Imagine Cup最終日、ワールドフェスティバル。
この日、各部門を制したトップスリーが発表されます。
日本人で、ここまで進んだのはアルゴリズム部門に出場した高橋直大君。
アルゴリズム部門は、出題された複数の問題を24時間以内に解くという競技で、作ったプログラムの性能を競います。
豪華な舞台、ルーブル美術館に併設された大広間。勝敗を見守る記者や出場者たち。
いよいよアルゴリズム部門入賞者の発表が始まりました。
「The 3rd place winner is Naohiro Takahashi!」
司会者の大きな声とともに会場が湧きます。
高橋君は、今まで日本人が成し遂げることのできなかったImagine Cupアルゴリズム部門第3位入賞を果たしたのです!
Imagine Cup 2008アルゴリズム部門には、世界134ヵ国15,394人の学生が応募していました。その中でみごと世界3位に輝いた高橋君にお話を聞いてみました。
写真1:日本で待つ両親に、受賞報告の電話をする高橋君
24時間の過酷な試練
競技は24時間、ネットにつながれていない個室で、1台のコンピュータを与えられて行われます。ドキュメントの持ち込みや会話も禁止され、出場者にとってはかなり過酷な競技となります。
しかしそんな状況の中でも、出場者は各自持ち込んだ好きなお菓子を食べるなど、自分のペースで問題に取り組んでいたようです。高橋君は「煮詰まったときは、少しの間外に出てストレッチをするなど、体を動かして気分転換をしました」と話してくれました。
写真2:出題された問題の一例。除雪車がランダムな(ノードと道の)地図上を除雪する場合の最短経路を求める
問題文はすべて英語で出題されます。英語が苦手な高橋君にとってはそれも一つの大きな試練でした。
しかし、途中停電し、すべてのコンピュータがシャットダウンするというトラブルがありました。この停電で一時会場は混乱したそうですが、高橋君はこの時間をうまく活用し、問題の和訳に取り組んだそうです。この臨機応変な対応も、今回の結果につながったのではないでしょうか。
写真3:問題についてとても楽しそうに説明してくれる。目が輝いています
今までの戦歴
高橋君は高校2年生までは野球に打ち込んでいたそうで、プログラミング歴はなんと2年とのこと。高校3年生のときに体調を崩して野球を続けられなくなり、その情熱の矛先をプログラミングに変え、注力してきました。高橋君は「受験勉強とか、やらなければいけないことがたくさんあるときほどプログラミングにハマりますよね」と笑いながら答えてくれました。
プログラミングを始めてから、高橋君はさまざまなコンテストに出場しています。Imagine Cup以外では情報オリンピック、SuperConやTopCoderなどにも出場しているそうです。
SuperConは高校生がスーパーコンピュータを使ってプログラミングのアイデアを競う大会で、2006年には6位入賞をはたしています。一方、TopCoderは世界最高峰のプログラマ達も参加している有名なプログラミングコンテストで、高橋君は学校やネット上の友達と一緒に参加して、楽しみながらプログラミングの腕を磨いているそうです。
また、Imagine Cupも今回が初めてではありません。プログラミングを始めたばかりのときに出場したImagine Cup 2006の1次予選では9位入賞を果たしました。
さらに、1年後のImagine Cup 2007では、2次予選で健闘するも辛くもファイナルには届かなかったそうです。
そして、今年Imagine Cup 2008で世界3強入りを果たしたのです。
つくこまパ研
高橋君が通っていた筑波大学付属駒場中学校・高等学校には、とてもユニークな部活動があります。それは、パーソナルコンピュータ研究部(略してパ研)です。
プログラミングの部活で、中高一貫のため中学1年生から高校3年生までの6年間活動できるのが特徴です。
情報オリンピックや数学オリンピックに多くの選手を輩出しているすごい部活で、なんとImagine Cup 2006のアルゴリズム部門1次予選での世界上位10名のうち4名はパ研現役生とOBで占められていたそうです。
また、日本学生科学賞を受賞し、今大会に同行していた鈴木良平君もパ研の生徒です。
鈴木君たちの引率として同行していたパ研顧問の市川先生にパ研の雰囲気を聞いたところ、「 良くも悪くもほったらかし」と言っていました。部活に参加する頻度や大会に応募するしないなど、すべて生徒たちの独自性に任せているそうです。市川先生は「部室は汚いわ、勝手に電気ポットを買ってきて置くわで、好き放題やってくれていますよ」と苦笑しながら話してくれました。
パ研では、通常なら受験のために卒部してしまう中学・高校の3年生も卒業までしっかりと活動するそうです。そのため「先輩が教え後輩が先輩の技術を盗む」という、とてもよい環境が整っているということでした。市川先生は言います。「 経験の浅い生徒がプログラミングを始めようと思ったとき、とても高い敷居がある。でも、年齢の近い仲間がたくさんいれば、その壁は簡単に超えられると思いますよ」
周りに、自分より優秀な人がいるという環境はとても重要だと思います。普通の高校生活では、なかなかプログラミングができる人に出会うのは難しいと思います。それを中学高校で得られてしまう。パ研すごすぎ!
写真4:このすばらしい環境を作った市川道和先生。すごい(><) !
これからImagine Cupに参加する人へ
高橋君に、これからImagine Cupに参加したい人に対してアドバイスをしてもらいました。
重要なことは2つあると言います。
まずは飛び込み、そしてやり続けること。
「 まず、勇気を出して飛び込んでみることが重要だと思います。でも、やってみて“ できない” と思うときが来るはず。そんなときも、やり続けること。だめだと思ってもやり続けると、意外といけるんですよ。」特にImagine Cupのアルゴリズム部門に関してはこう話してくれました。
「 ファイナルは24時間以内で解かなければいけないけれど、1次予選、2次予選は何週間も解く時間があるんです。だから、すぐに解けないとあきらめるのではなく、解こうと努力すること。まずは予選に応募して、チャレンジしてみるといいと思います」
写真5:真剣に質問に答えてくれる高橋君
そして、仲間を見つけること。
「 仲間やライバルを見つけることも大切ですね。でも、“ 自分より下にこれだけの人がいるからいいや” ではダメ。自分より少し上にいる人をライバルに設定し、その人を抜かせるように努力する。常に“ 少し上” を見続けることが重要です。一番上にいくまではどこまでも伸び続けられるんです。」
そんな高橋君にはTopCoderやパ研に多くのライバルや仲間がいるそうです。
飛び抜けた才能だけではなく、このような信念を持って2006,2007,2008と挑戦し続けてきたからこそ、Imagine Cup 2008ですばらしい結果を残すことができたのではないでしょうか。
この大会での高橋君の頑張りを見て、来年から日本人の参加者がもっと増えたらいいですね!
コラム
この大会に同行していた鈴木良平君と中村篤志君にもお話を伺ってみました。2人は日本学生科学賞の副賞として今大会の視察に参加しています。
鈴木君はパ研のメンバーで、今回のImagine Cupアルゴリズム部門の予選にも参加していました。将来はベンチャーで働いてみたいそうです。
中村君はデジタルハリウッド大学に通う学生で、小さいころにやった「職人物語」というゲームに憧れてプログラミングを始めたそうです。将来はゲームのプロデューサになりたいと話してくれました。
彼らも今大会を見て、来年はぜひ出場したいと意気込みを見せてくれています!
鈴木君はアルゴリズム部門かソフトウェアデザイン部門、中村君はゲーム部門かソフトウェアデザイン部門に出場したいそうです。特に中村君は、来年この大会に出場するためにサークルを立ち上げたそうです!気合い満点ですね!
また、高橋君は来年もまたアルゴリズム部門に出場するそうです。
Imagine Cup 2009は、エジプトのカイロで行われます。
来年、カイロの舞台では彼ら3人の笑顔を見ることができるのかもしれません。
写真6:左から、中村篤志君、高橋直大君、鈴木良平君。エジプトでもこの笑顔を見せてください!