Linuxおよびオープンソースソフトウェア(OSS)分野の国際技術カンファレンスとしてアジア地域で最大規模の「LinuxCon Japan 2011」 。その開催は6月1~3日と迫っている。The Linux FoundationではCFP(Call For Participation)の選定を終え、選ばれた講演者たちも最終準備を進めている。
今回は事前情報として登壇者3名のメッセージとともにお伝えする(本文中の情報は4月25日時点の内容です) 。
Linux誕生20周年、巨大エコシステムの進むべき方向が問われる
今年はLinuxの誕生20周年、記念すべき年に当たる。Linus Torvalds氏が1人で始めた開発は、20年の時を経て世界中から多くのデベロッパが参加する一大プロジェクトにまで成長した。Linuxの活用範囲もサーバやクライアントだけでなくスパコンから携帯電話、組込み機器まで実に多種多様、情報通信はもちろん金融機関などといった社会的重要性の高い企業/組織にまで広く使われるようになっており、もはや「社会基盤に欠かせない存在」とさえいえる。
Linuxが社会を支えるためには、こうした多彩なユーザからの要望を受け止め、今後もさらなる発展を続けていくことが必要だ。さまざまな要望や意見、それに対する知恵を、皆で出し合ってディスカッションし、今後の発展につなげていくことが、Linuxエコシステムに対する社会の要請だ。LinuxConは、そのディスカッションを行う最大規模の場であり、さまざまなバックグラウンドを持つデベロッパやユーザが実際に直接対話する機会を提供する場でもある。
今年のLinuxCon Japanの見どころ
LinuxCon Japanは今年で3回目。今年は3日間で約60のセッションが予定されている。このうちの基調講演では、Linus Torvalds氏をはじめ、LWN.netのエグゼクティブディレクターでカーネル開発者でもあるJonathan Corbet氏の「Linux 20周年記念版カーネルレポート」 、Dirk Hohndel氏の「The Yocto Project」 、David Rusling氏の「Linaro:変革の時」 、Novell社に所属しSCSIサブシステムのメンテナでもあるJames Bottomley氏による「コントロールこそが新たなコミュニティ:LinuxはAndroidから何を学べるか」など、そうそうたる顔ぶれが揃う。
また、コミュニティリーダーによる「Kernel Developers Panel」や日本、中国、韓国で活躍するデベロッパによる「Asian Developers Panel」も基調講演の一環として用意されているほか、Linuxカーネルコミュニティを牽引する開発者や国内外の業界リーダーによる特別講演も予定されている。
そして一般演題では、世界中から寄せられた多数のCFPから厳選された技術発表や分科会、テクニカルチュートリアルが行われる。プログラムの詳細はLinuxCon Japanの公式サイト で公開される予定だ。
なお、昨年のLinuxCon Japan 2010参加者の声からは、「 会場からの発言が少ないように感じる」といった意見も目立つ。しかし、LinuxConの意義は、単なる技術学習の場というだけではない。コミュニティリーダーや有力デベロッパに面と向かって質問や意見を突きつけ、ひいては開発に貢献する貴重な機会でもある。そして、LinuxConで実際に言葉を交わすことで、後のオンラインでのコミュニケーションも進めやすくなるはずだ。ここで紹介した登壇者たちのコメントにもあるように、ぜひ積極的な発言を期待したい。
Message 1 積極的に関わることで、OSSの本当の恩恵を受けられる
日本電信電話( 株) 研究企画部門 NTTオープンソースソフトウェアセンタ Fernando Vazquez氏
私は今回のLinuxCon Japan 2011で、昨年に引き続き「仮想化ミニサミット」のセッションを運営する予定です。昨年は、クラウドを実現するために必要なストレージ、ネットワークなどの基礎技術についての話題が中心となり、運用/管理など上位レイヤの技術に関してはほとんど議論できていないという大きな課題が残りました。
私はクラウドについて、「 いつでもどこでも柔軟にコンピューティング資源を活用できる」というビジョンが重要だと思っています。そのビジョンをデータセンタにおいて実現するための技術、すなわち仮想化やプロビジョニングなどは、成熟度の差こそあれ、そのほとんどがすでに揃っています。特に重要なのが運用/管理に関する部分で、これがクラウドの成否を決めると考えています。
そこで今年の「仮想化ミニサミット」では、その穴を埋めるべく、運用/管理を中心とした内容にする予定です。具体的には、KVM(Kernel-based Virtual Machine)を使ったクラウドの管理や監視に欠かせないlibvirt、物理ネットワークと仮想ネットワークが共存する環境の管理を単純化してライブマイグレーションを円滑にするVEPAやOpenFlowの最新ネットワーク技術、ストレージのライブスナップショットなどについて、それぞれの第一人者に語ってもらうべく働きかけています。
LinuxCon Japanは、こうした分野で主導を握っている主要デベロッパとの交流を図る場として最適です。彼らは、日本に対していろいろな期待を持っているように感じています。実際に使っているユーザの意見をものすごく聞きたがっていますし、日本には優秀なエンジニアがたくさんいるので、もっと開発への貢献をしてもらいたいし、メンテナにもなってもらいたいと思っているようです。日本の企業やエンジニアは、もっと積極的に関わってオープンソースの本当の恩恵を受けてほしいですね。ぜひ、今回のチャンスを生かしてください。
Message 2 “抑圧されたアジアの”ギークの一人として、皆さんと語り合いたい
マックス・プランク重力物理学研究所 技術アドバイザー Tejun Heo氏
私は2005年からLinuxカーネルに多面的に関わっていて、いろんなサブシステムを見て回るのが好きです。たとえば今は、libata、ブロックレイヤ、percpuメモリアロケータ、ワークキュー、x86、ジョブコントロールなどに関わっており、今後もできるだけ長く、いろいろなカーネルサブシステムに関わっていきたいと思っています。
こうした活動の中で思うのは、コミュニケーションの大変さです。LKML(Linux Kernel Mailing List)やメインラインカーネル開発コミュニティは、非常に率直に意見を交わす傾向があり、時には敵対し合うことさえあります。ここでは多くの才能ある人々が、言葉の壁とも闘いながら奮闘していますが、特にアジアの人々は、そうした形のコミュニケーションに慣れていないので大変だと思います。
そこで今回のLinuxCon Japan 2011では、私は名誉ある“ 抑圧されたアジアの” 希少なギークの一員として、メインライン開発がどのようにコミュニケーションを重視して活動しているかをお話しし、参考になりそうなアイデアやヒントをお伝えしたいと思います。“ 抑圧されたアジアの” というのは、ちょっとした冗談です。印象的なタイトルにしたかっただけなんですが、つまり、私が抑圧されたアジアンギークということですね。
皆さんには、民族などを越えてもっと積極的にメインライン開発に参加していただきたいと思っています。
私は、これまで何度も日本を訪れ、楽しい思い出ばかりですが、特に家族旅行で旅館に泊まったときのことが一番心に残っています。今回の大震災による惨状には、本当に心が痛みます。犠牲者の方々に心から哀悼の意を表したいと思います。そして、人々の復興への決意と力を信じています。そして今回、日本の開発者の皆さんにお会いできることを、とても光栄に思います。ぜひ、楽しくて有意義なイベントにしましょう。
Message 3 Linuxコミュニティは、Androidが製品化に至ったアプローチから膨大な教訓を得ることができる
Novell ディスティングィッシュト エンジニア James Bottomley氏
当日は、Android開発モデルのコミュニティの欠点について取り上げる気はありません。そうではなくて、Androidはスマートフォン市場に遅れて参入したにもかかわらす、どのようにして現在のように優位になったのか、また、他のOSSプロジェクトはそこから何を学べるかについて話したいと思います。また、コミュニティが解決できたであろうAndroidの問題についても考えます。つまり、両方のアプローチから世界征服への新しい道を創造しようというわけです。
一番のポイントは、私たち(Linuxコミュニティ)は、Androidが製品化に至ったアプローチから膨大な教訓を得ることができる、という点です。まずは出荷にこぎつけ、さらにその後も順調に進むよう配慮することが、組込みの世界では絶対に必要です。また逆に、AndroidもLinuxからコミュニティの利点などを学ぶことができるでしょう。古い例ですが、Androidは、初期リリースのビジネスセクタでは失敗しています。Exchangeカレンダーとの統合がサポートされていなかったためです。実は、Motorolaはこれを修正するよう求めましたが、Androidはコミュニティとして動いておらず、メインのAndroidコア開発者がこれを取り上げなかったため、1年以上も経ってから(バージョン2.2で)開発しなおされました。こうした対応の遅れが評判を落とすことになり、ビジネス市場での普及を阻んだのです。
基本的には、「 私たちは行動する際に、どの方法が正しく、どの方法が悪いのかについて、自分の考えに固執するべきではない」ということです。考え方に柔軟性がないと、凝り固まったプロセスになり、イノベーションが受け入れられず、抑制されてしまいます。それとは逆に、容認するということは一方通行ではありません。Androidのように広く成功を収めたプラットフォームでさえ、もし彼らが階層的なモデルではなく、コミュニティモデルを採用していれば、もっと成功することができたでしょう。
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