性がある。筆者はまだそこまで踏み込めていないが、そちらに未来があるような気もする。
PC
みなさんはそろそろお気付きかもしれないが、問題はカバンの重さだけではない。中身のほうが重い場合もある。この業界であれば圧倒的にPCが重い。筆者は仕事用のMacBook Pro(1.6kg)を持ち歩いていた。これは冷静に考えると相当に重い。週刊の少年マンガ誌3冊分と同じくらいだ。加えてアダプタを持ち歩いている人も多いだろう。家で仕事を一切しないのであれば会社にPCを置いておけばよいのだが、筆者の場合は突発的なWFH(Working From Home 、家で仕事)などに対処するために家でもPCを使う可能性がある。
これは、家に会社支給のChromebookを置くことで解決した。通勤経路の両端にPCを置いておけば、通勤中は持ち歩かなくてよい。個人的にこれを両端作戦と名付けている。両端のみで使うものはその経路上(通勤時)には必要ないのだ。
財布、ケーブル、バッテリー……
さて、どんどんカバンを軽くしていこう。重いものから攻めていこう。ポイントは「いつも持ち歩いているけど、これは本当に使っているだろうか。ないと困るだろうか」と自問すること。
次に重いのはやはり財布だ。細かく分析すると3つの主要素がある。
まずは硬貨。当たり前だが金属なので重い。圧倒的に重い。現金の使用を可能な限り控えてApple WatchのSuicaやクレジットカードをメインで使うようにし小銭が増えないようにしているが、すぐにたまってしまう。財布がパンパンにふくらんでいることも珍しくない。硬貨を減らす方向で買い物のときに注意すればよいのだが、最近は使う機会もないのでそれも難しい。筆者は諦めて貯金箱を家に置いて、余分な硬貨は定期的にそこに入れるようにした。
次にカード類。各種ポイントカード、クレジットカード、身分証明証、保険証、銀行のカードなど気付けば10枚以上のカードを持っている。ポイントカードは基本的に持たず、クレジットカードと銀行のカードは1枚ずつ。身分証明証と保険証は必須なので持ち歩くことにした。迷ったのは病院の診察券だ。内科、皮膚科、大学病院と3枚もある。診察券は複製がないので両端作戦は使えない。会社の帰りに病院に行きたい場合もある。しかし診察券は、「 すみません。今日忘れました」と言えば、名前や保険証などから照合してくれて許してもらえることが多い。なくしてしまえばよいのでないかと考えている。とはいえなんとなく不安なので、診察券の写真を撮ってEvernoteに入れて、もしものときに備えている。
最後に財布自体の重さ。カバンの重さと同様に見逃しがちだが革製だと意外と重い。これは次に財布が壊れたときに軽めのものに買い替えたいと思っている。
地味だがiPhoneのケーブルやモバイルバッテリーも冷静に考えるとほとんど使っていなかった。通勤中に電池切れになることはほとんどない。職場についてしまえば、ケーブルもあるし充電も可能である。これも両端作戦が適用可能な例だ。
カバンレス
さて、持ち物を減らしていくとカバンそのものを持たなくてもよいことに気付いた。持ち物はiPhone、財布、社員証の3つだ。それらをポケットにしまえばカバンレスになる。ついに筆者は限界ラインを突破した。カバンを持たずに通勤できるのだ。そのときの感情は次項を読んでほしい。
ただし、ごくまれに突発的にカバンが必要になる場合がある。会社から何かを持ち帰らないといけないことがある。電子的に送れるものであればそれで済ませられるが、無理な場合もある。たとえば先日あったのは、人間ドックの書類と検査容器。この場合は紙袋で持ち帰る。これも会社に紙袋をいくつかおいておけばよいだろう。
何も持たない世界
カバンを持たない。何も持たない世界は全然違って見える。今まで背負っていたカバンはまるで拘束衣だったかのように感じる。出勤する途中でも、「 気が変わったらこのままどこかに遊びに行ってしまってもいいんだ」という気持ちになる。まるでカバンが通勤という儀式を代表していたかのようだ。会社に向かっていてもまるで散歩しているかのようである。仕事が終わると上着を来て同僚に挨拶して帰る。カバンにものを入れる、カバンを持つという2ステップがなくなり、とてもシンプルになる。
手ぶらの弊害
手ぶらは良いことばかりではない。これは筆者の被害妄想かもしれないが、カバンを持たない人は不審に見える。ましてやスーツではない職場なので私服。さらに風邪予防のためにマスクを付けている。見た目がかなり怪しくなる。春になればもう少し見栄えが良くなるだろうか。また、カバンというアクセントがなくなることでファッション的な座りが悪くなるのも気になる点ではあるが、メリットと比べたら大した問題ではない。
まとめ
あることがきっかけで、普段当たり前に持っている荷物の大半が不要なものであることに気付いた。そこで若干やりすぎの最適化をしたという話である。これと同様なことはまだいくつも考えられる。筆者はかねてから、歯磨き、爪切り、ひげそりに不毛さを感じている。なぜ毎日同じようなことをメンテナンスタスクとしてやらなければいけないのだろうか。なんとか自動化したりなくしたりできないだろうか。テクノロジが解決してくれる日は来るだろうかと考えている。
富豪的アプローチ
富豪的プログラミングという言葉がある。メモリやCPUなど計算資源が潤沢にあることを前提とすると、プログラミング自体が素直でシンプルになる。またより良いユーザー体験も提供できる。そういったことを意味する言葉だ。
日々の生活の最適化でも、この富豪的アプローチが適用可能だ。たとえば「家でしょっちゅうメガネを探している」という問題に対して、「 置き場所を決める」「 気を付ける」という方法はとらない。同じメガネを10個用意して家中にばらまくことで解決するのだ。保険証を持ち歩くのを諦めて、全額自己負担で乗り切るのも富豪的アプローチと言える。
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