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国内最大規模のデータを扱うLINEだからこそ取り組む、全社横断でのデータリテラシー向上のアプローチ

インタビュイー
LINE株式会社 Data Management室 室長 勝山公雄氏(右)
Data Management室 尾尻恒氏(左)
LINE株式会社 Data Management室 室長 勝山公雄氏(右)、Data Management室 尾尻恒氏(左)

DXの観点からデータ活用を目指す企業は増えていますが、実際にデータを適切にマネジメントし、ビジネスに役立てるのは容易ではありません。また利用できるデータを整備するだけでなく、従業員のデータリテラシーを高めるための施策も不可欠でしょう。このデータ活用について、LINEではどのような取り組みを行っているのでしょうか。LINEのデータマネジメント室の室長である勝山公雄氏と、同じくデータマネジメント室の尾尻恒氏に、具体的な取り組み内容を伺いました。

戦略と攻め、守り、システムの4つの観点で施策を展開

――LINEにおけるデータ活用の基本的な方針について教えてください。

勝山:LINEでは、StrategyとOffense、Defense、そしてSystemの4つの観点で、組織の組み立てや具体的な施策の検討と実施を進めています。

4つの中でもっとも重要だと考えているのがStrategy、つまり戦略です。Defenseも含めて方向性を決めてデータ保護・活用を推進します。さらにStrategyで決めた方向にみんなが向かっているのかを見て、どこまでデータ活用が進んでいるのか、もう少し進めるためには何をすべきかといったことを考えています。

Strategyにおける具体的な取り組みの1つが「Data Voyage Program」と呼んでいる教育プログラムです。またデータ活用の大きな方向性の合意形成のための場として、役員レベルが参加する「Data Strategy Summit」があります。加えて、現場と情報を共有したり、課題をヒアリングしたりする「Data Owner Committee」の取り組みも始めました。

Offenseではさまざまな取り組みを行っていますが、その1つとして挙げられるのがデータ活用成熟度調査です。

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StrategyとOffense、Defense、Systemの4つの観点でアンケート項目を作成し、それに回答していただくことで成熟度を計測します。このアンケートを分析することで、事業部ごとに足りないところが見えてくるので、データ活用のために何をしましょうといった形でコミュニケーションを行い、組織におけるデータ活用の推進を支援しています。

また我々のチームにはビジネスコンサルティングチームがあり、事業ごとに担当コンサルタントがいます。たとえば「これはデータを活用すべきではないか」といった話が出ると、コンサルタントがデータ分析を行ったり、あるいは事業部内でデータ分析ができるようにトレーニングを実施したりしています。

尾尻:Defenseに関しては、主にデータガバナンスチームで対応しています。LINEとしてはDefenseが特に重要な部分であると認識していて、適切なデータ活用に向けたガイドを作成して社内に周知したり、具体例を示して啓発するといったことを進めています。

勝山:Systemでは、我々が「Information Universe」⁠IU)と呼んでいるデータ分析のためのシステムがあり、ここにさまざまな事業で発生したデータを集約しています。LINEは日本だけではなく、台湾やタイ、インドネシアを中心にグローバルで事業を展開していますが、各国でサービスを提供することによって発生したデータがIUに集約されています。

さらにSystemには社内メンバーからの問い合わせ窓口の機能もあります。データを使いたいと要望を受けた際に、情報セキュリティやプライバシー、法律といった観点からチェックを行い、利用可能であれば権限を付与するという流れです。

社内のメンバーがデータを活用したいといったときに、どういったデータが社内にあるのかを調べるためのデータカタログの整備も進めています。ただ現状では、データベースのテーブル名だけが記載されていて、何のデータかわからないといったものも多いので、人間が見てわかるようにメタ情報を付加する作業に取り組んでいます。

LINEにおけるデータリテラシー向上のための取り組み

――教育プログラムとしてData Voyage Programを提供されているとのことですが、これを提供することにしたきっかけを教えてください。

尾尻:もともとLINEでは各事業ごとにデータを管理していて、全社で活用することが難しい状態でした。そこで各部門でサイロ化していたデータを集約し、一括して管理することにしました。さらにリクエストに応じてデータを貸し出す仕組みを導入し、それに対するガイドとして「Data Open Guidance」を作成しています。

ただData Open Guidanceだけでは、各事業部からの「もっとこんな形でデータを活用したい⁠⁠、⁠データをもっと安全に活用したい」といった声に対応することができなかったため、新たな教育プログラムとしてData Voyage Programを立ち上げ、データ活用に関してきめ細かくサポートできるようにしました。

勝山:Data Open Guidanceの内容は、Data Voyage Programの1セッションという形で取り込まれています。ただData Open Guidanceは端的に言えばルールを守れという内容で、それだけで1時間から1時間半、話を聞いてもらうのは厳しいかもしれないと考えました。そこでルールを守った暁にはこんな楽しいことがあるという意味で、データ活用事例などのエッセンスもちりばめて、しっかり最後まで聞いてもらえるように工夫しています。

また教育プログラムのロードマップを最初に2年間分ほど考え、それぞれのプログラムで次回予告を行うようにしました。先々でどういったことが学べるのかがわかれば、続けて受けてみようという気持ちになるだろうと考えたためです。

こうして行ったセッションの動画は、社内向けに公開しています。Data Voyage Programを始めたのはちょうどコロナ禍の真っ只中だったため、すべてリモートで開催しました。その模様を動画として記録し、いつでも見られるようにしたのです。動画が公開されていれば、受講できなかった人も後で見られますし、中途採用で入社した人にも見てもらうことができます。

また、ほとんどのセッションは日本語と韓国語、英語の3ヵ国語で配信していて、外国籍の方でも学べるように配慮しました。

縦軸に4つの視点、横軸に成熟度を設定し、S、A、B、C、Dの5つのカテゴリで受講対象者別にセッションを構成
縦軸に4つの視点、横軸に成熟度を設定し、S、A、B、C、Dの5つのカテゴリで受講対象者別にセッションを構成
――実際にデータリテラシー向上に向けた施策を進めていくうえで、難しさを感じるのはどういった部分ですか。

尾尻:こちらがデータリテラシーを高めましょうと伝えても、⁠本当に必要なの?」と疑問を感じている人は多いと思います。また日々のKPIや業務に追われている人からすると、教育プログラムがあっても、時間を作って参加するというモチベーションを持ちにくい部分もあるでしょう。

ただLINEは「Life on LINE」というビジョンを掲げていて、24時間365日、生活のすべてを支えるライフインフラになることを目指しています。それを実現するためには、LINEで働く人たちのデータリテラシーを底上げし、組織全体でデータを活用できる体制を整えることが欠かせません。

とくにユーザ一人ひとりに対してカスタマイズされたアウトプットを提供するなどといった取り組みを継続的に行っていくためには、効率良くデータマネジメントを行って成果を出すことが求められるためです。

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こういったことを愚直に現場の人たちに伝えながら、⁠これは大事なことなのでやってください」と繰り返しメッセージを出していますが、短期的には成果を感じづらい部分でもあり、難しいところだと感じています。

今後はZホールディングス各社との連携も加速

――これまでの取り組みの中で、手応えがあったものを教えてください。

勝山:データを取得するために必要になる、SQL文を作成するためのトレーニングの実施です。SQL文を書かなくてもデータを取得できるツールを提供すればいいじゃないかという話もありますが、個別の細かな要求に合わせてデータを取得したいとなると、そういったツールでは対応できないケースがあります。そこでSQL文を作成するためのトレーニングを行いました。

具体的には、Data Voyage Programで実施していたSQL講座をまとめてeラーニング化し、さらにビジネスコンサルティングチームのメンバーが手厚く教えています。これによって事業側でSQL文を書ける人が増え、我々に頼らずに必要なデータを取得して分析できるようになったことは大きな成果だと考えています。

SQL講座のeラーニングの内容(学習の進め方)
SQL講座のeラーニングの内容(学習の進め方)

尾尻:これは私がサービスを担当していたときの話ですが、機械学習を活用して、ユーザに応じてコンテンツの種類を変えたところ、コンバージョン率が約20%上昇し、売上が大幅に増加したことがあります。

こうしたテクノロジーとデータをかけ合わせて成果を挙げた例をモデルケース化し、今後ビジネスコンサルティングチームを通じてほかの組織でも応用できるような取り組みをしていきたいですね。

――現在LINEはZホールディングスのグループ会社となっていますが、ほかのZホールディングスのグループ会社とデータ活用の面で連携することは考えていますか。

勝山:もちろん考えています。世界トップレベルのセキュリティ基準への準拠を前提とし、お客さまにもきちんと合意をいただきながらデータを交換するための取り組みを進めているところです。

データ活用事例を共有する施策も行っています。ヤフーとLINEのメンバーが集まり、データマネジメントやデータプラットフォームなど、同じ機能を担う部署で議論するという内容です。思ったよりも参加者が多く、400名ほどのメンバーが参加しています。

――最後に、データ活用に取り組んでいる、あるいはこれから取り組もうとしている企業にアドバイスをお願いします。

尾尻:データは存在するだけでは価値を生み出しません。それを適切に管理し、価値を生み出せる状態にすることがすごく重要だと思っています。

データ分析は前処理が8割と言われるように、前段階の準備を適切に行わなければ期待する成果は得られません。ただ、そういった理解がなく、とにかくデータがあればよいといった考えの人も多いので、継続的に啓蒙していく必要があるでしょう。

DXの観点で言えば、データマネジメントを適切に行い、データの品質を担保することが重要ではないでしょうか。データが適切にマネジメントされておらず、品質の低いデータを使って分析すれば、間違った方向にビジネスを導くことにもなりかねません。そういったリスクを理解し、データマネジメントの重要性についての認識を持ったうえで、DXを推進すべきではないかと考えています。

人によっては蛇口から水が出るようにデータが生成されるのだから、それを使えばいいじゃないかと言いますが、その蛇口から出る水が泥だらけでは誰も飲まないでしょう。飲み水として使うのであれば、適切に処理しなければならないわけです。データも同じで、分析などに利用したいと考えるのであれば、そのためのプロセスを整備し、きちんと精製する必要があります。

勝山:StrategyとOffense、Defense、Systemの軸で考え、バランスを取ることが重要ではないでしょうか。これらはどれか1つだけを考えても前に進まないですし、いずれかが抜けていれば思わぬトラブルに発展したり、使い勝手が悪いといったことになりかねません。全体を考えながら、データ活用を推進していく必要があるでしょう。

――本日はありがとうございました。
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