継続は力なり―大器晩成エンジニアを目指して

第10回マネージャーマネジメント

今回はマネージャー(直属の上司)との関わり方の話である。

筆者が若かったころのマネージャーの印象と言えば、有給を承認してくれる中堅の人だった。何だか偉そうでもあった。飲み会や喫煙室などで上司と仲良くなり、あからさまにごまをする人を見て「うわー」と思ったのを覚えている。

そのあと、中堅レベルの年齢になってからサンフランシスコの会社で働いた。日本とは違い、アメリカではいつでも簡単にクビを切られる可能性がある。その中で、マネージャーとの関係が自分の雇用維持に重要であることに気付かされた。マネージャーと信頼関係を構築するのがとても大事なのだ。その後10人以上もマネージャーが変わり、自分もマネージャーを経験した。その中で筆者は、マネージャーとの関係を見なおして自分なりに最適化してきた。

今回は、そこからの学び「マネージャーマネジメント」を共有したい。心配しないでほしい。紹介する方法には「ごまをする」のようなソーシャルスキルはそれほど必要ない。ここで達成したいゴールは、⁠自分のやりたいことをやって最大限の成果を出す」ことである。そのためにマネージャーから、

  • 信頼される
  • できるかぎり放置してもらえる
  • ここぞというときに助けてもらえる

ことを目標とする。もっと率直に言うと「成果を出すから、とにかく放置してほしい」ということである。

マネージャーの仕事を理解する

マネージャーをマネジメントするために、まずはマネージャーの仕事を理解しよう。マネージャーの仕事は、会社の目標に沿った成果を出すことである。エンジニアの仕事と違うのは、会社からチーム(リソース)を与えられ、そのチームとプロジェクトをマネージすることで成果を出すところである。また、それに付随して、チームメンバーのキャリアゴールをサポートすることもマネージャーの仕事だ。当然ながらあなたと同様に昇給や昇進を目指している。

このように、マネージャーもエンジニアと同様に何らかの目標があってそれを達成しようとしていることを理解しよう。適当な気分でランダムに好きなことをやっているわけではないのだ(たまにそういう人を見かけるのも事実だが⁠⁠。また、複数のプロジェクトを管理しているので、少し上の視点で物事を考えなければいけないというのも特徴だろう。少し上の視点とは、プロジェクトの方向性、プロジェクトがうまくいっているか、ほかのチームとの関係性などである。

マネージャーの視点でチームを見てみよう。各エンジニアは個性豊かだ。経験も能力もバラバラだ。新卒もいれば、10年戦士もいる。⁠バックエンドの仕事しかやりたくないです」と言い切る人もいる。そういった個性溢れるエンジニアたちを会社のゴールの方向に向けて、力を最大限に発揮できるようにするのである。チームがN人なら、マネージャーが各エンジニアに使える平均時間は1/Nだ。それに加えてミーティングが多く、あなたに使える時間はとても少ない。

まとめると、

  • マネージャーにもゴールがある
  • マネージャーは少し上の視点を持つ
  • あなたに使える時間は少し

となる。

マネージャーと同じゴールを向く

ここからは、マネジメントの基本を見ていこう。マネジメントの基本は先述したマネージャーのゴールを出発点に考えるとわかりやすい。自分がマネージャーだとして、チームメンバーに求めるものは何だろうか。手のかからないチームメンバーはどういう人かを考えればよいのだ。

まずはマネージャーのゴールと同じ方向を向こう。マネージャーのゴール(そしてそれはチームのゴールでもある)をきちんと理解しよう。マネージャーとの1 on 1で、自分が担当しているプロジェクトがマネージャーのゴールの中で担う役割を明確にしよう。そして、マネージャーから期待されている成果(expectation)を話し合おう。具体的な成果について話すことで、マネージャーは心の中の計画を明文化してあなたに伝えることができる。あなたは誤った方向に突き進む可能性を減らせる。できればその成果目標をドキュメントに残して、毎週進捗をレビューしよう。

進捗報告や情報共有を行う

次はマネージャーが少し上の視点を持つという側面から、進捗報告や情報共有について考えよう。ここでもマネージャーの立場になってみると一工夫できる。マネージャーはなぜ進捗を知りたいのだろうか。一つはマネージャーとして現状を把握するため、そしてもう一つは自身のマネージャーや同僚マネージャーへ報告するためである。その報告で求められているのは、⁠AさんがXYZクラスのユニットテストを書いていて、Bさんがバグ修正をしています」というレベルのものでないのは明らかだろう。プロジェクトがうまくいっているか、進捗が何%くらいなのかなど、もっと粒度が大きいものだ。

筆者はこの報告を意識して、週報メールを金曜日に送っている。週報メールは上司がそのまま内容をコピー&ペーストして転送できるレベルが理想である。1 on 1や週次のチームミーティングでも状況を報告するが、ブレのない要旨を定期的に送っておこう。突然「あいつは何をやっているかわからない!」と言われるリスクを減らせる。週報メール以外にも、プロジェクトの全チケットを常に最新に保つ、プロジェクトのマイルストーンドキュメントを作りそこを最新に保つなどの方法がある。

マネージャーを巻き込む

結果の報告だけではなく、ときには途中でマネージャーを巻き込むことも重要だ。特にプロジェクトで重要な決断をする場合は、決断と理由を添えてチャット(もしくは口頭)でさくっと報告しよう。どうすればよいのかを聞きたい場合でも、自分の意見と根拠を添えることでマネージャーの意思決定の時間を節約できることに注意しよう。ポイントは、マネージャーをその意思決定の共犯にすることだ。

マネージャーと仲良くなる

そしてマネージャーと仲良くなる。1つ共通の話題を持っておくだけで、コミュニケーションがスムーズにいく。アニメ、ゲーム、運動、子育て、政治、何でもよいので見つけてみよう。1 on 1のミーティングの導入でそういう雑談を向こうから持ちかけてくるマネージャーも多い。

マイクロマネジメントタイプ

ここまで、基本的なマネージャーマネジメントについて説明してきた。ここからは、いくつかのマネージャーのタイプに合わせて説明していこう。

まずはマイクロマネジメントタイプ。プロジェクトの細かい部分にまで口を出してくるタイプである。

このタイプには、先述した基本の週報メールを必ず送ろう。ほかのマネージャー宛のものと比べ、もう少し詳細を書く。そして次がもっと大事なのだが、わざと「ほぼ結論が決まっている相談事」を何度も持ちかけよう。難しい相談事ではなく、誰がやっても同じような結論になる相談事を持ちかけることによって、⁠自分は頼られている」⁠自分は口を出してプロジェクトに貢献した」と本人に思ってもらうのだ。くれぐれも、どちらに転ぶかわからないような重要な決断を相談してはいけない。

超放置タイプ

次は超放置タイプ。ほとんど口出しをしないタイプである。いわゆる週次のミーティングなど最低限のものはサポートするが、プロジェクトにあまり介入しない。こちらの言ったことをほぼ鵜呑みにしているように見える。

このタイプは見極めが必要だ。わざと口出しせず見守っているのであれば最高の上司だ。そういう人は何回か1 on 1をすればプロジェクトをきちんと把握していることに気付くだろう。ただ、何も考えていない、やる気がないのであれば、あとで「知らなかった!」などと責任転嫁されかねない。先述の週報を含め、情報共有に心がけよう。特に重要と思われるメールやドキュメントを頻繁に共有しておこう。

迷走タイプ

そして迷走タイプ。マイクロマネージャータイプと多くの共通点があるが、少し方向性が違う。自分の古い知識や経験を過信している中堅マネージャーに多いタイプである。先述のとおり1/Nしかプロジェクトに時間を使えないのだが、知識も経験もあるし口を出して貢献をしたい。それはありがたいのだが、思いつきで常にピントのずれたアドバイスや決断をしてしまうため、プロジェクトが迷走してしまうのだ。

ピントのずれたアドバイスやアイデアをもらった場合は、その場ではお礼を言って、⁠各チームのリーダーが集まる)leadsミーティングで話しましょう」などと、より多くの経験者がいる場での議論へ誘導しよう。そうすれば、1 on 1でアイデアをやんわり却下するよりずいぶんと楽になる。マネージャーのマネージャーがいるミーティングだとなおさら良い。

まとめ

今回は、仕事を最適化するのが大好きなプロダクティビティマニアの筆者が試行錯誤して学んできたマネージャーマネジメント術を紹介した。これを読んだその日から実践して、仕事のしやすい関係を構築してもらえたら幸いである。

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