Developer's Perspective―海外エンジニア/ブロガー 直撃インタビュー+翻訳エッセイ

第2回「scottberkun.com」Scott Berkun:インタビュー編―問題解決と良いコミュニケーションのヒント

はじめに

今回取り上げるのはScott Berkun(スコット・バークン)です。

Scott Berkun氏
Scott Berkun氏

Berkunはブラウザ戦争まっただ中のMicrosoftで、Internet Explorer(バージョン1~5)のプログラムマネージャとして働いていました。2003年に独立し、プロジェクトマネジメント、ユーザインタフェースデザイン、創造的思考を中心とした幅広いテーマについて著述、講演、コンサルティングを行っています(彼は「書いたことのあるテーマであれば何であれコンサルティングできる」と言っています⁠⁠。

BerkunのWebサイト図1には、これまでに書きためられた、よく整ったエッセイが60篇もあります。もっと自由に書かれているブログも頻繁に更新されています。中でも有名な記事は⁠Asshole driven development⁠で、⁠くそったれ駆動開発」「認知的不協和開発」といった、現場で見受けられる悲喜劇的な開発スタイルをいくつかBerkunが列挙したところ、読者がコメント欄で反応して奇妙な開発プラクティスのとても長いリストができあがりました[1]⁠。また、BerkunはTwitterもよく使っています(@berkun⁠⁠。

図1 www.scottberkun.com
図1 www.scottberkun.com

2冊ある著書はいずれも邦訳されています。1つは前回Joel Spolskyが「プログラムマネージャの仕事内容をよく網羅している唯一の本」として推薦していた『アート・オブ・プロジェクトマネジメント.マイクロソフトで培われた実践手法』⁠オライリー・ジャパン、2006年)です。この本は、ソフトウェア開発方面で最も注目される賞であるJolt Awardを受賞しています。原書は初版が2005年で、2008年に改訂されて書名が⁠The Art of Project Management⁠から⁠Making Things Happen⁠(何かを実現する方法)に変わっています。内容としては各章のエクササイズと巻末の付録が追加されています。

もう1つの本は『イノベーションの神話』⁠オライリー・ジャパン、2007年)で、これは発明や天才にまつわる俗説を暴き、本当にイノベーションを起こすためのプロセスを追求しています。

現在彼は3番めの、講演とプレゼンテーションをテーマとした本を執筆中です。

Berkunはワシントン大学で創造的思考について教えているほか、さまざまな場所で講演をしています。Berkunの名前で検索すれば、いろいろビデオクリップを見つけられると思います。代表的なものをいくつか挙げておきましょう[2]⁠。

Microsoftの開発者サイトMSDNには、⁠The Human Factor⁠というタイトルでBerkunが2000年前後に書いたユーザインタフェースデザインに関するエッセイが公開されています。

60篇の中からどのエッセイを選ぶかでずいぶん迷いましたが、Berkunがワシントン大学で行っている「創造的思考」の授業をコンパクトにまとめたという『創造的思考Hacks』にしました。インタビューのほうは、聞きたいことがいろいろあって、少しとりとめがなくなりましたが、個人的には有用なことが聞けました。

Interview with Scott Berkun

――あなたが「書いたことのあるテーマについてはコンサルティングできる」と書かれていることに強い印象を受けました。高いコミュニケーションスキルと問題解決能力が背後にあってのことだと思います。優れたコミュニケータになるために最も重要なことは何でしょうか?

コミュニケーションというのは「聞く」ということがほとんどすべてです。みんな相手の言っていることを理解する前からすぐに話しはじめて、解法を提案しようとします。優れたコミュニケータであるというのは、良く聞き、理解するということです。もしそれがちゃんとできているなら、何を言うことが価値をもたらすか見い出すのはずっと簡単になります。

――何かの問題に対して、アプローチする方法が見当たらないように思えるとき、どうしたらよいのでしょう?

実験してください。何かのアプローチがうまくいかないことに100%確信があるなんてことはないでしょう。そしてそのアプローチが失敗する場合でも、どのように失敗したかによって今まで知らなかった何かに気付ける見込みは十分にあり、その小さな教訓によって、次の試みや、そのさらに次の試みが成功する可能性は高くなります。そうやって続けていくことです! 誰だって困難な問題を最初っから解いているわけではないのですから。

――私はひどい先延ばし屋なのですが、あなたは先延ばしとは正反対の人に見えます。先延ばしを避けるための良い方法は何かあるのでしょうか?

誰だって先延ばしはします。ミケランジェロやダ・ヴィンチは先延ばしすることで悪名が高かったのです。

私の知る一番良い方法は、第2のプロジェクトを持つということです。プロジェクトAがどうも気が進まないというなら、Bのほうをやればよい。Bをやりたくないときには、Aのほうをやる。選択肢を設けることで、何かをやるように自分を後押しすることができます。

――あなたが一番刺激を受けるのはどこからでしょうか?(本、Web、ネット上のコミュニケーション、対面のコミュニケーション、一人で考えること……)

私はその全部が好きですが、どれか一つ選ぶということであれば、対面でのコミュニケーションを選びます。これはほかの人とコミュニケーションするうえで帯域幅が一番広い方法です。同じ部屋にいるのでなければ、ほかの人と食べ物やワインを分け合うこともできません。この2つは私にとってお気に入りの刺激のもとです :)

――あなたがInternet Explorerのプログラムマネージャとして働いていたとき、一番興奮した瞬間はいつでしたか?

たくさんありました。最初に頭に浮かぶのは、Internet Explorer 4 Beta 1をリリースしたときで、それにはSearchBar(検索バー)と呼ばれる機能がありました。この製品に組み込むために私がさんざん戦った機能です。それがリリースされ、あらゆる雑誌のレビューに取り上げられました。私はまだ大学を出て2年のひよっこでした。そしてどれほど世の中に影響を与え得るかという可能性に驚いていました。ブラウザ戦争の初期に関われたのは本当に素晴しい経験でした。

――Microsoftで学んだ一番大きなことは何でしたか?

私がMicrosoftでしかるべきときにしかるべき製品の仕事ができたのは幸運でした。すごくたくさんのすべきことと、すごくたくさんのすべきでないことを学びました。個人的には、よく働くチームを率いてマネジメントすることが自分に向いているということを知りました。そしてチームの人間関係と信頼がすべてであるという考えを学びました。それがなければすべては失われてしまうのです。

――歴史上最もクリエイティブな人物は誰だったと思いますか?(あるいはこの質問は無意味でしょうか?)

一人の名前を挙げるのには意味がないでしょう。有名な人たちの誰をとっても、彼らの仕事は、彼ら自身の能力と同時に、時代の産物でもあったからです。モーツァルトが暗黒時代に生まれていたなら、私たちが彼の名を知ることはなかったでしょう。ミケランジェロ、テスラ、ダ・ヴィンチ、アルキメデスはみんな取り上げるに値すると思います。しかしほかにも取り上げられるべきであろう人物は何ダースもいます(ベートーベン、バッハ、シェークスピア、ガウディ、ファン・ゴッホ、ルネ・マグリット、……⁠⁠。

――創造的思考をしようとする人にとって良いロールモデルになるのは誰でしょう?

私が今挙げた人たちはみな素晴らしいです。彼らはみな熱心に働き、実験をし、物事のしくみにとても興味を持っていました。アイデアはつまらないものです。創造的思考というのはアイデアを世界に適用し、ものごとを改良しようとする試みなのです。単にクリエイティブであるのは簡単なことです。クリエイティブでかつ影響力を持つこと、あるいはクリエイティブでかつ有用であること。そのほうがずっと興味深く、やりがいのあることです。

――あなたの本の最後のページには、⁠困」という漢字が貼られている本棚の写真がありますね写真1⁠。中国語か日本語を学ばれたことがあるのですか?

私は哲学にとても興味があって、中国と日本の哲学を学んだことがあります(ただ言葉は学びませんでした⁠⁠。私の本棚に書かれている文字は、⁠障害を乗り越える」という意味だと自分では思っています。それは自分の本で埋めたいと思っている空っぽの本棚にふさわしいシンボルでしょう。

写真1 ⁠イノベーションの神話』⁠オライリー・ジャパン 2007年)より引用
写真1 『イノベーションの神話』(オライリー・ジャパン 2007年)より引用

――次の本として講演することをテーマとして書かれていると伺いました。どのような本なのか教えていただけますか?

これまでの講演に関する本で扱われることのなかった、うまく話すために大切なことについての本になります。本と一緒に書いているブログがあるので見てください。

参考

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