みなさん、今回から「組込み教育委員会」の本コーナーでは、ETSSを中心とした組込みソフトウェア開発に関する政府や業界団体におけるトピックスを紹介させていただきます。いきなり“政府”という言葉を用いたので、非常に硬苦しいイメージをされるかもしれませんが、筆者をはじめETSS関係者は、現場出身者が多いのでご心配なく。
ETSSとは?
今回は第1回ですので、ETSSの概要について簡単に紹介します。ETSSは組込みスキル標準(Embedded Technology Skill Standards)の略称・通称です。
2003年10月から始まった経済産業省による「組込みソフトウェア開発力強化推進委員会」にて議論され策定されました。2004年には策定方針を公開し、2005年には「スキル基準Ver1.0」を公開しました。2006年には「キャリア基準Ver1.0」と「教育研修基準Ver1.0」を公開し、ETSS全体が正式公開されています。組込みソフトウェア開発力強化推進委員会では、継続して改良・改版を行っていく予定です。
ETSSは技術を体系的に整理したスキル基準をコアに、組込みソフトウェア開発に従事する人材モデルを定義するキャリア基準、スキルアップとキャリアアップを実現するための教育研修基準の3つから構成されています。これらのドキュメントは、以下のURLからダウンロードできます。
http://sec.ipa.go.jp/
概要や使い方などを解説した「ETSS概説書」(PDF形式)も含め、一読していただければ、開発現場の抱える問題を改善する“気づき”を得ることができると思います。
ETSSニュース
ここでは、ETSSに関連したトピックスを紹介します。政府関係、業界関係、ソフトウェアエンジニアリングセンター(以降SEC)関係の3カテゴリに分けて紹介します。
政府関係
情報処理技術者試験の見直し検討中
経済産業省では、国家試験として提供している情報処理技術者試験の見直しを検討中です。これは「産業構造審議会 情報経済分科会 情報サービスソフトウェア小委員会 人材育成ワーキンググループ」(略称:産構審-人材育成WG)という会議において、2006年10月から検討を始め、2007年4月にはパブリックコメントを求め、6月には方針をまとめる予定です。
少子高齢化、人口減少、工学部離れが進む世の中において、情報処理技術者試験の役目も変わりつつあります。今後のグローバル社会を前提としたIT人材育成において、情報処理技術者試験やスキル標準(ITSS、ETSS、UISS)がどのようにあるべきかを議論しています。
業界関係
「情報専門学科カリキュラムJ07」を発表
3月2日に開催された情報処理学会の全国大会において、「情報専門学科カリキュラムJ07」の内容が発表されました。J07は、IEEE CS、ACM(Association for Computing Machinery)のCC2005をベースに検討され、CS(コンピュータ科学)、IS(情報システム)、SE(ソフトウェアエンジニアリング)、CE(コンピュータ工学)、IT(IT)という5つの大きなカリキュラムから構成されています。
組込みソフトウェア開発は、CEが主に該当し、電気・電子に関する科目も含め、ACMのCE2004をベースに、日本における組込みソフトウェア開発の現場感を反映したものになっています。今後は、ETSSとの整合や協調が必要であり、高等教育機関から開発現場をリンクさせ、開発力強化を実現したいと考えています。
SEC関係
新潟は今年も組込みソフトウェア教育を積極的に提供
3月22日に新潟で「N-SECフォーラム2007」が開催されました。鶴保SEC所長による基調講演後、新潟県情報システム調達ガイドブックWSと組込みシステム技術者育成WSの2つのワークショップが並行して行われました。
組込みでは、「組込みスキル標準(ETSS)の導入目的と活用事例」をSECから紹介、それに続き「組込みソフトウェア開発技術者育成コースの紹介」を組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)から紹介されました。これは長岡高専を中心に提供している教育に関する取り組みで、ETSSでいえば未経験からエントリ、ミドルレベルのエンジニアを対象にした教育を提供しています。高専にて、地元企業の技術者に対して教育を提供する取り組みであり、産学官連携の取り組みとしては注目すべき事例です。自社内での組込みソフトウェアに関する教育が準備できない企業や、スキルアップを図りたい技術者には、とてもうれしい取り組みです。
そのほか、関連トピックス
経団連、少子化問題に関する提言を発表
人材不足が進む組込みソフトウェア開発にも関係が深い「少子化問題への総合的な対応を求める ~人口減少下の新しい社会づくりに向けて~」が発表されました。
JEITA、「電子情報産業の世界生産動向調査(第1回)」を発表
製品の国際競争力を見る場合の指標になります。AV機器の健闘が光ります。
SESSAME、「OJTセミナー」を3月12日に開催
有効な教育手段として認識されながらも、お任せジョブトレーニングになっているOJTを見直すセミナーでした。ETSSを使った概念整理(教育論、知識とスキル)と計画立案(スキル項目とスキルレベル)、コーチングスキルの獲得を目指す寸劇や演習によって、OJT見直しの実現方法を支援する内容でした。
あとがき
今回から連載でETSS関連のトピックスを紹介させていただきます。ETSSも2003年から検討を始め、今年の10月で丸4年が経過します。動きが遅い、もっと詳細に定義しろ、などお叱りを受けることもありますが、シビアな面もあり試行錯誤しながら悩む毎日です。