LinuxCon Japan 2011 Preview

第2回さまざまな分野・国のデベロッパの交流からイノベーションを生み出す!

来る6月1~3日にパシフィコ横浜にて開催される「LinuxCon Japan 2011⁠⁠、Linuxおよびオープンソースソフトウェア(OSS)分野の国際技術カンファレンスとしてはアジア地区で最大規模だ。そのLinuxCon Japanに込められた思いを、所用で来日したThe Linux Foundationのエグゼクティブディレクター、Jim Zemlin氏(写真)に聞いた(本文中敬称略、情報は3月9日時点の内容です⁠⁠。

The Linux Foundation エグゼクティブディレクター Jim Zemlin氏
The Linux Foundation エグゼクティブディレクター Jim Zemlin氏

多種多様な背景・興味を持つデベロッパの交流が生み出すイノベーション

――― LinuxCon Japanの参加者は、どのような層を想定しているでしょうか。

Zemlin:LinuxConに来るのは、やはり企業に所属するプロフェッショナルなデベロッパが多いですね。Linuxは産業界でも大きな存在となっており、たとえば世界中の証券取引所のシステムの75%はLinuxベースで運用されているわけです。ほかにも通信やモバイル、家電、自動車、あるいはハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)などサイエンス分野にもLinuxの利用は広がっており、Linuxを使うセクターが増えたことで、社会的にも大きな影響力を持つようになっています。

一方、幅広い分野でLinuxの利用が急激に広まった結果、Linuxデベロッパは供給不足が目立ちます。The Linux Foundationではエンドユーザサミット(End User Summit)を開催していますが、そこでは金融系などの企業からも、スキルの高いLinuxデベロッパを求める声が聞かれます。

もちろん、いわゆるホビイストもLinuxConに参加してきており、プロのデベロッパと出会うことでエンカレッジされることでしょう。ですから、ぜひホビイストたちにも積極的に関わって、デベロッパの輪の中に加わってもらいたいと考えています。

――― Linuxが多種多様な分野で使われていく中では、人数はもちろん質的にも多様なデベロッパが必要になってきますね。

Zemlin:たしかに、デベロッパに求められるスキルも多様化してきています。たとえば、HPCは非常にマッシブな方向性を持つ分野ですが、実は運用していくうえでは電力コストも大きな課題となっています。そしてモバイル分野では電力消費を抑えることが常に重要な課題です。それぞれの分野で開発された成果がカーネルに取り込まれることで、双方がベネフィットを得られるわけです。実際にそういう例がありました。これは、Linuxが大きな分野から小さな分野まで広く使われていて、かつオープンソースでコードがシェアされていることによるメリットといえるでしょう。こういったスキームで作られているOSは、Linuxのほかにないはずです。

異分野の交流は、クリエイティブなアイデアが最も出やすい場面でもあります。他のアイデアに触れることで、自分の手掛けていることを別の角度から見る機会が得られるからです。自動車、金融、モバイル、HPCといった多種多様な分野の交流はもちろん、日本、米国、中国、韓国など、いろいろな国のデベロッパたちが交流することも、大きな意味があります。いろいろな興味を持つ、いろいろなスペシャリティが集まって、アイデアを交換できること、それがLinuxConの一つのすばらしさだと思うのです。

Linuxは信頼関係で成り立っています、Linusはメンテナを信頼し、メンテナはデベロッパを信頼、そしてデベロッパどうしにも信頼関係が重要です。開発はPCとインターネットがあればできますが、こうした信頼関係があるからこそ、Linuxはできているといえるでしょう。LinuxConは、そんなデベロッパどうしの信頼感を醸成する場でもあります。

多くの企業もイノベーションを求めてLinuxコミュニティと交流

――― The Linux Foundationとしては、企業との交流も重視していますね。

Zemlin:今回、日本を訪れたのは、プラットフォームベンダ数社とディスカッションをするためでした。彼らのLinuxテクノロジに関する戦略や、日本のLinuxユーザ企業やIT関連企業が何を考えているのかをヒアリングしてきたのです。それは今後のLinuxの方向性に大きな影響を与えるものですから、The Linux Foundationとしては、きちんと把握したうえで活動を橋渡ししていかなくてはいけません。

また逆に日本企業からも、Linuxインダストリーでリーダーシップを取りたいと、The Linux Foundationに積極的にコンタクトしてきています。実際、NEC、富士通、日立などは、何年もかけてデベロッパたちとの交流に投資してきました。結果として、彼らがビジネスで必要とするものがカーネルに入ってきているのです。そしてPanasonicがゴールドメンバーに加わるなどしており、今後は組込み系ベンダも増えてきます。

「次のスティーブ・ジョブスは誰か?」と聞かれても私にはわかりませんが、次のイノベーションは何から生ずるかと聞かれれば、自信を持って「Linuxベース」だと言えます。今やLinuxをゼロから作ったら100億ドルともいわれており、Linuxを活用すれば、その100億ドル相当の資産をすぐ使えるのです。製品開発のスピードやコストに圧倒的な差が生まれます。端末を作るコストが上がり、マーケットがオープンしている期間は短くなっている現在、Linuxは外せない存在です。

スマートフォンを手に話すJim Zemlin氏
スマートフォンを手に話すJim Zemlin氏

多くの日本企業は、⁠優れた企業はプロダクトだけでなくイノベーションを作るもの」という点に気付いています。そして、Linuxが世の中のコンピューティングにおいてファンダメンタルな存在になっていると認識し、プロダクトだけでなく、マーケットやアイデアをクリエイトしていくために、Linuxへの投資を進めているのです。スキルの高いデベロッパがいれば、アイデアをプロダクトに、そしてイノベーションへと繋げていけます。そのためにも、Linuxコミュニティでのリーダーシップが重要だと日本企業は考えているのです。

なお、今回のLinuxCon Japanには中国や韓国の企業関係者も数多く参加し、そういった関係を構築していこうとしています。一方、昨夜訪問した日本企業では、開発チームの40%が中国にいるといいます。ここで重要なのは、もはや日本でも、国境には大きな意味がなくなってきているという点です。

才能に恵まれた日本のデベロッパたちをグローバルに活躍させたい

――― アジア唯一のLinuxCon開催国である日本。今回のLinuxCon Japanでは、日本を含むアジア各国のデベロッパの交流といった意味合いも込められていると聞きます。世界各国のデベロッパたちの中で、日本のデベロッパはどのようにあるべきだとお考えでしょうか。

Zemlin:私は20年ほど前、上智大学に2年間留学していた経験があります。そして今でも日本で過ごす時間は北米に次いで多いのですが、日本はデベロッパたちが育つ土壌が整っていると感じています。教育システムが整っており、デベロッパたちのプログラミングスキルが秀でている。そういった日本で育ったデベロッパに、スキルなどのファンダメンタルが揃っていることは間違いありません。

英語でのコミュニケーションが難しいという声もあるようですが、英語を学ぶのはCやC++を学ぶより容易ではないですか(笑⁠⁠。むしろ世界中を見渡せば、英語は素晴らしいけれどプログラミングスキルが不足している、というケースもあるのですから。

そういう意味では、日本のデベロッパは才能に恵まれた存在です。世界で最もクールな技術を身に付けたデベロッパたちだと思います。でも今のところ、自信が足りていないのでしょう。日本のデベロッパをエンカレッジできれば、きっと無限の可能性が広がってくるはずです。私たちとしては、日本のデベロッパたちのドアを世界に向けて⁠Unlock⁠して、世界中のデベロッパーとコラボレートして外に出て行くことを期待しています。ぜひ、自信を持ってグローバルに活躍してほしい。The Linux Foundationが支援します。

今回のLinuxCon Japanでも、招待した講演者やCFPの内容を見ると、とてもカッティングエッジなものばかり。一歩も二歩も先のことを見せてくれるはずです。若手デベロッパにとっても参考になるし、モチベーションも上がるはずです

開催概要

日程2011年6月1日(水⁠⁠~3日(金)
会場パシフィコ横浜
来場者約500名(予定)
参加費4月20日まで150USドル、4月21日以降200USドル
申し込みURLhttp://events.linuxfoundation.jp/events/linuxcon-japan/register
主要
テーマ
(1)Linux Kernel全般
  • ファイルシステム:Ext4、Btrfsなど

  • 仮想化:KVM、ネットワーク

  • 高速化、高信頼化技術

(2)組込みLinux
  • SMP(メモリ共有型並列コンピューティング)対応

  • パワーマネジメント

  • ディストリビューション:Android、MeeGoなど

  • 標準化:Linaro、Yocto Project

(3)その他
  • ライセンスコンプライアンス:企業がLinuxを導入する際の法的な取り組みなど

  • ディストリビューションの動向:RHEL6、Debian、Ubuntu、Fedora、SUSEなど

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