前回は期待値・分散・標準偏差の定義と、具体的な計算方法を確認しました。今回はそのおさらいとして、数学的に各値を求めたあと、シミュレーションを行い、2つの場合の値を比較する問題に取り組みましょう。手で計算した結果とシミュレーションの結果は一致するでしょうか。それとも、一致は難しいでしょうか。
問題 5枚のコインを投げあげて、何枚表が出るだろうか。表の出る枚数を確率変数Xとし、確率分布、期待値、分散、標準偏差をそれぞれ求めましょう。
前回と同様、数学的に各値を求め、その後にシミュレーションプログラムを作成し、統計的に値を求めてください。
解説
問題 5枚のコインを投げあげて、何枚表が出るだろうか。表の出る枚数を確率変数Xとし、確率分布、期待値、分散、標準偏差をそれぞれ求めましょう。
数学的に各値を求める
先ずは数学的に計算してみましょう。
コインを1枚投げあげて表の出る確率は半分です。2枚のコインを投げあげる場合、コインA,Bとコインを区別して考えます。この2枚のコインが表になるか、裏になるかの場合の数は、2×2=22です。どちらも表にならない場合の数はたった1つです。ですから、その確率はとなります。
表が1枚だけ出る場合の数は、Aが表になる場合とBが表になる場合の2つ。これをもう少しきちんと数式で表すために、次のように考えます。「Aが表、Bが裏になる確率」と「Aが裏、Bが表になる確率」を合計したものが、1枚だけが表になる確率です。言い換えると、「2枚のコインのうち1枚だけが表である確率を、1枚だけ表である組合せの数ほど合計したもの」が、求める確率の値です[1]。
具体的な計算式は次の通りです。
2枚とも表が出る場合はたった1つ。以上の計算から表52.1のような確率分布が得られました。
この調子で考えると、n枚のコインを投げあげ、m枚のコインが表になる場合の確率は次のようになるでしょう。
一般式が得られましたので、コインが5枚の場合の確率分布(表52.2)を作成してみます。
確率分布が得られましたので、期待値が計算できます。
期待値は2.5となりました。この場合は平均値といった方がふさわしい場合ですね。5枚のコインを振れば、半分は表になるだろう、という予想が立ちます。
分散と標準偏差はこの期待値(平均値)を用いて次のように計算できます。
以上で確率分布、期待値、分散、標準偏差を全て得ることが出来ました。
統計的に各値を求める
先ほど数学的に求めた各値をプログラムによるシミュレーションで統計的に求めてみましょう。近い値となるでしょうか。ソースコードと実行結果を続けて示します。
上のソースコードの実行結果を示します。1万回を越えると手で計算した結果とシミュレーションの結果がほぼ一致するようです。
今回はここまで
今回は手で計算する問題の結果とシミュレーションで確かめる、という形の問題でした。シミュレーションすることで、理論的な結果が確かめられるというのは面白いですし、逆に、シミュレーションの結果の正当性を理論的に確かめるということも面白いと思います。人の手では数万回などという試行は現実的に不可能ですから、これこそコンピュータのありがたいところです。