組込み教育委員会

2-1 組込みスキル標準(ETSS) 第2回

技術者にとってのスキル標準

「ETSS(組込みスキル標準⁠⁠」という言葉ですが、本コーナーの前回あるいは今回を読んで初めて知ったという方が多かったのではないでしょうか。特に開発現場の技術者にとっては⁠スキル標準⁠なんて人事部門の担当領域と思えて興味の対象にもならないかもしれません(筆者もそんな技術者の1人でしたが…⁠⁠。ところがETSSは「自分の技術的な強みをアピールする」⁠開発チームの適材適所を実現する」⁠自分の将来像(キャリアデザイン)を描く・実現する」といった、実は開発の現場や技術者に身近な利用シーンを中心に検討がなされています。筆者はETSS策定の場に参画し、これまで自分自身が開発現場で歯がゆく感じていたことに対して、改善に向けたいくつかのアイデアを得ることができました。

結局のところ組込みソフトウェアを含むモノづくりの過程は、技術者(=人材)によって行われています。チームの持つ開発ポテンシャルを最大限に引き出すためにも、また不足した開発ポテンシャルを補完するにしても、技術者個人が持つスキルを把握し、適切な戦略を立案・実行していくことが出発点となります。ですからスキル標準ということだけで毛嫌いせずに、少しでも理解や興味を持っていただければと思っています。

ETSSはどのくらい使われているか?

ところで、ETSSはどのくらいの企業で使われているのでしょうか。筆者が所属する情報処理推進機構(IPA)では、今年(2007年)の5月にETSSを導入している組織や団体の数について直接状況を把握しているものと、インターネット検索などで該当するものとを集計してみました。その結果、100件近くの組織でETSSの試行や導入、もしくは関連するサービスを提供していることがわかりました。このほかにも潜在的に利用している企業や団体が数多くあることを予測しています。

ETSSのバージョンアップ

この原稿を執筆している時点(6月末)で、まさに2007年公開版ETSSの最後のブラッシュアップを行っているところです。今回のバージョンアップでは基本的な構造や要素について、あまり大きな変更はありませんが、解説文書や見やすさなどを改善しています。

特に問題が生じなければ、本号が発行されているころには、スキル基準(Version1.2)とキャリア基準(Version1.1)の新バージョンがリリースされているはずです。教育研修基準については、少し遅れて11月ごろにリリースする予定になっています。

ETSS以外のスキル標準

ETSSのほかにもIT人材に関するスキル標準があります。経済産業省の管轄によって策定されたものだけでも「ITスキル標準(ITSS⁠⁠情報システムユーザスキル標準(UISS⁠⁠情報処理技術者試験」があります表1⁠。ITSSは情報サービス産業に従事する人材に向けたスキル標準で、UISSは情報システムを管理・運用する人材に向けたものです。

スキル標準の中に情報処理技術者試験が出てきて、意外に思われる方もいるのではと思いますが、試験に合格した人がどのような知識やスキルを保持していることを期待できるのかを「情報処理技術者スキル標準」として定義しています。これらのスキル標準もまた、対象とする業界ドメインが必要とする人材の特性や業界の状況に合わせ、適切な評価や人材の育成を実現するための指標として策定・進化してきたものです。

表1 情報処理技術者試験と各スキル標準
 情報処理技術者試験ITスキル標準組込みスキル標準情報システム
ユーザスキル標準
公開時期1969年2002/12/12005/5/12006/6/1
実施主体IPA/情報処理技術者試験センター(JITEC)IPA/ITスキル標準センターPA/ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)経済産業省
目的
 ・ 
位置づけ
産業界の情報化人材に必要な知識、技術、能力を明確にし、業務を遂行できるために必要な知識、技能、能力を保有しているかを明確化する各種IT関連サービスの提供に必要とされる能力を明確化・体系化した指標であり、産学におけるITサービス・プロフェッショナルの育成・教育のため有名な共通枠組み。組込みソフトウェア開発に関する最適な人材育成、人材の有効活用を実現するための指標。情報システムを活用するユーザー企業/組織において必要となるスキルをシステムの企画・開発から保守・運用・廃棄にかかわるまでのソフトウェアライフサイクルプロセスに基づき体系化した指標。
主とする対象ベンダー、ユーザーベンダー組込みエンジニアユーザー
切り口人材(試験職種)人材(キャリアフレームワーク)技術(スキルフレームワーク)組織機能と業務
URLhttp://www.jitec.jphttp://www.ipa.go.jp/
jinzai/itss
http://sec.ipa.go.jphttp://www.meti.go.jp/
press/20060623003/
20060623003.html

共通スキルキャリアフレームワーク

その一方で、これらのIT人材に関するスキル標準を統一すべきであるとの要望もあります。その理由として、さまざまな業界ドメインに事業展開をしている企業や団体において複数のスキル標準を併用使用とすると、レベル評価方法や用語などに差異があり整合が困難な状況であることなどが挙げられます。

このような課題に対して、前回の本コーナーでも少し触れた経済産業省の「産業構造審議会情報経済分科会情報サービスソフトウェア小委員会 人材育成ワーキンググループ」では、解決の指針の1つとして「情報処理技術者試験と人材スキル標準の統合による客観的な人材評価システムの構築」という提言をしています。この中に「共通キャリアスキルフレームワークの構築」という項目があります。これは、既存のIT人材に関する3つのスキル標準「ITSS」⁠ETSS」⁠UISS」で定義された34の職種を「基本戦略系人材」⁠ソリューション系人材」⁠クリエーション系人材」の3つの人材像と、それに対応した9つの類型に再構成します。それに加えて共通のレベル評価方法や用語の統一などの方針を示しています。

これに関するドキュメント類は経済産業省のWebサイトhttp://www.meti.go.jp/policy/it_policy/committee/などから参照できるようになっています。現場の技術者のみなさんにとっても間接的に、あるいは直接的に関わってくる話だと思います。ぜひ参照してみてください。

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