はじめに
第3回はジェラルド・M・ワインバーグです。ワインバーグは1933年に生まれ、50年代から開発者として働き、NASAのマーキュリー計画にOS開発マネージャとして参加しました。1969年にコンサルタントとして独立、Microsoftを含むさまざまな企業へのコンサルティング、セミナーの開催、執筆を今日まで続けています。著書は40冊にも及び、翻訳されているものもたくさんあるので、読まれたことのある人も多いのではないかと思います。主要な著書は書かれて20年経った今日でも売れ続けており、大きな本屋では平積みされているのを目にします。たとえば最近店頭で見た『ライト、ついてますか―問題発見の人間学』(共立出版、1987年)は第62刷(!)でした。
著書を細かく説明しているとそれだけで紙数が尽きてしまうので、個人的にお勧めの本をいくつか簡単に紹介するにとどめます。
- 『コンサルタントの秘密―技術アドバイスの人間学』(共立出版、1990年)
- コンサルティングをめぐるたくさんの逸話と箴言が詰まった楽しくも有用な本
- 『スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学』(共立出版、1991年)
- 技術面でリーダーシップを取る人の成長を促す。何年かごとに読み返すべき本
- 『ワインバーグの文章読本』(翔泳社、2007年)
- 文章の小手先のテクニックにとどまらず、何を書くかというところから文章について学べる。ほかの本と同様、この本にも演習問題がたくさん付いている
- 『ライト、ついてますか―問題発見の人間学』(共立出版、1987年)
- 自分の問題の見方が間違っているかもしれないと気づかせてくれる
- 『一般システム思考入門』(紀伊國屋書店、1979年)
- システムというものの本質と、どうアプローチすべきかを扱っており、考え方に大きな影響を与えてくれる可能性がある
- 『ソフトウェア文化を創る』シリーズ(共立出版)
- 高品質ソフトウェアを作るためのプロセスと人間的側面について書かれた4巻からなるシリーズ。1冊だけ読むとしたら、第3巻『ワインバーグのシステム行動法』が特に秀逸。
技術系の本で一番新しく出たのはテストをテーマとした『Perfect Software: And Other Illusions About Testing』(未訳)で、テストにまつわる俗説を暴いていくという内容になっています。
最近はSF小説を中心に書いており、最初の本『The Aremac Project』が出版されています(邦訳はありませんが、個人的にとても好きな小説です)。そのほかすでに10冊書いているとのことで、ライターズブロック[1]を経験したことがないという筆力は健在です。なお、ワインバーグのサイトで一部の本をebookとして購入できます。
ワインバーグは76歳となる今でも精力的にコンサルティング、ワークショップ[2]、カンファレンス[3]の開催といった活動を行っています。ワークショップは『アジャイルレトロスペクティブズ―強いチームを育てる「ふりかえり」の手引き』(オーム社、2007年)のエスター・ダービーや、『Manage It!―現場開発者のための達人式プロジェクトマネジメント』(オーム社、2008年)のジョハンナ・ロスマンとともに、リーダーシップやコミュニケーションをテーマとして体験を通して学んでいくものになっています。たとえば一人一人が会社の中の別な役割を演じて異なる視点を理解するというものや、たった1時間の間にグループで音楽パフォーマンスをゼロから作って演奏する演習などがあり、とても楽しそうです。
ブログは2006年から2つ書いていて、1つはコンサルティングをテーマとした“The Secrets of Consulting”(コンサルタントの秘密)、もう1つは文章術をテーマとした“Weinberg on Writing”(ワインバーグの文章法)です。そのほかAYE ConferenceのWebサイトにも文章を書いています。
ワインバーグにインタビューで何でも質問できるというのは、妖精に3つ願いを叶えてあげると言われたみたいで、すごく迷いました。この特権を十分に活かせたかどうかわかりませんが、どうぞご覧ください。エッセイは“The Secrets of Consulting”から3編紹介します。
Interview with Gerald M. Weinberg
――コンサルタントになるために最も重要となる資質は何でしょうか?
やる気、人柄、質素さ、行動力。
――人とコミュニケーションを取るのが不得手な人がコミュニケーションスキルを向上させるための良いエクササイズというのはありますか?
大切なのは練習することです。コミュニケーションを取らざるを得ない状況に自分を置いてください。たとえばボランティア活動は良い練習の場になるでしょう。私の本『スーパーエンジニアへの道』や、『ソフトウェア文化を創る』シリーズには、このために使える良いエクササイズがたくさん載せてあります。
――歴史上の人物を含め、誰にでも質問ができるとしたら、誰に何を聞きたいですか?
質問したい人はたくさんいます……アルバート・アインシュタイン、マリー・キュリー[4]、ジェームズ・クラーク・マクスウェル[5]といった偉大な科学者たちです。私が聞きたいのはこうです。「あなたの後をついて回って仕事の様子を見ていてもよいですか?」
――新しい技術が次々と現れますが、何を学ぶべきか選ぶ良い方法はありますか?
待つこと。何年かずっと消えずにいる技術がどれか見守ることです。一般的には、最新の流行を初めて試す人間になる必要などないものです。
――ソフトウェアによる問題解決の分野で仕事したいと思っている若い人たちに何かアドバイスはありますか?
可能な限り広く学ぶこと。どんな分野も除外せず、学ぶ場を学校に限ったりしないこと。
――専門領域の能力開発のためにどの程度の割合の時間を割り当てるべきでしょうか?
可能な限り多く。自分がしていることについて何も学んでいないようなら、やめて別なことをしたほうが良いです。学びの大部分は学校からではなく、実際の仕事から得られるものです。
――日常的に使っているソフトウェアでお気に入りのものは何ですか?
MacSpeech Dictate[6]。これのおかげで指を痛めずに済んでいます。それに、すばらしい情報源にアクセスさせてくれるブラウザ(SafariとFirefox)。
――あなたが最も影響を受けたのは誰ですか?
家族療法家のバージニア・サティア(Virginia Satir)。ジョン・フォン・ノイマンの同僚で、計算機の黎明期に活躍したバーニー・ディムズデール(Bernie Dimsdale)。プログラム内蔵式コンピュータの現れるずっと以前にプロセスコンサルタントをしていた私の父。
――実際にコードをいつごろまで書いていましたか?
自分用のものであれば今でも書いています。ときどきクライアントのコードレビューもしています。商用のコードを書いていたのは1956年から1980年までです。
――やっていて一番楽しく感じることは何ですか?
何であれやっていることは楽しく感じます。たとえばこの質問に答えるというような。そのときにやっていることを一番楽しくする方法を見つけるのです。
――今新しく学んでいることは何かありますか?
フィクション創作の技術をマスターしようとする中で膨大なことを学んでいます。私は学んだことを小説を通してどうにか伝えようと思っています。
――今後の執筆や出版の予定について教えていただけませんか?
作っている途中の完成していないものについて話すのは好きではありません。これはソフトウェアを作る中で学んだ大切な教訓の1つです。ただ私は小説をもっと書くつもりでいます。そして必要があれば、ノンフィクションの本も書くつもりです。