はじめに
みなさんはじめまして。今回から、さまざまなジャンルのゲームについて話をさせてもらうことになりました、おにたまです。
筆者は古くは8ビットパソコンの時代からゲームの開発を仕事にしています。そのほか、初心者向けのプログラミングツールとしてHot Soup Processor(HSP)(注1)を開発・公開しています。プログラミングの楽しさ、ゲームの魅力などを多くの人に伝えていけたらと思っていますので、よろしくお願いします。
私たちの周りには、家庭用からゲームセンター、さらに携帯端末やWebまで、誰でも手軽にゲームを楽しむ環境があります。そして自分でゲームを作ったり、作りたいと思っている方々も多くいることでしょう。
携帯向けのソーシャルゲームも、据え置きゲーム機向けのリアルな画質のゲームも、根幹には昔から築き上げられてきた「ビデオゲームの遊びのアイデア」があります。この連載では昔からあるゲームのアイデアをその歴史とともに振り返り、新しいアイデアのタネとして開発に役立ててもらえればと思っています。
追いかけられるゲーム
今回は、「パックマン」(図1)に代表される「追いかけられるゲーム」を取り上げます。パックマンは、そのキャラクターとともに著名なゲームです。
これは、1980年に当時のナムコ(現・バンダイナムコゲームス)の岩谷徹氏らにより製作されました。アーケードゲームとして発売したこの作品は、その後世界的なブームになり数多くの記録を打ち立てています。
このゲームの特徴はとにかくシンプルなことです。操作はレバーで行う上下左右4方向の移動のみです。その中で、プレイヤー(パックマン)を操作して、ゴーストに捕まらないように迷路の中にあるクッキー(ドット)を全部食べるというシンプルなルールです。逃げるだけでなく、パワークッキー(通称パワーエサ)を食べることで一定時間だけ敵を食べて反撃ができるというアイデアも秀逸です。
ドットはいわゆるチェックポイントで、すべての地点を通過させるための理由でもあります。全体の中でどこまで達成しているかを一目で把握でき、すべてを消したいという欲求にもつながるうまい仕掛けです。
キャラクターや背景などデザイン的な美しさも手伝って、今見ても30年前のゲームには見えません。「ドット絵」というものが認知された原点のゲームがパックマンと言われています。縦横16ドットで構成されたパックマンの登場キャラクターは、記号的な意味とゲームの世界観をつなぐ大きな第一歩でもあったのです。
みんな追いかけられていた
追いかけられるという遊びは、敵が迫ってくるというドキドキ感そのものが演出に変わります。この種のジャンルは「ドットイート」と呼ばれたりしますが、楽しさのキモは、ドットを消すことよりも追いかけられるドキドキ感、そして逃げ切ったときの快感にあるのだと思います。昔から「鬼ごっこ」という遊びがあるように、そこには普遍的な楽しさがあるのではないでしょうか。
パックマンが発表されてから、よく似たルールのゲームが大量に作られました。アーケードゲームだけでなく、当時ホビー向けにも普及を始めていたパソコン(マイコン)用のソフトとしても定番のジャンルとなりました。
これは、ゲーム内容が優れていたことに加えて、ハードウェアスペックの制限も影響していました。当時の8ビットパソコンは、現在と違い画面上の物体を大量に動かすだけの処理能力を持っていませんでした。その点でパックマンのようなドットイートゲームは、背景となる迷路とドットさえあれば、あとはプレイヤーと追いかける敵を動かすだけで済むところがパソコンに向いていたのです。
また、パックマンは迷路のパターンが1種類しかありません。ゲームをクリアしていっても同じステージが続くストイックな作りです。それだけに非常に考え抜かれた[2]形状になっているのですが、「別な形の迷路で遊びたい」「こんな形にするとどうなるか…」という欲求をパソコンソフトならばプログラムを改造するだけでかなえられます。こうした背景も手伝って、パソコンで多く作られたのだと思います。
しかしながら多くの類似品は、オリジナルのパックマンが持つ完成度を越えることはありませんでした。余計な操作や要素を加えることで煩雑になってしまう場合が多く、もともとあった追いかけっこを楽しむという部分が薄れてしまうのです。オリジナルは、敵から逃れるためのワープトンネルや、目には見えないけれど敵が入ってこない一方通行の道などの要素がシンプルゆえに深く作りこまれ、完成されていたと言えるでしょう。
追いかける側の苦労
パックマン以前にもドットイート型のゲームは存在していました。「ヘッドオン」(注3)や「クリーンスイープ」(注4)などがその走りと言われています。
しかし、プレイヤーの自由度の高さ、洗練された敵の動きという点で、パックマンはそれまでより大きく進化したと言えるでしょう。
迷路の中で追いかけっこをする場合、単純にCPUがプレイヤーを追いかける処理のアルゴリズムは簡単です。基本的には、プレイヤーのX座標、Y座標に近づけるように移動方向を決めればよいのです。パックマンには別々の性格を持った4種類モンスターがいますが、基本的には追いかける先の座標決定にバリエーションを持たせていて、あとは同様の方法で移動していると言われています[5]。
もし敵が最適な方法で追いかけてきた場合プレイヤーは逃げ切れないので、ゲームバランスを考えてある程度手加減しなければなりません。このさじ加減がゲームをおもしろくする重要な要素になっています。
同時期の「クラッシュローラー」(注6)も似たタイプのゲームですが、敵が2体しかいないにもかかわらず的確にプレイヤーを追い詰めるため、たいへん難易度の高いものに仕上がっていました。
「CPUが本気を出せばあっという間に捕まってしまうんだ…」という絶望感を与えてしまうとゲームとして敬遠されてしまうので、追いかける側にもそれなりの苦労があるということでしょうか。
逆転の発想!?
パックマン以降の追いかけられるゲームは、その多くはボタンを使って攻撃したり、迷路の形を変化させるなどのアレンジが主でしたが、中には迷路の上すべてにドットを置けばクリアという逆転の発想とも言えるゲームもありました。
そんな中で、プレイヤーが追いかけられる側から、追いかける側になっている「アリババと40人の盗賊」(注7)は異色のゲームです。プレイヤーは宝の番人となって、迷路の中へ次々にやってくる40人の盗賊を捕まえなければいけません。一応接触してはいけない敵がいますが、1体しかいないので回避するのは容易です。このゲームをおもしろくしているのは、うまく捕まえられないと盗賊が次々と宝を盗んでいき、宝が7つ盗まれるとミスになるというルールです。これにより、「敵に捕まるのが不安」とは逆で、「敵を捕まえないと安心できない」という絶妙な内容のゲームに仕上がっています。
新世代の追いかけゲーム
時代は流れて現在でもパックマンシリーズと、その影響を受けたゲームは作り続けられています。本家バンダイナムコゲームスからは、「PAC-MAN Championship Edition DX」(図2)がXbox 360、PlayStation 3でダウンロード配信されています。これは、オリジナルの持つ記号的なキャラクターデザインの魅力を保ちつつ、シンプルな操作で敵から逃げる快感を最大限に引き出すことに徹していて、高い評価を受けています。今なおこのジャンルがおもしろさを持っていることの証でもあるでしょう。
現在の進化したハードを使って、別の方向から追いかけゲームを作っているメーカーもあります。「The Last Guy」(注8)は、高精細な画面と高い処理能力を使って、非常にたくさんのキャラクターが一度にプレイヤーを追いかける表現を実現しています。
このように、シンプルゆえにさまざまなバリエーションとアレンジが可能なジャンルとも言える追いかけゲーム。自分で開発する際にも、比較的作りやすくハードウェアリソースも少なくて済むという利点があります。あなたなりのアイデアで、新しいゲームを作ってみてはいかがでしょうか? それではまた次回に。