単なる地方拠点ではない、LINE Fukuokaが担う機能、役割に迫る

「プロダクトだけでなくプロジェクトの品質も高める」LINE Fukuokaが語る品質保証のあり方とは

インタビュイー

左:LINE Fukuoka 株式会社 開発センター QA Engineering室 室長 上田洋平氏
右:LINE Fukuoka 株式会社 開発センター QA Engineering室 副室長 / LINE株式会社 開発3センター サービス開発3室 室長 兼 サービスQA室 室長 中川勝樹氏

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LINEグループの国内第二拠点であるLINE Fukuokaにおいて、プロダクトやサービスの品質保証の役割を担っているのが「QA Engineering室」です。そのQA Engineering室で、品質保証をどのように考えているのかについて、QA Engineering室の室長を務める上田洋平氏、そして同副室長でLINE株式会社のサービス開発3室室長兼サービスQA室室長でもある中川勝樹氏にオンラインインタビューを行いました。

さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが集うLINE Fukuoka

――まずLINE Fukuokaの事業内容を伺わせてください。
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上田:LINE Fukuokaは、LINEグループの国内第二拠点として2013年に福岡に設立されました。当初はサービス運営や技術を担う拠点でしたが、その後は徐々に機能が増え、現在はデザインや企画・マーケティング、コーポレート機能などが加わっています。一部の福岡に地域密着した行政サービスにおいては、サービスの企画から運営までを一気通貫で担っています。

LINEグループとして福岡に国内の第二拠点を設けた理由は大きく3つあります。

1つ目は自治体や市民、事業者との距離の近さです。最先端技術を積極的に取り入れる福岡市や、新しいものを柔軟に受け入れる福岡市民、事業者など、福岡には共創によるチャレンジが生まれやすい土壌があります。

2つ目はアジアの玄関口であることです。LINEは世界各地で利用されており、特にアジア地域における普及が顕著です。これらのアジアの各拠点とスピード感を持って連携することを考えたとき、福岡には地理的に大きな価値があります。

充実した教育機関があることも福岡の魅力です。西日本中から若者が集まり、積極的に地域のゲームおよびコンテンツ企業の参加する空気が生まれているほか、産学を連携した知財の活用やビジネス化に向けた取り組みも進められており、非常に活気がある地域であることも、福岡に2つ目の拠点を設置した理由になっています。

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中川:LINEには、拠点を置く土地に根ざして企業としての成長を果たし、その街だからこそできることに目を向けて新しい価値を生み出すことを大切にしています。実際、福岡でも行政との関わりを持ち、行政サービスの開発からローンチまで携わる、LINE Fukuoka独自の取り組みも行っています。

LINE Fukuokaの従業員数は2021年1月時点で1,155人、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが働いています。約54%がUIターンで働いているメンバーで、外国籍のメンバーも約10%います。多種多様なメンバーが在籍していることから、多様性やそれぞれの価値観を尊重するカルチャーが根付いています。

新型コロナウイルス感染対策のため、昨年2月からリモートワークも導入しており、テレワーク70%を達成している状況です。完全にリモートワークに切り替えているわけではなく、業務上必要な際にはオフィスに出社しますが、状況に応じて柔軟に働ける環境が整えられています。

QA Engineering室がこだわる「プロジェクト品質」とは?

――LINE Fukuoka内にあるQA Engineering室のビジョンやミッションを教えてください。

上田:QA Engineering室は「最高の状態でサービスをユーザーに届けるために、LINEの新しい品質保証の形を作る」ことをビジョンとしています。これを実現するため、すべての開発工程にQA(Quality Assurance:品質保証)エンジニアが関与し、「プロダクト品質」だけでなく、「プロジェクト品質」も高めることにより、品質の向上やリードタイムの短縮に貢献することをミッションとしています。

プロジェクト品質とは、製品やサービスを作る過程における品質のことを指しています。具体的には、仕様や設計に関するドキュメントやソースコード、あるいはプロジェクトを進める上で必要になるプロセスやルールなど、プロダクトを作るために必要なすべての要素の品質です。

プロジェクトを進める上で必要なもの、あるいは活動の品質が、最終的なアウトプットであるプロダクトの品質につながります。そのため、プロジェクト品質を高めれば、プロダクト品質の向上やリードタイムの短縮に貢献できるという考え方で、取り組んでいます。

――QA Engineering室はどのような背景で立ち上げられたのでしょうか。

上田:QA Engineering室は2020年7月にサービステストセンターから分室しました。サービステストセンターは、約400名のメンバーが在籍する、LINEグループの中でもっとも大きなテスト組織ですが、5年ほど前は30~40名程度の組織に過ぎませんでした。

当時の主な役割はテストの実行がメインで、テストマネジメントは他拠点が担当していましたが、LINEが急速に事業領域を拡大するフェーズになると、自ずと担当するプロジェクトが増え、さらにテストマネジメントまで担うようになってきました。このときは事業拡大に応えるのが精一杯で、組織内部の体制整備やキャリアパス、人材育成などは二の次となり、いわゆる木こりのジレンマに陥っている状況でした。そんな状況でも、内外ともにQA=テストの認識があったので、期待されているテスト専門部隊としての業務は安定した成果を上げており、課題視はされていませんでした。

また、このときのテスト組織は他の開発チームとは独立して業務を行う形になっていました。

ISTQBのシラバスでも指摘されていますが、独立したテスト組織には、テスト担当者のチーム以外の組織において品質に関する意識が薄れる、テスト担当者のチームに必要な情報が届かない、あるいは情報の伝達が遅延する、他組織との関係性が希薄になったり対立構造になったりするといったデメリットがあります。その結果、欠陥の修正における手戻りのコストが増大し、リードタイムも伸びてしまうといった問題が発生します。

LINE Fukuokaのテスト組織もまさに、⁠品質はテスト組織が担保⁠⁠、⁠テストは後工程」といった状態が当たり前になっていました。初期品質が低く、修正も多くて手戻りコストも高くなり、テスト工程に時間がかかってしまう。結果としてテスト工程がボトルネックに見られるといった問題が発生していました。

この状況に違和感を覚え、自分たちの前提認識や、役割範囲、領域だけで満足して井の中の蛙になってないか?きちんと大海を知るべきではないか?と考え、外部の勉強会に参加したり、品質に関わる参考書を読み解いたりしました。その結果、自分たちが認識していた仕事は、本当の意味での品質保証ではなく、品質保証の一部である品質コントロール活動に過ぎなかったことがわかりました。

このままの状況では、一定の品質を保ったままサービスのリリーススピードを上げるといったことが不可能になり、自分たちが他のサービスとの競争に負ける原因となりかねないと危機感を持ちました。そこでプロダクト品質を高めるための活動だけでなく、プロジェクト品質に目を向け、本来の意味での品質保証領域の活動を行うべきだと感じるようになりました。

幸い、同じように問題意識を持つメンバーもいたので、そうした人たちと問題意識を共有し、仲間を少しずつ集め、小さい成功を重ねるという取り組みを進めました。さらに上長に対して現状の品質課題や目指すべき方向性を報告し、本格的に組織としてこの活動を推進していくことで合意が取れ、QA Engineering室の設立に至りました。

中川:こうした品質保証の課題は、よくある話だと思います。最初はプロダクトが少数で、プロジェクトの規模も小さいため、メンバー同士がうまく連携して品質保証を行うことができますが、プロダクトの数が増え、チームの規模が拡大すると必然的に組織が分割されていきます。

その際、特に専門職の場合はある職種の人が複数の職種の人をマネジメントするのは難しいため、どうしても職能別に組織が分かれます。それによってQAだけを専門にする組織が生まれる形になるわけですが、そうなると開発を行うチームなどとの距離が遠くなる、いわゆるセクショナリズムの問題が生じます。これにより、QAエンジニアがテスト以外の仕事をすることが難しくなってしまうという状況に陥ってしまいます。

本来であればプロジェクト品質を高めるために、QAエンジニアとしてプロジェクト全体に関わっていくべきですが、組織が分割していたことによって「QA=テスト」というイメージが、LINE Fukuokaでも根強く定着していました。

QAエンジニアとしてプロジェクト全体の品質を高めることは当然なのですが、それと同時に「QA=テスト」ではなく、もっと広い意味を持っているということを周りに認知してもらわなければスムーズに仕事を進めることができません。この認知を変えるために、組織名もQA ⁠⁠Engineering⁠⁠室と、あえてエンジニアリングという言葉を入れました。QAに対するもともとの認識を変えてもらうことが狙いです。

プロジェクトに入って課題を発見し、アクションを実行することが役割

――QA Engineering室の業務内容を教えてください。
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上田:品質向上につながることは、基本的に何でもやります。プロジェクトによって品質課題や優先事項が異なるので、QAエンジニアとしてプロジェクトに参加して課題を発見し、状況を踏まえつつアクションを考え、それをプロジェクトメンバーに提案して実行するということになります。

プロジェクトによって品質課題や優先事項は異なるので、具体的にこういうことをやってください、とオーダーすることはありません。品質向上をキーワードに、アサインされたプロジェクトでメンバーが主体的、能動的にプロジェクトの品質戦略を練りながらアクションを実施していくことになります。

あるプロジェクトではQAエンジニアがコードの内部品質の向上に焦点を当てて詳細設計を一緒にレビューする、あるいはエンジニアと一緒にモブプログラミングを行う、軽微な修正であればQAエンジニアも直接プロダクトコードを修正する、といったその時々の状況に合わせてアクションを考えていきます。

たとえば、テスト自動化エンジニアと一緒になって自動テストとマニュアルテストの切り分けを考える、といったプロジェクトの事例もあります。

中川:QA Engineering室のメンバーとは「課題を発見しよう」と常に話しています。たとえば、リリースに対する障壁になっているものや、開発工程全体でスピードを遅くしている要因がないか、といった課題を探していく。もちろん開発工程に限らず、たとえば関係者間のコミュニケーションの状況が複雑になってしまっておりなかなか話がまとまらない、といったプロセス課題でもいいわけです。リリースするまでを見たときに、どこに問題があり全体が遅くなっているのか、その原因を見つけてプロジェクトを分析する。原因を発見できれば、今度はその問題を解決するためのアクションを起こしていくわけです。

私たちは決してテストだけをやりたいわけではなく、プロジェクトとプロダクトの品質を上げて、早くリリースすることが最大の目的です。その目的のために、テスト以外の手段で課題を解決しても構わないのです。よく開発エンジニアが「コードを書かずに課題解決できるのが1番」と言うのですが、それとまったく同じことだと思っています。

QA Engineering室で得られるスキル、求められる適性

――QA Engineering室では人材採用に積極的に取り組んでいるとのことですが、ここで働くことでどのようなスキルが身に付けられるのでしょうか。

上田:モダンなWeb開発の現場における品質保証の考え方、あるいは取り組み方についての知見を高められることは、エンジニアとしてのキャリアにおいて大きなメリットだと思います。

またWeb業界の場合、品質とスピードのバランスが重要になりますし、プロダクトの成熟度やフェーズによっても品質の捉え方は変わるため、QAエンジニアには柔軟性が求められます。このようなWeb業界特有の品質保証の考え方を身に付けておくことは、その後のキャリアにおいて大きな武器になると思います。

LINE FukuokaはLINE本社の子会社という位置付けになるため、本社から仕事が下りてくるイメージを持たれるかもしれませんが、実際はまったく違います。1人のメンバーとしてプロジェクトにアサインされ、主体的に仕事に取り組むことが求められます。また本社と子会社での上下関係のようなものもありません。

QA Engineering室に関して言えば、LINE本社のQA組織と同じ機能、同じ役割を担っているので、福岡に居ながら東京と同じ水準で仕事ができることも大きなメリットだと考えています。

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中川:LINEファミリーサービスとして多種多様なアプリ・サービスがある環境にQAエンジニアとしてプロジェクトにジョインし、さまざまなエンジニアと一緒に働くことになるため、本人のやる気次第で自分自身の開発スキルをいろんな方向へ高められると考えています。

開発工程全体を見ることができて課題を見つけてプロダクトをリリースしていくので、プロダクトマネージャーやプロジェクトマネージャーに求められるスキルにも通じる面があるかもしれません。

――QA Engineering室の業務はどういった人に向いていると考えていますか。

上田:システムインテグレータでプロジェクトの一連の工程に幅広く携わっている方や、これまでWeb業界で品質保証に携わってきた方は向いていると思います。またゼロイチを作ることにやりがいを感じる人も向いていると思います。品質向上をキーワードに、プロジェクトの課題を自分自身で見つけて改善していくことになるため、言われたこと、頼まれたことをやるだけではなく、自分自身で仕事を作っていく必要があります。そういった部分にやりがいを感じることができる人は、QA Engineering室で活躍できると思います。

中川:向いているのは、物事を幅広く見渡して課題を発見できて、見つけた課題を楽しみながら解決できる人です。課題を見つけるだけでなく、それを解決して迅速にリリースすることが我々の役割です。課題解決そのものは、手間がかかったり困難だったりと、いろいろと大変な部分もありますが、それを楽しんで乗り越えていける人、前向きにチャレンジできる人と一緒に働きたいですね。

――本日はありがとうございました。

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