ソフトウェアテストと「人間力」

第4回こんなテスト担当者はイヤだ!

永い間テストに従事していると、日常生活の中でもある種の「職業病」とも思える行動をとっていることがあります。

たとえば

  • 目の前に「ボタン」があると押したくなる。特に2つ以上あると、同時押しをしたくなる。
  • 製品を買っても、常にエラーケースを考えたり、エラー操作をしたくなる。
  • いつでも再現確認できるように、操作手順を覚えている。
  • カタログのスペック表をずーっと見ていられる。

……等々。

今回は、そんな「ソフトウェアテストな人」をご紹介しながら、⁠人間力」を考えてみます。

“真(円)”を追求する

いつも通りに筆者が同僚のM氏とテストを実施中、ふとM氏を見ると何やらごそごそと。よく観察すると、トレーシングペーパーを取り出してディスプレイにあてて書き込んでいる様子です。

筆者:
「何しているの?」
M氏 :
「今日は、Circleコマンド(円表示)のテストだから、表示の確認だよ」
筆者:
「⁠⁠筆者がトレーシングペーパーを指差しながら)それは?」
M氏 :
「真円に見えないんだよね。だから、これに写して確認しようと思って」
筆者:
「全部のテストをそうやっているの?」
M氏:
「Line(線表示)もTriangle(三角表示)もやったよ」
筆者:
「おみそれしました」

トレーシングペーパーをとった結果は、円の上部と下部にドット単位でシャギー(ギザギザ)を発見し、不具合として報告をしていました。M氏曰く、⁠真⁠の期待値を追求したのだそうです。彼の期待値への追求に対して、意見も分かれると思いますが、賛否は読者にお任せします。

思い込んだらダメ

ある音楽プレーヤーをテストを実施している現場を訪問したときのことです。

筆者
「テストは順調ですか?」
H君:
「だいぶ製品として安定してきました。音楽の単独再生は、問題なくなりました」
筆者:
「で、今は何のテストなの?」
H君:
「ランダム機能で、指定された曲がランダムで再生される確認です」
……筆者もテスト機の音楽プレーヤーを受け取り、再生してみました。
筆者:
「同じ曲が連続して再生されるようだけど」
H君:
「えぇ、選曲がランダムですから、たまたま連続に再生していると思います」
筆者:
「ランダムといってもねぇ、これ問題ない?!」

仕様ではランダム機能は、曲順が「シャッフル」されて再生されると記載されていました。このように機能名称と動作が異なっていることは珍しくないのですが、H君はランダム機能に惑わされてしまったようです。このような思い込みは、経験豊富なテストエンジニアでも惑わされてしまうことがあります。テストを実施する場合は、固定概念の扱いに気を配ることも大切です。

神の手を持つ男

「彼の手にかかれば、なぜか不具合が発生する」なんともあやしいお話ですが、実は本当にあるんです。

筆者:
「この不具合の手順通りやっても、再現できないよ」
Iさん:
「ほら、こんな感じでやれば……はい、出ましたね。」
⁠本当に再現するんです)
筆者:
「えーと、手順は間違っていないよね」
⁠筆者が再現手順を繰り返すと)
Iさん:
「だから、ほらココ。1秒間に正確に7回キー入力して」
⁠Iさんは、いとも簡単に不具合を再現しています)
筆者:
「いや、無理だからそんなこと」

Iさんは、異常なほどにタイピングが早いテストエンジニアでした。しかし「神の手」の由来は、実は手の早さだけではないのです。ある特定のタイミングで、キー入力のオーバーフローが発生させると、不具合が発生しやすいことを知っていたのです。ある程度テストを繰り返すと、テスト対象の脆弱な部分の把握ができます。その脆弱部分を適切にテストする技量を合わせ持つエンジニアなのでした。

「神の手」とは?
「神の手」とは?!(イラスト:ひのみえ)

こんなテスト担当者はイヤだ!

情報系の業務アプリケーションのテストプロジェクトに参加したときのことです。

筆者:
「登録者の人数の積算が期待値の通りにならないのですが」
Y氏:
「あっ、それね。そのままでいいから」
筆者:
「?? どうしていいんですか?」
Y氏:
「DBの仕様の問題だから、報告しても開発者にはどうしようもないから」
筆者:
「このまま、放置もできないでしょう」
Y氏:
「あんまり重要な機能じゃないし、修正されないから……」
筆者:
「……(絶句!⁠⁠」

テストプロジェクトの全てを「水泡に帰す」ような行為です。不具合を隠蔽するような行為は、テストでは絶対に許せないことです。Y氏は悪意があったわけでなく、開発経験も豊富でテスト対象のシステムのことを熟知している結果が、不具合を見逃す過ちを自らの判断で行ったことになります。彼の行為は極端ではありますが、⁠まぁ、このぐらいOKとするか」なんて考えたら危険信号だと思ってください。


今回登場された人物は、実在の人物です。読者の皆さんもさまざまなテストエンジニアと出会っておられると思います。テストエンジニアも「人間」です。良い点・悪い点もいろいろです。いろいろなエンジニアと出会いながら、その人の経験を吸収し「人間力」を磨きいていただきたいと思います。

第5回は『楽をしたいから「人間力」で効率化!』

筆者は極端な面倒くさがり屋です。常に「楽をする」ことを考えていますが、手抜きはダメなので、いつも効率を考えています。⁠人間力」を活用することで、効率化(筆者的に幸せに)できる方法を提案します。

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