第10回記念大会となる2011年 ETロボコンでは、全国11ヵ所の地区大会が9月から10月にかけて開催されました。北海道、東北、北関東、東京、南関東、東海、北陸、関西、中四国、九州、沖縄の各大会に338チーム約1,700名がエントリー、それぞれが暑い、熱い夏を過ごし、秋の競技会で燃焼したことでしょう。
技術教育のプラットフォーム
前回までにご紹介したように、ETロボコンは市販ロボットキット(教育用レゴ マインドストーム)を使った「ソフトウェアの競技会」という世界的にもユニークな取り組みです。「ソフトウェア」「組込み」「モデリング」にフォーカスしており、競技会であると同時に“技術教育のプラットフォーム”として運営されていることが最大の特徴といえるでしょう。とくに学生を含む若手の技術者への開発実践機会を提供することで日本全体の技術者レベルの底上げを図っていこうとする「教育ロボコン」なのです。
ETロボコンの運営
ETロボコンは(社)組込みシステム技術協会(JASA)が主催しており、ETロボコン実行委員会により企画運営されています。実行委員会は、全国約250名の産学官からの献身的なメンバーからなるほぼボランティアベースの組織で、参加者とともにロボコン・コミュニティをつくりあげています。
今年の地区大会を終えてあらためて振り返ってみると、明日を作ろうとするものすごいエネルギーが日本中にあって、そこから生みだそう、つくる人を生みだそうという魂みたいなものの集合体が、ETロボコン・コミュニティのような気さえします
2002年~2006年は東京で大会を1回だけ行っていました。日本全体のレベルアップを考えた時、より参加しやすい状況をつくりだそうと2007年から地区大会を開催するようになり、今年で5年目を迎えます。
教育ロボコンとしての1年
さて、では参加者から見たETロボコンの活動を紹介しましょう。2011年の全体内容はこちらをご覧ください。
[1]実施説明会
毎年2月ごろに、参加見込みの方、興味ある方向けに今年の概要説明会を各地区で開催しています。未経験の方向けには「ETロボコンはどういうもの?」、そして「今年はどういった内容?」を聴く機会となり、毎年多くの方が参加します。説明会開催時期、会場はWeb記事やETロボコンのホームページで確認してください。
[2]参加募集
3月~4月上旬に参加者募集されます。参加にあたっては参加規約を一度ご覧ください。
[3]参加決定/メーリングリスト開始
参加確定し、さあいよいよETロボコンで学習と挑戦です。全参加チームと全実行委員が登録されるメーリングリストが開設されます。実行委員会からの連絡、競技内容に関する質疑応答はもちろんですが、このメーリングリストは技術交流の場としても活用されます。それから参加費のお支払いをお忘れなく、2011年は5月末が振込期限でした。
[4]地区ごとのイベント
参加確定以降、参加チームはそれぞれの地区にて各種イベントに参加していきます。
[4]-1 技術教育
参加者向けセミナーです。全国共通の教育が2回(開発環境、制御技術要素、モデリング入門)。さらに地区ごとに個別テーマによる教育セミナー・ワークショップも実施されます。
[4]-2 開発支援スポンサーによるツールの無償提供、セミナー
ツールベンダ、OS開発者等から、参加者には開発期間中ツールが一部無償で提供されます。「まずやってみよう!」をスポンサーが後押ししてくれます。
そして、技術教育やセミナー受講と並行していよいよ課題へチャレンジ、開発を進めていきます。企業チームは業務後や休日に集まって開発することも多いようで、学生チームは夏休みに集中してやるところもあるようです。とにかく学習と実践の繰り返しです、初めて参加のチームは技術教育等で他のチームや実行委員にいろいろ聞いてみるといいでしょう。
[4]-3 試走会
参加チームが集まって、本番と同じコースでロボットを走らせます。試走会は2回以上実施され、開発工程としては要素技術の確認であったり、後半は総合テストであったり、参加者が集い他チームの制御を見たり、意見交換や技術交流することで参加者のレベルはここでグンとアップしていきます。初めて参加のチームは、最初の試走会は見学だけとなるケースもあります。まずは経験あるチームの制御や活動を参考にしてみるのも一手です。
[4]-4 モデル提出・審査
地区大会の10日程度前が分析・設計モデル図の提出期限です。開発概要を記したコンセプトシート1枚、モデル5枚以内が参加チームの表現の全てです。実行委員会の審査員が集中して審査し、評価ランクをつけるとともに、参加チームの各モデルによい点、要改善点が示されます。
[4]-5 地区大会
学習と開発の成果を発揮する時です。やる気と不安が交錯する中、本番にチャレンジです。
各地区大会は3つのセクションで構成されます。
- ①競技会
- ロボット走行制御の速さ、正確さを競います
- ②懇親会
- 参加者、実行委員、スポンサーのみなさんでの交流の場
- ③モデル・ワークショップ
- 参加者モデルの傾向分析、優秀モデル解説、参加者と審査員の意見交換
ETロボコンですから競技会とモデル・ワークショップは必然ですが、ここで重要なのは懇親会です。実行委員会では、学生さん社会人のみなさんが参加しやすいよう、交流しやすいよう工夫しています。ここで審査員にモデル内容について聞いてみたり、技術者同士で話すことで新しい知見を得たり、学生さんがエンジニアの考え方、やり方を直接学んだり、先生とエンジニアが議論を交わしたり、ETロボコン仲間としてリラックスして大いに語りましょう。
今年、筆者が参加した地区大会懇親会で、初参加の学生さんが審査員にモデルについて一生懸命質問していました。正直なところ、わからないことも多いでしょう。審査員はその質問に存分に、そしてずっと厳しく答えていました。年齢差30才以上の真剣な応酬です。互いの真剣さを見て、学生、審査員、そして学生にチャレンジ環境を提供した先生、みなエライなぁとちょっと感動しました。
[4]-6 全モデル図の配布
参加チームには全参加チームのモデル図が電子データで配布されます。これは大会終了後に、社内、学内、技術者同士での技術研鑽、レベルアップに使っていただこうというものです。同じテーマで開発した全国数百のモデルを手にできることは、ETロボコンならではでしょう。
[5]チャンピオンシップ大会へ
地区大会にて選抜されたチームはチャンピオンシップに向けさらにチャレンジします。
[5]-1 試走会
チャンピオンシップ参加チームが集まっての試走会です。他地区のチームとの交流にてもう一段レベルアップのチャンスです。
[5]-2 モデル提出・審査
地区大会で審査員から指摘された点を改善し、もう一段レベルアップにチャレンジしたモデルを提出。審査員はレベルアップに期待しながら集中して審査します。
[5]-3 チャンピオンシップ大会
ET2011(組込み総合技術展)に併設で開催されます。
①競技会②懇親会③モデル・ワークショップ
地区大会から選抜されたチームの高いレベルの制御、優秀モデルを一度に見るチャンスです。見学、聴講は無料です。ぜひETロボコンの熱気と真剣さを覗いてみてください。ETロボコン参加者の多くがこのチャンピオンシップを見て翌年の参加につながっています。
開発部門・技術交流
ETロボコンとは? にありますように、若手がフィーチャされていますが、企業参加チームの実態としては中堅、ベテランの参加も多くなっています。
表1 2010年参加チームアンケートより:チームメンバー・プロフィール
新人 | 22% |
2~3年目 | 28% |
4~5年目 | 15% |
6~10年目 | 18% |
10年以上 | 17% |
チーム参加であることから、ベテランはメンター、マネージャとしての参加するケースも多いようです。若手、中堅でチーム開発実践し、毎年メンバーを入れ替えて参加する企業チームも多く見られます。また一方で、3年程度はETロボコンで鍛えるといったケースもあるようです。
交流や全参加チームのモデル配布等、ETロボコン参加活動で得られるものは、特に学生、若手技術者のレベルアップに大きな効果をもたらしているように見えます。同じチームの1年後のモデル図内容、制御レベルの向上度合いには目を見張るものがあります。
毎年の参加者アンケートによると、ETロボコンで得られる教育効果として、モデリング技術、実装技術の他に、開発マネジンメントと交流の2点のポイントが高い傾向があります。実際の開発現場では差分開発やメンテナンスも多い中、ETロボコンでは分析設計から実装テストまで全行程を実践できます。チーム開発となりますからマネジメントは重要で、これがなかなか困難さもあり実習効果として体感できるのではないでしょうか。
また交流があげられているのは特徴的で、ETロボコンがコミュニティとして切磋琢磨できる環境にあるものだろうと思います。社内、学内だけでは体験しづらいことが学習活動として実践できる、これがETロボコン参加者がメリットと感じるところなのでしょう。
人事・教育部門、学生交流
企業チームの中には、新人研修での取り組みとして参加されるケースも多くあります。中には社内ロボコンにて選抜参加したり、ETロボコンに向けたモデリング・プログラミング教育を推進している企業もあると伺っています。学生チームは研究課題、実習課題としての取り組みも多いようです。
ETロボコンはオープン参加であることが特徴で、いろいろな場面で企業と学生さんが交流し、ふれ合う機会があります。学生さんからすると企業、エンジニアを知るチャンスで、企業からしても学生さんに自社やエンジニア業界を知ってもらうメリットがあります。
各地区では企業チームと学生チームが協力して合同勉強会や合同試走会を実施しているケースも見られ、地域における産学連携での人材育成取り組みとなっています。学生時代にETロボコンに参加し、企業に就職してから再度参加するといったケースも増えてきました。ETロボコンが交流の場として活用される好例でしょう。また、スポンサーの中にはリクルート広報活動として取り組まれている企業もあるようです。ETロボコンが学生さん向けにソフトウェア・エンジニアという職業の登竜門のひとつとなっているのかもしれません。
若手人材育成
ETロボコン実行委員の中にはかつて参加者であったメンバーが多くいます。たとえば、中堅技術者の方が自社の若手を集めチャレンジして自社のレベルアップをはかり、区切りをつけて後輩にまかせ、ご自身は運営側にまわって今度は地区そして全国の技術者レベルアップに協力いただいているようなケースです。今後もこうした実行委員会への参画が増えることを期待しています。
また一方では若手の台頭もあります。たとえば本部審査員の幸加木さん((株)リコー)、性能審査団の佐藤さん((株)デンソー)は、ともに2002年第1回UMLロボコンの学生チーム参加者でした(試走会でうまくいかなくて頭を抱えていた姿を思い出します)。卒業後メーカに入って技術研鑽を積み、10年たった今では自社にとどまらず各方面でも活躍されています。ETロボコン・コミュニティが若手の成長に少しでもよい影響があったとすれば嬉しいことです。
10回目を迎えたETロボコン、今年参加している学生や若手エンジニアから将来のエースもでることでしょう。若者が10年後、20年後にもチャレンジ魂を発揮して、業界、世界で活躍しているであろうことを大いに期待しています。