はじめに
今回はETSSを利用した人材マネジメントサイクルの中から「スキル診断」について紹介していきます。
ETSSを利用した人材マネジメントサイクル
一般に人材マネジメントのいうとETSSが対象とするスキル、キャリア、教育ということだけでなく採用、人材調達、人事考課など広い範囲を対象としています。
ETSSは「スキル」の側面から組込みソフトウェアの開発力強化のための「人材活用」と「人材育成」の実現を目指し策定されています。より現場に即した表現に変えると限定的ではありますが、「開発者・組織の保有している(あるいは必要とする)スキルの把握」と「教育」ということができます。人材を外部に求める場合も可視化されたスキルがあれば適正な人材像を示すことができます。
「ETSSを利用した人材マネジメントサイクル」とはスキルを把握するために「スキル診断」を実施し、その結果をもとに「教育」計画を立て実施していくこと、教育の達成度評価のために再度「スキル診断」を行い次の教育サイクルへと進めていくことといえます。このようにETSSの活用ということを考えていく場合、まず「スキル診断」が必須となってきます。
スキル診断
スキル診断を行うためにはまず診断したいスキルを定義します。定義したスキルをスキル診断シートとして対象者に配布、記入(項目ごとのスキルレベルの回答)してもらい回収します。回収後個人、組織での着目点に沿う形での集計、グラフ化、分析など報告資料を作成するという流れになります。
スキル定義
スキル定義はETSSスキルフレームワークを利用しスキルカテゴリとして例示している「技術要素」「開発技術」「管理技術」を最上位としてスキルレベルを判断したい粒度まで細分化していきます。ETSSでは製品ドメインごとに必要となるこの粒度のスキルまで限定することは控えていますのでそれぞれの組織で定義する必要があります。
ある業界団体のスキル定義では、その業界特有の技術要素を4つ目のスキルカテゴリとして定義しました。ETSSは考え方のフレームワークを提供するものであり、このような拡張についても制限を設けるものではありません。
またスキル定義が総花的なものになることにも注意する必要があります。範囲を決めないで組込み製品には、どんな技術要素が必要かを挙げていくと際限がなくなります。自分たちのスキル定義には現在およびある程度見えている将来必要となるスキルまでに留めておくべきでしょう。上記とは別の業界団体の例では技術要素からETSSで例として提示している計測・制御を抜いてあります!
スキルレベルの考え方
ETSSでは、スキルとは作業の遂行能力を指し、「○○ができること」を表現するものであり、知識を有するだけではスキルとは扱わないとしています。
また、ETSS では技術項目ごとに作業遂行能力の期待値(ポテンシャル)を4段階のスキルレベルで表現します。ETSSのスキルレベル1(初級)~3(上級)は、確立された技術に関する作業遂行能力の度合いを定義し、それに加えて技術革新(イノベーション)を推進できる能力を評価するために、最上級のスキルレベル4を定義しています。
- レベル4:最上級(新たな技術を開発できる)
- レベル3:上級(作業を分析し改善・改良できる)
- レベル2:中級(自律的に作業を遂行できる)
- レベル1:初級(支援のもとに作業を遂行できる)
実際のスキル診断は判定したいスキルに細分化された項目ごとにスキルレベルを判定していくことになります。スキルフレームワークをスキル診断シートと仮定してスキル診断を行ったイメージを図1に示します。
ある開発者個人を見た場合、すべての項目について同じスキルレベルになることはほとんどないでしょう。図1にあるようにスキルレベルの高い(=得意な技術)領域、低い領域が分布として見えてくるはずです。本稿では説明を割愛していますが「キャリア基準」で説明している「職種」および「職種のレベル(キャリアレベル)」の定義にはその職種が持つべき典型的なスキル分布として関連づけされています。このようにみていくと「あの人はレベルXの人だ」とか「レベルYの人が何人欲しい」という表現では正確に表せていないということが納得いただけるのではないかと思います。
スキルレベル判定の課題
スキル診断実施時の大きな課題として、個人や組織でスキルレベルのとらえ方に高低のバラツキがでてしまうことが挙げられます。診断精度に最も影響するところなので注意が肝要です。この課題には「教育」「試行」で対応している場合が多いようですが、スキル項目内の要素をポイント化しその合計ポイントで自動的にスキルレベルが決定できるなどの工夫も考えられています。また実際の診断結果を精度向上の側面からパブリックに活用できるようなしくみの構築についても調査を開始しています。
スキル診断結果の利用
スキル診断結果を利用しやすくするためには可視化(グラフ化)が有効です。生産性の良いグループではあるスキル項目にレベルの低いメンバーよりスキルレベルの高いメンバーのほうが多く属しているのがわかります。また、生産性の低いグループでは高いグループに比べあるスキル項目にスキルレベルの低いメンバーが相対的に多く属していることが見てとれます。
一般に「スキルが高ければ品質は良い」というのは当然とも言えますが、このようなアプローチをしてみるとどのスキル項目に注目してメンバを揃えるか、あるいは教育のポイントはどのスキル項目かということがまさに可視化されます。