継続は力なり―大器晩成エンジニアを目指して

第8回無駄な英語勉強

IT業界は比較的英語が必要とされる。ドキュメントは英語で書かれていることが多く、多くのニュースは海外からやってくる。プログラマーは英語の必要性を感じやすい職業と言えるだろう。

そのようなわけで、筆者も細々と10年以上英語を勉強してきた。いつかシリコンバレーで働いてみたいと勉強し、幸運なことに数年前に、ぼろぼろの英語力で何とか面接を突破してアメリカ企業に就職。サンフランシスコに4年ほど住み、現在では東京に戻った。日々の仕事をこなす程度の英語は話せるようになった。帰国子女でもない自分が試行錯誤して何とか仕事で英語が使えるようになったのだ。ふりかえればうまくいった勉強方法もあれば、無駄だったものもある。そんな経験をもとに、今回は英語の勉強方法を紹介したいと思う。

目標

まず目標を明確に絞ろう。目標があれば、優先順位を付けやすくなる。目標は「日本にいながら、外資系企業の面接に必要とされる程度の英語力を身に付ける」である。面接という限定された場面での英会話であれば、想定されることがずっと少なくなる。必要なものは次のとおり。

  • 英語での短い自己紹介
  • 技術的な文脈で相手の質問を理解する
  • 相手の質問に答える
  • 相手に質問できる

逆に次のようなものは目指さない。

  • 帰国子女並みの発音
  • ランチやお酒の席でのランダムな話題の会話
  • 英字新聞が読めるほどのボキャブラリ

完璧を目指さないことが上達の第一歩である。

発音

発音はこちらが言っていることが通じればよしとしよう。通じるかどうかは後述の会話編でフィードバックを受けるとして、まずは基礎を押さえる。

ご存じのとおり、英語には日本語と異なる母音と子音がある。英語の母音と子音をある程度正しく理解していないと、何を言っているかわかってもらえない。日本語を例にするとわかりやすい。⁠うどん」と言おうとしている外国人が、母音を間違えて「えどん」と言ったら、通じるだろうか。さらに子音も間違えて「えでん」ならどうだろうか。⁠うどん」と言おうとしていると推測するのはかなり難しいだろう。

発音は種類に応じて口や舌などの形や筋肉の動かし方が決まっている。発音は頭で考えるものではない。体をどう動かすかという問題なのだ。そういう意味で、ダンスなどのスポーツに近いだろう。つまり、うまくできるようになるためには一定期間の継続的な練習が必要である。

そこでお勧めなのがダイエックス出版から刊行されている「ザ ジングルズ」シリーズという発音の教本。CD付きで各種発音の練習用のテキストになっている。筆者は渡米前、毎日のランチ時にこのテキストを使ってthやzなどの音を練習していた。1回の練習に使う時間は5~10分なので気楽にできる。口の筋肉がその発音を覚えるまで続けることが重要だ。ぜひ筋トレをがんばってほしい。

本で練習すると自分の発音に自信が持てないが、発音のフィードバックは後述の会話編で受けよう。

リスニング

リスニングは2つの点で難しい。1つ目は、組み合わせの数が多く、聞き取りをする側の負担がとても大きいことだ。何を言うかは相手しだいである。そして2つ目は、話者によって聞き取りの難易度が大きく違うことだ。テレビのアナウンサーのように明瞭に話してくれる人はめずらしい。早口、モゴモゴしている、なまりがある人のほうが多い。このように難しいリスニングだが、幸いなことに勉強自体は発音よりもかなり簡単だ。なぜならば正解データがあるからだ。自分の上達を正解データで数値化できるのだ。上達しているかわからず霧の中を進むのとは全然違う。

リスニングはディクテーションと呼ばれる方法で勉強する。音声を聞いて、聞き取れた文章をノートに実際に書きとっていく。最後に正解を見ながら採点して正答率を求める。これを毎日繰り返す。正答率のグラフを描くことで上達の具合もわかる。筆者はこの方法でリスニング能力を鍛えた。グラフは緩やかに右肩上がりになっていくのでやりがいもある。

聞き取りの教材は種類がたくさんあるが、次の順でやっていくとよいだろう。一番難易度の高い会話の聞き取りを目指して、聞き取りやすいものから徐々に慣れていくのが良い。

  1. 基礎練習用に録音されたスピードが遅いもの
  2. ニュースの録音でアナウンサーが明瞭に話しているもの
  3. 街頭インタビューなど多種多様な人が特定のテーマに対して答えているもの
  4. 好きな海外ドラマや映画など会話が中心のもの

会話

筆者もそうだったが会話が一番難しいと感じる人が多いと思う。会話の難しさは次の3点からなると筆者は感じている。

  • 相手の言っていることが聞き取れない
  • 言いたいことがうまく言えない
  • 英会話自体に抵抗がある

「相手の言っていることが聞き取れない」は対処が比較的容易だ。まずは先述のリスニングの勉強を続けて、聞き取りの能力を上げる。それではもちろん完璧にはならない。なので相手に「なんて言ったの?」と聞き返すフレーズを覚えるのだ。きっと平易な言葉でゆっくり言いなおしてくれるだろう。ポイントは、聞き返すフレーズをきっちり覚え、聞き返すこと自体の心理的負担を減らすのだ。たとえば「I'm sorry?」で十分である。

「言いたいことがうまく言えない」のは言い方を知らないからなので、フレーズを丸暗記しよう。簡単なもの、たとえば「How are you?」から始まる挨拶のやりとりは、暗記して機械的に答えてしまう。聞かれるであろうこと、言いたいことを丸ごと覚えてしまうのである。ポイントは、考えなくてもフレーズが出てくるレベルまで練習することだ。みなさんは「丸暗記なんて応用が利かなそう」と感じるかもしれない。しかし筆者の実体験から言うと、丸暗記のフレーズほど自分を助けてくれるものはない。暗記フレーズは英語的な間違いがほぼないので、自信を持って使える。また、正しく返せたと確信が持てるので、気持ちにゆとりが持てる。

フレーズによってはいろいろな場面で使えるものもある。たとえば「I’m not sure⁠⁠。⁠ここの計算量のオーダーは?」という質問に「I'm not sure, but ...」と答えれば、⁠わからないけど(考えさせて⁠⁠」とつなげられる。また、面接ではコーディング問題を考えているときに、考えを口に出してとお願いされることが多い。自分の不確かな思考を説明するときにも「I'm not sure if this is the best way, but...」などのように、⁠これが一番良い方法かまだわからないけど……」というニュアンスも出せる。

フレーズの暗記には『起きてから寝るまで英語表現700 オフィス編』注1『Mc Graw-Hill's Conversational American English』注2などがお勧めである。また、面接では必ず自己紹介をすることになる。⁠1分間英語で自分のことを話してみる』注3を利用して、自己紹介文を作って覚えよう。緊張していても話せるように完全に丸覚えしてしまおう。

「英会話自体に抵抗がある」は、オンライン英会話を受講して場数を踏むことをお勧めする。自分がどれだけ話せるのかリアルにフィードバックが得られるので、定期的に受講しよう。良い先生に出会うまではランダムに先生を選ぶとよいと思う。多様なアクセントやシチュエーションを体験することが大事だ。もし先生の言っていることが9割以上わかるのであれば、先生が聞き取りやすくしている可能性があるので、普通の速度で話してくれるようにお願いしてみよう。

まとめ

ここまで無駄にならない英語の勉強方法を紹介した。この勉強方法で少し力が付いたら、ぜひ腕試しをしてほしい。何度か述べたが上達を実感したりフィードバックをもらったりすることは重要だ。筆者がお勧めする場は外国人も参加しているIT勉強会や、英語でのプレゼンをお互いに披露するITカンファレンスである。トピックがITに限定されているので参加しやすいと思う。本稿が、みなさんの英語力向上の一助となれば幸いである。

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