はじめに
組込みスキル標準(ETSS)は、開発スキルを計る道具(ツールまたはものさし)として制定されました。
今回は、この組込みスキル標準(ETSS)の活用シーンの紹介をしたいと思います。ちなみに筆者の出向元である東芝情報システム(株)でも、技術のたな卸しのためのスキル診断を計画しています。
ETSSはどんな場面で活用できるのか?
ETSSの活用シーンを利用する立場で整理してみると、個人、プロジェクト、部門(事業部)、経営者のケースが挙げられます。全体概要としては次のような活用シーンがあります。
- <個人の視点での活用シーン>
- (1)保有スキルの把握
- (2)強み・弱みの把握
- (3)不足スキルの把握
- (4)キャリアパスの把握
- <プロジェクトの視点での活用シーン>
- (1)開発チームの強み・弱みの把握
- (2)開発チームに必要スキルの把握
- (3)新規・未経験分野のリスク分析
- (4)開発工程に合わせた人材の配置
- (5)調達(必要な協力会社、海外リソースの把握)
- <部門(事業部)の視点での活用シーン>
- (1)事業部保有スキルの把握(技術のたな卸し)
- (2)事業戦略の立案
- (3)事業戦略に沿った人材育成計画と調達計画
- (4)新人・他分野からの異動者の即戦力化教育
- <経営者の視点での活用シーン>
- (1)経営戦略(中期、長期)の立案
- (2)新組織編成の立案
- (3)高度技術者の採用計画(中途採用)
今回は、読者層と誌面の関係上、個人の視点での活用シーンに限定して説明したいと思います。
個人の視点での活用シーン
活用シーンの全体概要で、部門(事業部)や経営者の視点での活用シーンを挙げたので、開発現場の技術者としては、一歩引いてしまって興味の対象外と思われる方が多いかもしれませんが、実は違います。
ETSSは「自分の技術力をアピールする」「目標に対する不足スキルを認識できる」「自分の将来像(キャリアデザイン)を描く・実現する」といった実は開発現場の技術者に身近な利用シーンを中心に検討がされています(図1)。それでは、みなさん自分の技術力をアピールして「こんな仕事が私に向いているので担当させてください」と言えるでしょうか? 思わず即答できない方が多いのではないかと思います。
保有スキルの把握と強み・弱みの把握
ETSSを使ってスキル診断をすれば、自分自身の保有スキルと強み・弱みが何なのかを改めて認識できます。これがスキルアップのための初めの一歩になるのです。
不足スキルの把握
さて、スキル診断をすると、みなさん「自分にはスキルがないんだなー」と感じてしまうようですが、1つ注意していただきたいのは、スキル基準に定義されたスキルをすべてを満足する必要はないということです。結論から言うと、目標があってそれに対して現状のスキルを認識し初めて不足スキルがわかるわけです。
たとえば、サッカーチームがあってそのチームに必要なスキル基準を定義したとします。このスキル基準は、全ポジションに必要なスキルが定義されているわけであり、全ポジションに必要なスキルを持った選手はいるはずがないし目標にするべきではありません。ゴールキーパになりたい人は、ゴールキーパが必要とするスキルだけを目標とするべきなのです。ですから、このスキル定義でスキル診断を実施したとしたら、優秀なゴールキーパでさえ、たとえば足が遅いということが欠点になってしまいます。
ここでポジションという言葉がでてきましたが、実はこれが、ETSSの定義の中ででてくる「職種」になります。みなさんにとって身近な職種としては、ソフトウェア開発エンジニアやプロジェクトマネージャがそれになります。さて、不足スキルとは目標に対するものだということはおわかりなったと思いますが、具体的な目標とはどんなことになるのでしょう。たとえば、今度の仕事で担当する開発業務があったとするとその業務で必要となるスキルが目標となります。
その目標となるスキルをETSSで表現すれば自分の保有スキルと足りない不足スキルが認識できるようになります。
キャリアパスの把握
たとえば、みなさんの職場に優秀な技術者がいて「将来あんな人になりたいなあ」と思ったことはありませんか? または、よく上司から「あの先輩のようになるようにがんばってね」と言われて、「いったい自分は今日から何をするべきか」と感じたことはありませんか?
そんなときに目標となる優秀な技術者にスキル診断をしてもらい自分のスキル診断結果と比較すれば、どんなスキルが不足していて、何を目標にすればよいかが具体的に見えてくるわけです。
また、5年後にはマネージャに職種変更したいというときにも、マネージャとして必要なスキル分布を目標にして段階的なスキルアップを図ることができるようになります。